晴天の空を埋め尽くさんとばかりに流れ落ちてくる星々。青空に輝く光は、けして太陽に負けるものではない。巨大な力を発しながら衝撃波を撒き散らしながら、迫ってくる。
霊夢も、魔理沙も、とにかくそれを避けるのに必死になるしかない。星ひとつが人程度簡単に呑み込めるほど大きく、それでいて弾幕と同じくらいの速さで迫るため、少しでも動きを止めると押しつぶされてしまう。迫る明星の熱が、背中を焼くようにじわりと迫る中、遮二無二飛び続ける。
星が投げられ、流星となり、隕石となって落ち、地面で砕け、それが再び星の材料として集められ、新たな新星が生まれる。
時間が経てば流れ星は終わる。そんな希望は破壊と再生というサイクルがある限り成り立たない。材料はそこらにいくらでもあるし、鬼は軽々と星を振り回して疲れを知らない様子を見せている。
「畜生! やりたい放題じゃないか!」
魔理沙の喚き声が落星の音にまぎれ、か細く聞こえてくる。助けに行きたくとも、その余裕はない。降り注ぐ星は、どちらか片方に偏ることなく、博麗神社中を蹂躙し爆撃している。めちゃくちゃな、法則なんてない駄々っ子の喚き方と同じだからこそ、先をよめない。先がよめないからこそ、今の対処で手いっぱいになってしまう。魔理沙の手助けをすることなど、できるはずもない。
迫り来る投擲を、霊夢はぎりぎりで避ける。裾に掠め、布が乱暴に避ける音とともに、袖が少しなくなる。何度も投じられる煌びやかな星。それを避け続けているが、疲労から段々と動きが鈍り始めてしまう。ただ逃げるだけでは、いつか疲れから動けなくなるだろう。どこかで攻勢に出なければならない。いつ反撃に移るか。霊夢はじっとこらえながらその機会をうかがい続ける。
「そうらっ!」
岩を集めるのに一拍。それを投げて一拍。そしてそれが襲いかかるまでに一拍。計三拍。鬼の攻撃には、三拍の時間がかかる。とはいえそれが分かっても、そう簡単に攻撃に移れないのが歯がゆくて仕方がない。
狙いを付けない滅茶苦茶な、数撃ちゃ当たる理論が鬼の力で行われればそれだけで恐ろしいまでの
せめて、せめて鬼の狙いが分かれば。鬼が次になにをするかさえ分かれば、攻撃に移れるだけの時間はある。だがその狙いが分からない。手当たり次第暴れているせいで、どこに狙いをつけるかも分からない。
迫る光を迂回し、博麗神社の境内を飛び回る。カラスに襲われたハトのように逃げ惑うしかない。それでもなお霊夢は諦めない。諦めるだけのことはまだしていないし、諦めていないものもいる。
土煙の中から時折小さな星が飛びだして、鬼目掛けて飛ぶ。ただ天からの流星にたたきつぶされ、押しつぶされてしまい、届かない。それでも星が飛び交うのを止める様子はない。
「つぶれな!」
「誰がつぶれるか!」
よくもまあ、あれだけの声を出せるものだ。感心すら覚えてしまうほど声を張り上げている。ただその声によって魔理沙の居場所は分かった。おかげで霊夢の考えた策を実行できる。
方向転換をし、声のした方へ全力で翔ける。影が霊夢を覆う。上を見ることなく、札を投げつけて岩を砕く。降り注ぐ小さくなったが鋭くごつごつとした石は、結界がはじく。近くにひときわ大きな石が落ちた。地面を砕きながら僅かに進み、霊夢の進路をふさぐように止まる。最大速度で飛んでしまっている霊夢に、その岩は天岩戸のように立ち尽くし、避けられない。札を使おうにも、流星を砕くのに使ってしまい、袖から取り出そうとすればタイムアップになってしまう。いまさら曲がることはできず、霊夢は覚悟を決めて結界を全力で張る。
自身の体を弾丸として、岩を穿ち風穴を開ける。分の悪い賭けであるが、それしかない。
「吹っ切れたら吹っ切れたで、なにへんなことをしているんですか。貴方らしくない」
