東方武神録   作:koth3

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武神の再臨

 幻想郷の誰も知らない場所に、八雲紫を筆頭とした八雲の姓がつく妖怪が住む家がある。妖怪の賢者と言われる八雲紫はその実、敵が多かった。

 幻想郷に住む妖怪は長命なものが多い。昔博麗大結界を反対した妖怪もいれば、人里を襲うのを禁止した紫に対し、恨みつらみを抱えている者はいくらでもいる。その程度の格しか持てない相手するならば紫も別に大した問題としないが、いかんせん数が多いので一々相手するのが面倒という事と、眠っている時まで襲撃されるてしまう事が多々あった。

 彼女は能力が強大なためか、十二時間ほど睡眠をとらなければならないという欠点を持っている。その為、八雲紫は誰も知らない場所に家を建てた。そこで十分な安息をとるために。

 その誰にも知られない家の何もない部屋に、素戔命は寝かされていた。青白い顔をして、体からは鼻を摘まみたくなるほどの血と汗の混じった臭いがする。

 敷かれている布団は蒸れて、引きちぎられている個所もあった。

 汗を大量に掻きながら眠っていたその体が突如くの字に曲がり、口から血を吐きだして布団を赤く染めていく。

 数か月前から命はこうなっていた。天津罪が進行し、すでに顔には誰が見ても分かるほど死相が浮かんでいる。今死んでいないことの方が信じられないほど、死に取りつかれていた。

 

「ぐっ! あ、ぁあ? ここは? そうか、スキマの家だったか。どれくらい寝ていた」

 

 霞む目で命が辺りを見回すと、柱に付けられたカレンダーがあった。目を凝らしてみると、そこには春の月と書かれている。

 

「春、だと?」

 

 ――おかしい。

 少なくともいくら体が滅びかけていても、命の鋭敏な感覚はまだ死んでいない。この布団の中に忍び込む寒さは、間違いなく冬のものだ。

 

「なにが起きている。いや、異変か」

 

 そこまで分かれば十分だった、命には

 

「ぐぅぉおおおおおおお!!」

 

 口から再び血が流れ、それが勢いを増す。それでも命は体に力を籠め続ける。体の血流が一時的に強まり、脚の筋肉が膨れ上がり、立ち上がった。くちびるの端を流れ落ちる血を、命は親指で拭う。

 

「最後の仕事だ」

 

 

 

 

 幻想郷を駆け抜ける、相変わらず異常としか言えない速度で。風が命の後を追っている。

 しかしその速度はどうにも不安定だ。速い時はいつもと変わらないが、途中でいきなり減速したり、加速したりを繰り返し、覚束ない走りをしている。大粒の汗が命の体中から浮かび上がっては空へ流れ、冷えて白くなっては消えていく。

 突如命が止まる。幻想郷中を駆け回り、命は異変の原因がどこにあるか突き止めた。目指すべきは空の果て、冥界。そこに春を集めた者がいるという事を。

 しかし問題がある。命は空を飛ぶ事が出来ない。空を浮かび続けるという方法を編み出した事こそあるが、アレは万全の状態でもかなりの疲労をしてしまう。病に限界まで蝕まれている今は到底出来ない。他の方法を探す必要がある。

 

「あれ、命様。こんな所でなにされているんですか」

 

 雪が吹雪く中、一人立ち尽くしていた命は目立ち、ある妖怪達が気付いて近寄ってくる。厳密に言えばそれは妖怪ではない。騒音、つまりはボルターガイストと呼ばれる現象が自我を持った存在だ。騒霊と呼ばれる種類の霊である。

 その騒霊であるプリズムリバー三姉妹がそこにいた。そのうち末の妹である、赤い服に小さなピアノを肩から下げたリリカ・プリズムリバーが不思議そうに命のそばまで来る。

 

「リリカ達か。丁度いいところに。頼みがある。これを妖怪の山にいる天狗たちに届けてくれないか」

 

 妖怪の山。幻想郷においてもっとも高い山であり、かつて鬼が暮らしていた山だ。今は鬼が住んでいないために、天狗が支配しているが、それでも山の大部分に妖怪が暮らしている。そのために人々はその山を妖怪の山と言う。

