翡翠よりも美しく   作:O0 rn rm %$

9 / 9
吉か凶か

 

 ちょっぴり刺激的なスカイダイビングを体験したあとのこと。

 

 

「――――それで、翠。何か言い訳はあるかい?」

 

「ないです」

 

「よろしい。あなたのセカイは他と違って『願い』そのものが原点なんだから、見失わないようにね?」

 

「了解です」

 

「特にさっきみたいに。あの地獄然とした光景は、確率としては非常に出やすいの。本当に気を付けてね?」

 

「はい、わかりました。二度と起こさないように気を付けます」

 

 

 私はなんとか地上へ降り立って例のアンティークショップを描き、そのまま店内から飛び出してきた『ある三人組』に捕らえられてしまった。

 

 その三名とは、

 

・腕を組み、正座した私を見下ろすKAITO。(以降“カイト”)

・同じく腕を組んで見下ろすMEIKO。(以降“メイコ”)

・心配そうな表情をした巡音ルカ。(以降“ルカ”)

 

 ………以上である。頼むから1VS3の説教は勘弁してほしい。

 

「質問だけいい?」

「もちろん。なにが知りたいの?」

「いつから此処にいたのか知りたい。ミクはあっちでむすっとしてるし、聞けるのはたぶん貴女たちだけ…のはず」

 

 ほらあそこ、といわんばかりに指をさした場所には更に二名。仲良くミクをはさんでポーズを真似している双子が立っていた。

 

「……あとなんでリンとレンも……?」

「あの二人はついてきたの、どうしてもって」

「じゃあ三人は――」

「ほら、私たちは……翠が()()()()()と、また仲良く(?)なれたでしょ?」

 

 メイコは「おかげさまで出番が生まれて、それで…ってこと」と会話を続けながら、後ろ手かつノールックでカウンターのど真ん中を探り、邪魔な位置に陣取っていたサボテンを器用な動きで端へと寄せる。

 

 肝が冷える。

 

 でも何故か、横着したって稀にしか失敗してなさそうな姿が、なんとなく坂塚兄妹の妹を彷彿とさせるような……させないような……といった感じだ。

 

「横着というか、ダイナミックというか。…勇気ありすぎじゃないかな」

「そうでもないと思うけど。だってこんなの、慣れれば誰でもできるじゃない」

「そのうち刺さるよ?」

「たしかに刺さるかもしれない。でも、慣れさえすれば、あとは上手くやれるでしょう?」

 

 ああそうか。そういう事か。

 合点がいった。メイコが妹の方なら、ルカは兄の方と似ている。

 

「じゃあ、カイトは楔屋と似てる?」

「流石だね、大正解!! そんなキミには猫のストラップをあげよう!!」

 

 どこぞの黄色と比べると多少劣るが、やけに元気で冷たくあしらうと若干本気でショックを受ける。

 

「いらない」

「えっ……!?」

 

 やっぱりこっちもか。

 

 

≅ ♪ ≅

 

 

「話がながい所も忠実に再現する必要なくない?」

 

 

 長時間の拘束からようやく解放されたあと。私はいつものライブハウス――『toe beans』へ向かった。

 

 なにやら一つ二つと大きな企画を明日に控えているそうで、緊急で手伝いに呼び出されての即刻戦力投入。現場にあるまじき『またしても何も知らされてないアルバイト』が爆誕した。

 しかも当の現場は大混乱。男性陣から悲鳴さながらの指示や怒号が飛び、女性陣も大慌てでセッティングをこなしている。

 

 責任者はもうちょっと、こう、ちゃんと考えてほしい。

 

「…白川さん? さーせん、そこどいてもらってもいいすか…?」

「あぁ、ごめんなさい。ちょっと考えごとをしてて――はい、どうぞ」

 

 退くや否や、申し訳なさそうに来た金髪の女性が「あざっす」と、私が突っ立っていた位置に椅子を置く。咄嗟に、棒立ちで考え事をしていたので邪魔だったかなと謝った。

 

