伝説のTS美少女ポケモン吟遊詩人はサトシストッパーになるようです 作:GT(EW版)
振り返るに、ミュウツーとの関係は割と良好だったのではなかろうか。
私があの場で彼と関わったことで、結果的にアニメで観た結末より悪いことにならないかという不安は絶えず抱えていたものだが……幸いにして大筋に大差は無かった。
アニメ通り、ピュアーズロックのポケモンたちは命の泉ごとミュウツーの力で転送され、サカキらロケット団本隊もまた転送と共にその日の記憶を抹消され、無事いち段落と相成った。
ミュウツーが自らの手でつけた決着に、私は安堵の息を吐きながら思わず笑ってしまったものだ。
「やっぱり、キミは優しいよミュウツー」
『優しい……?』
「うん。だってキミなら、今日のことと言わず、彼らから全ての記憶を消して廃人にすることだってできた筈だろう?」
「ヒイカさん、怖い……」
「ピカ……」
……サトシくんたちに引かれた。悲しい……
「……それでも、キミがそうしないであげたのは、キミが本質的に純粋で、優しい子だったからに他ならない」
特にミュウツーにとってサカキらロケット団相手には、そうするだけの怒りや恨みだってあった筈だ。そこをグッと堪えて一日分程度の記憶に留めておいたのだから、やっぱ逆襲向いてないよねこの子。
『…………』
ただ、やっぱり便利だよね、記憶抹消能力。
便利すぎて、困った時はついそれに頼りすぎてしまうところがあるから、ミュウツーにはそこだけは気をつけなさいよと老婆心で忠告してあげたものである。
今回のサトシたちの記憶を消すことについても、コピーポケモンたちはニャースを通じてNOを叩きつけていたね。アニメで観た名シーンと一緒だ。
ただ、ミュウツー自身も皆からそう言われた時は何か、肩の荷が下りたというか安心した雰囲気に見えた。それがアニメと比べてどうだったかまでは、流石に憶えていないので比較できないが。
『……忘れてはならないもの……そうだな……確かにそれは、私にもあった』
そう呟いて遠い昔を振り返るように沈黙した彼は、サトシたちに倣って自分も未来へ進もうと思っていたのかもしれない。
だとしたら、とても嬉しく思う。
もしかしたらあの時の彼は、彼の初めての友達である「アイツー」のことを思い出していたのかもしれないね。
辛いことや悲しいことばかりの人生だったけど、彼が生まれる前に感じた感動や喜びもまた、確かにそこにあったのだと。
うろ覚えな前世の記憶と目の前の彼の姿とを照らし合わせて何となく心情を察した私は、そんな彼にそっと肯定の言葉を掛けたものだ。
「キミ自身がどんなに自分を否定しても──キミはもうとっくに、他の誰かから愛されているんだよ」
『……アイ、か……』
だから、忘れちゃダメだよ──と、我ながらエラそうに言ってやったものである。コピーニャースの頭を「うにゃー!」と撫で繰り回しながら。
……いや、シリアスな空気を台無しにするようで悪いが、あの子の手触り凄く良いんだよ。
話している間も私の手にされるがままゴロゴロと喉を鳴らしていたコピーニャースは、オリジナルのニャースと比べてなんかこう素直というか、人生経験による警戒心が薄いからかすぐに抱っこを許してくれるほど私に懐いてくれたものだ。
「羨ましいニャ……」
「なーに言ってんのよ」
「触る
「ふふっ」
そんなコピーの自分の姿を見て心無しか寂しそうな顔をするニャース。
彼の頭を乱暴に撫でようとしては、照れ隠しで払い除けられるムサシ。
二人の姿にニヒルな笑みを浮かべるコジロウ。
……うん、やっぱり良いトリオだよねロケット団。よくよく考えれば彼らもサカキの部下なのに、ずっと見てられる。
ま、コピーとして生まれてからそんなに時間が経っていないにも拘わらず、コピーとオリジナルの間には既にこれほどの「個性」が分岐しているということだ。
それは創造主から与えられた使命が何であれ、生まれた意味が何であれ……自らがどう生きるかはまた別の話という証だろう。
私自身も、今はそう信じてこの世界を生きたいと思っている。
「生きていく──生き続けると決めたのなら、その心に従いなさい。サカキでもフジ博士でもない、キミ自身の心に」
『私自身の心……』
サカキに対して『心の無い物に私は倒せん』と啖呵を切ったキミなら、その大切さはとっくにわかっている筈だろう。
今は答えが出なくてもいい。そうやって悩み続けていくこともまた人生なのだと──持論100%の説教臭い話になってしまったが、そのような語りでこの件を締めてやったものである。
……その間、黙って私の話に聞き入っていたサトシ君たちとしみじみと頷いているロケット団の3人の反応がちょっと恥ずかしかったが、とりあえずミュウツーは笑ってくれたのでヨシである!