 その山を支配している天狗たちと、命はある関係を持っている。それもかなり密接な関係を。ゆえに命は空を飛ぶために、天狗から助けを借りようと考えついた。手についている手甲を取り外し、リリカに手渡す。

 

「別にかまいませんけどって重いッ!!?」

 

 手甲を渡され命が手放した瞬間、空を飛んでいたリリカは地面に縫い付けられた。手を地面と手甲の間から外そうと、必死になっている。

 

「た、助けて、姉さん!!」

 

 結局三人が全力を出してようやく手甲を浮かばすことに成功し、ふらふらと妖怪の山へと飛んでいく。頼りないが、それでも命はあの三姉妹に賭けるしかない。普段ならば簡単にできる事が出来ない事に、歯がゆさが募る。それでも歯ぎしりすらしなかった。

 しばらくすると、妖怪の山の方から黒いふたつの塊が空を目にもとまらぬ速さで飛び、命の方へ近寄ってくる。それは背中に鴉の翼を持つ妖怪だ。山伏の装束に似た物を着ており、鋭い瞳をしていた。

 

「いったい私たちになにか用でしょうか、命様」

「ま、待って文。速すぎるわよ。私が追い付けないわ……!」

 

 幻想郷一速いと自称している烏天狗の射命丸文、そしてその補佐として妖怪の山から文字通り飛んできた姫海棠はたて。その二人が命の前で蹲踞(そんきょ)している。髪の毛は二人ともあちらこちらへと跳ねており、服に至ってはしわが寄って酷い有様だ。しかしそんな些細なことを気にしている余裕は命にはない。

 

「すまんが、私を連れて行ってくれ、冥界へ」

「め、冥界へですか?」

「そうだ。急げ、急いでくれ……!」

 

 胸を押さえているその様子に、二人は一度だけ顔を見合わせるが、すぐに何も聞かずに脇から二人で持ち上げて空へ飛んでいく。その速度はさすが天狗というべきで、疾風迅雷という呼称がふさわしい。

 翼を最速で羽ばたかせる二人。その二人は命の体からどんどんと熱がなくなっていることに気が付いた。

 

 

 

 冥界へ着き、命は感謝の言葉を述べ二人をすぐに妖怪の山へと返した。あくまでもこれは命の問題。手を借りたといえ、死ににいくのを突き合わせる訳にもいかない。

 近くの石灯籠に背中を預け、命は息を整える。口からは血臭しかしない。

 

「あと少しだ。せめてその時までもってくれよ私の体」

 

 登っていく石段。かつて登った時と違い、石が固く感じられる。その途中踊り場に、妖夢が命を待ち構えていた。

 こんな時だというのに、かつて最初に妖夢とあったのは丁度このあたりだったかと命は思い出す。その時は敵意しかなかった。今彼女にあるのは、強く押し殺したなにかだ。それが何か命には分からない。

 

「お待ちしておりました、命様」

「妖夢か。退けと言って退く気は」

 

 何も語らず妖夢は横に頭を振り、俯く。

 

「だろうな」

「ひとつ、お聞かせください。なぜ命様はこの異変を止めようとしているのですか。今の命様の体については幽々子様が教えて下さりました。だからこそ、お尋ねしなければなりませぬ。なぜ貴方は闘うのですか」

「闘う理由か。悪いがそんなものはない」

「そんなはずありませぬ。物事にはすべて因果関係があります。そこになんらかの強い思いがなければ行動など存在しないでしょう」

「いいや、私にはそんなものない。しいて言えば、それは私が素戔命であり人々を守らなければならないだけだ」

「そんな事を聞いているのではありません!! 聞かせてください……! なぜ、なぜ貴方はそこまでして闘うのですか……!」

 

 顔を上げて命は驚いた。妖夢は泣きそうになっている。

 ――ああ、そうか。

 命は何も語らなかった。投げ出された腕が力なく揺れる。

 

「妖夢、お前は自分を見つけろ。それが師にすらなれなかった愚か者の残す最後の言葉だ」

 

