汝、誰がために愛する   作:bra_c_ket

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「僕」は伝えられる。


最後の夜会 (1)

王の行幸の最後(しめくくり)として開かれた夜会(パーティー)は初日の晩餐会と比べれば小規模だった。しかしその顔触れは大物ばかりだ。主催である大公殿下(ガイユール公)、主賓である国王陛下(グロワス13世)大公領(ガイユール)王国(サンテネリ)の重鎮ら。そして大公夫人と令嬢たち。その中には手紙の差出人(ゾフィ様)の姿もあった。

しかし一人だけ場違いな人間がいる。帝国貴族(外国)の、それも低地諸国の男爵、の名代。私自身だ。

 

私が部屋に案内されたのは夜会が始まって一通り挨拶も終わった頃合いだろうか。到着すると侍従の一人が近づいてきた。

「王がお待ちです。どうぞこちらにいらしてください」

すぐに御目通りとなった。

 

深く頭を下げて礼の姿勢をとる。

「やあ、よく来てくれたね。楽にしてほしい」

顔を起こしてもう一度軽く礼をする。淡い金の髪と翠の双眸、年は自分と五つ程度しか違わないはずなのに佇まいからは(大人)たちと同じかそれ以上の風格を感じた。これが王の魔力なのだろうか。

「ありがとう。騒動を()()()()()()をしてくれたそうじゃないか」

「いえ、自分は何も」

言いかけてはみたものの次の言葉は出てこなかった。王が目配せをしたのか侍従が横から細長いグラスを差し出す。王が受け取ると同じものがもう一つ私の前に差し出された。御下賜(ごかし)だ。

手に取ったグラスの底から細かい泡が生まれ、立ち上り、水面で(かす)かな音を立てて消えていく。

(ウジェン殿)が不審な者を()()()してくれたおかげで大ごとにならずに済んだと聞いているよ。とても勇敢な行いだ」

そういうことにしろと言うことだ。王は間違えない、嘘をつかない。王の言葉が真実なのだから。

 

つまりこういうことだ。

誘拐未遂事件(今回のやらかし)は記録に残ることもなければ、表立った裁きが下されることもない。しかし噂話の足が止まることもない。誘拐犯(やらかした連中)の中に帝国貴族(ラーベ)がいたという噂は帝国との同盟に悪い印象を与える。

逆に帝国貴族()の働きで未然に防止できたという噂はこれを打ち消し、好ましい印象を与える。

そのための場違いな夜会への招待。この場にただ一人、帝国貴族の若者がいたという事実がこの噂に説得力を与える。

すべては国と国の関係を保つための打算、そのための一手だ。

 

となれば、夜会(この場)で私に求められる振舞いもわかる。私の()()は関係ない。

「過分なお褒めの言葉、身に余る光栄です。」

王が頬が少し緩ませ、グラスを傾ける。私もそれに合わせてグラスを傾ける。

口内で弾けた泡がそのまま喉を過ぎて消えて行く。これまでの悩みと一緒(とも)に。

 

あの手紙を読んだ時に、少しだけ期待してしまっていた。

僕にとって彼女が特別だったように、彼女にとっても僕は特別だったのではないか、と。

そんなことはなかった。あるはずがなかった。




やっていないことで褒められるのも居心地が悪いものです。
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