ウマ娘×ProjectMoon   作:桜餅 ステラ

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狂えるオルランド

セブン協会本部 協会長室

 

第7協会、セブン協会。

都市でも有数の情報専門協会として知られ、最重要機密を除くあらゆる情報を集め、整理し、各方面へ流通させる組織である。

 

情報を扱う以上、危険地帯への潜入も多い。

そのため、セブン協会のフィクサーたちもまた、情報屋であると同時に実戦経験を積んだ者ばかりだった。

 

そんな協会長室では、今日もトランセンドが手際よく書類を片付けていた。

 

「デュランダルさん、この情報で大丈夫だったかな?」

 

「ええ、感謝しますトランセンド協会長」

 

向かいに立つのは、第5協会センク協会西部本部長デュランダル。

剣を愛し、騎士道を重んじる、厳格で真っ直ぐなウマ娘だった。

 

「遺物の情報が欲しいって中々珍しい依頼だったけど、とりあえずデュランダルさんが好みそうな遺物の情報は一通り集めたよ。まあ、手に入るかは別だけど」

 

「ご心配いりません。私もセンク協会本部長、それなりに危ない橋を渡るのには慣れています」

 

トランセンドの横で控えていた秘書役のフリオーソが、少し怪訝そうに眉をひそめた。

 

「デュランダル本部長、なぜそこまで遺物を欲しがるのです? 貴女ほどの実力者なら、遺物に頼らずとも十分では?」

 

するとデュランダルは、どこか夢見るような顔をして、胸を張る。

 

「まあ本音をいえば……ロマン、でしょうか。ただ純粋にかっこいい武器を手にしたい……それだけです」

 

「ええ……? それだけでトランセンド協会長に直接依頼したのですか? あんな大金まで用意して……?」

 

「別にいいじゃんフリオ。デュランダル本部長の趣味はセンクのヒシアマゾン協会長からも聞いてるし、ウチとしては金さえ払ってくれるならいくらでも引き受けるよ〜」

 

「協会長がそういうなら……まあいいですが……」

 

その時だった。

 

コンコン。

 

ガチャ。

 

「邪魔する」

 

部屋に入ってきたのは、白いハナ協会の制服とコートを着た男性だった。

 

「おや、誰かと思えば確かハナ協会の……」

 

「オリヴィエさんじゃん、どしたの?」

 

「ハナ協会のミリネ部長から、トランセンド協会長に渡す書類があるというから持ってきた」

 

「もしかしてミリネさんに頼んでたやつかな? おっけおっけ、そこ置いておいて」

 

「ああ」

 

オリヴィエは書類の束を机の上へ置くと、トランセンドの顔を見た。

 

「時にオリヴィエさん、ハナ協会の南部3課はどんな様子なの? 2年半前の図書館では全滅したって聞いたけど」

 

「色々あったが、最終的には全員戻ってきたからな。人的被害はゼロに落ち着いたさ。少なくとも、図書館の外で残響楽団に全滅させられた1課に比べればな」

 

「なるほどね〜。セブン協会も当時、図書館に何人かフィクサー向かわせたけど全滅したって聞いた時は一瞬理解出来なかったよ。あのころはまだ都市悪夢のはずだったんだけどね」

 

「あいつらは滅茶苦茶な戦力をしていたからな。無理もない」

 

デュランダルが少し神妙な顔になる。

 

「図書館……センク協会には招待状は来ませんでしたけど、その代わり残響楽団関連とねじれへの対応で当時は大変でしたね……」

 

「確か、図書館の主要戦力はかの赤い霧に元調律者までいるとか……」

 

「なんでもありすぎるよね〜。頭以外勝てるわけないよ」

 

トランセンドが軽く笑ってそう言うと、オリヴィエの目が遠くなる。

 

「……あと、あいつもいたな」

 

「“あいつ”?」

 

「あ〜……もしかしてローランさん?」

 

「そうだ」

 

ローラン。

オリヴィエが昔所属していたチャールズ事務所での元同僚であり、長年の親友だったフィクサー。

チャールズ事務所は12人の1級フィクサーで構成された少数精鋭事務所で、その中でも隊長を務めていたローランは、頭の処刑者とほぼ同格とも言われる実力者だった。

 

トランセンドが少しだけ表情を緩める。

 

