お茶会が終わった頃にはすっかり日も落ちていた。暖炉に焚べられていた薪が割れて音を立てる。窓辺に近づくと冷気がじわりと肌を刺した。
振り返えってみると今日は長い一日だった。
父の名代として傍聴した税制会議、旧友との思わぬ再開、そして拘束からの聴取。
私の商館暮らしがいつまで続くかはわからないが、安全のためにも王の行幸中には終わらないだろう。監視の目がなくなるのは王も公女様も王都に帰った後だ。
最初に彼の誘いをきちんと断っておけば、とも思ったが、過ぎたことに仮定を重ねても仕方ない。考えるならこれからのことだ。
どうにか商館を抜け出して公女様に会いに行けないものだろうか。安全のために用意された護衛を外すことはできないが、申し入れれば多少の外出も許可されるはずだ。護衛を振り切り、大公殿下の屋敷に忍び込み、公女様に会う。
荒唐無稽な計画だ、誘拐犯に負けず劣らずの。
となると、できるのは彼女に手紙を出すくらいだ。内容を雑用係たちに読まれてしまうのは気恥ずかしいが仕方ない。
昼と同じように文机に向かう。今は燭台のろうそくの灯火が便箋を黄色く照らす。
彼女に会ったときに伝えたかった言葉が頭の中に浮かんでは沈んでいく。その一つを掬おうとして、言葉は手の中で崩れ去り、指の間をすり抜けて零れていく。それでもわずかに残った文字を並べ、単語を書きとめ、定型句の枠に押し込める。文章を形にしていく。
心にもない無味乾燥な言葉が紡がれていった。
「意味がないな」
誰に言うとでもなくつぶやくと私は紙くずを暖炉へ投げ入れた。彼女への思いはそこには書かれていないのだから。
結論から言うと私のそんな悩みもすべて意味がなかった。
翌日、私は雑用係から一通の招待状を受け取った。数日後に大公殿下が主催する夜会に参加するように、と。男爵名代としてではなく私個人として。
そして招待状には手紙が添えてあった。公女様から私に宛てた手紙が。
先日は面会のためにお待ちいただきありがとうございました。お会いできるのを楽しみにしておりましたが、当日は思わぬ事態があったためにお会いできず残念に思っておりました。
改めてお会いする機会を設けさせていただきたく、招待状を手配しましたので、都合がよろしければ是非いらしてください。
ゾフィ・エン・ガイユール