「いやいや大丈夫ですって! うちの変な爺さんと違って可愛いし。それにそんな、邪魔とか全然! まったくないです!」

「そっか…それなら…いいのかな? ……って、すごい偶然。もしかしなくてもアケミさん、弟さんいませんか?」

「ちょっと待って……えっ、スゴ!? この名字って地元だけらしくて、こっちだと結構いじられるんすよ!! 弟というには年齢(トシ)離れてるけどいます!!」

 

 謝ろうとして、不意に目が名札に留まった。名前欄に『楔屋明実(アケミ)』という文字が、ものすごく達筆で書かれていた。

 

「そういや向こうでなんか聞いたような。――あっ、白川さんって白川なる前、楔原とかでしたよね!」

「やっぱり知ってたか。なんというかショックというか、どうしてだろう……イヤ~な感じがする……」

「やっべえデリケートな話だ!! ホント、本当にごめんなさい!!」

「嘘だよ」

 

 驚いた表情も何時ぞやのアイツとよく似ていて、どこをどう取っても姉弟なのだと伝わる一挙手一投足がやかましい。

 

 強いて言えば、似ていないのは顔のパーツくらいだろう。

 彼女はどちらかというと坂塚寄りで、楔屋家の“血”や私とは異なっているのだから。

 

「あっそうだ。このあと暇ですか?」

「いやあの、せめて年上を誘いなよ。弟と同年代に頼んでも無理だって」

「実はすこし、面白い喫茶店を見つけて。でも時間帯をね、かんがえると……こう……もう一, 二人くらいと行きたいんすけど…………」

 

 まるで話を聞いてない。

 

「ワタシ高1、コノ時間帯ハコチラモ怪シイ。オーケー?」

「行きませんかWEEKEND GARAGE」

「聞いたことある店名でてきちゃった。でもいかない、既にグレーゾーンを攻めてるもの」

「帰りは送ってくんで無問題、ほら行きましょ?」

 

 聞く耳持たず。

 

 どうしようもないので、いったん仕事をもらいに人が多い場所へと動く。

 しかし、明実さんも諦め悪い性格なのか話の途中で気を抜くと、気付いた頃には横に移動してきていた。

 

 なんと恐ろしいことだろうか。楔屋家の家柄と本人の性格が色々とブーストをかけているとはいえ、これほどとは。

 このままでは諦めてくれなさそう、ということで二度目のWEEKEND GARAGE行きは明日に決定。

 

 強引に放課後へ予定をねじ込んでおく。

 

「明日の放課後なら、今のとこは大丈夫そうです」

「よしよし、こーれは脈アリ!」

「なんだこいつ」

 

 ほんとになんなの……。

 

 困惑しっぱなしの私を置いて、大学生くらいの背丈の彼女は勝手に話を進めていく。

 家まで送ってくれるとのことで御厚意にあずかろうかとも考えたけれど、やっぱりやめておこう。なんか怖い。

 

「不審者っぽさ極まれり…?」

「ひどくないかな、流石に」

「でも、現状としてはかなり怪しいよ?」

「う~んド正論がしみるなぁ」

 

 スピーカー配置の変更作業をする間も会話が続くと、いよいよ相手に心を許してしまいそう。

 

「どうせ長話をするつもりだよね。自販機の水、おごってくれませんか」

「水でいいの? ほかにもいろいろと、例えばコーヒーとかもあったよ?」

「疲れたから水でいい。もう喋りたくないのに興味津々な自分がいて、とても悔しい」

「そっか、了解。これ終わったらいっかい外出ますか」

 

 

 これだから楔屋は好きじゃない。でも、楔原はもっと好きじゃない。

 

 

≅ ♪ ≅

 

 

「あの人に限界ってないのかな…?」

 

 

 明実さんは良以上にお喋りで、最終的な解散時間はバイト側の終了時間にプラスで十分ほどと、なかなかに伸びてしまった。

 

