汝、誰がために愛する   作:bra_c_ket

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「僕」は彼女と出会う。


リーユの少女

「公女様、本日はお目通り叶いましたことまことに感謝申し上げます。」

幼いころ、私が父に連れられて訪れた邸宅で出会った少女は夏の花のような鮮やかな笑顔だった。お互いまだ十になるかならないかの年頃だったが、ありふれた言葉で言えば一目ぼれだった。なにを話したのかまるで覚えていないが、悪い印象を残したくない一心で無難に、とにかく()()()()()()()()と意識したことは覚えている。彼女と釣り合う男になるのは大変だぞ、父は笑った。当時その意味はよくわからないままだった。私の家が帝国貴族であり、彼女の家が王国貴族だからだろうか、ただそうぼんやり考えるだけに留まった。

 

次に彼女と会ったのは父を含む近隣の貴族を集めた晩餐会(ちょっとしたパーティ)。彼女はその中心であり彼女の誕生日を祝うという名目だったので、年の近い私も招かれることとなった。会場中央、彼女を中心に近い年の貴族子弟が作る輪、わたしはその輪の一部に過ぎなかった。そのころには自分の家が男爵家に過ぎず、大公家と家格の釣り合うものではないことも理解していた。

彼女が彼女の父親である大公殿下と訪れたという中央大陸一と称えられる王都(シュトロワ)の話、そこで出会った王太子の話。無邪気に、楽しげに、朗らかに語る彼女の言葉。その言葉の中に小さな棘のようなざらつきを感じたのも、このときだった。

 

「まだ気持ちが変わっていないなら気持ちを変えるといい。変わっていないなら忘れるといい。忘れられないなら、忘れられないなら秘め続けろ。」

 

領地に帰る馬車の中で受けた父からの言葉は、すでに自分に言い聞かせたものと同じだった。

もしも自分が大公家と釣り合う家の出であればあるいは、そんなことを思わずにはいられなかった。しかし、仮にそうだとして王国と帝国の大貴族同士の勝手な結びつきなど()()()()()()がなければ許されるわけがない。そういうこともだんだんとわかるようになっていた。

 

ぼんやりと外の景色を眺める。国境の簡素な砦は私が生まれる前にあった帝国と王国の戦争の際に築かれたものだという。今では輸出入品の検品を担う関所として利用されているが、それもどこまで厳密にできていることやら、ほとんど形式的なものになっている。関税の支払いなどは街についてから行っているのだろう。砦の規模に比して兵の姿はまばらだ。

私と父が乗った馬車の帝国男爵家を示す旗印を確認すると兵は査証を見ることもなく、軽く敬礼し馬車を通した。

 

どうにか彼女と話がしたい、せめて一言だけでも言葉を交わしたい、せめて僕がここにいるのだと、いたのだと覚えていてほしい。そんな自分勝手な一方的な思いを忘れた。忘れたふりをした。

彼女には彼女の物語があり、私には私の物語がある。それがわずかに触れ合い、そして離れたのだ。私は私の物語をまっとうしなければならない。

 

そして、5年の歳月が過ぎたころ、私の物語は私に再び彼女と出会う機会をもたらした。




オリ主ですが本編にも本編登場人物の心象にも一切影響がありません。
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