そういうわけで結末はアニメで観たものと特に変わりなく、コピーポケモンたちはそれぞれ外の世界に旅立って普通のポケモンと変わらない自然の一部となり、ミュウツーもまた自分探しの長い旅へ出掛けていった。
うん。実はあれから今も、私が旅をしていると時々頭の中に彼の声が聴こえてくることがあるんだよね。
その時は、決まってこう言うのだ。
『我は、ここに在り』
──ってね!
……ああ、だけど大変だったよピュアーズロックの一件は。
記憶に残る「我ハココニ在リ」はミュウツーとコピーポケモンたちの選択に焦点が当たっており、作中ではそこまで派手なバトル展開は無かったと思うのだが、私が直面した事態では思いのほか敵が多くて困惑したものだ。
大半は烏合の衆だったがボス直下の本隊ということもあってか中には厄介な相手もいて、特にあの「ロケット団最凶幹部」と呼ばれていたシャアみたいな仮面被った奴……「ビシャス」という男は、捕らえたポケモンを凶暴化し強化させる違法モンスターボールを扱う嫌な敵だった。
アレはオーレの伝説に聞いた「ダークポケモン」にも似ていたね。
ミュウツーたちに弾き語ってから間も無くして自分が対峙することになるとは、我ながら見事な伏線回収である。
ビシャスはあろうことかそのボールを使い、たたでさえ強力なコピーポケモンを捕らえると凶暴化したカメックスで襲いかかってきたのだから、さあ大変!
何だこの展開、わわわ私のデータに無いぞ!
そう内心慌てふためきながらも私は、どうにかこの男をミュウツーのところにいるサトシ君たちには合流させまいと、アニメで言えば画面外で奮闘していたものである。
サトシ君たちにその話をするのは恩着せがましくなるので黙っていたが、ポケギアの通話機能から当時の愚痴を聞いてもらったナナミからは「よしよし」と褒めてもらったものだ。
「ありがとう……私にとってはピュアーズロックの命の泉よりも、ナナミの応援の言葉の方がよっぽど癒されるよ」
そう言ったら、プツンと通話を切られてしまったが。
……ちょっとクサかったかな? 小粋なトークというものは仕事ならできるんだけど、親しき仲の方が案外難しいものだ。
私にもミュウツーみたいなテレパシーが使えたらいいんだけどね。
とまあ、色々予想外な展開もあったが、そもそもの話としてこの世界ではアニメの出来事が全く同じ形で発生するわけではないのだ。
他ならぬ自分自身の存在を一例に「そういうこともあるか」とイレギュラーを受け止めた私は、サトシ君たちやミュウツーから離れてあんまり得意な方ではない水タイプの相手を引き受けたわけである。
しかし流石は「ロケット団驚異の科学力」と言うべきか、見るからにダークなボールに捕らわれたカメックスは10m近くまで巨大化した体躯に違わず、あらゆる能力が本来のそれを遥かに上回っていた。
暴走する彼には彼の同僚であるコピーのリザードンやフシギバナたちも応戦していたが、彼らだけではまるで歯が立たないという状況だった。
──因みに身体の各所に斑点模様が浮かんでいるリザードンとフシギバナ、そしてカメックスの3匹は、それぞれミュウツーが最初期に造り出したコピーポケモンたちである。
映画「ミュウツーの逆襲」では、サトシのリザードンと鋼鉄ジーグみたいな声の人のバーナード、スイートさんのクスクスをそれぞれ圧倒していた子たちだね。
「フシギバナのバーナード」と「カメックスのクスクス」と言えば妙に印象に残っている。私もゲームでは、そのニックネームを真似して付けていたものだ。
……実は私、クスクスとはミュウツーより少し前に会ってるんだよね。
