東方武神録   作:koth3

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月の姉妹

 依姫が泣き崩れるという形であるものの戦いが終わりしばし経つと、慄いていただけの月のウサギたちは自身の使命を思い出したのか、下げていた銃器を命たちへ向ける。

 だがその顔色は皆一様に悪い。銃口は震えるばかり。流れ落ちた冷や汗が、地面へしみこむ。誰もが哀れに思えるほど震えており、逃げ出そうとしない方がおかしいと思うほど恐怖が顔に出ていた。

 

「止めなさい、貴方達」

 

 凛とした声があたりに響く。その声にウサギたちは震えを止め、ため息を漏らす。森があった方へ皆顔を向けている。

 声の持ち主が姿を見せる。依姫と似た顔立ちの少女だ。そんな少女が進むにつれウサギたちは素早く道を開け、銃を上空へ向け敬礼をする。

 

「お久しぶりですね、命様」

 

 少女、豊姫がにこやかな挨拶を命へ告げる。

 命の眼前に立つのは、かつて依姫とともに命が教えを施した人物である。純粋な才能ならば妹の依姫を上回る才女だ。とはいえ本人にそこまでのやる気がなかったが。

 一瞬命は構えを取ろうとしたが、すぐに腕を降ろす。敵意は一切なかった。

 

「ああ、久方ぶりだな。豊姫」

「それでこの地に訪れたのはいか用でしょうか。命様がこの地を訪れるなどよほどのことと存じますが」

「そうだな、そのよほどのことをやり直しに来た。月夜見に、会いにな」

 

 それは豊姫にも想定外だったのか、仮面のような笑顔から素の表情が垣間見えた。しかしそれはすぐに引っ込むと、また無機質な笑みに戻る。

 

「月夜見様にですか。それはなぜ?」

「話をするためだ。かつての、あの時話さなかった様々なことを。お互い理解できないと思い、話さなかったことを。分かりあうために」

 

 しばし豊姫は何も語らず黙り込んだ。ただ静かに考え込んでいるようだった。

 しかし一度依姫を見ると、目を瞑り頷いた。

 

「分かりました、と言いたいところですが、案内するのは不可能です」

「なに?」

「なぜなら、月夜見様は幻想郷へ参られたからです」

「なんだとっ!? なぜだ! なぜ月夜見が幻想郷へ?」

 

 詰め寄る命に、豊姫は静かに言う。

 

「月夜見様は命様を求め、幻想郷へ参られたのです。あのお方は変わってしまいました。命様だけに執着されるようになり、そしてその足取りを長い間独自に探していられました。その結果、ようやく命様の居場所を探り当て、向かわれたのです。命様を月へ連れるために」

 

 その言葉に命の唇がぷつりと切れた。顎を血が伝い落ちる。

 命は豊姫へ詰め寄った。

 

「月夜見が幻想郷へ向かったのは何時だ!」

「つい先ほどです」

「すでに幻想郷にいるのか?」

「はい」

「ならば、ならばここから幻想郷へむかう道があるはずだ。そこへ案内しろ。月夜見を止める。あいつのことだ、私がいないと誰が言っても信じないだろう。急がねば、あいつ自身が魔に落ちてしまう」

 

 豊姫はその言葉に笑みを和らげた。

 

「その必要はありません。なぜなら道はここにあるからです」

 

 懐から取り出した扇子で宙に丸を描くと、空間にスキマと良く似たものができる。そこからは妖怪の山が見える。

 

「月の豊かの海と幻想郷の山とをつなげました。ここをくぐれば幻想郷です」

「そうか、助かった」

 

 その穴へ片足を突っ込みながらも、命は一度だけ豊姫の方へ向き直る。

 

「すまなかった豊姫、依姫」

 

 泣きじゃくる依姫は肩を震わし、豊姫はその肩にやさしく手を当てた。

 

「……さびしかったんですからね、私たち」

 

 その言葉を聞き遂げて命は穴へ消えた。

 

 

 

「で、私たちはいつまでここにいればいいのかしら?」

 

 祇園様の刃で閉じ込められている霊夢が、豊姫へ横目で見やりながら尋ねると、朗らかな笑みを浮かべながらも先程よりかは些か冷たい声で告げた。

 

「あら、侵入者をとどめる檻は必要でしょう?」

「剣の檻ねぇ、シャレにならないわよ」

「安心しなさい、冗談よ」

 

 くすくすと豊姫は笑うと、依姫を抱きかかえた。

 

「ほら、依姫、もう泣くのはおよしなさい」

「な、泣いてませんっ」

 

 ぐしぐしと目を擦り立ち上がる依姫であるが、その眼は真っ赤であった。その真っ赤な眼で霊夢たちを睨むが、その頭をうしろからこつりと豊姫に小突かれる。

 

「ほら、そう睨まないの。命様が連れていらっしゃったお客様よ。さあ、早く祇園様を引き抜きなさい」

「で、ですが姉さん」

「貴方の悪いところは過去に固執するところよ。事態なんていつも変化するもの。だから命様を恨んだんでしょう?」

「うっ。……分かりました。姉さんの言うとおりにいたします」

「はい、よろしい」

 

 霊夢たちが唖然としていると、刃は引っ込み自由となった。

 

「さあ、こちらへどうぞ。数千年の因縁が終わりを告げようとしているのです。祝杯をあげると致しましょう」

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