キクルくん、お前もう幸せになっちゃえよ!!





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恋と呼ぶには焦れったい

 

 

 

 よく考えれば、俺という人間は大層に自己中心的な男だったのだろう。

 多くの人々を救いたい。別に英雄視されたい訳でも賞賛を我が物にしたいとも思ってはいないが、ガードを続ける理由なんてその位でしかない。

 

 いや、正確には《その理由しか存在しない》のだろう。

 

 だから俺は間違えた。自分を悉く蔑ろにしてまで他者を助けたい自己犠牲なんて思っちゃいないが、少なくとも俺自身を使って誰かが助かるなら迷わず身を呈する。

 

 

「⋯きくる」

 

 

 疲労感が妙に襲ってきていた。メイデナに縋りつかれる午後十時、何故かこいつは突然に俺の家に来て早々熱烈なハグを展開してきた。

 ともあれば取る選択肢は当然一つ、此方から問い掛けても一向に返事をしないメイデナを急ぎ自宅に連れ込み(決して邪な考えがあった訳じゃない)により、なんとか警察に連行されメブキのエース犯罪か!?の見出しを回避。最近はやけに噂が立っていることも鑑みれば最善の手段だろう。まぁ俺がいくら犯罪事案を回避しようと疑惑は降ってくる。災難なことに。

 

 しかし、メイデナをこのような時間に家へ連れ込むのはもしかしてヤバいんじゃないのか?と今更ながら焦りが背中を撫でた。こいつと俺は同じパーティとはいえ、あちらは学生。未成年に手を出したとなればそこでガードも人としての人生も終了である。

 

 

「お、おい⋯メイデナ?話なら明日にでも聞くからさ、今日は帰った方が⋯」

 

「嫌。きくる、離れないで」

 

「いや離れないっていうか⋯お前がくっついてるしな⋯」

 

 

 そう、いくら帰るよう呼び掛けてもこれである。メイデナがひたすらに俺の名前を呼び、離れないで⋯と。もはや会話が成立しているのかすら不鮮明だ。

 

 

「とりあえず⋯まぁ、上がっていくか?さすがに玄関前で抱き着かれても身動き取れないし」

 

 

 結局、俺は根負けした。メイデナが俺の家に来て早くも三十分が経ち、俺から白旗を上げた形となる。つうか俺、なんだかんだこいつらにとことん甘くないか?自宅っていうのはひとりで安らぐもんじゃないのか──────

 

 

「⋯あの、メイデナ⋯さん?さすがに歩く時くらいは離れても」

 

「だめ、嫌」

 

「返答早いなおい。あと俺が言い切る前に明言するのやめてね」

 

 

 なんて甘い考えを捨て去り、俺はメイデナを家に上げた。といってもこいつからしたら俺の家は何度も来ているし、今更新鮮味もないだろう。精々親戚の家に来たくらいの楽しみなのは想像に容易い。

 

 

「それで、だ。こんな夜に何しに来たんだ?連絡ならメッセージでも送れるだろうに」

 

「⋯⋯たから」

 

「⋯ん?」

 

「⋯キクルが、心配だったから」

 

「心配?⋯ここ最近、お前に心配を掛けるようなことをした記憶は無いが」

 

「─────ばか!だってキクル、私の代わりに串刺しにされちゃったじゃない!」

 

 

 メイデナが抱きついたまま居間に腰を落ち着かせるも、続け様に問いかけた俺への返答は声を荒らげた激しいものとなる。

 串刺し⋯といえば、あの時か。アレは確かにメイデナを庇ったものではあったが、結論として俺がメイデナを守り切れなかった責任を果たしたまでのこと。こいつが気にする必要もないし、ましてや自分のせいでなんて考える意味もない。全て俺がやったこと、しでかした失敗だ。

 

 

「あれは俺自身のミスだろ。もう少し早く、迅速に動いていればお前に怖い思いをさせずに済んだ。そもそも、あの場にメイデナを連れて行ったのは俺だ。なら俺は連れ出した責任を果たして守らなきゃならない。⋯単に俺の力不足で刺されただけだ」