セキエイ大会を優勝した私のもとへ道場破りのように挑んできた腕自慢たちの中には、どこかで見覚えのある顔をした女性……「スイート」と名乗ったトレーナーがいたのだ。
彼女の名前を聞いた時、顔を見た時にはわからなかったが、繰り出されたカメックスのニックネームを聞いた瞬間「ミュウツーの逆襲」の思い出と共に思い出したものである。
あっこの人、映画のゲストキャラだったエリートトレーナーのお姉さんだわ!と。
因みに勝負は私が勝ちました。今期チャンピオンの面目躍如と言わせていただこうか。
彼女の扱うクスクスやジュゴンといった水ポケモンはよく鍛えられていたが、「私には電気タイプのロトムがいるわ!」と炎一本ではないところを見せつけて捲ってやったものだ。ヒートフォルムだったけどね。
……しかし、何だろう? 自分で言っておいてなんだが、私には似合わないね女言葉。
社交場で偉い人と話す時などは猫を被ってそういったお嬢様ぶった言葉遣いをすることも時々ある私だが、「わよ」とか「わね」とか「ですわ」とかといった言葉には未だに抵抗のあるTS美少女である。
たまたまその場に居合わせていたシゲル君に見られた時なんかはぎこちない反応を返されて、とても恥ずかしかったね。ブルーは爆笑していた。
失礼ですわねブルーさんは。シゲル様の落ち着きを見習ったらどうですこと。
だが、そんな彼女のクスクスをも一蹴したミュウツーのカメックスは、やはり強かった。ボールによるバフも大きいけど、それも素の力が強いからこそだろう。
私も仮名ビシャスボールに捕らわれた彼のことははじめは正気に戻すことを優先してできるだけ傷つけないように配慮していたが、気を遣えば被害はどんどん大きくなるわけで。
やむを得ず、少しだけ痛いのを我慢してもらおうと決断せざるを得ないほどには、ビシャスの手で凶暴化したミュウツーのカメックスの力は凄まじかった。
それに調子に乗ってるビシャスが凄くムカついたので、私も本気でやったわけである。本気と言っても決め手となったのはアブソルの「ほろびのうた」だったが。途中でボールに引っ込めたのでこちらはノーダメである。
ミュウツーからの強制転送が入ったのはその時だったね。
カメックスを倒した後、再び繰り出したアブソルが怒りのダイレクトアタックでビシャスの仮面を砕き、トドメを刺──そうとした瞬間飛ばされてしまったため、決着がつきそびれたのは心残りだ。
……まあ、起きたカメックスは正気に戻っていたのでヨシとする。あの男もあの一撃で既に痛い目に遭っていたしね。わざわざオーバーキルすることも無いだろう。
……自分がまともな存在でないことに悩んでいたミュウツーだけど、そうやって悩める内には、まだまだまともすぎると思っているんだよね私は。
それこそビシャスやサカキなんかもそうだが、私が旅の中で出会ってきた人々の中には彼よりもよほど怪物的というか、この世の生き物とは思えない精神性をしている人間が何人かいたものである。私自身、まとも側ではないかもとイキってみる。
その最たる例が、ピュアーズロックよりもしばらく前に立ち寄ったオレンジ諸島で出会ったお騒がせ紳士こと「ジラルダン」だ。
あの男に関してはミュウツーよりもよほど人間性が無いというか、色々とぶっ飛んでいる生き物だった。
そんな彼は前世のアニメで言えば、「ミュウツーの逆襲」の次作として公開された劇場版第二弾に登場した悪役キャラクターになる。
……今ちょっと思い出しかけてるんだけど、もしかしたらビシャスも劇場版作品どれかのヴィランだったかもしれない。なんか見覚えあるんだよね。
それは置いておいて……
──さて、唐突ですがここで問題です。「ホウオウで殺せますよ」の対義語は何でしょう?
