東方武神録   作:koth3

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参戦

 魔理沙の放ったファイナルスパークが萃香を飲み込み、その極光を天へ柱のように立たせる。太陽すらも霞めるかの如く輝く、七色に染まる光は幻想郷のどこからでも見えた。

 まるで龍だ。煌びやかな鱗を光らせた。

 だがその美しい輝きも、残念ながらいつまでも続きはしない。ゆっくりとであるが、蛇口を閉めるように光が細まり、やがて消えていく。

 博麗神社の上空へ打ち上げられた虹は、幻想郷中を覆うように広がり雪のように降り注いでくる。

 

「一皮むけたということか」

 

 キラキラと輝きながら落ちてくる魔理沙の魔力残滓を、腕を掲げて命は見据える。虹色の光は宝石を砕いて撒いたかのように美しい。思わず足を止めて最後まで見届けたくなりそうなほどに。しかし命は博麗神社へ通じる石階段を上がり続けた。

 握り込まれた小さな拳の跡が残る、壊れた鳥居を跨いで博麗神社の境内へ足を踏み入れる。

 見れば、社は半壊となり、地面はあちこちでクレーターが出来上がり、岩が散乱している。もはや無事な場所を見つけることができそうにないほどだ。

 さらには、いたる所に魔力と霊力と妖力が乱れ混じり、とてもではないが神域と思えないほど場が乱れてしまっている。

 どれだけ激しい戦いがこの場所であったか、命でなくとも分かるだろう。

 それだけボロボロになった博麗神社の中央に、萃香が大の字に倒れている。服はいたる所が破け、覗いている肌には火傷やらがあり、気を失っているらしく瞳が閉じられぐったりとしている。しかしいびきをかいており、腹をボリボリとだらしなく掻いていた。

 その馬鹿げたタフネスとのんきさを醸し出す様子に呆れながら先へ進む。

 

「お、命か?」

 

 魔理沙が箒を操って下りてくる。砂埃で体中が汚れているが、頬に赤みがさし満面の笑みは一切薄れていない。いまにも駆け出してきそうなほど興奮していた。

 その隣にゆっくりと霊夢が下りてきた。

 こちらも顔は汚れているが、どこか満足げな顔をしており、転がっている萃香を一度だけ見ると、命へ視線を向けた。その瞳は澄んでいる。

 

「どうやら、異変を解決したようだな」

 

 首謀者である萃香がだらしなくのびている。すなわち、萃香は弾幕ごっこでないが、博麗霊夢が提唱したルールのひとつ、殺さないというルールの中で負けたことになる。これは萃香にとって完全な敗北だ。人間が提案した戦いに負けることが、鬼にとっての敗北だ。萃香もまた鬼。潔く己の敗北を認めるだろう。

 

「ああ、私たちの勝ちだ」

「そうか。ならば――」

 

 

 

「魔理沙ァ!!」

 

 魔理沙の服を掴み、霊夢は後先のことを考えず全力で引っ張る。咄嗟のあまりバランスを崩し地面に倒れ込むが、構わない。それを避けるためには。

 

「みこ、と……?」

「よく外したな」

 

 魔理沙が顔を青ざめ、呆然としながら命の名前を呟いている。

 命の貫手が、魔理沙のいた場所、丁度左胸のあった場所を貫いている。魔理沙にあたらなかった衝撃が竜巻状に地面を襲い、蛇腹のような跡が刻まれ、どれほどの力でその技を放ったかがよく分かった。間違いなくとも、当たれば人が死ぬ威力だ。

 

「よく言うわ。私たちが避けられる程度に力を抑えていたくせに」

 

 軽蔑すら込めて、吐き捨てる。

 力こそ鬼に匹敵するが、霊夢ですら気づける程度の動きを命はした。予備動作を極限までなくし、誰にも気づかれることなく技を繰り出せることもできる命がだ。

 

「ああ、そうだ。確かに私は手加減をした。私は見極めなければならない。お前たち二人の真の実力を。萃香を倒したその力が、本物かどうかを」

 

 命が構える。大きく足を前後へと広げ、巌のような、誰かを打倒するために鍛えられた拳が霊夢たちへと向けられる。まるで巨大な山そのものを拳の大きさにまで圧縮したような圧迫感があり、それだけで威圧されてしまう。