 

 

 そうだ。あれはメイデナに非は一切なく、むしろ自分の失敗のツケが回ってきただけのこと。こいつが気に病む必要は全くないんだ。

 

 

「すまん、メイデナ。俺がもう少し強ければ⋯」

 

「⋯ばか。ばかばかばかッ!私が聞きたいのはそういうのじゃなくて⋯!」

 

 

 俺の謝罪はどうやら受け入れて貰えなかったらしい。座り込む俺の隣で、腕にしがみついてほろりと涙を流すメイデナを横目に己の未熟を恥じるばかりだ。

 力がない。誰かを守れると思っていても、上には上がいる。マナが枯渇したままの不完全さが今、呪いとなって俺を襲っている。

 

 でも、結果として俺はメイデナを守ることが出来た。多くの人たちを救うことが出来たんだ。ならあの怪我だって無駄には──────

 

 

「キクルは何にも悪くないッ!でも、だけど⋯私の為に傷付いて、血もたっぷり流して!それでも立ち上がって、最後まで戦って⋯私、わたしは⋯」

 

「メイデナ⋯?」

 

「⋯怖いの。キクルがいつか誰かを守って死んじゃうんじゃないか、って。この前みたいにわたしを庇って、もしかしたらなんて最悪なことも頭を過ぎって!」

 

「⋯ごめん」

 

 

 言い放たれたのは辛い声色だった。俺の無責任な人助けを責める、そんな口調ではない。俺自身を責める意図も、説教する雰囲気もなく。

 

 ただメイデナは、俺の事を心配してくれている。

 

 俺の代わりに涙を流して、辛さを口に出して。若干15歳の少女に対して、俺はなんて役目を押し付けているのか?

 

 

「キクルはきっと誰かを助けるためなら平気で身を乗り出すんだよね。ヨケグモの時も、コダマの山の時もそうだったもん。だから⋯辛くて、胸が⋯締め付けられるの」

 

 

 涙が服の袖を濡らす。今だけは騒がしい思考も鳴りを潜め、目の前の少女が漏らす本音に耳を傾ける。

 

 

「もっと自分を大切にして、なんて守られてるわたしが言えることじゃない⋯でも、ね?⋯⋯キクル、聞いて」

 

「⋯メイデナ」

 

 

 ああ、やっぱり。こいつはとことん良いやつで、俺はとことん最低な男だ。それがいま尚更染み付いて、俺自身を嫌悪しだす。

 メイデナを泣かせたのは紛れもなく俺だ。心配になって家に来たのも、抱き着いて擦り寄るのも。全部が全部、俺が元になってるんじゃないか。

 

 何処まで高を括ってる、キクル・マダン。これはお前が撒いた種だろ。

 

 

「分かった。⋯もういいんだ、メイデナ。こうしてお前が訪ねに来たのも涙を流させてるのも俺が、そうさせてしまった。だから⋯」

 

 

 だが、俺はいつまで経っても変わらない。確か⋯イズさんが言ってたな。子供は子供らしく、なんて。あの時は子供扱いするなって思ったりはしたけど、今ならその言葉の意味がよくわかる。

 いっそのこと、逃げてしまえたらどれほど楽になるだろう。きっとこの後に続く言葉を、メイデナが告げる一言を俺は分かっている。分かっているからこそ逃げたくて、子供みたく話を切り上げようとする。

 最低な自覚はあった。むしろそんな嫌悪しか俺にはない。幼少期から、正確には記憶が無くなって後のこと。俺がガードを目指した頃から性根は何も変わってないんだ。

 

 だからメイデナ、もう何も言わなくていい。全部分かっている。分かったから。

 

 

「逃げないで、キクル。だめ、ちゃんとわたしを見て」

 

 

 そんな俺の甘い考えは両手の温かさで遮られる。頬を挟まれ、顔を強制的に固定されて。至近距離にはメイデナの可愛らしい、涙を溜めたままの表情があって。

 

