汝、誰がために愛する   作:bra_c_ket

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「僕」は罠を回避する。


商談会の報告

衛兵の案内で商館に戻り、商館に残していた侍従の案内で商談会の開かれている棟に向かう。

私が通されたのは商談会が行われている部屋の隣、応接用の椅子と机も用意されている()()()だ。この隣の部屋に公女様《彼女》がいる。だからと言ってどうすることもできない。そもそもどうしたいというのだろうか、私は。僕は。

部屋には既に商談を終えた同郷(トゥーリマス)の商人が控えていた。その姿を見て男爵代理としての務めに意識を戻す。

「ウジェン男爵代理様」

「そんな(かしこ)まらなくていいよ、私は代理でしかないのだから」

椅子に座ってから相手にも座るように促す。

「商談はどんな様子だった?」

「はい、ウジェン様。公女様は青がお好きとのことで藍染をいくつか用意しましたところ、伯爵令嬢様にも興味を持っていただけました。こちらの青の重ね染めの生地です」

重ね染め、安価な大青草(おおあおくさ)と値の張る南藍草(みなみあいくさ)を合わせて使うことで値段を抑えながらも濃い青を出す染め方だ。どちらも青色だが色合いの違いが染めむらとなって目立ちやすい。うちの均一で濃い色は()()()()()()他にはない技術だろう。

「伯爵家ともなれば値を気にするようなお立場ではないだろう」

「いえ、軍服に使えないかとのことでして」

「ああ、そうか」軍と聞いて思い出した。「伯爵(バロワ)家は代々王国(サンテネリ)の近衛を預かっている名家。確かに青は王国(サンテネリ)近衛の色だったな」

王の行幸に伴って来た近衛の青服と国軍の黒服。彼らが市中の哨戒にあたっている。その片方だ。今は南藍草(みなみあいくさ)を使っているようだが、軍服となると数が数だ。少しでも値は抑えたいのだろう。

「もし軍の取引に食い込めるなら願ってもないことだな」

令嬢一人の意見が実際どこまで影響するかはわからないが、と心中で付け加える。

「それと、公女様から革の染色についてご下問いただきました。革と布では勝手が違う部分も多いのでご満足いくお返事ができたかはわかりませんが」

「革?昨日の晩餐会で公女様が何やら革の腕輪をつけていたがそれのことか」

うっかり()()()、と不敬な形容を付けそうになるがそれはせずにすんだ。

この判断は正しかったことがすぐにわかった。

そして先日の疑問もあっさりと解決した。

「なんでもサンテネリ国王(グロワス13世)の発案で揃いの懐中時計に革の(ベルト)をつけて腕に巻いているそうです」

 

その直後にもう一つの疑問も急に解決した。

いや、疑問の答えが突然部屋に転がり込んできた。

先ほど門前で衛兵ともめていた男が。




潜んでいた罠の回避に成功しました。
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