思い出作りのために公女様を連れ出す。
計画は稚拙なものに思えた。帝国と王国の同盟はまだ強固なものではない。この時期にどちらも余計な波風を立てたくないとなれば、若気の至りとして叱られるだけで済むだろうという目論見か。あるいは跡継ぎではないからできる自暴自棄だろうか。
そうだとすれば、私が安易に協力することはできない。勝手な行動で万が一にも彼女の身に危険が及べば家の責任となる。見逃して知らぬ存ぜぬで責任回避できたとして、気づかず馬車を盗まれたという事実は家名に傷を残しかねない。いや、この場合は低地諸国の仲間を見捨てることの方が問題か。
あれこれと思いつくものの、今はそれを言葉にする気になれなかった。いや、言葉にしたくなかった。どれも私のことではない。
「君たちも公女様との面会を申し入れたのか?」
「ああ、お前と同じだよ。まあ挨拶だけのつもりじゃあないがな」
商談会が終わった後の公女様との面会の希望。それは時間があればという条件付きで許可が下りた。どう見ても体よく断るための条件だが、しかしこうなると元より低い可能性はさらに絶望的だ。面会が叶ったとして、その順は爵位で決まる。誘拐犯がどの程度の集まりかはわからないが、少なくとも隣国の男爵名代よりは上だろう。私の面会よりも彼らの面会が先だ。
私が協力して彼らが失敗すれば、私も彼女の顔を見るくらいはできるかもしれないが、心証は最悪だろう。別れの挨拶をして過去のしがらみにけりをつけることなどできない。
逆に私が協力せず彼らがうまくいく場合、私は彼女とは会えない。そして協力しなかった思い出が残り続ける、この先もずっと。
最後に私が協力し彼らがうまくいく場合、私も彼らの中の一人として彼女の思い出の片隅に残れる、かもしれない。私も最後の思い出としてこの気持ちをおしまいにできる、おそらくは。
と、なれば私の答えは自ずと決まる。
「わかった。馬車の準備を整えさせよう」
これまでの人生で一番の決断だった。
そしてその決断の結果は拍子抜けするものだった。
使いに出した侍従がすぐに帰ってきた。一人の男を連れて。いや、一人の男に連れられて。
「フォングラー伯爵令息ラーベ様とリジュー男爵名代ウジェン・エン・リジュー様ですね」
サンテネリ外務副官を名乗ったその男の後ろには黒い軍服、王国軍の衛兵が数人立っている。
「近くでちょっとした騒動がありました。申し訳ありませんがお二人には安全のためにしばらく商館に留まっていただきます」
どうやら計画は既に漏れていたようだ。