東方武神録   作:koth3

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これで勇儀との戦いは終わりです。


武神と鬼の闘い 第三幕

 「お、お腹へった……」

 

 月夜見は今、山の中で当てもなくフラフラと、ある物を探して彷徨っている。

 昨日唐突に連れ去られた月夜見だが、そこでまさかの事実を突き付けられた。

 

 「そういえば、ご飯は如何するの?」

 

 それは月夜見からすれば当然の話だ。いきなり連れてこられては食事の為の材料も、道具もない。いや、そもそも月夜見は一度も料理をしたことが無いのであっても無駄になっただろうが。

 

 「は? 何を言っている?」

 「いや、何を言っているって。お腹が減ったからご飯が食べたいのだけど」

 

 ぱちぱちと爆ぜる焚火を前に、命はしばし考えた後に、言い切った。

 

 「食事は自分で用意しろ。お前が餓えようが、私はお前の準備はせん」

 「はぁ!? 一寸、待ちなさいよ! いきなり連れてきて、食事もないなんて!」

 「……何を勘違いしている。この山は山の幸が豊富だ。幾らでもとれる。少し待っていろ」

 

 そう言って命は茂みをかき分けてどこかに消える。一分もしないうちに帰って来た命の手には、多種多様な、両腕では持ちきれないのではないかと思うほどの果物を抱えていた。

 

 「これだけの食料がある。お前も神の一柱なら少しは自然に感謝したらどうだ? ここ最近殆どの神は自然を感じることを忘れているようだし、丁度良い。生きるという事を実感しろ」

 「いやいや! 私達神は自然そのものよ! 今更自然を感じろって」

 「では聞くが、この場にいる動物は何体いるかわかるか?」

 「え?」

 「それくらい感じ取れなければ、自然というには些か以上に自然に失礼だ」

 

 そう締めくくり、命は両腕いっぱいの果物を手に、どこかへ消えてしまった。

 

 「……せめて。せめて、食料位おいていけ!」

 

 これが月夜見の数時間前だった。

 

 

 

 

 血が辺りに飛び散る。命の腹部を突き抜けた一撃は、致命傷と言っても過言ではない。

 なのに、勇儀は違和感しかなかった。

 

 (何だ? 何かが可笑しい。余りにも手ごたえが無さ過ぎる!)

 

 滴り落ちる血を顔に受けながら、勇儀は目の前で笑っている命を見た。

 

 「身体法の一つ、内臓上げだ」

 

 そうこぼして、命は慌てて引き抜こうとする手を、筋肉で締め上げてぬかさせない。そして、命はその体勢から凄まじい一撃を放つ。

 

 「飛翔諸手猿臂打ち飛び膝蹴り!」

 

 勇儀の頭を、両側から肘が打ち付ける。人体の中でも固い部分である肘の同時攻撃。さらに、それを追うように飛び膝蹴りが勇儀の顔に炸裂した。

 凄まじい一撃に、勇儀の体は吹き飛んだ。だが、

 

 「ぐふ!」

 

 命もまた少なくないダメージを喰らった。吹き飛ばされる瞬間、勇儀は置き土産を残していた。

 命の目の横には縦に切り裂かれ、血液が流れ落ちてきている。しかし、それが勇儀の置き土産ではない。勇儀の置き土産は、

 

 「おいおい、ウソだろう!? あれだけの妖力を体内で爆発させられたんだ。吹っ飛んでいなきゃ可笑しいだろう!」

 

 周りの鬼がそれを告げる。

 命の体は勇儀の腕より二回り以上大きい穴が開いている。勇儀が残した置き土産だ。体内で勇儀の腕が抜けきる前に、腕から妖力を一気に放出した。その結果、爆発と言っても過言ではない衝撃が、命の体を内側から襲った。唯一幸いだったのは孔となった肉は焼け焦げているからか、血があまり出てこない。其れ位だ。

 

