魔弾戦記リリカルなのは Abend Gewehr   作:星乃 望夢

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Stage:04

 

誘拐犯のワゴンがたどり着いたのは街外れの寂れた廃ビルだ。

 

誘拐犯は5人。

 

暴れる女の子を連れ込んで廃ビルに入っていく。

 

手招きしてリニスを呼ぶ。

 

「どう見る?」

 

「あまり口にしたくはありませんが、誘拐犯の年齢は若輩、服装もだらしない着崩し。身代金目当てというよりも、見目麗しい少女を誘拐して性的暴行を加えるという算段の方が上回るかと」

 

「だよなぁ」

 

執務補佐官として様々な事件に携わって来た身としては、今回みたいなケースは初めてじゃない。

 

見るからに不良のグループが美少女を誘拐した。

 

これがミッドチルダのアンダーグラウンドや廃棄都市区画のスラム街とかだったら身代金の筋も考えるんだが、見た感じ不良でも服の質は良かったから身代金目当ての線が薄れてくる。

 

管理外世界だからこの世界の警察組織に連絡して対処してもらうのが一番なんだが、そうしてる暇にも手遅れだと後味が悪過ぎる。

 

「管理外世界での緊急対応のため、執務補佐官権限内による特例措置を申請。対象は不良グループ制圧と誘拐された要救助対象の少女保護。現地治安組織への通報及び到着までの要救助対象の安全が保障不可の可能性大の為の治安介入とする。以上」

 

アーベント・ゲヴェーアに音声記録を残しておく。

 

こうする事で管理外世界での緊急対応や始末書を書くのに正当性を担保出来て後々楽になるからだった。

 

さて、屋内への突入と要救助対象の保護に敵性対象の制圧ミッション。

 

俺の最も得意なシチュエーションだな。

 

というより、管理局員になって先ず大抵は地上勤務に配属される上での訓練課程で必ず叩き込まれるお手本の様なシチュエーションだ。

 

派手な魔法は現地人への目撃リスクを回避する為に使用は出来ないものの、管理外世界の一般人相手なら、屋内突入からの射撃制圧で問題ない。

 

「フォワードは俺がやる。バックスを頼みたいんだが?」

 

「わかりました。背中は任せてください」

 

なんとも頼りになる返事を聞きつつ、俺とリニスはバリアジャケットを纏う。

 

アーベントのグリップの握り心地を確かめ、突入を開始した。

 

 

◇◇◇

 

 

ビルの入り口の影に身を寄せて息を殺す。

 

サーチャーでのスキャンだと、3階に生体反応が4つ、2階に2つ。

 

とすれば、誘拐犯は2階と3階に分かれてる。

 

正面からでも相手が魔法を使えない一般人なら制圧は容易い。

 

ただ下から処理すればその物音でおそらく3階に囚われている女の子が危ない。

 

なら逆の発想だ。

 

3階から制圧して、要救助対象を確保する。

 

或いは3階と2階を同時に突入して制圧する。

 

人員は2人。

 

二手に別れての同時制圧も可能だ。

 

ただ女の子を確保した後の保護を考えると、同性のリニスが居た方が良いだろうと判断して、突入は3階からの制圧にする。

 

『リニス。3階から突入して先ずは要救助対象を確保する。敵性勢力制圧はその都度対処する』

 

『了解』

 

念話でやり取りをして、トントンと軽くジャンプすると、3度目で一気に飛び上がる。

 

そのまま浮遊魔法で一瞬空中に浮いて、ビルのガラスを蹴破って突入。

 

「な、なんだ!?」

 

突入しながら周囲確認。

 

誘拐された女の子は、3人の男に取り押さえられて服を破かれている所だった。

 

着地と同時に受け身を取りつつ立ち上がり、アーベント・ゲヴェーアを撃って先ず1人をノックアウト。

 

「このガキ、銃を──」

 

ブリッツムーヴで懐に入って、逆手に握った左手のアーベントの銃身をトンファー代わりにして、顎を打ち上げてノックアウト。

 

そのまま右手のアーベントを撃って最後の3人目もノックアウト。

 

