「もう大変だったんですから、霊夢さん」
「はいはい、もうそれは何度も聴いたわよ、早苗」
太陽が中天に差し掛かるころ、博麗神社には二人の巫女がいた。一人は博麗霊夢。幻想郷に昔からいた巫女。そしてもう一人は、外の世界から神奈子とともにやってきた
先日行われた命と神奈子の戦いで神社がボロボロになり、生活するのが困難になってしまったため、早苗は一時的に博麗神社を間借りしている。まあ一緒に暮らしていれば、情も生まれるものだ。すっかり早苗は霊夢に懐いている。歳が近いというのもあるだろう。なんだかんだで霊夢もそれを受け入れていた。
「いいえ、まだ私の苦労は続いているんですから。先日なんて、天魔とかいう天狗の神様と神奈子様と命様が会談した時なんて……」
袖で目元を隠し肩を震わす早苗だが、霊夢は冷淡に返す。
「そんなわけないでしょう。あの三人が高々会談で馬鹿げたことをするわけないじゃない」
「あれ? 霊夢さん知っていたんですか?」
「そんなこと、幻想郷じゃ常識よ」
けろりと涙一筋流れていない顔を悪びれた様子もなく早苗は見せた。悪い意味で幻想郷に適応しきっている。「幻想郷では常識にとらわれてはいけないのですね」とは数日前になにを思い立ったのか彼女が突然叫んだ言葉だ。
「でも本当に大変だったんですからね」
ぐりぐりとつむじを霊夢へ押し付ける早苗。鬱陶しそうにしながらも突き放そうとはしない霊夢。
「はいはい。分かったからさっさと分社を作るわよ」
現在霊夢と早苗は博麗神社に分社を作っている。一つは神奈子たちの神社の分、そしてもう一つは命の分だ。お互いの神社にそれぞれの神社の分社を、末社として作ることを約束したからだ。というより霊夢が早苗に押し切られただけである。
「神奈子様は神奈子様でなにやら新しいことをしようとしているみたいですし」
「ずいぶんあんたのところの神様は信者獲得に熱心なのね」
注連縄をくくりながら、霊夢と早苗はなんだかんだ楽しく一日を過ごす。
それは霊夢と早苗が分社を作る数日前の話だった。妖怪の山の壊れた神社、守矢神社に神奈子と諏訪子と命に、天狗の長である天魔がいた。妖怪の山代表と守矢神社代表の話し合いだ。命はそれを仲裁、および見届けるためにいる。
「それで、此度の件だが」
厳かに命が話をきりだす。お互いの言い分をまず言わせようとした。相手がなにを望むか分からなければ話し合いにすらならないからだ。そのうえで両者が納得できる解決案を探り出す。それが命の仕事だ。
命の言葉に場の空気が張り詰める。
「お爺ちゃ~ん」
しかし、天魔がやらかした。
子供と見間違うほどの背丈しかない天魔は、机を飛び越え、命へ抱き着いてきた。まさしく見た目相応な行動だ。
「やめんか、
天狗たちの長であり神である天魔は、命の実の孫だ。
すなわち今回の異変は、一族同士でのお家騒動のようなものだった。ゆえに霊夢に異変の解決をさせるわけにいかず、命が解決しに翻弄した。というより解決せざるを得なかった。一族の恥を晒すわけにいかなかったからだ。
「え~、やだぁ」
ふりふりと首を横振ると、抱き着く力をひしと強める天魔。四柱の中では一番幼い容貌でいるが、これでいて力はとても強く、他の神々を投げ捨て魔人を従えさせる程の力を有する。というより仏教が大嫌いで仏道を邪魔する魔神の長をしていたこともある。命の一族でもかなりの力を持つ。それが軍神である神奈子と激突すればどれだけの被害が出るか。少なくとも妖怪の山は消滅するだろうし、人里にまで被害が及んでもおかしくはなかった。それだけは避けれたのが命にとって幸いだった。
「はぁ、すまん。神奈子」
「いや、まあ良いけど。伯母さんがこんなのは私自身が良く知っているし」
「こんなのってひっど~い」
「ねぇ、私がここいる理由はあるの、神奈子?」
すっかりと甘えきっている天魔だが、こうなると中々離れないことを知っている命一族は、とりあえずこの状態で話を進めることにした。
「まず、咲姫。神奈子がここに神社を建てることを許可してくれんか?」
「え~、う~ん。お爺ちゃんがそう言うならいいかな~」
「そして神奈子。お前たちはこの神社以外の妖怪の山を支配下にしようとするな」
不服そうであるものの、神奈子は大人しくそれに従う。
「まあ、仕方がないか」
話し合いは比較的早く済んだ。そう誰もが思っていた。天魔の一言があるまでは。
「お爺ちゃんが頼むからだからね。じゃなきゃ、神奈子の神社なんて吹き飛ばしちゃうんだから~」
「「あ゛?」」
命が思わず額を抑える。天魔の言葉に神奈子と諏訪子が形容しがたい形相を晒している。
「え~、だって神奈子弱いし。そんな神奈子に負けたっていうんなら、そのちっこいのだって弱いでしょ」
「「表出ろ、このぶりっ子が」」
「あ゛? 上等だ、この蛇神共が」
そして三神は外へ出て喧嘩を始めた。一人残された命は、震えていた。額には青筋がくっきりと浮かび上がり、手元にあった湯飲みは握りつぶされている。しかも机にはひびすら入っていた。
「やめんか、この馬鹿共が!」
三神の戦いに武神が加わった。
この日、守矢神社は完全に崩壊した。
ちなみに霊夢と早苗の後ろでは魔理沙が柱に隠れて覗き見ていたとかなんとか。
守矢神社の悲劇、再び。