──そうだね、「ルギア爆誕」だね!
伝統ある劇場版ポケットモンスターの第二作目と言えば、後の「ポケモン銀」のパッケージに抜擢されるポケモンが主演の「幻のポケモン ルギア爆誕」である。
本来はこの映画の為にデザインされたアニメオリジナルのポケモンだったのだが、放映後の圧倒的な人気を受けてゲームにも逆輸入されたという経緯だとか何とか。売上も金より銀の方が良かったらしいね。私は確か金派だったけど。
因みに「爆誕」という言葉がこの映画から生まれた造語だという説もなんか憶えている。そんな歪に偏った前世知識である。
……どちらかと言うと、映画のルギア自身は爆誕より「覚醒」という感じだった気がするけどね。
しかし「ルギア」というゲームのプレイヤーすら誰も知らなかった新たなポケモンが世に現れ出た衝撃をメタ的に表現するなら、やはり「爆誕」が相応しい気もする。
そんな最高にイカした幻のポケモンX──ルギアの存在は、伝説の語り手としてもちろん外せないよね!
「火の神、雷の神、氷の神に触れるべからず。海の神、破滅を救わんと現れん。されど、世界の破滅を防ぐことならず」
私もポケモン吟遊詩人として何度も語ったことがある──オレンジ諸島の最果てにて神々を祀る「アーシア島」より伝わる伝承の一節だ。
映画のあらすじとしては、確か……うん。丁度いいし、リュートを弾きながら語ってみるとしよう。
ああ、ロトムは準備しなくていいよ、これは練習でも何でもないからね。それでも手伝いたい? んもーいい子だなぁキミは。
「──んんッ」
「ロトッ!?」
っ……頬擦りしたら痺れて泣きそう。ちょっとビクンッて痙攣したし、電気タイプはやっぱ痛いよサトシくん……
最近は彼の影響かスキンシップを気持ち多めにしているが、彼のようにはいかないね。何度痺れても笑顔でスリスリできる彼が改めてスーパーなマサラ人なのだと確信した、ノーマルマサラ人なヒイカお姉さんである。
──巨大な飛行艇で世界中の宝物を探し回っているコレクターの男ジラルダンは、「海の神」と呼ばれる幻のポケモン「ルギア」を狙っていた。
そしてオレンジ諸島アーシア島に伝わるある伝承を読み解いたジラルダンは、神たるルギアを呼ぶには火の神ファイヤー、氷の神フリーザー、雷の神サンダーを捕らえ、この世界のバランスを崩壊させる必要があると理解したのだ。
その考察は正しく、手始めに火の神ファイヤーを捕らえたことで遠く離れたマサラタウンでは、夏に雪が降るなどの異常気象が発生し、海流は大荒れ模様となる。
その影響を受けたのがその頃一船でオレンジ諸島巡りをしていたサトシたちであり、嵐に見舞われた一同は海の果てに浮かぶ件の伝承の発信地である「アーシア島」に漂着することとなる。
島は年に一度のお祭りの日で、特にサトシの境遇は伝承の一説にある「優れたる操り人」に似ていたこともあり、島民から温かく迎えられた。
その中には船長の友人ヨーデルと、その妹で祭の巫女を担当するフルーラ(劇場版ヒロイン)もいた。
サトシはフルーラから祭事の一環として試練に挑む「操り人」に任命され、「沖にある三つの島の宝を集め、本島に置く」という役目を引き受けることとなる。
……頬に歓迎のキスをされて放心したり、笛を吹いて踊る巫女衣装の彼女の姿に見惚れたり、今思うと貴重な反応していたねあの時のサトシ。まあ確かにフルーラちゃんすっごい美少女だったけど。
そんな彼の挑戦にカスミとオレンジ諸島巡りで新たに加わったケンジ、ロケット団のいつもの面々を加えた御一行は火の宝を取りに行くため「炎の島」へとたどり着く。
しかし、そこに雷の神サンダーが飛来し──サンダーを狙ったジラルダンも現れ、遂には彼の目論見通り、崩壊した世界のバランスを守るべく海の神「ルギア」が姿を現し、サトシたちは世界の存亡を懸けた冒険へ身を投じるのだった──。
第一弾から色々と飛ばしすぎていた「ミュウツーの逆襲」よりも、後の劇場版作品にも通ずるエンタメ性に富んだ映画だったよね。
