本来○ぬ予定ではなかった人間を異世界に転生させるというのは、異世界転生系の小説では最早、テンプレートな設定だ。
いまや、異世界転生系の小説の導入はそれ一択といっても、過言ではない。
え?それは言い過ぎだって?
本当に申し訳ない。その通りだ。
ちょっと我が身に起きている現実から、目を反らしたくて、現実逃避がてらに、そんなことを考えてしまった。
では、改めて、我が身に起きていることを確認しよう。
『というわけで、本来死ぬはずではなかったあなた方2年1組の30名の生徒には、ドラゴンクエストⅢの世界に転生してもらいます』
「うおぉぉぉー!!」✕29
神様か天使様らしい白い衣服を纏ったとても美しい金髪の女性から、ドラクエⅢの世界に転生させると聞いて、異様な盛り上りを見せる我がクラスメイト29名。いや、俺だって、テンションは上がってるけど、周りがそれ以上に盛り上がっているからか、逆に冷静になってきてしまった。
ていうか、本当に、ベタな異世界転生系の小説みたいだな~。
『では、特典として、皆さんの職業とステータスを設定してください』
金髪の美女がそういうと、俺達の目の前にディスプレイが表示された。
ふむふむ。特典が自分の好きな職業とステータスを選べるのも、異世界転生系小説のあるあるだな。
「デュフフ!ドラクエⅢはやり込みまくったものであります!職業とステータスを自分で設定出来るなら、俺TUEEで無双してやるであります!」
「おい!藤田!その話は本当か!?詳しく聞かせろ!」
「デュフ!?そ、そんなこと急に言われても……」
「ねぇ、藤田。ドラクエⅢについて、詳しく教えて~?」
「もちろんであります!良いですか?ドラクエⅢというのは」
「ねぇ、私、どうすれば、ドラクエⅢの世界を楽勝で過ごせるかを聞きたいんだけど~?」
「まかせるであります!」
そうして、クラスの陽キャ女子に乗せられたオタクな藤田は、ドラクエⅢの世界について、流暢に語り始めた。それを聞くのは、藤田を乗せた陽キャ女子が所属するクラスのカースト上位連中他、ドラクエⅢをプレイしたことがないだろうほとんどのクラスメイト達。
残りのクラスメイト達は、ドラクエⅢをプレイしたことがあるのか、藤田の話には耳を傾けずに、プロフィールを設定している。その中には、周りと相談しながら、設定する奴らもいる。
じゃあ、俺も設定するか。え?俺は誰かに相談しないのかって?ハハハ。ボッチなコミュ障に、無茶振りをしないでくれたまえ。
そうして、藤田のドラクエⅢについての解説をBGM にしばらくの間、ステータスを設定していく。
『はい。全員の設定が終わったようですので、皆さんを転生させます。それでは、善き来世を』
こうして、俺の、俺達の目の前は真っ暗になった。
☆
そうして、ドラクエⅢの世界に転生してから、16年の月日が流れた。転生時に勇者を職業に選んだ俺は、魔王バラモスに立ち向かう旅に出ることになった。
「まぁ、親父がオルテガなのは、勇者を選んだからだろうな~。ていうか、もしかして、勇者を選んだクラスメイトの数だけ、オルテガは…………」
……………………やめよう。これ以上は、想像するだけで何か嫌だ。
勇者を選んだクラスメイト達全員があれというのは、親父の名誉に関わる。
「なんて、バカなことを考えてるうちに着きました。ルイーダの酒場」
ここで、俺と同じく様々な職業に転生したクラスメイト達と再会して、パーティーを組んで、バラモス討伐の為に旅立つのだ。
「って、誰もいないし!」
「そうなのよ。なんか、皆、勇者が来る前に、勝手にパーティーを組んで、勝手に旅立っちゃったのよ」
酒場の扉を開いた瞬間、俺が目にしたのは、誰もいない無人な店内であった。
そんな俺に、店主のルイーダさんが話かけてくれた。
「勇者が来る前?他の勇者と一緒じゃなくて?」
「他の勇者?うちに来た勇者はあなたが始めてよ?」
「Why!?」
どういうことだ!?29人もクラスメイトがいて、誰も勇者を選ばなかったのか!?
『その通り』
「っ!?誰だ!?」
「ちょっ!?どうしたの!?」
突然、頭に響いた声に驚きの声を上げた俺に、ルイーダさんも驚く。
『私は、あなた達を転生させた者です。今、あなただけに話しかけています』
あ、そうなんですね。ビックリして大声出しちゃいました。あ、そうだ。
「すみません。ルイーダさん、そこに誰かがいたような気がして」
「え?それはそれで怖いんだけど」
若干引いているルイーダさんに、愛想笑いをしている俺に、俺達を転生させた人は再び話しかけてきた。
『あなたのクラスメイト達は、あなた以外誰も勇者を選びませんでした』
そうなんですね。あ、ということは、親父は俺以外の子供を作らなかったのか!これは安心材料だ!
『そこは安心なさい。オルテガが愛したのはあなたの現世の母親だけです』
良かった良かった。あれ?でも、何で、誰も勇者を選ばなかったんだ?それに、何で、勇者抜きで旅立った?
『どうやら、あなたのクラスメイトが語った勇者の末路を嫌がったようです。さらに、同じ理由から、勇者に同行することも拒否して、それぞれ、好き勝手にその世界を冒険するつもりのようです』
マジか。世界が滅びても良いってのか、あいつら。
『自分達がやらなくても、誰かがやると、クラスメイトの全員が思ったようですね』
その誰かって、誰だよ!?
俺か!俺しかいないもんな!
『30人も転生させた都合上、あなたのパーティーになる人間を別口で用意することは出来ません。申し訳ないのですが、1人でやるか、クラスメイトの方を捕ま………仲間にして、その世界を救ってください』
いや、言い直しましたけど、捕まえてって言いましたよね!?今、捕まえてって言いましたよね!?
『言ってません。では、頑張ってください』
それから、俺達を転生させた人の声は聞こえなくなった。マジか、ドラクエⅢなのに、1人で旅立つのか。1人で冒険するのはドラクエⅠだろうが!
はぁ~。嘆いても、仕方ない。とりあえず、道具屋とか武器屋を見に行くか。
「じゃあ、ルイーダさん。とりあえず、誰もいないので、このまま1人で旅立とうと思います」
「う、うん。なんか、力になれなくて、ごめんなさいね」
そうして、俺は酒場から外に出て、1人で世界を救う為に旅立った。
その時の俺は知らなかった。先に勝手に旅立ったクラスメイト達が、行く先々で強力な武器や便利なアイテムを持っていってしまうせいで、1人ということで、ただでさえ、大変な冒険がさらに大変なものになることを。