「公女様、本日はお目通り叶いましたことまことに感謝申し上げます。」
幼いころ、私が父に連れられて訪れた邸宅で出会った少女は夏の花のような鮮やかな笑顔だった。お互いまだ十になるかならないかの年頃だったが、ありふれた言葉で言えば一目ぼれだった。なにを話したのかまるで覚えていないが、悪い印象を残したくない一心で無難に、とにかく
次に彼女と会ったのは父を含む近隣の貴族を集めた
彼女が彼女の父親である大公殿下と訪れたという中央大陸一と称えられる
「まだ気持ちが変わっていないなら気持ちを変えるといい。変わっていないなら忘れるといい。忘れられないなら、忘れられないなら秘め続けろ。」
領地に帰る馬車の中で受けた父からの言葉は、すでに自分に言い聞かせたものと同じだった。
もしも自分が大公家と釣り合う家の出であればあるいは、そんなことを思わずにはいられなかった。しかし、仮にそうだとして王国と帝国の大貴族同士の勝手な結びつきなど
ぼんやりと外の景色を眺める。国境の簡素な砦は私が生まれる前にあった帝国と王国の戦争の際に築かれたものだという。今では輸出入品の検品を担う関所として利用されているが、それもどこまで厳密にできていることやら、ほとんど形式的なものになっている。関税の支払いなどは街についてから行っているのだろう。砦の規模に比して兵の姿はまばらだ。
私と父が乗った馬車の帝国男爵家を示す旗印を確認すると兵は査証を見ることもなく、軽く敬礼し馬車を通した。
どうにか彼女と話がしたい、せめて一言だけでも言葉を交わしたい、せめて僕がここにいるのだと、いたのだと覚えていてほしい。そんな自分勝手な一方的な思いを忘れた。忘れたふりをした。
彼女には彼女の物語があり、私には私の物語がある。それがわずかに触れ合い、そして離れたのだ。私は私の物語をまっとうしなければならない。
そして、5年の歳月が過ぎたころ、私の物語は私に再び彼女と出会う機会をもたらした。
オリ主ですが本編にも本編登場人物の心象にも一切影響がありません。