子供の頃のリアルタイムに観た感想としては、難解な一作目よりわかりやすくて楽しかった憶えがある。世代だったし。
──と、そんな「幻のポケモン ルギア爆誕」であるが、実を言うと私はこちらの出来事にはこの世界でちゃっかり首を突っ込んでいたりした。
うろ覚えな記憶の中でもこの映画のことは「ミュウツーの逆襲」より明瞭に覚えていたし、如何せん世界の存亡が懸かった出来事だからね……映画としてはエンタメ性抜群でも、そこから想定される最悪の被害は実際にこの世界で生きる人間としてはシャレにならないのだ。
映画のように、放っておいてもサトシ君がビシッと解決しハッピーエンドをもたらしてくれる可能性は高かったが……だからといって、未来にそんな出来事が起こると知っていながら投げっぱなしにするわけにはいくまいて。
初めてアニメで観た時のサトシは僕よりもお兄さんだったけど……この世界では私の方がお姉さんだしね。
それに……あの映画だとサトシ君のママ、ハナコさんが辛い思いをしていた。
それを思い出していながら見て見ぬフリをしたら、それこそ後のピュアーズロックでミュウツーにかけた言葉が何の説得力も持たなかった筈だろう。
時系列的にはミュウツーより先にルギアに会っているのがややこしいが、私にとっては「ルギア爆誕」が初めての劇場版介入って奴になるのかね。
尤も過去はどうであれ、今は私もこの世界で生きているのだ。
世界の滅亡危機なんて問題は最初から起きない方がいいに決まっているので、セキエイ大会が終わってサトシ君がオレンジ諸島に旅立った後は、私の方からも仕事の傍らジラルダンの動きを探ったりしていた。
ナナミやブルーといった友人たちにも情報提供を求めたり、オレンジ諸島出身の知人に協力をお願いしたり……一応頑張ってはみたのだ。ああオレンジリーグの殿堂入りトレーナー、ユウジさんともその時久しぶりに会ったね。
……ごめんサトシ君、オレンジリーグを目指しているキミのことを色々喋ってみたらすっごいやる気にさせてしまった。
まあキミも思ってるよりどんどん強くなってるから大丈夫だろう。ガンバレガンバレと、そちらに関しては投げっぱなしにした酷いTS美少女ポケモン吟遊詩人である。
ただ……そんな頼もしい仲間たちと連係した上でも、ジラルダンの動きは想定以上だった。
というかあの飛行艇──「飛行宮」と呼んだ方が正しいか、アレのスペックがいくらなんでも出てくる世界を間違えているのではないかと思うほどに頭がおかしかったのだ。
言い訳になってしまうが、空からやってくる彼の動向は地上を走り回っても見切ることはできず、企み自体も「伝説のポケモンの捕獲」というポケモントレーナーなら誰でも目指す真っ当な夢なので予めジュンサーさんやポケモンGメンを動かすにも建前的に無理があった。
一応ワタルさんには話を通したのだが、あの人も忙しいからね……
……ジラルダンの目的そのものは真っ当なのが、殊更何なんだコイツ感を引き立てていると言える。
伝説のポケモンを使って世界征服とか天候の支配とかを企んでいるわけでもなく、それまでの行動も表向きには雑誌にも取り上げられている品行方正な資産家として公的な身分もあったのがまた厄介だった。
やたらイイ声してるし、実際物腰柔らかな紳士ではあったのよね。その目的の為なら手段を選ばない性質が怪物過ぎるだけで。
しかしそんな彼の行動を止められなかった私は、結果として「ルギア爆誕」の冒頭通り火の神ファイヤーの捕獲を許し、映画と変わらず事件は起こってしまったというわけだ。悲しいねミュウツー……私って本当無能。
……ま、過ぎてしまったことは仕方がないし、結局サトシ君を頼ることになったのはハナコさんからも「いいのよ、貴女も自分を責めないで」と引かれるほど謝り倒した私である。本当にごめんなさい……
ただ、そんな私でも一つ自分を褒めてあげられるとしたら、サトシ君が世界を救う邪魔にはならなかったことかな?
