翡翠よりも美しく 作:O0 rn rm %$
どうしてこうなった?
宵崎さんと連絡先を交換して別れたあと、第三の選択肢たる公園へと訪れていた。
家だとヒトの距離が近く、あの骨董店にいたってはホラースポットと化してしまった以上、この場所を除いて他にベストスポットがなかったからだ。
「――――いるんでしょ。煙に巻いた件について聞きたいから出てきて」
『……ばれちゃってたか。そうだね……あたしは確かに、キミにテキトーを言った』
多少の仮眠をとったせいか頭が回る。
大きな遊具の陰に隠れて辺りを警戒している私を見て、やれやれといった仕草をする彼女。自宅から若干距離があるとはいえ、誰が来るかわからない以上は警戒して当然だろうに。
『流石にいざってときは隠れるから安心して』
「どう信用しろと。既にこっちはあなたに騙されたんだけど」
『いや騙してはないから! というか、でっちあげでも言わなきゃ帰んなかったでしょ!?』
御託は良い。いま明確にすべきは、あの時の内容のどこまでが事実なのか。
人を集めるのなら今からでも動くし、それ以外だとしても同様である。求められたなら、自分は徹夜も躊躇わない。
「それで。どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか教えて」
『えっとね、人と出会ってどうこうは特に気にしないで大丈夫』
「ほかは?」
『「大変なこと」と「頼れる人がいてこそ」って話は、その、絶対に覚えといてほしいかな』
ミクは理由もなく石で遊ぶ私の質問に、後半を詰まらせながら機嫌をうかがうような声で答えた。べつに何かやろう、というつもりじゃないのに。
「ふーん……まあ分かった。話はそれだけ、もう戻っていいよ」
『ちょっ、ちょっと待って!? もう少し喋――』
「あ」
しまった、続きがあるとは知らずに切ってしまった。
「まぁいっか」
とりあえず家に帰ろう。
やっと帰ってきた頃には、既に外の景色はすっかり暗くなっていた。
家に上がって廊下を進み、リビングに入る。まだ両親が帰ってきていないかどうか、これからの作業のためにも確かめなければ。
「…ただいま~」
ぱちんと電気をつけても誰も見当たらない。これ幸い、と急いで二階の自室へ向かう。
一段、また一段と階段をのぼる。扉を開けてベッドに鞄を投げる。午後6時半を示す時計に目もくれず、PCが鎮座している机と向き合う。
ライムグリーンのヘッドフォンを身につけ、学校ではまとめていた髪をほどき、PCの電源を入れ、迷いなく「あるソフト」のアイコンへとマウスカーソルを動かす。
ここからは気分を変えていこう。―――文字通り、人格をも変えて。
「……よしっ!!」
音を並べて律し、そうして完成した音楽に『声』を並べる。
一通りの作業が終わったら、今度はペイントソフトでイメージを描いていく。
作業が終わるたびに作業を詰め込み、また作業をした。
遂にやることが無くなったらば学校の方をやる。途中、またしてもアイデアが浮かんでペンを動かす手が早くなった。
「よし、次は――」
次は動画だ。できあがった作品を世に出さないと。
ブラウザを開き、動画サイトにログインして投稿用の画面へ移動する。
一本一本の動画…計18本くらいのそれらを、大胆にも一気に、広くて混沌としたネットの世界へ投棄。既にこの時点で徹夜は確定しているが、気にせず配信でもしよう。
故郷の村だか田舎町だかで起きた惨劇から、今日で約六年になる。
村で一番名の知れた
存続か、ダム湖行きかの重大な会議を数日後に控えていた当時のお偉いさんは、まさに楔屋側の人だった。噂によるとかなり落ち込んでいたそうだ。
しかし それだけでは終わらない。
放火を疑った警察は最終的に「火事」と断定し、楔原家絡みの捜査を完全に終了。役場や学校行事等で粋がってたような教育関係筋も、事件翌日から無関係だと騒ぐか黙る。
しまいには楔屋家の誰かが翠を引き取り、更にそこから東京のどこかへと、彼女は養子に出された……という話である。
なんつー忙しない人生だ、俺なら途中でゲロはきそうだな。
などと同情しようとおもったら、今度は自分も巻き込まれたので驚いた。しかも特大の秘密を握らされるというハズレ役として、かなり唐突に。
何やら様々な重圧に耐えかねての相談だったので断り切れず快諾し、その代わりとして今後建つ予定の音楽ホールで演奏を聴かせろ、という約束をとりつけた過去。列車にのる寸前のアイツの悲しそうな表情。
記憶に新しい幼馴染の闇。結局は起死回生狙いのホール建設が頓挫し、あの田舎の風景も水底へ沈んでしまったけど……彼女はいま、元気にしているだろうか?
