翡翠よりも美しく 作:O0 rn rm %$
疲弊、批難、混沌、混乱
今日の学校は忙しかった。
「白川さん、どうやら年貢の納め時のようだね」
「今日こそは逃がさんぞ!!」
「なにから聞こうかな~?」
「面倒なので帰りますね。…だめ? ……そっか、それなら失礼します」
両サイドを変人ワンツーに、後ろを東雲(弟)と暁山に囲まれた状態で、ライブで倒れてしまった件に関して白石から詰め寄られ。
解放されたかとおもえば別の人たちに捕まって、根掘り葉掘りと『ピリオド』と自分の関係性について質問攻めをくらい。
「――なんとか今日も終わった。てか、あいつらどっから『ピリオド』がどうとか、ってネタを仕入れたんだろ……」
下校時間には既にヘトヘトになっていて、昨日までと比べて“よりそれっぽい感情”が芽生えてきているのを直感。このままでは偽物の人格に呑まれるのではと恐れを抱く。
人格を切り替えようにも一定のストレスか条件の達成が必要だし、そもそも論として今の私がどういう存在なのかもあやふやなため、なんとか抑制を効かせたいのだけど。
でも、そんな私を嘲笑うかの如く、今日は普段以上に平和な時間ばかり。
最悪の場合、どうにか意図的に切り替える必要がありそうだ。
なんて考えながらお茶を飲んで、言語化しがたい違和感を背負ったまま歩き出す。
どちらかといえば私は、全くもってジンクスだ何だといった類を信じちゃいない。
「…あっ!? おまえも神高だったのかよ!!」
「久しぶりだね、翠」
「……こうして再び出会うとは。つくづく君も、幸運というやつがないな」
「楔屋
しかし同時に信じてもいる。なぜなら今の状況は運命ありきだから。
「こうして会えたが数年目、つーわけで。白川さま、ものは相談なんですが……」
「云わずとも理解できる。早い話、LightCopperの打ち上げに参加してほしいんでしょ」
「おおっと、知ってたんなら早く
「ストップ。決める前に一つ確認しておきたいことがあるから、正直に答えてね?」
にこやかに笑ったまま良へと急接近。可能性としてあり得るのは彼と、もう一人。
「――ピリオドと私が同一人物だと漏らしたのは貴方?」
「それは、その、ごめんって……。まさか身内に口の軽いヤツがいるとは……!」
「うちの兄が本当にごめんなさい!!」
「…ああ、秘密にしておくべき情報と知っていれば黙していた」
嘘を言え。
あつい抗議の念がこもった私の視線を気にせず、幸治は薄気味悪い微笑みを浮かべて続ける。
「どのみち知られるのであれば、いっそ早いほど良いというのに」
「…………嫌味?」
彼は首を横に振って、何かのプリントを渡してきた。
「残念だが――キミと良の約束は勝敗のつかぬまま、水底へ流れることとなった」
「ねえ、良。もう一度聞くけど本当に、あの町は、この写真のダムの底?」
「残念ながら、な。……なんでも建設会社が経営破綻だかでトンズラこいたみたいで、ホール建設も間に合わず――――」
「――――結果としてこのザマ。本当に申し訳が立たないったらありゃしねえや……」
「べつにいい。おかげで良以外の誰かに、あの秘密を暴かれる危険が無くなった。勝敗以外は大満足も大満足だよ」
「なあ。まさかとは思うけどさ、これも
「プランEくらいのやつとはいえ計画通り、面倒事は水で流すに限る」
「あーあ、また陰謀だ!! このパターン前にもあったぞ!?」
私たちは一度帰宅したあと、ファミレスで再会し、親睦会ついでに今後の話し合いと情報交換をしていた。
「あとは今後のことだけど、あなた達はどうするの」
「こっちは気楽にやるつもり。音楽のほうで色々と試してみたいものがあるし、勉強もやらないとだし。――あ、兄さんはどう?」
「同じだね。むしろ聞くけれども、翠はどう考えている」