 「……」

 「……」

 

 二人が静かに立ち尽くす。お互いが余りのダメージに動けないでいる。そう思った鬼達だが、次の瞬間、それが間違いだったと思い知らされる。 

 先ほどよりも二人は激しくお互いを攻撃し始めたからだ。それも周りの被害を意識しないで。

 

 「う、うわ! あの二人、周りが見えていないのか!?」

 

 鬼達の方にも、いくつもの木々や、岩が飛んでくる。中には拳圧が飛んできて、鬼の近くに着弾する事も。

 

 「ち、違う! あの二人、気ぃ失っているぞ!」

 

 一匹の鬼が言った事に、他の鬼達も気が付く。あの二人は今、周りを気にしていないのではなく、気に出来る状態ではないと。

 

 「に、逃げろ!!」

 

 そしてその結果、戦場が移動すれば鬼達も巻き込まれてしまう。そうなってしまえば、いくら鬼と言えども、あの二人の戦いに巻き込まれてしまえば一巻の終わりだ。

 二人は周りを破壊しながら、只々お互いの技を繰り出していた。命が岩も砕ける突きを放てば、勇儀は樹木すら引き抜く蹴りを放つ。お互いがお互い必殺と言っても良い技を繰り出し、相手の技をさばき、受けきる。其れの繰り返し。

 

 「がああああ!」

 「はああああ!」

 

 命は勇儀の連撃をさばき、返しとして腕をつかみ、体を使ってひねり落とす。腕拉ぎ捻じり落としを使って地面に叩き付けたのだ。その技の威力は受け身すら取れない程で、勇儀は顔から叩きつけられて地面を砕いて止まる。

 だが、勇儀も負けてはいない。片腕が仕えない状況で、恐ろしいまでの力を使い、命を無理やり持ち上げて近くの崖に叩きつけて埋める。

 めり込んで動けなくなった命に、勇儀は今までで最大の一撃を放ち、止めを刺そうとする。勇儀の剛腕は轟! っと音を立てて命の顔に突き刺さる。

 それと同時に命の体から力が抜け、がけが崩れていく。

 

 「っつ! 何だこりゃ!」

 

 今の今まで気を失っていた勇儀だが、目の前で轟音を立てて崩れ落ちる岩の音に気が付いた。そして、自身がしでかしたことにも気が付く。

 

 「あちゃあ、こりゃやりすぎちまったか。私が人間にここまで追い込まれた事なんてなかったからね。本当ならここまで追い込まれたのなら、負けを認めて讃えるべきだったんだろうがね」

 

 加減どころか全力で殺しちまったね。そう呟いて、勇儀は崖から背を向ける。詳細は分からないが、拳には確かに手ごたえがある。この状態と手ごたえから考えて、勇儀は大体の状況が分かった。だからこそ、あきらめた。

 力の四天王の一撃を人間が耐えきれるはずがない。幾らあそこまで闘えたからと言って、流石にこれは話が別だ。鬼でも早々耐えきれる一撃ではないのだから。

 

 「楽しかったよ。アンタみたいな人間がいるとは正直思っていなかった。いや、楽しめたっていうもんじゃない。うれしかったよ。私が全力で戦える相手が存在したという事に。同族ですら殴り合いだけなら私は確実に勝っちまう。それなのに、私達よりもはるかに弱い人間であるお前にここまで追い込まれるとは」

 

 そう言って勇儀は豪快に笑った。ボロボロの体であれども、今すぐに倒れそうな体であれども、倒れるわけにはいかなかった。自身が殺した相手の前で崩れるのは勇儀の矜持が許さなかった。それは礼儀だ。勇儀がそう簡単に負けるようでは命が報われない。そう考えて勇儀は立っていた。

 

 「じゃあな、素戔命。あっぱれだ。人間でありながら妖怪にすら追いすがった数々の技。鍛え上げられた肉体。そのすべてがお前を輝かせていたよ」

 「そうか。ならばそれは褒め言葉として取っていこう」

 「!!?」

 