 妖夢は刀に手をかけた。それだけで、彼女は賞賛されるべきだ。いくら命が不調だとしても、その武を前に刀に手をかける。それができる者などそういない。一流ですら届かない領域へ彼女は確かに届いていた。だが、あくまでもそれは一流を越えた程度。神と同じとされた武には決して届くはずがない。

 

「すまん」

 

 首筋に撃ちこまれた手刀に妖夢の意識は薄れる。しかし刀の柄から手を放さなかった。

 

「私は……なんのために闘えばいいのでしょう?」

 

 立ちながら気を失っている妖夢を背に、命は先を急ぐ。心臓の鼓動は既に微弱だ。それでもなお、行かなければならない。

 

「無理は良くないわよ。例えそれが最後の輝きであっても」

 

 白玉楼の庭にある西行妖。そこの根元に西行寺幽々子は立っている。扇で口元を隠し、決して命の方を向こうとしない。

 

「命の火など燃やさねば意味などない。それに、なにもせず朽ちるよりかはこちらの方がマシだ。気づけない事にも気づく事が出来た」

 

 その言葉にはすべてが込められている。素戔命が、武神が歩んできた道のりが。

 

「そう」

「そうだ。いや、こんな事にも気づけぬのだから始末におけない。自分のことながら嫌になってくる」

「それでも最後に気付けたのなら、それは素晴らしいことだと思うわ」

「くっ。まさかお前に慰められるとは」

「失礼ね」

 

 扇を閉じ、幽々子はわざわざ頬を膨らませて見せた。

 

「ああ、そうだ。本当に」

「命?」

「私は最後まで気づけなかった。幽々子、お前も私のようになるな」

 

 命が構えた。常より乱雑な動きであるが、それでも一級品の武がそこに確かに存在しており、幽々子は息を呑む。膨れ上がる闘気。死人とは到底思えない。しかし幽々子は自身の能力が死に関しては間違うはずがないと知っている。素戔命は死ぬ。少なくとも一刻もしないうちに。そうだというのに、彼はその死を縮めてでも幽々子を抑え込もうとしている。

 この戦いは一瞬で終わる。それは二人とも理解できていた。

 幽々子の能力は死の谷へ通じる細い生という道を歩く命を、簡単に死へ突き落す。命の武は幽々子を抵抗を許さず抑え込める。たとえその身が死しても何時間だろうと外せないような拘束を決めて。

 弾幕ごっこなどここには存在しない。命にそれだけの余裕があるはずない。そして幽々子も弾幕ごっこなどとおためごかしなどしようとは思っていなかった。命が勝って死ぬか、負けて死ぬか。ただそれだけの事。それだけのことをごっこ(・・・)などで汚したくはなかった

 

「勝負ッ!!」

「っ!」

 

 速かった。すでに命は幽々子の懐へもぐりこんでいた。振るわれた命の拳は幽々子の眼前で止まった。

 

「……お疲れ様」

 

 命は崩れ落ちていく。あと一歩で幽々子に届くという所で。

 

 

 

「ここは三途の川か」

 

 目の前には枯山水ではなく揺蕩う水がある。白玉楼の退廃として停滞した雰囲気に似ているが、風景は全く違う。向こう岸がとてもではないが見えない川など白玉楼には存在しない。命の目ですら、その川がどこで終わるかは分からなかった。

 ――死んだか、あと一歩届かずに。

 死神が来るはず。ひとまず命は川辺のゴツゴツした小石に腰を下ろし、待つことにした。待つこと数分。霧が立ちこむ川を修復の跡が目立つ船が渡ってくる。乗っているのは一人の女性。帯の上に五銭を張り付けるという、奇妙ないでたちに大鎌を引っ掛け、櫂をゆっくりと漕いでいる。不思議とその遅さが心地よく、命の頬は緩んだ。

 はしりとその頬に手を置く。

 

「さて、私はこんなに簡単に笑えたか?」

 

 ――笑えるのならそれでいい。

 どうにも心持ちがおかしいが、命としてはそれが単純に気楽に感じられた。病から死という形であるが解放され、その体はどこまでも軽く気分も高揚している。それでいて頭の奥底で、もう一人の自分が羽目を外しすぎないようにしている。似合わないと思いながらも、達観するというのがどういう事かを少し理解できた気がして、またも自然と緩む。

 ――自分のような愚か者が達観を感じると嘯いたとは!

