東方武神録   作:koth3

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三つの闘い

 空をきりきり舞う魔力弾を、魔理沙は紙一重で避けていく。

 真っ直ぐに進む弾幕と突如視界に現れて薙ぎ払う暴風のように進んでくる緑色の弾幕。二つが組み合わされたそのスペルは凶悪だ。

 片方を意識して避ければ、もう片方の弾幕に襲われてしまう。だからといって両方を意識してしまえば、対処が中途半端になり、だんだんと動きに粗が出て追い込まれてしまう。

 当たらなければ良いというのが弾幕ごっこのルールだが、この場合その当たらないというのが難しい。魔理沙はそれでも箒を精緻に動かし続けて何とか避け続けているが、それももう持たなくなってきている。目の前に迫った弾幕の動きを合わせるだけしかできなくなっていき、次の動きにつなげられていない。

 

「畜生! まさかこんな早く使う羽目になるなんて!」

 

 魔理沙も一枚のカードを取り出した。カードに描かれているのは星。大きな星が二つ描かれていて、流れ星となっている。

 カードを人差し指と中指に挟んだまま彼女は、声を大に宣言した。

 

『魔符 スターダストレヴァリエ』

 

 カードから巨大な星が出てきて、紫色の少女が放つ弾幕を飲み込み砕いていく。

 少女が技巧を駆使して相手を翻弄する魔法を使うのであるなら、魔理沙の魔法は力づくのパワーで相手を押しつぶす魔法だ。純粋な魔法の実力は少女の方が上だが、突破力や破壊力だけを考えれば魔理沙の方が上だ。

 魔理沙のスペルカードが予想外だったのだろう。少女は慌てふためきながら魔理沙の星形のスペルを大きく避けた。

 今の攻撃で魔理沙の実力を認めたのか、少女は本からわずかに視線をずらし、魔理沙の顔を見た。

 

「へぇ。一見滅茶苦茶に見える魔法だけど、かなり高度な魔法理論を使っているのね。少しだけ貴方に興味が出てきたわ。貴方、名前は何ていうの?」

「人に尋ねるなら自分からだろう?」

「そうね。私はパチュリー・ノーレッジ。紅魔館にあるこの図書館の主よ」

「そうか。私は霧雨魔理沙。魔法の森にいる普通の魔法使いさ」

 

 二人が名を交わし終えた瞬間、二人のスペルカードは終了した。

 ピリピリと肌をさす緊張感が辺りに漂う。ただ飛んでいる二人だが、何らかの刺激がこの場に加わればすぐにでもまた戦いは再開するだろう。

 

「ひ、ひぇええ!?」

 

 どこからか若い女性の悲鳴が響き渡った。悲鳴が終わる間もなく、唐突に図書館が揺れ動き、幾つもの本が零れ落ちた。

 本が床に激突するよりも前に、二人は間合いを広げるために後ろに飛び下がり、弾幕を放ち始めた。

 パチュリーは先ほどと同じように計算されつくした弾幕を放つ。しかし、魔理沙は避けることによりも攻撃に集中し、過剰なまでの魔力を使っていく。

 魔理沙はスターダストレヴァリエを放った時のパチュリーの動きから、彼女の弱点を予想できた。彼女の攻撃は防御でもあるという事を。先ほどのパチュリーの動きはいくら突然の攻撃だったからといって、いささか過剰すぎた。

 巨大な星形の弾幕がホーミングするという避けづらいスペルではあるが、スターダストレヴァリエは大きく避けるほどのスペルではない。だがパチュリーは大きく避けた。そこから予想したのだ。『パチュリー・ノーレッジは、戦い慣れしていない』という事を。

 パチュリーの攻撃は凄まじい。計算されつくした軌道で放たれる攻撃はかなりの威圧感を相手に与えるだろう。しかし、回避になるとパチュリーの動きはガラリと変わってしまう。動きの精細さはなくなり脆さが出てくる。

 パチュリーは魔理沙を回避に重視させることで、攻撃させること自体を防ごうとしている。そう推測したのだ。

 そして、それは事実だった。彼女は戦いという事をめったに行わない。魔法研究をし続けていた彼女にとって、戦うこと事態が本来イレギュラーなのだ。

 魔理沙の怒涛の攻撃に、パチュリーはだんだんと攻撃を放つ余裕を失っていく。

 

「くっ! 『木&火 フォレストブレイズ』!」

 

 だからこそ、二枚目のスペルカードをきるしかなかった。先ほどの緑色の弾幕以外に、燃え盛る炎が桜の花びらのようにひらひらと上空から舞い降りてくる。前後左右、上からくる弾幕は簡単には避けられないだろう。

 先ほどよりも難易度の上がった弾幕が魔理沙へと迫ってくる。しかし、パチュリーの苦し紛れで放った攻撃である事と、魔理沙は流れに乗っている事もあり、一撃も当たる事なく全ての弾幕を避けていく。魔理沙は的確な攻撃をパチュリーに次々と放ちダメージを負わせていく。

 

(当たらない!! 動きが読まれている? いいえ、違うわ! 私の弾幕を避けるあの動き、まるで美鈴みたいな滑らかさ! 彼女は間違いなく私より弱いけど、戦い慣れている!)