 後ろから聞こえた声に、勇儀は慌てて振り返った。有り得ない。そう考えて。

 誰が考えられる? 崖すら崩す一撃をその身に受け、崩落に巻き込まれて生きられる人間がいると。

 だが、命は生き残った。あの時、命は勇儀の一撃に対して力を完全に抜けきらせていた。それだけなら後ろの崖に頭を叩きつけられ、ダメージは軽減できなかっただろう。だがそれはあくまでも叩きつけられたダメージだ。命は意識を失いながら、判断していた。勇儀の拳のダメージと、崖に叩きつけられるダメージ。それらを判断して、命は勇儀の拳を軽減させる方を選択した。それはあくまで、本当に僅かに威力を軽減しただけ。一割も威力は削れていない。だが、その削れた部分のお蔭で命は生き残った。

 

 「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 命が最後の力を振り絞り、勇儀に膝蹴りを叩き込んだ。とっさに勇儀は腕を十字に重ねて、その膝を防ぐ。

 

 「あは、あははははは!! まだ、まだ生きていてくれたか!!!!」

 

 勇儀は今までにないほど、血が沸き立っていた。自身の最大の一撃。それは周りから必殺とまで呼ばれる一撃だ。それを受けてなお、生きている存在がいる。しかもそれは目の前の弱く、強い人間である。それが嬉しくない訳が無い。鬼が人間に勝負を挑むのは人間が好きだから。弱いながらも知恵を振り絞り、力をつけて鬼を倒す人間を。だが、目の前の存在はどうだ!? 鬼退治の道具もなく、ただ我武者羅に鍛えぬいた技と肉体一つで、鬼を倒そうとしているのだ。うれしくないはずがない。楽しくないはずがない。これで沸き立たないというのなら、それは鬼じゃない。唯の臆病者だ。

 

 「ああ、そして終わりだ」

 

 命の呼気が荒々しく変化する。だが、勇儀にはそれを避けるだけの力はない。もはやあとは、

 

 「なら、それを耐えるだけさ」

 

 勇儀は体全体に力を込めて、鋼のように、いやそれ以上の堅さを作り出す。命がこれからする技に対抗できるように。

 しかし、その考えは外れていた。既に命の技は放たれていたのだから。

 

 「孤塁抜き!!!!!」

 「っ!!!!!?」

 

 腕で防ぎ、完全に終わっていた。そう考えていた足の一撃。それは今までの中でも、芯に届いた。意識していなかった守りを貫かれ、勇儀は体を浮かばされて悟った。

 

 「がはぁ!

 は、ははは! 天晴れ、だ! よくぞ鬼を打ち破っ……た! 認めよう、人間! お前は『鬼殺し』だと!」

 

 そう言い、勇儀は地面に落ちる。

 

 「鬼を破った人の子よ! 私の名を持って約束は守ろう!」

 「……」

 「く、くはははは! ああ、ここまで楽しんだのは何時ぶりだ? もはや動く事も出来やしない。なあ?」

 

 命はただ黙って、立ち尽くしている。

 

 「聞こえないか。そりゃそうだろうね、命を賭けて放った一撃だ。代償は重いだろう。まあ、その代わりこうやって私を倒したのだけどね」

 

 ぐらりと命の体は傾き、勇儀に倒れ込む。

 

 「なんだい。私に倒れ込むなんて? 誘っているのかい?」

 

 笑いながら、勇儀は倒れ込んだ命の頭をなでる。

 

 「まあ、何はともあれ、アンタは立派だったよ。ありがとう。私に真っ向から立ち向かってくれて」

 

 戦いの音がなくなったからだろう。今頃、鬼達が近づいている。勇儀はそれを感じ取り、周りに宣誓する。

 

 「この戦い、勝者は素戔命だ!」




戦闘描写って難しいです。
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