カクリヨ・レヴナント   作:華月 珠音

28 / 33
第二話

 そのまま午後は荷造りの時間に。

 都へ行くのは久遠と悠、付き人の瑞野の三人だ。

「初めて都へ行くんだもん。付き添いはいたほうがいいでしょ?」

 とのことだ。

 使用人として主である久遠を支えるべきなのだが、いかんせん悠は世俗に疎く補佐など出来ない。

 彼女の同伴は願ったり叶ったりだ。

 

 

 

 ……とはいえ。

「さすがに男が俺一人だと肩身が狭いっすね。俊人くんも来てくれません?」

「出来ることならしたいんだけどねぇ。龍己さん一人じゃ大変だから難しいかな」

 風呂敷にテキパキと荷物を詰める悠の傍ら、俊人はやるべきことを紙に書きながら言った。

「大体のことは書いておくから、困ったらちゃんと読むんだよ? あと、都だからって羽目を外し過ぎないこと。物価はここより高いんだから、適当に使ってたらすっからかんになっちゃうよ」

「やっぱ都会って高いんすね。そんなイメージありますし」

「い……いめ……い……?」

「気にしないでください」

 相変わらず言葉の違いは慣れそうにない。

 ……もう園に来て二か月は経つか。

 自身に関わる記憶を失い、素寒貧のところを拾われたあの日。

 あの時の混乱は今でも思い出せる。

 なにせ……自分が異なる世界にいると実感してしまったのだから。

 言語も文化も異なる世界。こうして馴染めているのも、記憶にある世界に酷似しているからに過ぎない。

 ただ、元いた世界に対する興味なんかは一切ない。

 自分の居場所はここだ。それ以外のことにかまけているほど暇じゃない。

「都って要はこの国の首都っすよね? どんだけ広いんすか?」

「詳しいことは言えないけど、まあ辺境の領地が二つ三つは余裕で収まるぐらいだろうね」

「広っ! 都っつうか国じゃないっすか」

「それだけ人が多いんだ。何なら長屋通りって言って、長屋だけが並ぶ場所もあるんだから。あとはお店なんかも豊富だし、卸問屋が集まって出来た場所もあるよ。なにせ「都巡りは終にも終わらず」なんて言われるぐらいだからね」

「なんか想像つかないっすね」

 一通り風呂敷に詰め終え、俊人の横に移動。

 彼が書いてくれた覚え書きを横から眺める。

「えっと……『スリには気を付ける』『ぼったくりには気を付ける』『喧嘩屋には気を付ける』……気を付けることばっかじゃないっすか」

「それだけ危ない場所なんだよ? 大事な後輩には大変な目に遭ってほしくないんだ」

「分かってますよ。てかそれよりオススメのお店とか教えて欲しいっすよ」

「オススメのお店? 僕もあんまり行ったことないからなぁ」

 そうぼやきつつ、なぜか傍らに置いていた分厚い書を机に広げだす俊人。

 背表紙には『都遊覧目録』と色あせた字で書かれていた。

 ……どれだけ読み返したんだろうか。

「えっとね。確かこの辺に……」

 何度も捲ったであろう紙をペラペラしながら俊人は呟く。

 このままじゃ見たことのない街の見たことのないお店だけを紹介されそうだ。

 土地勘が無いままだとマズい。

「え、えっと、とりあえず都がどんな感じか見せてくれません? 地図とかって無いんすか?」

「地図? まああるけど———」

「じゃあ先にそれ見せて欲しっす!」

 懸命な懇願が届き、俊人は小首を傾げながら別の小冊子を机に広げる。

「これが都の大まかな地図だよ」

 端の方がボロボロになっている地図を悠は眺める。

 まるで鉄格子のように引かれた道の間に建物が並んでいるようだ。中心に位置する大きな道を『御上道(ごじょうどう)』と呼び、そこから横に無数の小道が突き出ている。

 御上道の終点にはひと際大きな宮殿がある。

「これが朝廷?」

「そ。帝とか国の偉い人とかが暮らしてる、叢雲国の心臓にして脳みそってところだね」

 そして悠が行くことになる場所。

 実物を見る前からすごく緊張してきた。

「ほ、ほんとに大丈夫なんすかね。こんなとこに俺なんかが行ったりして。変なことして怒られたりしたら……」

「大丈夫……とは言えないけど、普段通りにしていれば平気さ。どうせ向こうが気にしてるのは君が国にとって害になるかどうかだけだしね」

「なんかそう言われたら言われたで複雑っす」

 国家転覆を画策する犯罪者みたいな扱いだ。

 ……ある意味そうなのかもしれない。

 妖刀『熾葉』は本来、泡沫の園が管理するべき危険な代物だ。一月前の一件で悠の言うことは聞くようになったが、それでも滲み出る妖力は明らかに周囲に影響を与えている。

 気を抜けば、自分自身さえも呑まれてしまいそうなほどに。

「ま、もしかしたらとっくに害になってるのかもしれないっすけどね」

 冗談半分で零した言葉。

 けれど、それを聞いた俊人の顔から笑みが消えた。

「それは違うよ、悠くん」

 真剣な面持ちで告げる俊人。

 不可思議な気迫に、おのずと背筋がピンと伸びる。

「君は力に溺れてないし、呑まれてもいない。そもそも君が抜いたのだって僕らを守るためでしょ? だから、そんな風に言わないでよ」

「……はい。ごめんなさい」

 責められているようで、どこか嬉しかった。

 変な気分だ。怒られて喜ぶなんて。

「もう言いません」

「ん。それで良いのさ。それに君は僕の大事な大事な後輩なんだから。もしもの時は全力で止めるよ」

「……俊人くんの全力って、あんまり大したことなさそう」

「こらっ! 言って良いことと悪いことがあるんだからね!」

 ぷりぷりさせてしまい悠は謝罪……せずに大笑い。

 最終的に頬を引っ張られたことでその場は収まったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。