「――――――で。その幼馴染が、こんなド深夜に配信やってんだけどォ!? なんでえ!?!?」
『……さん、『ぶっちゃけこの人の名前は意味不明すぎるんで、チャンネルの「【・〗」から「ピリオド」って呼んでる』か。そんなに分からない?』
「うん、それはそう。だってお前さ、動画だす
元気にしてるとかの騒ぎじゃなかった。
彼女は現在、名称不明・正体不詳でネット界の大物音楽家をやっている。おれはなにをいっているのだ……?
アップロードされた音楽は、バーチャルシンガーを用いたものが八割ほどで、時折彼女自身が歌ったり。音楽だけ投稿する時もある。
「うんまぁ元気ならよかった。……いや良くはないか、説明がないと何が何だかわからんだろコレ」
困惑したってしょうがない。スマホにチャンネルのURLを転送して、チャットアプリ経由でほかのメンツにも情報過多をお見舞いしておいた。
| ●真南 | こんな時間にどうして こんな胡乱なチャンネルを…?? |
| ・LightCopper | 翠の声と似てたから |
| ●楔屋書店(大嘘) | 相変わらずのようで感心だ |
| ●真南 | 誰かと思ったわ あとすーちゃん、また一段と疲れてない? |
「……やっぱ反応に困るよな……」
そりゃそうだ。自分の勉強机に置かれたデジタル時計の表記が『23:12』に切り替わってもなお、あいつは画面の向こうで淡々としたトークを続けているのだから。
個人情報を特定するようなコメントはガン無視、スパチャを投げられても一切反応せず、誕生日を祝ってほしいというコメントの主をブブゼラのリアクションスタンプで拒絶。
只管に作業といやがらせと会話の垂れ流しに徹している(暫定)翠だったが、こんなでも一定の人気があるようで、世の中とは実に奇妙なものだ。
それはさておき。久しぶりに声を聴いて感じたが、やはり徹夜だけでなく心身の問題もあるのに、相も変わらず無理をしているらしい。
「くたばらないといいけど。――いや、今は同じ東京に居るんだ、直接連絡を取ればいい」
善は急げ。チャンネル概要欄を探り、見つけたリンクからSNSに飛んでダイレクトメッセージを送る。
「『久しぶり、河原臣です』『覚えていますか』っと。なんか詐欺DMっぽいけど知り合いに送るやつなんだし、こんくらい別に大丈夫だろ」
送信ボタンをクリックし、眠い目をこすりながら配信の画面に戻る。配信では、ちょうど見慣れたアカウントがブロックされていた。なにも大丈夫じゃなかったようだ。
『誰だコイツ……知らんが……』
「ひどくない? 偽名とはいえ実質実名で送ったのにひどない?」
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| ●真南 | やあ、身内ネタ送ってシカトされたネットストーカーお疲れ! |
| ●楔屋書店(大嘘) | プライバシー保護がなされていようとも、我々にはおまいのアカウントだと筒抜けですw |
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「ええい笑うな、笑うな!! あとネットストーカーではねえからな?!」
盛り上がる親友たちの茶化しに振り回されながら視聴を続けると、俺はあることに気が付き違和感が膨らんだ。
過去の翠の人柄というか人となりと比べるに、彼女は今、人格が切り替わっているのではないか。人への接し方も、こんなに砕けてはいなかったはず。
「よし、呼び出すか」
| ・LightCopper | 明日の打ち上げに呼ばね? |
| ●真南 | いけんの? |
| ●楔屋書店(大嘘) | 白川なら確実に乗ってくる、楔原なら拒否に9,0000ドル |
| 真南 | うちは50アルゼンチンペソで |
どうにも信用されてないな…と悲しくなったけど、それはそれ。『Jaded』という名前を前に退くつもりはない。
楔屋の人間として、彼女が遠くへ行ってしまう前に。
こんなにも近くに信頼できる誰かが居たのだと云えなかった身として、何としてでも白川翠を。
あの日、一度は消えた彼女の願いを、今度こそ