女の子の様子は視線が虚ろで、その傍には注射器が落ちている所から、なにか薬品を使われた形跡が見られる。

 

「リニス!」

 

俺はリニスを呼び寄せると、彼女とスイッチして女の子を任せる。

 

すると騒ぎを聞きつけた2階の2人が部屋の中に入ってくる。

 

鉄バットと鉄パイプを持っているけれども、脅威にはならない。

 

ブリッツムーヴからの急接近で懐に入って、アーベントの銃底で側頭部を強打してノックアウト。

 

眉間に銃口を押し当ててトリガーを引いて、最後の1人をノックアウト。

 

執務補佐官は魔法も使えない一般人相手に梃子摺る様な軟な仕事じゃないんでね。

 

「どうだ、リニス」

 

「成分がわからないのでなんとも。取り敢えず治癒魔法を掛けて回復力を高めますが」

 

「……一先ず警察に連絡だな。とは言っても状況説明とかは管理外世界だと窓口がなぁ。……リンディ艦長に連絡しよ」

 

緊急事態とはいえ、管理外世界で武力行使をした上で、犯罪者を確保したとなると、管理外世界でも一応管理局と繋がっている部署はあるはず。

 

そこへの問い合わせも含めて、俺は小言を貰うのを承知でリンディ艦長へと通信を繋いだ。

 

まぁ、誘拐された女の子を助ける為の行動だからお咎めはなかった。

 

助けた女の子はアースラの医療班を派遣して貰って、使われた薬物の解毒をしたあと、意識が戻るまで当事者の俺とリニスが付く事になった。

 

急な用事が出来た事でもう1日ティアナを高町家で預かって欲しいと桃子さんには申し訳ないが連絡を入れた。

 

現地統括の為にやって来たクロノに、案の定リニスの事を説明しろと言われたものの、黙秘権と使い魔契約済みを提示したら、額に手を当てて天を仰がれた。

 

まぁ、今までの付き合いでこんな強引な事をした覚えはないからな。

 

とはいえ、リニスが何かの事情持ちなのは理解して貰えた。

 

持つべきは理解のある上司兼相棒だぜ。

 

 

◇◇◇

 

 

私はひとりぼっちだった。

 

私は自分で言うのもなんだけれども、他人よりも頭が良い自負がある。

 

けれども、それは子供の社会では自慢になる事もあれば、そうでない事にもなる。

 

会話のレベルが合わない。

 

帰国子女だからちょっと何処か余所余所しい。

 

結果として私はクラスで孤立していた。

 

それは施設でも同じ。

 

友達のいない生活には慣れたけれども、その生活に色はなかった。

 

だから誘拐された時、あ、私の人生はここで終わりなんだと、優秀な私の頭脳は答えを導き出してしまった。

 

だって、周りに誰か人の目があれば白昼堂々誘拐なんてしないだろうし。

 

私を誘拐した男たちは下卑た目で私を見てくるから身代金目当てじゃない。

 

身代金目当てだとしても、私は施設暮らしだから身代金なんて出せないから、結果は変わらなかっただろう。

 

でも、座して自分の終わりを受け入れるのも癪だったから、せめて抵抗してやろうと暴れたら、何かの薬を打たれた。

 

ぼーっとする頭で、目の前で服が破かれるのを見ているしかない。

 

あぁ、せめて初めては好きな人が良かったなって、この期に及んでそんな乙女な考えを巡らせることしか出来なかった。

 

奇跡が起きなければ、このまま私は誘拐した男たちの慰み者にされて、何処かに売り飛ばされるか、口封じの為に殺されるか。

 

どいつもこいつも賢そうには見えなかったから、口封じで殺されるんだろうなって思って、誰でも良いから助けてくれないかなって、思った時だった。

 

ガラスの砕け散る音と共に小さな影が部屋に飛び込んで来た。

 

ガラスの破片が夕陽を反射して、キラキラと光る。

 

床に着地した小さな影は拳銃で私を襲おうとした3人の男の内1人を撃った。

 