 

 そのわずかな弱気が隙となった。パチュリーは空中で魔理沙へ対する恐れで動きを止めてしまう。

 魔理沙はその瞬間懐からミニ八卦炉を取出し、魔力をそそいで増大させる。一瞬で魔理沙の魔力量よりも膨れ上がった魔力は、解放される時を今か今かと待ちわびえて、ミニ八卦炉の内側で暴れている。

 

『恋符 マスタースパーク』

 

 そしてその暴虐性が発揮された。

 魔理沙のスペル宣言と同時に、ミニ八卦炉から出た極光がすべてを塗りつぶしていく。

 

 

 

 

 紅魔館の外で、霊夢とレミリアは戦いを繰り広げていた。

 お互いの攻撃が掠ったのだろう。直撃した後はなかったが、彼女たちの服は裾がボロボロになっている。紅の弾幕と鈍い輝きを放つ針が宙を飛び交い、相手を打ち落とそうと交差し続ける。だが、やはり二人は攻撃を僅かな動きだけで躱していく。どれだけの物量で攻撃しても、相手を崩すことはできない。しかも、下手な攻撃をしてしまえば、相手にチャンスを与えてしまう。自分を落とすというチャンスを。

 

(らちが明かない。それに、さっきから聞こえるこの破壊音。間違いなく美鈴。あの美鈴がここまで手こずる程の相手か。そちらも相手にしなければならない事を考えると……)

(面倒ね。なかなか落ちない。それに、館から聞こえる破砕音。魔理沙の一撃ではここまで大きく響かないし、響く一撃だったとしてもここまで連続で放てない。だとしたら、やっぱりあの人ね。あの人が苦戦する相手がまだいるっていうの。仕方がないわ。そっちも戦う必要があるなら……)

((コイツはスペルカードでさっさと落とす!!)

 

 お互い余力を残すために、今出せる最大級の一撃を放つ事を決心した。

 莫大な霊力と魔力が二人の体から湧き出る。お互い同時にスペルカードを取り出して宣言した。

 

『レッドマジック』

『霊符 夢想封印』

 

 二つのスペルが正面から直撃し、しのぎを削る。霊力が魔力を喰らい、魔力が霊力を飲み込む。お互い一歩も引かない。それどころかさらにスペルに力を送り、威力を高めていく。

 片方は長い時から得られた経験、もう一人は持ち前の勘で、今引けば負けるという事が分かったからこそ、彼女たちは自身の弾幕を信じて力を振り絞っているのだ。

 

「負けるか!!」

「さっさと、落ちなさい!!」

 

 二つの口から咆哮が空に響き渡った瞬間、霊夢とレミリアの弾幕は掻き消えた。

 二つの力はさらに強大な一撃に耐えきれず、霧散してしまったのだ。

 

「「なっ!!?」」

 

 二人とも驚きながら咄嗟に一歩後ろに下がった。もし、彼女たちが動かなかったら、そのあと繰り広げられた数々の技の応酬に巻き込まれてしまっただろう。

 弾幕が衝突していた場所には、紅魔館から飛び出してきた二人の人物がいた。レンガが吹き飛ぶ中を、ボロボロな姿で、美鈴と命が空を跳んでいた。二人は跳び続けながら高速の殴り合いをしている。空気が唸りを上げて引き裂かれる。

 

「チェストぉお!!」

「セイ!!」

 

 跳躍した頂点で、空間を引き裂く雷のように命の手刀が美鈴の首を襲う。だが、美鈴は滑らかな動きで命の手刀に手を添えて下に流した。一瞬開いた命の顔面への隙。そこを狙い、今度は逆に美鈴の貫手が命を襲った。しかしそれは彼の放った腹部への膝蹴りを防ぐために、貫手を引き戻して受けなければならず、攻撃を与えることはできなかった。

 二人は空から落ちながらも、相手に攻撃を加えようと次々に様々な技を放っている。

 

「美鈴!!」

「命?」

 