 

「おや、命様。どうされたんです、そんな相好を崩されて」

 

 迎えに来た死神である小野塚小町は、だから第一声をそんな言葉で締めくくった。

 

「いや、なに。不思議とな、今まで感じたことがないほど馬鹿馬鹿しいのだ」

 

 顔を綻ばせたまま、命は船に乗る。

 

「おっと、いくら命様でも無賃乗船は勘弁してくださいよ」

「そうか、すまんな」

 

 注意された命はあちらこちら探り、ようやく見つけそれを引っ張り出す。それは何処にでもあるがま口だ。

 三途の川にはある決まりがある。渡るには渡し守に手持ちの金をすべて渡さなければならない。最低でも、六銭は。ただしそれは、純粋な意味での金ではない。その金を形作るのは思いだ。

 命のがま口は弾けんばかりに膨らんでいた。口を開けた瞬間、間欠泉の如く銭が空を飛ぶ。

 

「おお、こんな光景死神人生長いですけど、初めて見ました」

「私もここまで多くの銭は初めて見る」

 

 船に乗り切らないほどの銭が空から落ちてくる。辺り一帯が薄汚い黄金色に包まれた。しかし銭が発する柔らかい光は温かみがあり美しい。小町はすぐさま他の死神を呼び集め回収させた。

 

「さて、渡し賃も十分すぎるほどいただきましたし、さっそく行きましょうか。ここから先は閻魔の法廷。死した魂が裁かれる天国と地獄の手前。まあ、根之堅州国(ねのかたすくに)に父君がおられる命様には釈迦に説法でしょうが」

 

 船が岸を離れる。ギィギィと音を鳴らし、川を滑らかにそしてゆっくりと進む。舳先で斬られる水は、いつまでも終わらない。

 

「なかなかつきませんね」

「そうだな」

 

 三途の川。その川は距離が決まっていない。渡る者の罪の大きさにより、その川幅は変わるとされている。その川幅を短くするのが、小町に渡した銭だ。あれは生者が死者への供物とした渡し賃である。渡し賃は即ち人々の感謝の念であり、その念がある者は徳の高い、善人であるという事になり川幅は短くなる。

 しかし空へ勢いよく噴き出すほどの銭があった命ですら、川幅はあり終わりが見えない。

 

「終わりませんね」

「いやそうだろうな。この川が終わるのは死者が己の罪と対面した時だ。幾ら銭貨を積んだところで、船に乗る者の罪が多すぎれば、終わるはずもない」

「そうですかねぇ。命様はアタイから見て十分すぎるほど正しく生きましたと思いますがね」

「はっ! 私が正しく生きただと? 悪い冗談だ。私は常に傷つけてきた。姉を殺した。いくら姉が望んでいたとしてもな。そして、なにより心を傷つけてきた。今分かった。私の罪は誰それを殺したのではない。他者の心をかんがみず、己の考えを、独善を押し通してきた事だった」

 

 船が少し速くなる。

 

「いったいどれほど愚かだったか。月夜見が月へ行こうとしたのはおそらく私の所為だ。なのに私はそれを理解せず、ただ地上にいようとした。あの程度が理由ならば、大人しく月へ行けば良かったのだ! 月夜見の優しさを受け入れてな。魅魔についてもそうだ。あの子を憐れんで同情した体を装った。あれなど特にそうだ。誰かを救ったと思おうとした卑しき心から動いたにすぎん! 鬼に襲われていた幻想郷の者を助けた。しかしあれは、助けるのではなく手助けするべきだった。人々が一人立ちできるようにその背中を少し押せばよかった。そして妖夢! 私は頼まれて技を教えた。体を鍛えた。しかし心は壊してしまった。あの子は心を失った。今も迷っている。刀を持つ理由をあの子は見失った。なによりも優先して私は妖夢の心を考えるべきだった! すべては私の独善が原因だ!」

 

