東方武神録   作:koth3

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追い込んでいく黒い影

 図書館に箒で突撃した一件で、しこたまパチュリーに怒られていた魔理沙は、彼女が説教の合間苦しそうに息継ぎをしている隙に、話題そらしと目的を果たすため、ここ最近頻発する宴会について急ぎ足で尋ねた。

 魔理沙の急な問いに、パチュリーは少し気になるものがあったのか、息を整えてから不思議そうな顔になり返す。

 

「え、宴会? 確かに妙な力はあったけど、別段危ないっていう訳じゃないから、無視していたわ。でも、魔理沙が動いているのならば、なにかあるのね? 異変かしらん? いいわ、少し調べてあげる」

「サンキュー、パチュリー」

 

 指がパチンとはじかれる。図書館の明かりが、魔理沙とパチュリーのいる場所を除いて消え、すぐに点点とランプの明かりに似た色合いの火が本棚の前を照らす。

 どこからか現れた小悪魔が、あわただしく照らし出された棚からさまざまな書物引っ張り出し、次次にパチュリーの前へおいていく。受け取ったパチュリーは分厚く、(かび)てこそいないものの、黄ばんでいたり痛んでいたりしている古めかしい書物を、魔法陣で宙に固定していく。

 パチュリーから魔法陣へと空間を流れる微弱な魔力に、魔理沙もなにが起きるのか気になり、パチュリーを見つめている。すると、魔法を使うから魔理沙だからこそ分かったが、彼女の周りを幾つもの魔法式が同時に編み込まれていく。

 

「え? パチュリーなにしているのかしらん?」

「あら、だから調べるんじゃない。魔理沙が怪しんでいる宴会について。まずは情報よ。こういったときに使える探知系の魔法があるの。でも普段使わないから、どこにあるのか探しているわけ」

 

 パチュリーを球体状に囲む、魔法陣で固定された幾十もの本。それらがパチュリーから魔力が魔法陣へ一気に流れ込むと、一斉にババババッと音を立てて捲れていく。しかもひとつひとつ捲れていく速度が尋常ではない。速読というレベルではない。常人では文字を追うことすら不可能だ。多くの本を読んだと自負する魔理沙でもっても、一冊程度しか読めないだろう、この方法では。

 

「す、すげぇ」

「魔女ならばこれくらいできないとね。魔理沙もそう遠くないうちにできるようになるわ」

「あ、そうなの? でも、これはさすがに」

 

 そう言われても、さすがの魔理沙でもこれは無理なんではないかと思えてくる。まず360°も視界を持っていないし、たとえ持っていても入ってくる情報量に頭が追いつかない。魔法使いになれたとしても急激に頭が良くなるわけではないだろう。パチュリーの真似をすれば、頭が狂うか壊れてしまう。

 しかもこれだけの作業をしているというのに、パチュリーは魔理沙との会話を楽しむだけの余裕を持っている。さすが年がら年中薄暗い図書館に籠り、本を読んでいるだけはある、と魔理沙はめくられていく本に、この魔法を覚えれば大分本を読む速度が短くなるなとも思いながら眺めていた。とはいえ、やろうとしたらパンクするだろうな、と推測を立ててもいたが。

 

「ふふふ。どうせ、頭が追いつかないとか思っているんでしょう。そうね、私も最初はそう思ったわ。でもお母様が言った通り、段段と慣れていけるものよ。魔理沙も魔法使いになって五十年も過ぎれば、これくらいできるわ」

「そんなものかね? でもパチュリーにお袋なんていたんだな」

「そりゃいるわよ。レミとは違うもの」

 

 笑うパチュリーであるが、しかし魔理沙にレミという名前の知り合いはおらず、呆けてしまう。

 だがすぐに、宴会で知り合ったヴァンパイア、レミリア・スカーレットを思い出し、口の形が自分でもわかるほど禍々しくゆがむをを止められなかった。

 

「ほうほう、レミね」

「っ!! ち、違うのよ! ただ、そのあの子がそう呼んでっていうから!」

 

 顔を真っ赤にして、手を振り回し魔理沙の方へ駆けようとするパチュリーだが、自分で固定した本に阻まれてしまっている。慌てているためか、魔法を解除するのを忘れているようで、本を退かそうとポカポカ殴っている。それで体力を使い果たしたのか、すぐに息切れをして、整ったらまたポカポカと繰り返す。

 

「ああ、なるほど。これが萌えというものか!」

「違うわよ! バカ!」

 

 とうとう魔法を解除して、パチュリーは一冊の本を投げつけてきた。

 ご丁寧に身体強化魔法をかけてからの一投で、弾幕並みの速度に避ける事ができず、魔理沙は鳩尾に本をめり込ませながら吹っ飛んでいく。

 

「やり……すぎ……た?」

「反省しなさい、このおバカ!」

 

