東方武神録   作:koth3

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少々早いですが、この異変と地霊殿事態かなり早く終わりそうな予感なので、次々と上げていくことにしました。


妖怪の山の異変

 人、妖怪、神が住まう幻想郷には、特別な土地というものが存在する。自然溢るる所では妖精のたまり場となり、広々としたあけた土地では人が住処を作り、闇の集まるような場所には妖怪が潜む。

 広大な幻想郷で最も危険とされる場所に、妖怪の山がある。かつては鬼が支配し、現在は天狗たちが支配する、幻想郷において人間が入れない場所のひとつ。迂闊に足を踏み入れようものならば、すぐに天狗が警告を伝え、従わない場合実力行使が行われ排除される。人間という存在を徹底的に排除し、妖怪のみが立ち入れるようになった山だ。

 実際天狗をはじめ、河童・妖獣・厄神・秋の神などが妖怪の山に住む。それらの妖怪たちには絶対的な上下関係が構築され、どんな些細なことも何一つ変わることなく長い年を経てきた。天狗は社会的コミュニティを作り上げ、河童は道具を作り、妖獣は地を駆け回り、厄神は厄を集め、秋の神は秋をもたらす。それが妖怪の山。変化するのではなく常に同一であり続ける妖怪のためだけにある外界と隔離された住処。

 だが、秋が深まり始めたころ、その隔離された世界に異変が襲い掛かった。

 山の頂上に、一夜で神社が建てられた。近くに滔々と水を携えた湖までも。

 湖は広々としており、向こう岸が霞んで見えるほど広大だ。妖怪の山でなければ、広大な湖を山の中に収めきれなかっただろう。その湖に映る神社も、格別なものだった。

 色調高く作られた社は、宮大工の技術が凝らされている。また注連縄はかなり大きく、祭神の力がうかがえる。大きな柱があり、そこにも注連縄がかけられ、神々しさを醸し出す。

 穏やかな光景だ。参拝者こそいなくとも、神域といえる厳かさを兼ね備えている。

 だがそれは妖怪の山からしてみれば、許せるものではない。天狗たちが治めている妖怪の山に突如現れ、無断で社を建てる。いくら相手が力ある神だとしても、それは侵略でしかない。

 朝早くから数百もの天狗たちが空を飛び交い、神社の様子を窺い、様々な妖怪へコンタクトを取る。侵入者である神を追い出すために。戦になるのは時間の問題だ。血の気の多いものは、すでにフル装備で身を固めている始末。

 

「拙いわね、これは」

 

 だからこそ飛び交う天狗たちの中で、烏天狗の射命丸文は焦りを孕んだ声を漏らす。

 文は日頃からたくさんの新聞を作っている。幻想郷銃に転がる情報を集め分析し、事実を見極める力は高い。それこそ他の天狗たちと比べて一段と高い情報収集力、判断能力を持つだろう。だからこそ、気が付いた。その神社にいる神がどういう存在であるか。そして、それが事実だとすると、かなり拙い事態になるだろうという予測までも。

 それは天狗と神社という上辺の関係性だけでなく、神々の、もっとも高貴で強大な力を持つ世界の問題へと発展してしまうだろう。

 それだけは避けなければならない。射命丸文は今の生活を気に入っている。程よく仕事に手を抜き、趣味でもある新聞作りに精を尽くせる現状。しかしこの異変を放置してしまえば、その生活はなくなるだろう。幻想郷自体、大きな変革が訪れるかもしれない。神々の争いというのは、凄まじい規模となってしまう。それは望まずとも変化をもたらすだろう。

 それは許されることではない。変革というのは人間にとって必要なことかもしれない。しかしそれは人間だけだ。科学によって世界を知ったつもりになれる人類だけだ。妖怪である文や、神々を筆頭とする幻想に必要なのは、変化でなく停滞だ。あるいは衰退とも言えよう。人が力を持たなければ持たないだけ、幻想は力を持つ。だからこそ新しい勢力が加わるということは、幻想郷のパワーバランスを崩してしまう可能性を孕む。しかも今回の神は、かなり人間よりだ。紅霧異変みたく、異変の主が幻想よりでない。外の世界の技術をこちらへ持ち運んでいることまで文は調べ尽くしていた。

 

「天魔様、いえ天魔様じゃ無理ね」

 

 天狗の長である天魔は、あくまでも天狗を率いる存在だ。それ以外のことをそうそう簡単にすることはできない。今回の異変の首謀者たる神と戦うことはできても、政治的な決着を付けられない。他の神を倒せる実力を持とうが、天狗の面子をつぶすわけにはいかないからだ。そして、今回の異変では力づくの解決よりも、政治的な解決が求められる。今回重要なのは、新参者が天狗の誇りを汚したことではない。外の技術を幻想郷に広めようとしている節があるということだ。その考えを消し去らない限り、危険は続く。たとえ天魔が神を追い出したとしても、その神が別の場所で人間に技術を教え始めたらそう遠くないうちに幻想郷の力が大きな変動を迎えてしまう。

 

「仕方ない、か」

 

 文は翼をはためかせる。一瞬でトップスピードに乗り風を切り裂き、人里目掛けて飛んでいく。この異変を()()()解決できるであろう神のもとへ。

 侵略者たる軍神を抑えられるのは、屈強な武神だけだ。

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