汝、誰がために愛する   作:bra_c_ket

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「僕」はまだまだ悩む。


最後の夜会 (2)

「陛下、私からもご挨拶させていただけますかな」

私が()()()()()と判断してのことだろう。一人の貴族が声をかけてきた。

王に次ぐ重鎮、今回の行幸の立役者、ザヴィエ・エネ・エン・ガイユール公爵。

「ザヴィエ殿、これはすまない。先に引き合わせるべきだったな、気を急いてしまったようだ」

「いえいえ。領内(ガイユール)のことは国内(サンテネリ)のこと。お気になさらないでください」

王と大公の短い挨拶、この会話の中にも多くの意味が、私に聞かせる意図がある。

そのままの意味か。もしくはその逆か。

「ウジェン・エン・リジューです。本日はこのような機会を頂き、幸甚の至りでございます」

再び(こうべ)を垂れる。大公殿下の目に私はどのように映っているだろうか。

 

「今回は身内(ガイユール貴族)の騒動に巻き込んでしまって申し訳なかった。そして礼も言わねばならない」

「とんでもございません。私はたまたま居合わせただけです。ですがそれが少しでもお役に立ちましたなら幸いです」

私は巻き込まれたのではない。私は巻き込まれることを選んだ。私の()()で。そして礼を言われることは為さなかった。為そうとする意志もなかった。それでも今はただ、用意された建前(サンテネリのシナリオ)に隔意はないことを重ねて示す。そうするしかない。

大公殿下は「ふむ」と短い相槌を挟み、ややゆっくりとした口調で続けた。

「君と一緒にいたフォングラー家の若者だがね、彼のお父上(フォングラー伯)とも話をつけたよ。()()()()のことは心配しなくていい」

余計なことはするなという釘刺し。"たち"ということは(ラーベ)仲間(共犯者)たちも、それぞれの家と話がついているということだろう。

「ご高配を賜り、感謝の限りです。」

どうにか礼の言葉を吐きだす。ここまでは間違えていないはずだ。しかしそこまでだ。続かない。

酔いが回って来たせいだろうか。何を言うべきか、言わないべきか。考えがまとまらず、散らばっていく。好みではないと遠ざけずに、慣れておくべきだったかもしれない。

 

「私もザヴィエ殿も低地諸国(そちら)とは()()()()()()良い関係でいたいと願っている。(そちら)はどうかな?」

整理できず幾重にも積み重なった思考の山の上に、さらに王の言葉が覆いかぶさる。しかし考えている時間もない。返さなければいけない。何か返事を。

 

王が空になったグラスをそばにいた侍従に預ける。いつの間にか二杯目を飲み干していた。いや、三杯目だろうか。私の手にはまだ、一杯目のそれが残っている。




会話のキャッチボールは難しい。
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