「召喚状っすか?」
昼餉を終えてすぐに渡された手紙に、悠は小首を傾げた。
「なんて書いてあるの? あたしにも教えてよ!」
「う~ん。なんてって言われてもなぁ……」
見るからに高級そうな紙には少しばかりの文字の羅列しかない。
両脇から見てくる同僚に、悠は顎を撫でながら困り顔。
やや艶の出て来た黒紅色の髪に血色が戻ってきた幼げな顔立ち。瞳の色も髪色と同じで、角膜やらのお陰か光を反射して仄かな煌めきを宿している。体つきも何週間と稽古を積んだことでそれなりに肉付いてきたが、依然として平均より痩せ細っている。
「えぇっと、久遠様と俺に朝廷へ来るよう命じる、って感じっすね」
「なにそれ~。どっかに理由とか書いてないのぉ?」
間延びしながら問いかけてくるのは右から顔を出す瑞野だ。
緑と白が混ざり合った髪を三つ編みにして胸の方へ垂らし、大きくクリクリとした桃色の瞳は愛らしい。ふっくらしたあどけない顔つきとは反対に体は成熟しているが、本人の距離感はいつまで経っても子供と同じで心臓に悪い。
いつも着物を着崩しているせいで胸のサラシが見えているのだが、もはや注意しても意味がなさそうで諦めている。
「召喚状にしては情報が少ないね。どれだけ急いで書いたんだろう」
左から割とグイグイ顔を突き出しながら俊人は呟く。
悠よりやや長めの水色の髪の下に子供っぽい顔が収まり、かなり小柄なこともあって実年齢より幾分若く見られることが多い。人見知りな性格が黄色の瞳からもありありと出ており、怒った顔が最も怖くないと有名である。
ちなみに本人は自分が大人だと思っている節があるが、実際のところは不明だ。
「朝廷の人が書いたんすよね? 召喚状ってめっちゃ物々しい言い方っすけど」
「そりゃ久遠様を召喚するぐらいだし、朝廷でもかなり上の立場の人だからね」
「え? じゃあすげぇ重要な書類なんすか⁉ 俺が持ってて良いのかな……」
「だから悠宛てでしょ? 気にしないの!」
「そうじゃん俺宛てじゃん! え⁉ じ、じゃあ俺、朝廷の偉い人に呼び出されたって事っすか⁉ 怖っ!」
と、泡沫の園の年少組がワイワイしているのを、龍己は傍から眺めていた。
ガタイの良い体、精悍な顔つき、鋭い金色の目は猛者の威圧感を放っており、刈り上げた白髪は重ねた経験を物語っている。
龍己は食後の煎茶を飲みながら言った。
「落ち着け。十中八九熾葉のことだろう。過程がどうあれ貴様は熾葉の所有者となったのだ。お上が気に掛けるのは当然のことだ」
一月ほど前に園を襲った妖、鎌鼬。
龍己と俊人が敗れ、園が管理する妖刀が奪われそうになった時、何の因果か気紛れか、悠は妖刀を引き抜いたことで所有者となったのだ。
以来ずっと、妖刀『熾葉』は悠の手元を離れることはない。
「そ、そっか。それもそっすね」
「だが、確かに召喚理由も書かれていないというのも妙だ。いかがしましょう、久遠様」
「そうねぇ」
龍己の問いかけに、泡沫の園の主である女性は小さく唸った。
天羽久遠。やや癖がありつつもそれさえ長所となる藍色の髪を胸元まで伸ばし、その下の顔は凛とした美貌と妖艶な魅力を兼ね備えたまさに至宝。陶磁器のようにきめ細やかな白い肌には潤んだ桃色の唇やスラリと通った鼻筋が並び、静謐な瞳は夏の樹林を思わせる深緑、左の目尻にポツンとあるホクロが大人びた雰囲気を醸し出している。
久遠はうんうん唸ったかと思うと、悪戯っ子のように意地悪な笑みを浮かべて。
「無視しちゃおうかしら?」
「出来るんですか?」
「出来ないわ。私にそこまでの権限はないもの」
「じゃなんで無視しようなんて言ったんすか」
「だって、理由も伝えずに「来い」ってされると感じが悪いでしょう? まったく」
ぷりぷり起こる久遠に苦笑しつつ、悠は彼女の右腕へ目をやる。
彼女は隻腕だ。右腕は二の腕から先が無く、袖で隠れるようにと若干長くなっている。
少なくとも、都への道は遥か遠いはず。隻腕のまま旅をするなんて計り知れない苦労があるだろう。
……上の人がそれを知らないはずがない。
「本当に、嫌な感じっすね」
人のことを考えていないやり方に怒りがこみ上げる。
だが、
「仕方ないわ。園は昔からよく思われていないもの」
久遠に笑いかけられてたちまち鎮まってしまった。
「出発は明日の朝にしましょう。みんな、荷造りを手伝ってちょうだいな」
「はい!」
「かしこまりました」
「任せて!」
「了解っす」
元気よく返事をする三人に、悠も後に続く。
あまり良い気分はしないが、それでもワクワクする自分がいるのも事実。
……都か。どんなとこなんだろ。
悠は無意識に微笑んでいた。