 人間一人の力でどうにかなるのか、そう疑ってしまうほどに。

 つばを飲み込む。鬼に技というものはなかった。しかし霊夢の前に立ちはだかる相手は、その技を極めた相手だ。鬼の力に、人間の持つ技。その二つが混じり合えばどれだけ恐ろしい結果を示すのか。霊夢は想像がつかなかった。

 命の体から放たれる闘気は、いよいよ高まり逃げることはできそうにない。瞳を見開き、命が叫ぶ。

 

「さあ、お前たちの力、見せてみよ!」

 

 

 

 いまだ呆然としている魔理沙を蹴り飛ばし、霊夢はその反動を利用しその場所から跳んで離れる。二人の真ん中、最前までいた場所を命が通り抜けている。

 

「つっ!!」

 

 命の背中を目が追う刹那、頬に一筋の傷が生まれ、そこから熱い血がどろりと流れた。

 鬼が爆発させるような力を示したならば、命は鉄砲のような技を繰り出す。莫大な力を凝縮しきった一撃は、あんまりに鋭い。鬼と違って、余計な破壊を残さず対象だけを破壊しようと襲いくる。

 素早く無駄な動作もなく振り返った命は、指を握り込まず半開きに構えている。一歩近づいてきてすぐさま繰り出される熊手は、艦に任せて右へ避けた霊夢の後ろにある石灯篭を粉々に砕く。後ろに引きそうになってしまう足をなだめ、大麻(おおぬさ)を横合いから顔面目掛けて繰り出す。

 だが突き出している腕をそのまま手刀として繰り出され、距離を詰めきることができなかった。斬撃を避けるために、間合いを遠ざけようと飛び退る。

 しかし避けたと思ったその一撃で、服がぱっくりと切り裂かれ、臍が出てしまう。恥ずかしがる暇もなく、その腹目掛けて命の蹴りが飛ぶ。全力でバックジャンプをしたが、それでもなお、わずかにつま先を掠めさせてしまう。

 それだけで霊夢の体は台風にさらされた小枝のように軽々と吹き飛ばされる。博麗神社へと叩きつけられ、霊夢は息を漏らす。

 

「うぐっ!?」

 

 砲弾が直撃したかと間違うような衝撃が襲いかかり、体中を駆け巡り、一気に痛みが爆発する。腹がえぐられたかと思い、霊夢はとっさに腹部を抑える。風穴があいているということもなく、存在していた。

 一撃、いやそもそも掠めただけで視界が霞むという常軌を逸した威力。武神と謳われてきた命の力が本物だということをありありと示してくる。霊夢の力では、真正面から勝つどころか、戦うことができないと覚ってしまうほどに。

 膝が崩れ落ちそうになる。諦めが緩やかに全身を漂う。鬼と戦い、すぐさま武神と戦うなど誰にもできまい。ここで倒れてだれが責めるか。そんな相手なんていない。

 視界が暗くなる。倒れ込む体から力が抜けていく。

 だが腕を掴まれて、倒れ込むことはできなかった。

 

「休むなよ、霊夢。今倒れたら、ずっと言い訳するようになるぜ?」

「……魔理沙?」

 

 腕を掴んで、魔理沙が険しい顔をして立っている。それは命にでなく霊夢に向けられた顔だ。

 

「なんで命があんなことをしているかは知らない。でもな、命が相手っていうだけで折れるようじゃ、いつもどこかで諦めちまうぜ? 命だって、万能じゃないんだから勝ち目はあるさ」

 

 そう言うと、力強い目で命を睨み、魔理沙は指を突きつけた。

 

「私たちを試すだって? いいぜ、その代わり、私たちの力に驚くなよ?」

「驚きはせん。お前たちは確かに強くなっているからな」

 

 魔理沙の魔力が膨れ上がる。

 それを見て、霊夢は震え経つ。

 なにが、誰も責めないだ。自分自身が責めるではないか。魔理沙一人に戦わせるなど。

 

「いいわ、異変解決に、あんたもぶっ倒すわ。恨み言は言わないでよね」

 

 戦おう。勝つために。

 霊夢は強大な敵を相手に、覚悟を決めた。




命参戦。
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