「ポケモン吟遊詩人のヒイカ」というイレギュラー的存在があの映画に与えることができた変化はどこまで行っても微々たるものだったが、それでも捕まったファイヤーと一緒に飛行宮に乗り込んだ私は内部工作をちょこちょこやってみたり、ジラルダン本人に直談判して説得を試みたりもしてみた。
……そちらは時間稼ぎぐらいにしかならなかったけども、ファイヤーの暴れっぷりに関してだけは映画よりややマイルドにできたのではないかと思っている。
実は私、オレンジ諸島の火の神ファイヤーとは初対面ではなくてね。昔、この島に取材しに来た時に会って仲良くなっていたのだ。あちらからしたら友達というよりは
映画でもその一面は見せていたが、この子たちはかなり好戦的で、特別な使命を持っているために普段は自重しなければならないが、それでも空を飛んで強者と戦うことは暴走以前から割と好きだったのだ。
「火の神」として海流のバランスを他の二柱と共に守っている彼女は、他のファイヤーと比べても極めて特異な存在であり、通常種より身体が大きいのはもちろん戦闘能力も頭一つ抜けている。
専門家であるナナミに私がまとめた資料を送信したところ、彼女は研究者の顔で大真面目に「その子は伝説のポケモンファイヤーというより、この星の「火」そのものが意思を持って「ファイヤー」という姿を象った存在なのかもしれないわね……」とファンタジーな仮説を立ててくれたものだ。まさに、ポケットにファンタジーだね。
実際のところ、アーシア島の三神鳥の生態は謎すぎて、あながち盛りすぎな解釈ではないというのが私の認識でもある。
……確かにそうだよね。前世の記憶からメタ知識で振り返ってみても、ジラルダンに捕まった時に世界に引き起こした影響は他の伝説のポケモンと比べても異質だったもの。
後に登場する時間の神ディアルガや空間の神パルキアだって、暴走した時の影響、規模は町や国ぐらいに収まっていたし……そう考えるとアーシア島の三神鳥はまさしく「禁忌」の名に相応しい存在であることが窺えた。
そんな三柱を一度に相手にしながら最後にビームを撃つまでまともな技すら使わず渡り合ってたルギアも流石だね……一番凄いのはそんな彼すら「優れたる操り人」として認めたサトシくんだけど。
そしてだからこそ、彼女らが象っている「ポケモン」としての在り方をも否定し、何ならコレクションですらなく、ただ海の神ルギアを釣り上げるための餌として手を出したのだから、彼女らもブチ切れる筈である。うーん、この尊厳破壊……
ただ困ったことに、それをやらかしたジラルダン自身には全く悪意が無かった。
確か「ルギア爆誕」のテーマって「他者との共生」と「行き過ぎた個人主義への断罪」だと聞いたことがある。前者についてはルギア自身が作中でサトシに語っていたが、後者については前作が重過ぎた分、描写が抑えめになっていたのだとか。
それでも確かに「行き過ぎた個人主義」の体現者であるジラルダンの行動を見れば、仮に悪意の無い純粋な夢だからといってもそれが断罪されない理由になってはならないだろう。
「私たちは皆、共に生きている──共に生きているからこそ、壊してはならない」
ルギアも良いこと言うよね。うん……私も彼の言葉はいつでも胸に留めておこう。
──だから、誇れミュウツー。
「壊さないこと」を自分の意思で選んだキミは、下手な人間よりよっぽどまともな生き物だよ──ってね。
生命の母なる海、その神様であるルギアさんから受け売りの、ヒイカお姉さんからのアドバイスでした。
多分この世界線のルギア爆誕はジラルダンの描写が盛られている
だけど本編で背景がほとんど描写されていないからこそ劇場版悪役の中でも異質な大物感出してますねジラルダン