 

「違う、逃げてはない。これは⋯」

 

 

 逃げじゃない。そうだ、俺は逃げてなんか⋯いない、はずだ。なら、どうして言い淀んだりする?正当な理由があれば説明すればいいだろ。

 

 

《本当は分かってるんだろ、臆病者》

 

 

「そう、だ。そろそろ喉乾いてきただろ⋯?お茶、入れてくるから」

 

 

《お前はこうして''また''逃げ出すのか?》

 

 

「メイデナもさ、あんまり長居してると問題になる。だから⋯」

 

 

《いつもみたく突き放すのか?そうやって、お前は孤高を気取って》

 

 

「⋯だから、さ。メイデナ。頼む──────」

 

 

《もうお前は突き放せないんだよ、臆病者》

 

 

 

 

 

 

 

「わたし、キクルのこと⋯大好きだよ」

 

 

 言っちゃった。なんて事後みたいな感覚で、私の目の前にいる男の人を見る。鍛えられた肉体に、柔らかい目付き。時々鋭くなったりするのも格好よくて、しかも強くて。

 人助けをするのも当たり前で、誰かを救うためなら自分の安全なんて度外視で─────そうやって私はキクルに守られて、こうして生きている。

 

 好きな人。キクルとパーティを組んで時間が経つほど、どんどんなその気持ちが膨らんできた気がする。初めはこの人がメブキのエースなの?なんて思ったりスケベなひととか思っていたけど、色んなことを経験していくうちにキクルのことが沢山わかってきて。

 

 そんな彼だから私は好きになった。こんな私をここまで見守ってくれて、ありがとう。そう言いたかった。

 

 

「好き、大好き。もしキクルが自分のことを嫌っていても⋯私が全力であなた自身を好きにさせるから」

 

「メイ、デナ⋯」

 

 

 でも、こんな顔を見たら感謝よりも先に想いが出ちゃってたみたい。だって⋯酷く子供が現実逃避するみたいに目線を逸らして、今にも離れようとしてるんだから。

 

 これは聞いた話だけど、キクルにはマナが一切ない。そんな人が必死にガードの技術を身につけて、人を助けて。きっと並外れた努力をした上に今のキクルがあって、その過程で彼は自分の矛盾⋯みたいな、力をつけているのに無力感に苛まれる感覚を味わっていたように思って。

 

 寂しい笑顔だった。今の目の前にいるキクルが、縋り付く眼差しで私を見つめる彼の顔が─────とても愛おしくて、微笑ましくて。

 

 

「キクル、わたしはね?あなたと出会えて本当に良かったって思う。こうしてガードとして生活して、みんなと出会って。ここまで来られたのは紛れもなくキクルのおかげ」

 

「いや、それは⋯」

 

「今頃キクルが居なかったら⋯わたし、魔物の苗にされちゃってたかも、だし。だから誇ってよ、キクル。誰も功績を認めなくても、努力を知らなくても。わたしはキクルの全てを肯定したい」

 

「それを、して。何の意味がある?」

 

「意味ならあるよ。みんなを助けてるキクルのことを、今度はわたしが助けるの。辛かったら撫でてあげて、寂しかったらそばにいて。もし夜のお世話、とか⋯そういうのも、してあげても⋯」

 

 

 普段なら絶対にツッコミが返ってくる所で、キクルは頬を真っ赤に染めてた。なぁなぁで受け流されるのが多かったのに、今日のキクルは──────

 

 ごめんね、みんな。わたしはちょっとずるいことを今からするつもり。でも、許して。キクルを想う気持ちは誰よりも強い、わたしが一番って想ってるから。

 

 

「おいで、キクル。わたしの前でなら⋯弱音を吐いていいから。辛いこと、悲しいこと。全部わたしに聞かせて?」

 

 

「そうしたら⋯少しでも自分のこと、好きになってくれると嬉しい⋯なんて、そう思うの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







久々に執筆してみました。やっぱりキクル、お前は幸せになってくれ。



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