 もっと早く解散できていれば一人で帰宅できたし、予定通り目星の店舗・グループを片っ端からハシゴできていたのだが。

 

「――けど、送ってもらったから。あんまり悪くは言えない……かも?」

 

 そんなわけないだろ。

 

 今日できた事といえば、取捨選択とちょっとの手伝い。一番いそがしかった中学時代と比べると天と地ほどの差。

 海外経験が多い今の両親に難題を頼んで手に入れた生きがいが、時間がたつほど制限されていくのを感じる今日この頃。

 

 私はいつから強引でなくなったのか。

 あるいはいつ、こうも考えすぎな自分になってしまったのだろう。 

 

「わたしが考えすぎ? まさかそんな、ねぇ……?」

 

 ベッにあおむけで寝たまま、あの人がくれた水のペットボトルを観察する。

 

「私で考えすぎなら、皆は頭のなか真っ白で生きてるってことなのに」

 

 そんなはずはない。

 

 

 不意に、耳元に放り出されていたスマホのアラームが鳴った。

 

「もう時間か」

 

 いつものノートを手に取って、溜息交じりに放り投げる。

 

「今日もつかれた。アドリブでいこう、そっちの方がローコストだ」

 

 ボスンという音と一緒に、ノートが掛布団のふかふか海溝へと潜っていく。

 それを気にせずPCを起動させて髪をまとめ、ライムグリーンのヘッドホンを身に着ける。

 

「…………ん?」

 

 なんだか数が多い。

 

 有料プランにはいっているので、人数が多くてもボイチャ機能で通信障害が起きたりする確率は低いのだけど……それにしたって多い。

 ひぃふぅみぃ、ざっと四人程度――と数えた直後にまた増えた。不正アクセスだとしたらぞっとしないので、いちど両親を呼ばないと。

 

 いや、その必要はないな。

 

『さてはて…どうなることやら』

「おそかったね」

 

 直接きいてしまえ。

 

『すまん遅れやしたっと。今日の名前は、なんだこれ、数字?』

「わたしの名前より先になんかあるでしょ。――LightCopperさん、だっけ?」

 

 『……ごめん“翡翠”、駄目だった!! やめとこって止めてはみたんだけど、全然いう事きかなくて!!』と坂塚の妹。

 

 『まぁ賑やかな分、気合も十分に入ると切り替えよう。我らが明銅はいつも勝手ばかりじゃないか。もちろん翡翠の気持ちは理解するが……』と坂塚の兄。

 

 やっぱり楔屋良の独断だったか。

 やいのやいのと言い合いに発展した三人衆を無視し、混沌をBGMに来賓が誰なのか確認をすると、とんでもない集まりだと判明した。

 

 

 『kusabi Tadatsugu(楔屋忠承)』。『Kusabi Sono(楔屋苑)』。坂塚家の両親らしき、ふたつの初期アカウント。

 

 

「――――井戸端会議と違うのに困るんだけど?」

 

 

 まるで威圧だ。

 

 壁に耳あり障子に目あり、と言い逃れをするには難しいほどの。

 

 堅物の楔屋はさることながら、坂塚も堂々の張り込みとは、いささか子供に自由がない。

 そう考えると、彼らが意味も計画性もなく擦り寄ってきたのが当然に思えて、やるせない気持ちでいっぱいになる。

 

「はぁ、そういうことか……しょうがない。みんな、準備できたらおしえて」

 

 奴等が知りたいのは大方、これから私たちが決める内容が如何に今後に役立つのか…といった部分、で合っているはず。

 

 ならばやってやろう。狙うは初日にしてパトロンと信頼獲得のみ。

 

 

 

 

「事情と気分が変わった」

 

 机の引出しにしまってあったメモ帳とペンをとって、白紙のページを開く。

 

「私が最善策を考えるから、みんなの想いを聞かせてほしい」

 

 

 

 

 

 会議の火蓋は切られた。

 

 

 

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