汝、誰がために愛する   作:bra_c_ket

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「僕」は彼女から僕を知る。


トゥーリマスの少年

「えっ」と思わず漏れ出た声に私自身驚いてしまった。彼女は()のことを覚えていた?

 

いや、事前に調べさせただけだろう。公女様(彼女)がいつ誰と会ったか、記録は残されているはずだ。そこに私の名前があっただけ、そんなところだろう。

私の悲観的な予想。しかしそれも()には関係のないことだ。

 

「ゾフィ様は、覚えていてくださったのですね。二回しか会っていないのに」

「二回目に会ったときはあまりお話ししてくださいませんでしたね。楽しみにしていたんですよ、ウジェン様のお話」

「ゾフィ様にそう仰っていただけるなんて嬉しい限りです」

私が考えるよりも早く、僕は思いのままに喋る。

「最初にあった時のこと、覚えていらっしゃいませんか?」

「すみません。初めてお会いしたときは緊張していて、よく覚えていないのです」

私が覚えていることはわずかだ。そして

「僕が覚えているのはただひとつだけです」

ただ無難に、何事もないように。

 

「ひとつだけ、それはなんですか?」

彼女の問を受けてふと足元を見る。そこに変わったものは何もないのに。

これから言おうとしていることの気恥ずかしさからだろう。僕は少し顔をそらしていた。

顔をあげると彼女の顔がある。

「笑わないでくださいね」

無意味な前置きだ。彼女は何もいわない。()の返事を待っている。

「変な話をしてゾフィ様に悪く思われたくない、そう考えていました」

言葉の最後に軽く息が漏れる。笑い声にならない程度に。

「ふふ」

その先は彼女が続けてくれた。失笑なのか、愛想笑いなのか、片手を口に当てている。

「ごめんなさい、笑ってしまって。そうだったんですね。それでは」

一息だけ間を空けて言葉を続けた。あのときの笑顔で。

「それでは、教えて差し上げますね!」

ああ、僕が惹かれた彼女だ。

 

「教えてください。あのときの(ウジェン)はなにを言っていたのか?」

私は覚えていない。しかし忘れたわけでもない。

「トゥーリマスからいらしたと紹介されたので私は尋ねたのです。そこはどのような街なのか、と」

彼女の言葉が私に思い出させてくれる。僕がなんと返したかを。

「僕はなんと?」

それでも()は問う。彼女(ゾフィ様)の声を聴きたいから。

「ウジェン様は少し(うつむ)いて、"わからない"。そうおっしゃったのです」

少ししょげた調子の声色。あの日の(ウジェン)の姿が思い浮かぶ。

「そしてこう続けてくださいました。"次に会うときにまた()いてください"と」

だから(ウジェン)は学んだ。(トゥーリマス)のことを。

「さあ、お聞かせください!トゥーリマスはどのような街ですか?」

 

()は話した。彼女のために、僕のために。




最後までご拝読いただきありがとうございました。「僕」の次の物語にご期待ください。
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