 腹部を襲う激痛に気を失う前、魔理沙が最後に見たのは、真っ赤になって頭から蒸気を出すパチュリーの姿だった。

 

 

 

 再び魔理沙が目を覚ました時は、すでにパチュリーの姿は見えなかった。すぐそばには、古いがピカピカに磨かれている真鍮製のランプが置かれている。

 

「あれパチュリーはいないのか?」

「もう魔理沙さんから頼まれた探し物は終えたそうですよ」

 

 寝かせられていたソファーから、身を乗り出すように背後を振り向くと、そこにランプの炎に照らされた小悪魔が笑顔を張り付けて立っていた。小悪魔という名前から、どうしてもその笑みが胡散臭く見えてしまう。

 

「別にかまいませんけどね。嫌われるのは慣れています」

「心を読むなよ」

「いいえ、読む必要なんてありませんよ。魔理沙さんには」

「そうかい。私ってそんなに分かりやすいのか?」

「さあ、どうでしょう」

 

 そう言って、くすくすと含む小悪魔に、魔理沙はやっぱり悪魔だと確信した。

 

「まあ、そういうのは後にして。頼まれたことをさっさとお伝えして、終わらせてしまいましょう」

「うん? なにか頼まれていたのか?」

「ええ。何個か。まず一つ目、人をからかわないようにとのことです」

「へいへい。分かりましたよっと」

「次はですね、探知系の魔法で分かったことですが、あの宴会で出されていた物から検出された妖気についてです」

 

 妖気。妖怪が行動した時などに残る、一種の証拠に近いものだ。魔法使いや西洋の妖怪は、妖気よりも、魔力が残りやすく、霊に関する者は、霊気を残す。妖気が残っているというだけで、ある程度検討を付けるだけの材料になるだろう。少なくとも、紅魔館の住民は、関係していないし、白玉楼の者たちも容疑者ではなくなったといえる。

 紅魔館に住む者は西洋からやってきた者たちであり、白玉楼は魂の存在。どちらかの勢力が関係しているならば、妖力ではなく魔力か霊力が残されるはずだ。

 となると知らない妖怪か、と魔理沙はため息を心中でこぼす。知っている相手ならば簡単に片が付いたが、こうなると幻想郷中を探し回らなければならない。知らない相手を捜すために。

 

「分かった、パチュリーに礼を伝えておいてくれ」

「おっと、まだ最後を伝えていません」

「最後?」

「ええ。いいですか。この妖怪、おそらくはただの妖怪ではありません。妖気とはいうなれば、妖怪が残す気配。気配が物に残るなど、並大抵の力でなければあり得ません。気配なんてその場に本人がいなければ簡単に霧散するものですし、そもそも物に残されることなどそうそうないからです。ですが今回はその両方があります。おそらく異変を引き起こしたのは、()妖怪でしょう」

「大妖怪だ!?」

 

 大妖怪。妖怪というのは、同じ種族でも個個でまったく別種に思えるだけの差を持つ。紅魔館の主であるレミリアのように、傷をすぐに癒したり、蝙蝠に変身できる吸血鬼も居れば、弱点をある程度克服できるがその力は人間よりも少し強い程度の、ダンピールと呼ばれるヴァンパイアもいるほどだ。

 大妖怪というのは、その種族の中でも歴史に名を(のこ)すほど強い力を持つ妖怪を指す。例えば、天狗ならば火消しの神として崇め、祀られた経歴すら持つ愛宕太郎坊のように、歴史書に描かれるほどの存在だ。そして大妖怪が持つ力は、他と比べて隔絶したものである。でなければ大妖怪とは言われない。

 

「おいおい、まじかよ! 霊夢でも調伏できるか分からねぇぞ、それ」

 

 思わず天を仰いでしまう魔理沙。今までの異変と、格が違う。正真正銘死んでもおかしくはない。しかもそれだけの力を持つならば、弾幕ごっこを拒否するかもしれない。弾幕ごっこはあくまでも人間の提案に妖怪が乗っかっているだけにすぎない。理性なきもの、純粋な力にしか興味がないものなどは、弾幕ごっこを無視したり拒否したりする。

 えてして妖怪は誇り高い。大妖怪ともなれば、その力に並並ならぬ思いがあるはずだ。その力を無視して行われる弾幕ごっこなど、受け入れられない可能性の方が高い。

 

「弾幕ごっこ。多分、してくれないでしょうね。人間の言うことを気にも留めないでしょう。大概、大妖怪っていうのは、自己中心的ですからね。強すぎて」

「やっぱりそうか。っていうより、すごい毒吐くな。しらねぇぞ、大妖怪に聞かれて襲われても」

「あはは。大丈夫ですよ魔理沙さん。一応これでも、私、小悪魔と言われてますが、元元大妖怪ともいわれるだけの力は持っていますから」

「…………そうですか」

 

 ウィンクをしてくる小悪魔に対し、魔理沙は目を引きつけながらそう答えることしかできなかった。

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