「考えてるって、なにが?」
「著名な音楽家等とのコラボ動画を複数出していたチャンネルを消すほどだ。……何か目標・目的があるのでは? あるいは、消したいだけの理由があったとか」
彼らはよく喋る。良は相変わらずリアクションが大きい。坂塚兄妹はお互いにマイペースながらも踏み込んだ会話など躊躇せず、まったく迷いがない。
「三人とも凄い喋るね……」
「まあ、喋らないと死ぬタイプのマグロみてーなもんだからな、俺らは」
「そっかあ。それにしても――――」
やはり坂塚の家は油断ならない。猫も杓子も聡明ばかり。
「――――二人はやっぱり、あのチャンネルが消えた理由……気が付いてたんだね」
確かに、不定期かつ短期間で名前や動画のタイトルなんかを変えていた珍妙なチャンネルが突如として消えていたら、誰だってすぐ気付くか。
うん、これは自分の落ち度だな。まあ、それはそれとして――などと色々考える。
あれこれと子供らしからぬ策謀や思考に時間を費やすのは、楔原としての『私』の名残だろうか? そんなのどうだっていい。
所詮、楔原は金と名声欲しさに楔屋と対立したあげく、事が上手く運ばない事に腹をたてて……。これもどうだっていい話だ、やめとこう。
場面を自身の独白からもどす。あれやこれやと頭を働かしていた間に話が進んでいたのか、ふと顔を上げた所、三人ともこちらの様子をうかがっていた。
「なにかあった?」
「…………そりゃっ!」
「むごぶっ――!?」
「話を聞いてなかった輩にはポテトを突っ込んじゃる」
これだけ?
違う、唇がわずかに動いた。
「皆の予想はあってる。『ピリオド』と『Jaded』は同一人物だよ。両方とも、自分が管理してるチャンネルで正解」
「じゃあ
「でも、認めない。どちらのチャンネルも消えた以上は、双方とも業界から消えたと同然」
どちらかのネームバリューにあやかれば、いくらコンピューターミュージック社会の屑鉄と揶揄される「LightCopper」といえど、出世の可能性を僅かながらに握れる。
だから消した。
こっちは好き好んで「RAD WEEKEND」を追っかけたり、アイドルの情報を収集したり、「STANDOUT」や有名音楽家と接触したりしちゃいない。
情報が貴重だからこそデータとして集めているだけであって、本音を言うと学校やコレなんかよりライブハウスとかをハシゴしたい。困りごとの対応してる瞬間が一番たのしい。
「ということなので、諦めてください。あともう一個いっとくと楔原翠として対応されるの嫌いだから、そっちの翠は死んだことにして!」
「そんな、天下の白川様ぁ~……そこをなんとか~……! だめですかぁ……?」
「なるほどね。私のコンディションが最高だけど最悪な日に呼んだ理由はこれか、呆れて物も言えないってこういうのか!」
「真南、ここまでにしておこう。人格分裂は強いストレスのみで起こり得る」
(――いや、楽しい……?)
なんだかモヤモヤする。
(わからないけど、人は「好きなこと=楽しい」らしいし……でもアレって、私が『好きなこと』だっけ?)
考えなくていいだろ、そんなの。
常識的にさ、これ以上は限界なんだって、解るだろ。
「……ッ!」
「翠!?」
「…おい大丈夫か!?」
頭を軽くたたいて、呼吸を整えた。
みっともない姿をさらしてはならないので、ここからの自分は翡翠の欠片のひとつ。
「うん、大丈夫」
切り替えよう。混乱に埋めた自我を引き裂いて、その残忍な一部をもって
もぬけの殻に偽の主体性あれ。
「はぁ……わかった、考えとく、考えておくから机に突っ伏さないで」
「本当か!? おっしゃあ!! 巻き込めるぞ、あーでも何やろうか?」
「ひとまず今日は忙しいから返事は明日。あとうるさい、他の人に迷惑!」
きっとなんとかなる、はず。