「さっむ……移動教室ってだけでキツいな。ーーお?」
十二月の寒空。暖房の効いた教室から出るのも嫌な時期に外へ出たら、見覚えのある制服姿が不安そうに立っているのを見つける。
「才羽?」
声を掛けると驚いたのか、肩を大きく跳ねさせた小柄な後輩ーー才羽ミドリはこちらを見て顔見知りと気付き、安堵の息を吐く。
「せ、先輩、良かった・・・・・・あの、こんにちは!」
「はい、こんにちは。元気いいな。
どうした、ここ二年生の教室だけど」
頭一つ分背の低い後輩に目線を合わせながら問い掛けると、才羽はえっと、と言葉を詰まらせたり視線を泳がせたりと、分かりやすく躊躇っている姿に急かすことはせず待っていると。
「せ、先輩。今日の放課後、一緒に帰りませんか!?」
腹を括ったのか、赤くなった顔で可愛らしい『お願い』をしてきた。うん、必死な姿も可愛いな(二度目)
「いいよ。いつものゲーセン寄っていくか?」
二つ返事で頷き、いつもの提案をすると才羽は目を輝かせ、「はい!」と頷いてから小走りで一年の教室へ戻っていった。転ぶなよーと手を振って見送ったのだが、ここで問題が一つ。
今は移動教室のタイミングで、クラスメイトも移動中な訳で。バッチリ見られてニヤニヤされたり、女子達は黄色い声を上げながら指を差している。
(メッセージで良かったんじゃないかな)
可愛い『お願い』はありがたいけど、絶対からかわれることが決まって俺は溜息を吐き、歩みを再開する。
なおクラスメイトどころか、話を聞いたらしい教師にも授業開始時に弄られた。然るべき所に訴えてやろうか、大人。
「すいません、先輩・・・・・・言わなきゃと思ったら、足が止まらなくて・・・・・・大変でしたよね?」
「別に気にしてないよ。可愛い後輩の頼み、からかいの一つや二つ安いもんだ」
「うう・・・・・・」
そんな気にしなくてもいいだろうに。肩で切り揃えた金髪を揺らしながら赤くなった顔を俯かせる後輩の姿に、大丈夫だからと手を振っておく。
放課後、授業を終えて才羽と待ち合わせ場所で合流し(今度は流石にメッセージした)、横並びに帰り道を歩んでいく。まあ家は反対方向で、実際はゲーセンに向かっている訳だが。
「しかし、何でわざわざ二年の教室に来たんだ? いつも通り、ゲーセンで合流すれば良かったと思うが」
才羽とは部活も委員会も接点がないが、ゲーセンに置かれていたレトロゲームをやっているところを見て声を掛け、それ以来ちょくちょく遊んだり、レトロゲーム談義をするようになった仲だ。
思い返すと、同じ学校で近い年の子達が滅多にやらないものやってるの見てテンション上がったから声掛けたけど、完全に不審者というか事案だったよな。初対面の才羽、警戒心マックスだったし。
「その、今日は先輩と一緒にいたいなって思ったので・・・・・・折角の、誕生日だし。
・・・・・・急で迷惑、でしたか?」
不安そうに、上目遣いでこちらを見上げてくる才羽。青い瞳には涙の潤いを湛えており、庇護欲と良くない感情を同時に抱かせる、天然の魅力に満ちていたが。
「え、今日誕生日?」
「は、はい。十六歳になりました。えへへ、先輩に近付きましたよ」
その接近は、俺が誕生日を迎えると同時にまた離れるんだが。というツッコミを才羽の控えめな笑みに免じて飲み込み。
「マジか・・・・・・」
「せ、先輩? どうしました?」
今知った、もっと前に知るべきだった情報を聞いて、額に手を当てる。才羽は慌てているけど、別にそっちは悪くないんだよ。いやある意味悪いけど。
「言ってくれよ・・・・・・知ってたら、誕生日プレゼント用意したのに」
「それは、そう言って貰えるのは嬉しいですけど・・・・・・私は先輩の時間を貰えただけでも、嬉しいですから」
えへへとはにかんだ笑みを浮かべ、こちらのコートの裾を掴む才羽の顔は言葉通り、幸せに満ちているものだが。流石にその言葉を素直に受け取ったら、先輩としての沽券に関わる。
「・・・・・・ちょっと待ってて」
「? 先輩?」
ゲームセンターに到着し、首を傾げるミドリから離れて目当てのクレーンゲームを見つけ、硬貨を投入する。
「ほい、お待たせ。とりあえず、誕生日プレゼントな」
「え、え、わぷっ。
先輩、これって・・・・・・」
運良く五百円玉一枚で取れた、緑色のぷよぷ〇クッションを才羽に押し付ける。本人は
「俺も紫色の持ってるから。お互い初めてやったゲームだし、記念に渡そうと思ってたからな。
ちゃんとしたプレゼントは今度渡すから、今はこれで勘弁してくれ」
「そ、そんな! これ貰っただけでも嬉しいですから、気にしないでください!
