東方武神録   作:koth3

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月の地にて再開する師弟

 狭くて飯は拙いとロケットでの旅はそう快適といえるものではなかったものの、その求められる機能に何ら問題はなく、無事命たちを乗せて月へとたどり着いた。

 命をはじめ、霊夢に魔理沙とレミリア、最後に雑用係の妖精がロケットから月の地へと降り立つ。

 月の風景は地上とそう変わりがなかった。木々が大地から生え揃いそよそよと揺れ、蒼をどこまで深めながら広大な海が広がる。空には風に流れる雲が様々な形へ変わりゆく。ただし、異常ともいえるほど澄んだ空気をしており、生物が存在するのならば必ずあるはずの穢れもない。

 そのことに神である命と巫女である霊夢は気が付いたようだが、それ以外はただ風景を眺めてはしゃいでいた。特に幻想郷出身である魔理沙は海を見たことがないためか、海を見てレミリアを揺さぶるほどのはしゃぎようだ。そのレミリアは外界で海を何度か見かけたことがあるのか、それとも種族的な特徴のせいか、あまり面白そうではなかったが。

 二人の様子から問題はなさそうだと考え、目的を果たそうとする命であるが、月夜見がどこにいるかなど見当もつくはずがない。月の都など、一度も訪れたことがないから当たり前の話だが。一から探すとなると、さしもの命でも面倒だ。おそらくは警備兵が来るだろうと考え、その警備兵に案内させることとした命は地面に座り込み、待つことにした。

 一刻もしなかっただろう。命が気配を察知するや否や、命を除いた霊夢たちの周囲を地面から生えた剣が覆った。鋭利な刃は少しでも動けば例え妖怪であろうと簡単に切り裂くだろう。銀光がいやになるほど輝いている。

 

「まさか、こんなところで会うとは」

 

 森の薄暗闇から一人の女が現れる。腰に太刀に近い長さの刀を差している。美しい顔立ちをしているが、命だけを見て睨みつけるその顔は、もはや狂気しか見てとれない。

 

「ああ、久方ぶりだな。依姫」

 

 かつて命の腹心の部下であり、直接的に教えを施した弟子。その依姫が刀を構え命へ切っ先を向けている。感じられる覇気は昔と比べられる物でなく、実直なまでに鍛え上げられていたことが感じ取れる。

 かつてのよう軽くあしらうことは、命ですらできないだろう。命の足元まで依姫の実力は這い上がってきている。それだけの意志と実力があれば大判狂いなどいくらでも起きる。

 話は無駄だ。かつての敵意は消えきっていない。それどころか時間が経った分、強くなってすらいる。命は口元を釣り上げ、嘲笑う。

 命もまた構えるや否や、凄まじい闘気を放つ。二人の気にあたりの空気が震え、悲鳴を上げる。ぶつかり合う猛烈な覇気はあたりへと暴風となり激しく飛び散る。

 周りにいる霊夢たちも唾を飲み込み二人の様子をうかがう。片方は憎悪に彩られた顔を晒し、もう片方はただ静かに、そしてどこか申し訳なさそうにしている。

 だがお互いの気持ちなど無視して戦いは始まる。例え片方がどれだけ望んでいなくとも。

 依姫の刀が瞬きの合間に命を切り捨てようと迫る。しかしそれは手甲により防がれ、紅い火花が散るに終わった。

 

「なっ! 命が避けられなかったっ!?」

 

 魔理沙が叫び思わずといった風に動いたが、その瞬間周りにある地面から生えた剣がその動きに反応する。喉元に突きつけられた切っ先に、魔理沙は尻餅をつく。

 

「魔理沙っ!」

「だ、大丈夫だ、霊夢」

 

 自身が無事であることを霊夢に告げながら、魔理沙は動けない自身の現状に臍をかむ。もし相手の奇襲に対応できれば、命の手助けをできるかもしれなかったというのに。

 だがそんな驕りはすぐに消え去った。

 速すぎた。魔理沙の目には、影しか映っていない。今まで命が戦うところをしっかりと見てこれた魔理沙ですら、見えないほどの速さ。

 それほどの速さで戦っている両者といえば、千日手となりかけている。命の方が圧倒的に実力はあるものの、依姫は命を倒すために鍛えてきたのだろう、業のことごとくが対処され尽くしている。実力差はあろうとも、こうなってしまえばそうそう倒せるものではない。一方の依姫も命の研究をしていたとはいえ、その攻撃を確実に当てられるわけではない。命の卓越した防御を前に、それを打ち崩しきれないでいた。

 豊かな自然あふれる場所であったというのに、みるみるうちに自然は破壊されていく。切り裂かれた木々が倒れ、蹴り上げられた大気が暴風となり砂や水をあたりへ撒き散らす。霊夢たちは身を低くして、その衝撃から身を守る。

 そうこうしている内に、月のウサギたちが武装して現れた。侵入者である霊夢たちに銃を向ける者、はたまた戦っている命へどうにか威嚇しようとする者達がいる。しかしいくつかの銃が命たちへ向けられるや否や、依姫が顔を歪めてウサギたちへ怒鳴る。

 

「邪魔をするなっ!」

 

 その声の大きさと鋭さにウサギたちは金縛りにでもあったかのように体を震わし、銃を次々と落していく。しかしそれは膠着した状態を変えるきっかけになった。

 命の拳が音を置きざりにして放たれる。あまりの早さのそれに、依姫は刀を防御に回すだけしかできず、半ばから砕かれてしまう。

 咄嗟に後ろに飛んでダメージを免れようとしたが、それでも命の拳は深々と腹部に突き刺さる。後ろに飛んだ依姫は吐血し腹部を抑え、ひざから崩れる。

 だが戦意は消えていない。

 砕け散った刀は、すぐに真新しい刃が生まれる。依姫は神の力を降ろすという力を持つ。おそらくは鍛冶の神の力を自身に降ろし、新しい刀を作り出したということだろう。

 その刀を地面に突き刺し、何度も血を吐き出す。それでもなお、依姫は命を睨むことを止めない。

 よろよろと立ち上がった依姫は、駆け出し唐竹に刀で切り結ぶ。

 涙をこぼしながら、がむしゃらに。

 

「あああああっ」

 

 その一撃を命は避けずに生身で受け止めた。切り裂かれた身体から血を噴出し命も膝が崩れかかるが、それでも堪え切った。

 傷口を抑え、ただ静かに依姫を見つめている。

 

「な、んで?」

 

 カラリと依姫から刀が取りこぼされる。

 

「どうして、いまさら」

「すまなかった。お前を見捨てて」

「ううっ、う、わぁあああああ!」

 

 依姫の鳴き声は、荒れ果てた月の地に静かにしみ込んでいった。

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