東方武神録   作:koth3

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遅くなってしまい申し訳ありません。


武神と博麗の激突

 常識。それは世界を支配する理。神代においては神が世界を作ったといわれ、それが常識であった。現代において、世界は神でなく科学によって解明され始め、科学こそが常識となっている。幻想郷は、その常識から外れてしまったものが集う世界。常識に駆逐され続けてきた幻想の、最後の楽園。幻想も、人も常識という鎖から逃れることはできない。

 だが命の言葉を信じるというならば、その大前提は崩れ去る。幻想は幻想でなくなる。不確かな、目に見えず古代の人が考えた理というあやふやな事柄でなくなり、それが確かな現実へと変わるだろう。しかも科学という理すら、それを破壊する。壊してしまう。

 

「なによ、それ」

 

 すなわち、素戔命という存在は、幻想郷そのものと化す、あるいは幻想郷を崩壊させてしまう。妖怪の賢者たちが長い年月を経て、ようやく完成させた楽園を、ただそこにいるだけで崩壊させる。それは、絶対にあってはならないこと。

 

「つまりそれは」

 

 そしてその能力は、まず幻想郷へと向けられるだろう。幻想郷の常識を破壊してしまうだろう。命が望もうが望まないが関係なく。様々な勢力がその事実を知れば、命を欲すか処分しようとするだろう。そうなれば、幻想郷は戦乱になる。大妖怪たちの争いで、幻想郷という世界が崩壊してしまう。

 それだけは避けなければならない。

 そして、そのために行動するのは、

 

「私があんたを叩き潰さなければならないっていうことじゃない」

 

 博麗の巫女だ。

 博麗の巫女の役割は、幻想郷の維持。博麗大結界を保ち、かつ異変解決するのはそれが巫女の仕事だからだ。大きな変革など、幻想郷にはいらない。それは外の世界がすることであり、幻想郷は停滞しなければならない。それが幻想を守ること。太古の、古の常識を守ること。

――ああ、だとしたら納得がいく。

 霊夢は、思い出す。神話において、スサノオという神の行いを。

 世界を混沌に陥れ、天照大御神が天岩戸へ入る原因となることを行い、荒ぶる神と言われた大海原の荒れ狂う神。死の世界においてなお、その気性は和らぐことない、荒神。

 スサノオとは、世界を変える神だ。停滞した世界を力によって変える神。それは、誰にも止められないだろう。たった一つ、巫女という存在を除けば。

 

「ああ、そうだ。博麗霊夢。お前がすべきことはそこにある。博麗の巫女の本質はやはり巫女と変わらん。幻想郷という一つの世界、否、一柱の神の巫女。それこそが、博麗の巫女だ。そして巫女とは神と人の架け橋。神の怒りを鎮め、神の力を増やす。それがお前の仕事だ。侵略者たる私をくだし、幻想郷の力とするか、それとも幻想郷が私の力となるか。この世界を失いたくないというのならば、我が荒魂、鎮めてみよ!」

「鎮めるわ。必ず」

 

 霊夢は大麻(おおぬさ)を再び構えた。

 

 

 

「放せ! 放せよ! 私は霊夢の加勢をするんだ!」

「それがあの子にとって、マイナスになるのよ」

 

 魔理沙は紫に首根っこを掴まれ、スキマの中へ拉致されていた。必死に振りほどこうと暴れ回るが、普段のしぐさから信じられないほどの力でつかまれているせいで、一向に抜け出せそうにない。魔法を使おうにも、すでにすべてのマジックアイテムは没収され、一枚の札を背中に張られてからは魔力が使えなくなってしまっている。

 

「ここで信じて待っていなさい。今霊夢は間違いなく、博麗の巫女として大成しようとしている。この試練は自身の力で乗り越えなければならないの。その為に命は憎まれ役を買って出たのだから」

「……どういう意味だよ、それは」

「そうね、貴女には話しておきましょうか。霊夢は長い間、里から信頼されてこなかった。そのすべては命の言動にあるわ。でもね、それだって理由なく行っていたわけじゃない」

「それくらい、私だって分かるぜ」

 

 紫はわずかに手の力を緩めた。魔理沙は逃げ出そうかと一瞬思ったが、それを押しとどめて黙って聞くことにした。

 

「命はね、心配していたの。霊夢が巫女として存在できるか」

「……どういうことだ? だって、霊夢は今まで巫女として頑張ってきたじゃないか。実力だって、すごくある」

「そうよ。確かに霊夢の才覚は本物。命だって、それを見抜けないほど耄碌していたわけじゃない」

「じゃあ、どうして」

「ありすぎるのよ、才能が。それこそ、博麗霊夢がその生涯を費やせば、間違いなく神と成れてしまうほどに。かの伊豆能売みたく。それを命は心配した。神なんて、なるものじゃないわ。永遠を人によって縛られ、この世全ての不幸を関係がないというのに人々の恨みごと無理やり背負わされる。それが、神。そんなものになるくらいならば、人間のまま死んだ方がずっといい。そう思っていたんでしょう。とはいえ、今となってはその考えも少し変わっているみたいだけど」

 

 だから、巫女になるのを最初反対した。

 そう締めくくられた話に、魔理沙はなにかを口にすることができず、ただ考え込んだ。博麗霊夢という存在が、魔理沙の知る霊夢が変わってしまいそうになる。何度も(かぶり)を振り、いやな考えを振り払う。

 

「なあ、なんで命は霊夢を認めたんだ」

 

 その問いに、紫は目を丸くした後、満面の笑みを浮かべ諭すように優しい声を出す。

 

「あら、それは霊夢にとってこの幻想郷が――」

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