そして目にも止まらない速さで近付くと、銃身でまた1人の顎を打ち上げた。

 

そして残る1人をまた拳銃で撃ち抜いた。

 

なのに火薬の匂いがしないのが不思議だった。

 

私の頭を手を添えて起こして、私の様子を見る男の子。

 

近くに来たからボヤケてる視点でも相手の事が良く見える。

 

真剣な眼差しで私の状態を確認するその子に、私は抱き着きたかった。

 

やっと、私を見てくれる人が現れた。

 

私を助けてくれた。

 

奇跡が起きなければ助からなかった私を救ってくれた人。

 

これってもう、運命じゃないかしら?

 

動かない身体がもどかしい。

 

彼が誰かを呼ぶと、彼の代わりに優しそうなお姉さんが現れて、私に膝枕をしてくれた。

 

温かい手が私に触れて、少し身体が楽になった。

 

でも、さっきから彼とお姉さんが話してる『魔法』という言葉はなんなのかしら。

 

艦長、医療班、管理外世界、執務官権限、治安出動──。

 

私を助けてくれた彼は、ただ者じゃないらしい。

 

でも、それでも私は構わない。

 

「ずっと意識を保ってるなんて、相当タフだな。俺はティーダ・ランスター。時空管理局執務補佐官として君を緊急保護した。まぁ、魔導犯罪に巻き込まれたワケじゃないから、君には今日のことは忘れて、明日からは普通の生活に戻って貰うから、何も心配は要らないぜ」

 

「アリサ・ローウェルよ。…成る程、管理外世界、魔法、つまり私の生きるこの世界とは別に存在する世界の法の番人といったところなのかしらね、あなた達は。そして管理外世界の住人の私に、少なくとも一般人の私に知られると不都合があるから記憶を改竄してその正体を隠す必要があるのね」

 

私のIQ200の頭脳に掛かれば、断片的な会話からでも、色々と耳に入っていた情報を繋ぎ合わせてこれくらいの事情は把握出来た。

 

「悪いけれど、お断りさせて貰うわ。私が管理外世界の人間という立場に不都合があるのなら、そちらの世界の住人になっても良い」

 

そう言いながら、私は片膝を付いて私を見下ろす彼の首に腕を回して耳許で囁いた。

 

「私の裸を見た責任、取りなさいよね?」

 

「……あれは不可抗力だろ」

 

そんなこと言っても、私の胸元に少し視線が留まったのは見逃してあげないわ。

 

……やっと、ひとりぼっちでなくなるかもしれない。

 

私の、王子さま。

 

絶対に、取り逃したりなんてしないんだから。

 

 

◇◇◇

 

 

アリサからとんでもない脅し文句が飛んできた。

 

どうするかとクロノに相談しに行けば、「君の管轄だから君の方で判断してくれ」と言いやがった。

 

リニスの件でちょっと強引にしたからって、拗ねたりすんなよなぁ。

 

ともあれ、本人の意思の尊重と、断片的な会話の単語から話が通じてしまう頭の良さ。

 

アリサの私生活での孤立。

 

それらを鑑みて一度リンディ艦長が面談をするということで、アリサはアースラへと連れて行くことになった。

 

リニスに関しては行き倒れてたネコを拾って使い魔にしましたと、嘘は言っていないがホントのことも全然言っていない報告で通してくれた。

 

というより、俺自身もリニスに関しては全然知らない。

 

ただ悪い使い魔でないのは本人の性格と契約していることで伝わって来る本人の心で分かっているから、制式に俺の使い魔として登録される事が決まった。

 

ともあれ、解毒はしたものの薬物投与に誘拐からの心理的ストレス諸々込みの回復の為に、ビジネスホテルで部屋を取って一旦落ち着くことになった。

 

というのも、アースラに行くならティアナを迎えに行かないとならない上、管理外世界の一般人相手とはいえ、要救助者救出ミッションを終えた俺の休息も含めて一旦休んでからゆっくり帰って来なさいとリンディ艦長からのお達しである。

 

本当、艦長は女神さまかなにかかな?

 

 

 

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