衝撃音が響き、そこを中心に莫大な砂が巻き上がり球状に広がり、人里を覆う。中心部は砂埃がひどく舞うせいで、まったく見えない。それでも風や重力でようやく砂煙が薄くなったその場所には、勇儀と月夜見、そして勇儀の三歩必殺を地面へそらした命がいた。
「命ッ!」
「悪いな、勇儀。私も月夜見に用があるのでな」
それ以上勇儀に語ることなく、命は月夜見へと向きなおる。後ろでは勇儀が苛立つように量の拳を叩き合わせたが、一度だけ肩越しにその眼を見やれば、不満げな顔で後ろへ下がった。
再び振り返れば、月夜見がうれしげに命を見つめている。
「ああ、命。ようやく会えたな。あの別れから幾年月を経ただろうか。その長き年月、私の心は冬のように冷め切ってしまっていたよ。ようやく春が訪れたような気分だ。さあ、早く行こう。月の都は完全になった。ありとあらゆる穢れを排した。これで妖怪が発生することもない。命が傷つくことなく暮らせる。もう闘うことはない」
「私もここから離れる時が来たと思っている」
勇儀が僅かに肩を反応させたが、話には割ってこなかった。それをありがたく思いながら、命は月夜見の顔を見据えて静かに伝える。
「だが、今のお前についていこうとは思わない」
「なぜ!? どうして!?」
「分からないことこそが罪だ。勇儀は鬼であるが、理由なく神仏を襲う輩とは違う。なにをした、月夜見」
しばし月夜見は苦しむように頭を抱えていたが、ふと顔をあげる。その顔には狂気がべったりと貼り付いており、それを真正面から見てしまった命はうすら寒いものを感じ、肌が泡立った。咄嗟に飛び退る。
「そうか、ならば力づくにでも連れ帰ろう」
地面に着地するよりも早く、月夜見は命の眼前まで追いすがり、貫手を放つ。
血飛沫が舞う。
「ぐっ!」
貫手は命の首の横を通り過ぎた。だが命の首からはけして少なくない量の血が噴き出している。掌で押さえつけ、血が流れ出ないようにしながら命は二撃目の貫手を蹴りで迎撃する。
「月夜見……ッ!」
「さあ、命、行こう」
返り血を浴びてなお美しい顔を向け、月夜見は同じことばかりを繰り返して言う。その瞳をみて命は決心した。月夜見と闘うことを。そのすべてを見通していた瞳は濁り切り、なにも見ていなかった。
首にかけていた手に力を込める。あまりの圧力に血が凝固し、出血が止まる。闘気を引き出すや否や、命は正拳を繰り出す。基本に忠実なその突きは、まったく同じ拳筋の正拳により弾き返される。
命と同じように、月夜見も正拳を繰り出していた。しかし同じ突きであるものの、命だけがたたらを踏み、後ろへ体勢を崩されてしまう。
それだけの隙を月夜見が見逃すはずもない。一瞬で懐へはいられ、命は月夜見に投げ飛ばされてしまう。受け身を取る事すら許さないその激しい投げに、肺の空気をすべて絞り出されたが、それでも地面に転がされた瞬間に蹴りかかることで拘束を外す。
立ち上がった命は、一瞬で月夜見に近づき、手刀を十字に繰り出す。普通の妖怪ならば、十字のどちらかに切り裂かれてしまっただろう。しかし相手は命が鍛え上げた月夜見。その程度のことは読み切っていたらしく、回し蹴りが繰り出される。尋常ならざる脚力で身体を無理やりとどめ、命はその蹴りをやり過ごし、月夜見の胴体へ頭突きを決める。
クリーンヒットであるが、月夜見はみじんも動かない。
「命、お前の力で私を傷つけることはできないぞ? 無駄なことはやめて、早く月へ行こう」
勝利を確信したらしく、月夜見は力強い声で一方的に告げた。