・・・・・・えへへ、先輩とお揃い・・・・・・」
クッションを胸元で抱きしめながら、頬を緩める才羽。もうその可愛さで俺も抱きしめたくなるが、ギリギリで我慢した。
「あの、じゃあ先輩・・・・・・すぐにいただけるプレゼントが、一つあるんですが・・・・・・『お願い』しても、いいですか?」
「もちろん。今日は誕生日だから、先輩が叶えられる願いは三つまで叶えてあげよう」
「あはは。七つ球を集めなくてもいいなんて、先輩は優しいですね」
俺の冗談に才羽はぬいぐるみを抱きしめたまま、小さく笑う。ゲーセンのうるさく主張する光が、今だけ彼女を照らす後光のように感じられた。
「私にお姉ちゃんがいるって、以前言いましたよね?」
「うん、覚えてるよ。同じ部活でゲーム作ってるんだっけ」
思い付きで飛んでいったりシナリオを変えるから、いつもこっちが苦労するんですとも愚痴ってたっけ。セリフに反して楽しそうだったけど。
「はい、だから今後、お姉ちゃんと会った時に苗字呼びだと紛らわしい、ので・・・・・・
その、名前で、呼んでもらえませんか?」
「ーー」
才羽の一世一代と言わんばかりの可愛い『お願い』に、一瞬虚を突かれ。不安そうに見つめてくる彼女の頭を、微笑みながら撫でてやる。
思わずやっちまったけど、セクハラで蔑まれないかな。もしされたら、一生立ち直れない気がする。
「わっ。せ、先輩?」
「分かったよ、『ミドリ』。改めて、誕生日おめでとうな」
「! はい、ありがとうございます、先輩!」
撫でられて、どうすればいいかとわたわたしていたけど。俺が名前を呼んだら、ミドリは今日一番の、花咲くような笑顔をこちらに向けてくれた。
その後、ミドリが遊びたいというゲーム全てを俺の奢りで一緒にプレイし(申し訳なさそうにしてたけど、誕生日くらい遠慮しなくていい)、気付いたらすっかり暗くなっていたので家まで送ったのだが。
「えー!? ミドリがイケメン彼氏連れてるー!?」
というのが玄関で出迎えてくれた初対面な双子の姉、才羽モモイの第一声であった。いやイケメンて。
「お、お姉ちゃん、近所迷惑だから・・・・・・!」と真っ赤な顔で姉を家の中に押し込むミドリは慌てて頭を下げ、家に消えていった。
「・・・・・・彼氏、ねえ」
やたら強く感じられる鼓動と、頬が赤くなったのは、寒さのせいだと誤魔化しておいた。
『先輩、今日は付き合っていただき、ありがとうございました。
また、一緒にお出掛けしてくださると、嬉しいです・・・・・・♪』
あとがき
ミドリに先輩と呼ばれたいだけの勢いで書いた思い付き現パロ、書かせていただきました。誕生日終了十五分前に書いてます愚か者りいんです。
現パロは初めて書きましたので、この方式が合っているかは分かりませんが、ここまで読んでいただけたのは本当にありがとうございます。