 向こう岸が見えた。川をトビウオのように滑り、船は見る見るうちに河岸へと近づいていく。

 

「それはアタイに言うことじゃないでしょうに、命様。映姫様が手ぐすね引いて待っていられますよ。いくらでもあの人ならば付き合ってくれます」

「そうだな。迷惑をかけるが、映姫には付き合ってもらおう」

 

 あと少しで到着する。そんな時虚空から声が聞こえた。

 ――起きてよ。起きて私を見てよ。博麗の巫女って、認めてよ……。ねえ

 

「いや、どうやらもうひとつあったか」

「ん、どうされたんですか」

「なんでもない」

 

 ――あああ、うあああああ

 

 今度は泣き声。

 座っていた命は立ち上がった。その目には、新たな熱が込められている。新たな決意が。不穏な気配に小町は訝しむ。

 

「すまないがやる事が出来た」

「やる事ですか?」

「そうだ。最後にまだやらなければならない事があるようだ」

「だとしても、もう川を渡っていますし。今更もう戻ることはできません」

「関係ない。私は独善を貫いてきた。ならばそのまま独善だろうがなんだろうが貫き通すべきだ。常識など知った事か」

 

 体中を力が廻る。今までと違う力に、命はしばし不安を覚えたがすぐに消えてなくなった。川を流れる水が浮かび命の周りを旋回する。その背を押し、守ろうとするように。

 

「ああ、ありがとう、歌雅姉さま。それに父上」

 

 小町が止める暇もなく、命はなにもない空間を蹴った。あまりの技のキレに、三途の川が縦に二分割されていく。波が船を揺らし、小町はバランスを崩して倒れてしまう。

 

「イタッ! み、命様危ないですからいきなり暴れないで……」

 

 小町の船には誰も乗っていなかった。あるのはただ、見たこともない白い穴。それが小町の船の上に浮かんでいる。それすらもすぐに消えた。

 

「ど、どうなってんの?」

 

 

 

 眼前に舞うは怪しき紫の花。なにをするよりもまず、命はそれを吹き飛ばすために拳を掬い上げた。突風が花を空へ打ち上げる。

 

「え」

「どういう、こと」

「なにを呆けている。お前たち」

 

 力なく身を投げ出して目だけを力いっぱい見開いている二人に、命は笑みを見せた。

 

「な、なんで」

「なに。あんまりにもうるさいのでな、戻ってきただけだ。いや、それとする事がまだあってな」

 

 ゆっくりと歩いてくる命に、霊夢はわずかに身を震わせ魔理沙の影に隠れるように動いた。

 

「れ、霊夢?」

「う、うるさい。黙ってて!」

 

 怯えている霊夢に、命は手を伸ばす。

 

「っ!」

 

 目を瞑った霊夢は頭の上に乗っかった温かさに、目を丸くして開いた。

 

「え?」

「よく頑張ったな、博麗霊夢。さすがは博麗の巫女だ」

「あ、ああ、ああああああ!!」

 

 堰を切ったように涙があふれてくる。ようやく、霊夢は認められた。博麗の巫女として。彼女を縛っていた呪縛が砕ける。

 

「霊夢、よかったな」

「うん、うん。ありがとう魔理沙」

「さて、二人とも少し空にでも浮いていてくれ。さっさとあの物騒な桜をなんとかしなければならん」

「あれをどうにかできるのか?」

「当り前だ」

 

 二人が空を飛んだのを確認し、命は足を高々と上げる。違和感などない。それどころか素戔命として生まれて一番体が動く。力が滾り、自信が溢れてくる。

 

「砕けてしまえッ!!」

 

 かかと落としが冥界の大地に直撃した。爆薬を大量に集めて一度に炸裂させたかのごとく轟音が響く。土煙が上がり、猛烈な風が冥界中を吹きつけた。

 今までの命ならば、せいぜい地震を起こす程度の威力だったが、今は違う。大地が引き裂けて割れていく。地割れが桜を根っこごと浮かばせ、支えるものがなくなった桜はゆっくりと倒れていく。

 

「う、嘘」

「す、すげぇ」

 

 一撃で命は冥界(世界)を粉々にした。

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