「ローランさんといえば、図書館事件の少し前にあの滅茶苦茶に暴れ回った事件だよね〜。奥さんのアンジェリカさんをピアニストの事件で失って、やけくそになって南部地域の怪しい組織や犯罪者殺しまくって、最後は9級フィクサーまで落とされた……。オリヴィエさんも大変だったでしょ? 後始末とかなんやらで」

 

オリヴィエは、しばし黙った。

 

「……あの1件には、俺にも責任がある。あいつを止めきれなかったからな。アンジェリカが死んだのも、あいつが俺の頼みで9区を離れていたのが要因のひとつだから」

 

「でもあんまり思い詰めないようにね? ローランさんが暴れたのは紛れもなく彼自身の責任だし、少なくとも事情は理解できるけど、それはそれこれはこれだもんね」

 

「……ああ」

 

フリオーソが少しだけ言葉を選ぶようにして尋ねる。

 

「ローランさんは今は図書館諸共外郭へ放逐されたんですよね」

 

「そうそう、多分もう都市には戻ってこないでしょ。……まあ、放逐後の図書館に行ったフィクサーによると、結構悠々自適に暮らせてるみたいよ。憑き物も落ちて吹っ切れたみたいだし」

 

オリヴィエは、ふっと息を吐いた。

 

「それだけが、せめてもの救いだな。今まで苦痛ばかりだったあいつが、最後に手に入れた幸せなんだからな。……にしても……」

 

オリヴィエが、デュランダルとフリオーソの顔を交互に見る。

 

「……奇しくも、あいつを思い出す名前のウマ娘が2人とも揃っているなんてな」

 

「私がですか?」

 

デュランダルが首を傾げる。

 

「確かローランさんの元々の武器の名前が、デュランダルって名前の長剣なんだよね? 今はアンジェリカさんの形見の黒い沈黙の手袋と武器群も扱うらしいけど」

 

「そうだ。あいつが黒い沈黙の武器を受け継いでから編み出した必殺技の名前が、Furiosoだ」

 

「Furioso……ですか」

 

トランセンドが何気なく口にする。

 

「珍しい偶然もあるよね〜。そういえばアンジェリカさんの武器は多種多様な工房製の武器だけど、ローランさんのデュランダルってどこの工房の武器なの?」

 

「さあな。あいつは最後まで語らなかったし、チャールズ事務所で出会った時には既にあいつはデュランダル1本で戦っていた。どこで手に入れたのかは教えてもらってない。ただ、普通の剣と呼ぶには、少なくとも並外れたものではあったな」

 

デュランダルが身を乗り出す。

 

「というと?」

 

「あのデュランダル、攻撃が的中する度に、何故かローラン自身のパワーが上がっていく効果があったんだ。攻撃を当てるたびに威力が上がり、それでまた当てて威力を上げる……そんな剣だったな」

 

「そんな効果が……もしかして遺物の類いですか?」

 

「そうかもしれないな。あいつが一言でも教えてくれてたら分かるんだが……」

 

「まあ今となっちゃ分からないね〜」

 

「ああ……ではそろそろ俺は失礼する」

 

「おっけ、またなんかあったら頼ってね」

 

「お気をつけてオリヴィエさん」

 

オリヴィエが退室すると、部屋には再び静けさが戻った。

 

トランセンドは、机の上の書類を見ながら、ぽつりと言う。

 

「ローランさんのデュランダルとFurioso……か。……ウチとしても結構気になるね。せっかくだし、今度図書館行こうかな」

 

フリオーソが即座に顔を上げる。

 

「協会長、ダメですよ。仮にも不純物に指定された場所に12協会の協会長が行くなど……ディエーチ協会のゼンノロブロイ協会長の例は特例だったのですから」

 

「ちぇ〜」

 

デュランダルは、しばらく黙っていたが、やがて机の上の資料へと目を落とした。

 

「……デュランダル……遺物の剣……」

 

「デュランダル本部長? まさかローランさんの剣を欲しいって思ってるわけではないですよね?」

 

「そ、そのようなことはありません!」

 

しかし内心では、

 

(凄く欲しい……! 私と同じ名前の剣……!)

 

と、かなり分かりやすく心を奪われていた。

 

フリオーソは、そんなデュランダルを見て、半ば諦めたようにため息をつく。

 

「……協会長、どうしても行くというなら私も着いていきますからね。くれぐれも無断でいかないように」

 

「はいはい、分かってるよん」

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