 突如現れて自分たちの闘いを邪魔した二人を、彼女たちは呆然と眺めるしかなかった。彼女たちには目の前で繰り広げられている光景が信じられなかったのだ。

 レミリアは、美鈴と匹敵するほどの格闘家の存在を。霊夢は命が下せない敵がいることを。

 確かに今戦っている二人は遠距離戦限定で言えば、それほど強くない。むしろ命に至っては毛玉クラスだと断言できる。しかし、一度接近戦にまで持ち込めば、相手が誰であれ必ず勝てるといっても過言ではない実力を有している。

 それだけの実力があるからこそ、二人は一歩も引かず戦いをしている。お互いの手の内を変えて、巧みな技から複雑な技、単調でいながら力強い技。手を変え品を変えての攻防が成立するほどに。

 

「狂気の牙を打ち振る舞!!!」

「凶気仙首断頭!!」

 

 命は落下しながら縦に回転し、幾度も美鈴を肘で打ち付ける。一撃を喰らっただけで、美鈴の落下速度は加速的に増えて、地面に叩きつけられそうになっていく。

 しかし、美鈴はそれだけで沈む器ではない。最後の一撃を喰らう瞬間、美鈴はあえて守りを捨て、鋭い回し蹴りを命に放った。弧を描き、全てを刈り取るほどの鋭さが含まれた回し蹴りを。

 両者の一撃は互いに必殺だった。命の一撃はその重みで敵を砕く。美鈴の一撃はその鋭さで命を切り裂く。だが、両者の必殺は同時に直撃したため、わずかに必殺足らしめなくなった。

 美鈴は地面が陥没するほどの勢いで落とされ、命は横に吹き飛んで、紅魔館の外壁を巻き込んで崩壊させるほど強くたたきつけられた。

 

「なるほど、やりますね」

「……」

 

 美鈴は最後の一撃を喰らった腹部を抑え、口に溢れた血を吐き捨てた後、楽しそうに口を開いた。

 

「だんまりですか。まあ、それも仕方がありません。いえ、むしろこうして口を開いている私が無粋なんでしょう」

 

 「よっと」軽く口にしながら、彼女はダメージを感じさせない動きで軽快に立ち上がり、自身の主であるレミリアに叫んだ。

 

「お嬢様、ここから離れてください。お嬢様には残念かも知れませんが、私も血が躍ってしまい止める事が出来そうにありません。たとえお嬢様といえど巻き込まない自信がありません」

「……そう。わかったわ」

 

 美鈴の言葉にうなずいたレミリアは、高度を上げていく。その動きに気が付いた霊夢はとっさに針を投げたが当たらず、またもやレミリアを追いかけて霊夢も空を翔上がっていく。

 

「さあ、お互い余計なものは排除しました。あとは、どちらかが死ぬまで戦うとしましょう」

 

 崩れた壁から立ち込める砂煙で見えないが、それでも彼女は一つの確信を抱いていた。それは、素戔命がまだ戦えるという事。

 

「そうか。お前はそれで良いのか?」

「……ええ。良いんです。私にはこれしかありませんから」

 

 そして二人はまた衝突した。

 

 

 

 先ほどよりも高い空で、霊夢とレミリアは相対していた。しかし、彼女たちは微動だにしない。先ほどのスペルに力を使いすぎて動けないのだ。

 押し黙っていた二人だが、霊夢が口を開きレミリアに尋ねた。

 

「あの門番、弾幕ごっこは弱かったけど、強かったのね」

「当然よ。美鈴は紅魔館で一番接近戦は強いわ。それこそ当主である私よりもね。そうでもなければ、あんな猛獣を飼いはしないわ」

「猛獣?」

 

 霊夢はレミリアの言葉に違和感を覚えた。何故、美鈴を猛獣と例えたのか。それがわからない。

 

「あいつは私に忠誠心なんて持っていないわ。戦う場所を与えてやったからこそ、その恩として門番をしているに過ぎないもの。戦いに餓えた獣なんて猛獣で十分でしょう」

 

 確かに戦いそのものを望む者は、獣とすらいえないだろう。猛獣と呼ばれること自体、かなり穏やかな物言いだ。しかしだとすると、

 

「酷い言いぐさね。じゃあ、何でそんな危険なやつを門番にしているのよ」

「……仕方ないのよ。あいつしかいないもの。あれを抑えられるのは」

 

 ぽつりと漏れた言葉は、レミリア以外誰にも聞こえなかった。

 

「? 何、何か言った?」

「いいえ、何も言っていないわ。それよりもあの男はお前の知り合いなの? 随分と驚いていたようだけど」

 

 今度は霊夢が苦い顔をして、蚊の鳴くような声でつぶやいた。

 

「知らないわよ。あんな人」




咲夜さんは霊夢に倒されています。多分、今回の紅魔館の話では出ないです。咲夜ファンの方申し訳ありません。
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