岩がごとりとずれる。丁度中央から、滑らかな、鏡石と見紛う断面が覗く。それをなせる人物であり、思い当たるものは一人しかいない。
「妖夢!」
チンッと澄んだ音を鳴らし、刀を納刀した妖夢が、切り裂いたであろう岩の片側に立っている。すれ違うその瞬間、霊夢にだけ聞こえるよう囁いた。
「言ったでしょう? 助ける、と」
「……ばぁか。遅いのよ」
妖夢を置いて岩を抜けた先に魔理沙はいた。
どうやら動き回って避けるよりも、迫る岩を砕くかそらす方針へ切り替えたらしく、足を止めて魔法を撃ち続けている。辺りには砕けた岩や、星が散らばっている。
「どう、した! 霊夢!」
切羽詰まった声に霊夢は答えず、ただその横へ着地する。
鬼が岩を投げた。霊夢たちの方へ。
そしてそれが霊夢の考えた策だった。二方向にいる霊夢と魔理沙を倒すために、鬼は手当たり次第に集めた力を投げつける。ならば、投げられる場所をひとつにしてやれば、鬼の狙いは絞れる。狙いを絞ることに成功した。あとは勝つだけだ。
魔理沙がはじくのに任せ、霊力を高めるのに集中していく。高まる魔力に呼応して、あたりに散らばる小石が浮かび上がる。それでもまだ足りない。もっと霊力を研ぎ澄ませ、高まらせ、強ませなければならない。
「霊夢! おい、霊夢!」
三回、鬼が星を投げた。
一回目よりも二回目。二回目よりも三回目。数が増えれば増えるほど、魔理沙の魔力弾が放たれる数は増え、勢いを相殺するのにも時間がかかるようになる。だが、三回目。三回目にして霊夢は顔をガバッと勢いよく上げ、鬼を睨む。
「魔理沙、ありがとう。これで倒せるわ、あの鬼を」
「えっ」
「言うわね。なにか策でも考え出したのかしらん? いいわ、来なさい。その策ごと打ち破ってくれる!」
再度掌を振り上げ、星の残滓を集めていく。ただ、今度は光だけでなく、えぐれた地面やら、木やら、石やらも巻き込んでいる。今までのよりも一回りも、二回りも大きな巨星が出来上がりつつある。
一拍目。
「魔理沙ァ!」
「な、なんだぜ!?」
いきなり背筋をぴんと伸ばし、語尾の可笑しくなった魔理沙であるが、それでも構わず箒へと霊夢はまたがる。
「な、なにしているんだよ、霊夢!?」
「いいから、さっさと飛びなさい!
あたふたとしていた魔理沙であるが、霊夢の顔を見た後すぐに真剣な顔となり、ただ一度だけ頷いた。
「魔符『スターダストレヴァリエ』」
ミニ八卦炉から今までよりも強い魔力が吐き出される。体感したこともない加速に、吹き飛ばされそうになるものの、箒の柄を掴んで必死に耐えきる。
すでに鬼は星を作り終え、腕を振りかぶっている。
二拍目。
だが三拍目はない。魔理沙の魔法によって、鬼の眼前へ躍り出た霊夢は、最後の霊術を発動させる。
「神技 八方鬼縛陣」
一枚の札を取り出し、発動させる。そこに込められた力が、溢れ出す。赤い光が柱のように天へ昇り、鬼と星を飲み込む。凄まじい量の霊力が、鬼の体を捕らえ、その力をもって攻撃する。
しかし高めに高めた霊力ですら、そう長い時間この霊術を発動し続けられない。鬼を縛るほどの力を発揮し続けるのは、いくら霊夢でも不可能だ。しばらく経ってから、霊力の放出が止まった。
「ぐ、がぁ! まける、か。負けるものか!」
霊夢の持つ術でもかなりの威力を誇る術だというのに、鬼は体中から妖力を吹き零しながらも、意識を保っている。だが、それすらも霊夢は覚悟していた。だからすぐに言葉をつづけた。
鬼の顔面を蹴って離れる。
「魔理沙! 今よ!」
「応!」
ミニ八卦炉が鬼へと向けられる。そこから漏れ出ている魔力は、虹色に光り輝いている。マスタースパークよりも炉へくべられる魔力量が多い。
「魔砲 ファイナルスパーク」
マスタースパークよりもさらに大きくなった光が、鬼を貫いた。
ようやく萃香との戦いが終わりました。
追記六十話に到達しました。