翡翠よりも美しく 作:O0 rn rm %$
「 」
「 」
「 」
「うん、わかった」
流石に不味い状況かも。
「どうしよう……」
あのあと、学校から家に帰った私は夕飯代わりの完全栄養食(不味かった)を摂ってから、白石さんと約束した通り『例の店』を訪れた。
「 」
「 」
「 」
「やっぱり、なんだか変だ。さっきまで人の喋り声が聞こえてたのに……急に静かになったような……」
訪れたまでは良かった。けれどもとうとう聴力にも限界がきたようで、高音の耳鳴りによって周囲の声が掻き消える。
流石に今日まで続けてきた無茶が祟ったか、と。例の「口実」によってオマケされた、やや大きめのチョコチップクッキーと一緒にコーヒーを一口。
「んまい」
「そりゃそうでしょ。……ところで聞きたいんだけど、本当にコーヒーで良かったの?」
「なんで?」
「エナドリ常習犯だって話を聞いて……さすがに別のにした方が良いんじゃないかって……」
あの噂を本気にしてる人がいるとは思わなんだ。流石に嫌いな液体を毎晩啜れるほどメンタルが強くないにせよ、毎日のんでるのは事実だ。誰か知らないけどぴたり賞だよ。
「流石にそれはない。いちおう長生きはしたいし、そもそもアレは……味が好きじゃない」
「そっか、なら大丈夫だよね」
「うん。ただちに影響はない、とおもう」
「えっなに、「ただちに影響はない」ってどういう事!? ちょっと怖いこと言わないでよ!!」
杏のぎょっとした顔を見て笑ったあと、意味ありげに「冗談だよ」と返して鞄からスマホを取り出す。スワイプするまでもなく、画面にはチャットの送り主が表示されていた。
―――ライブハウスの「toe beans」、バンド「STANDOUT」のイオリさん。あとは稀に作曲のための隠れ家として使わせてもらってる、演奏スペースがある古物屋さん「塔の屋根」。
toe beansは……何やらライブを予定していたバンドのメンバーが体調不良だそうで、急遽――といっても明日だから時間はあるけど、とにかく急ぎ代打が欲しいのだそう。
次にSTANDOUT……イオリさん、ごめん。toe beansと日程が被るから、今回は同時参加はパスで。また今度いっしょに対バンしよう……こっちは一人だからウルトラアウェーだけど。
そして最後は塔の屋根……『曰く付きのチェンバロが手に入ったから調律してほしい』じゃないでしょ、あんの髭もじゃジジイ。あなた何言ってんですか呪い殺す気ですか私を。馬鹿なんじゃないの?
とりあえず古物屋以外には返事をしておく。あのお爺さんに関しては知ったこっちゃないが『勝手にやってろ』、『もしもが起きるとまずいから、お祓いだけでも行っておいて』とだけ。
「やんちゃだなあ」
「やんちゃって、だれが?」
「んっとね……気にしないでいいよ。こっちの話だから」
爆速で既読を付け超特急で返信してきた御年いくつかの老爺へと、軽くスタンプ爆撃をやってスマホをしまう。
「話がそれちゃったね。……それで、なんだっけ?」
「うん。聞いて、実は今度ね―――――」
たのしそうに話す彼女と私は親友といえる間柄だろうか……などと考えながら。すうとコーヒーを飲んで杏の会話に聞き入る。
喉の底から這い出てきそうな違和感は、気付けば少しばかり消えていた。
長い雑談が終わり、WEEKEND GARAGEを出てしばらくして。
「―――翠さん来ました! ベースすぐにできるそうです!」
「急げ白川ー!! 本番まで残りちょいっとだけしかないぞー!!」
「ごめん遅れた――って、うわ。見るからにやばそう……大丈夫?」
大急ぎで向かったtoe beansの名物バンドの状況は、あまりよくなかった。
「なにがおきてるの?」
「わかんない、けど……もしかすると昨日
「――たしか昨日の時点でどこか調子が悪そうだった、はず。だから何か変だったら言えってあれほど……」
「へえ」
目立たない場所で、ベース担当がボーカルに背中をさすられながら、ぜいぜいと苦しそうに息をしている。
「…風邪じゃない?」
「違うとおもう」
「ふむ、なんだろ。ねえーいまどんな感じー!?」
こちらの大きな声に対して、物陰の二人は首を横に振って反応した。
答えられないのか。ならば仕方がない。私は慌てるスタッフに駆け寄ると、さっと自分のライムグリーンのギターとスケジュールを
「手が空いてる人はベースの人お願いします、あとの人も早く!」
「あとちょっと!!」
「了解、先に出て茶ぁ濁しといて! わたしの扱いは雑にサプライズと!」
「どう説明すればいいのそれ!? でもわかった、なんとかやってみる!!」
ああ忙しい。願わくば、不評はよしてくれ。
皆が表で頑張ってくれている間、ベースの無事を祈り、裏で登場のタイミングを見計らう。色のない景色を変えてしまう音を探しながら。
「三、二、一、……よし!」
実のところ、耳がまだ回復していない。
『________♪』
景色の方も、白黒とカラーを行ったり来たり。
それでも頼られたのだから。頼ってくれたから。
だったらもう、上手くやらなきゃ意味がない。
あの子の
「 」
「 」
「 」
「 」
めいいっぱい、役者の如く手を動かせ。
「白川!」
「……っ、あぇ、……?」
精一杯に手を動かせば、きっと―――。
「白石さん、なんで……」
「なんでって、それはこっちのセリフ!! 気になってみにきたら突然たおれたんだよ!?」
……きっと。
「みんなは、ライブは……代打は?」
「そりゃもう大成功。翠のおかげで助かった、ってさ。……でも今度から、倒れるのだけは絶対にやめて!」
「じゃあ、どうすれば……」
「無茶しないの!」
いつか、必ず。
「失敗したか、ははっ」
「いや。失敗じゃなくて不養生だから。でも演奏自体はすごかったよ、ほんとにね」
自分を壊せるから。