中天の陽に照らされている博麗神社は、すっかり異変前の荘厳な姿を取り戻していた。
萃香と境内で異変解決のため戦った際、至る個所がボロボロになった神社であるが、異変の首謀者である萃香によってその傷跡は修復されていた。そしてその修復作業は萃香だけでなく、人里からやってきた大工やら庭師の手にもよる。
以前ならばありえなかったその光景に、作業途中の様子を見ていた霊夢は目を丸くしていた。時折うれしげにお茶を配ったりなど、しばらくはご機嫌だった。
そしてその元通りとなった博麗神社の縁側でなく境内に霊夢はおり、湯飲みの代わりに猪口を持ち酒を飲んでいる。宴会が行われていた。様々な人妖が霊夢のもとを訪れ、口々にお祝いを言い好き勝手に酒を飲み始めていく。
この宴会は先日までの異変による三日おきの宴会でなく、異変解決と博麗神社の再建祝いとして、霊夢の名で行われた宴会だ。麗の巫女が主催するという珍しい宴会に、多くの人妖はこぞって参加している。
人妖が騒ぐその様を霊夢は一人眺めている。用意した酒はみるみる減っているが、それでもまだまだ用意した分はなくならない。それに参加者が持ってきた土産も、全員にふるまわれている。そうそうなくなることはないだろう。赤ら顔になり、愉快で笑う皆の様子を眺めていた霊夢は、うっすらと笑った。
「貴方はいかなくてもいいの?」
「ああ、私が行くわけにもいくまい。本来萃香の起こした異変を利用し、あれだけのことをしたのだ。そんな輩がいても、宴会に水を差すものだろう」
博麗神社を見下ろせる星空に命と紫はいた。眼下では宴会の楽しげな乱痴気騒ぎが見える。
神霊としての力を得た命は、少なくとも弾幕を飛ばしたり空を飛ぶ程度のことはできるようになっていた。とはいえ、紫や霊夢たちと比べると全くうまいとは言えないが。それこそ霊夢が最初に飛んだ時の方がはるかにうまい。
命は紫の方を向く。珍しいことにその頭には包帯が縛られている。さらにその両頬には赤い紅葉がついていた。
「こんな顔で出るわけにもな」
「ぷっく、くく」
「笑いたいなら笑え。別に私は怒らん」
それは異変解決後、治療をしているときに霊夢と魔理沙によって張り倒された証だ。本来ならば避けられたであろうが、大人しく命はその張り手を受けた。
さすがの回復力を誇る命でも、一日二日ではその赤みは消えなかったようだ。痛々しいそれは、しかし紫からすればただの笑い話のネタでしかないらしい。
我慢する必要がなくなったからか、指を差して大笑いをしている。しかしその笑い方の容赦のなさに、しだいに命の額に青筋が浮かび始めていく。
「……先ほどの言葉は撤回しよう」
「え?」
あっという間に紫手首を片手で抑え込んだかと思う、肘を下からついて浮かび上がらせそのまま腕丸ごと頭の横を通らせて関節を極めてしまう。
「イダ、イダダダ!!?」
「お前の態度が気に入らん。笑えばいいといったが、笑い過ぎだ」
とはいえ、気が済んだ命は、すぐに極めた肘を解放する。解放された腕を擦り、涙目で紫は文句を言う。
「ああ、痛かった。なによ、笑えって言ったのは貴方でしょうに。まあいいわ。それで、どうするつもりなの」
「どうするとは?」
「あら、とぼける気? 魔理沙にはごまかしたけれど、貴方が霊夢と戦ったのは別にあなた自身が試練と化そうとしたわけじゃないでしょう。霊夢の強さを見極めるのが目的。もし試練となるためだったら、自分で異変を起こすでしょうし。だとしたら、なぜ霊夢の強さをいまさら図る必要があるのか知らん」
「お前の頭ならばとっくのとうに気が付いているだろう」
「……そうね。できれば否定してもらいたかったけれども」
「私は幻想郷を近々出るつもりだ。まあ、まだ数年ばかりはここにいるだろうが。しかしいつかは必ず幻想郷を離れる。私は必ずあそこへ向かわねばならん。それが私の運命だ」
僅かに紫は小首を傾げ、尋ねる。
「あそこ?」
すっと命は指を天へ向けた。黄色い丸い月を。