オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
光良の提案により、総勢7名でのお泊り会の開催が決定した。
修学旅行のような人数だ。
「これから買い物に行くんだけど、皆は夕飯、何がいい ? 」
「ハンバーグがいい ! 」
「私はハンバーガー ! 」
「マヤっちはハンバーグで、心愛はハンバーガーね」
「あの、別々に作るんですか…… ? コウさん一人で…… ? 」
「店じゃこれの何倍も作ってるんだし、大した負担じゃないよ。 ちーちゃんは何がいい ? 」
「……では、マヤさんと同じ物で」
何か言いたげな様子の智乃だったが、結局これと言って何かを語るわけではなかった。
話したくなったら改めて来るだろうと考え、光良は買い物支度を始める。
「お、おにーさん ! 私もお手伝いします ! 」
「ありがとさん。お気持ちだけ受け取っておくよ。お泊り会なんだし思い出作らないとね」
「あ、あー……そうですよね……。ごめんなさい……」
迷惑がられたと勘違いしたのか、メグがしょんぼりしてしまった。
そんな気など光良にはこれっぽっちもなかったのだが。
このままでは気まずい雰囲気なってしまうため、光良はポッケを漁った。
「それと、俺のメモ帳。メグちゃんに預けておくよ」
「え、えっと……これはどういう……?」
「後から必要な物が出てくるかもだし、そうなったらこれに書いて送って欲しい。お願いね」
「は、はい ! 」
「ほんじゃ、行ってきます」
「い、行ってらっしゃいませ ! 」
我ながら神フォローをしてしまった……なんて、自画自賛に光良は酔いしれる。
無事メグとの誤解も解けたので、晴れ晴れしい気分で家を出れた。
◇
光良が買い物へと旅立ち、その背中を見送ったメグは、ニヤけそうな顔を必死に我慢していた。
「お、おにーさんの愛用してるメモ帳…… ! い、良いのかな、こんな大事な物……預かっちゃって……。あ、あと……紙なのに、なんとなく良い匂いが……」
「メグちゃんも良い感じに拗らせて来たわね。5分の1シャロちゃんってところかしら」
「拗らせてないわよ ! ! ! 」
「拗らせに良いも何もないでしょうに……。メグさん…… ? 食べちゃダメですよ…… ? 」
「た、食べないよ〜 ! ヤギさんじゃないんだから〜 ! 」
光良の脳内にいるキラキラしたメグはおらず、現実は息を荒げて震える手でメモ帳を握っていた。
「はぁ〜……幸せ〜……これから家宝にするよ〜」
「貸与品ですよね…… ? 」
「い、いくらで売ってくれる…… ? 」
「私に聞かれましても……」
財布に手をかけたメグは、本気の目で競り落としに来ていた。
「で、でも〜、おにーさんの本命はチノちゃんなんだから、チノちゃんがOKをくれれば──」
「ほ、本命って ! なに言ってるんですか ! わ、わた、わたしは別にコウさんの事をそういう目では見てはいなくて、家族同然ですし家族に恋なんてするわけなくて ! そもそもコウさんが勝手に言ってるだけでわたしは鬼嫁でもなんでもなくごくごく普通の幼馴染で ! いや、好きではありますけど ! 」
「チノってこんな早口で喋れるんだな……」
「と、とりあえず ! ! ! 私とコウさんは──」
「じゃあ、おにーさんのこと、貰っても良いかな〜 ? 」
「そ……れ、は……べ、別の話じゃないですか……」
「素直じゃないね〜」
早口から一転してゴニョゴニョしだした智乃。一同は微笑んだ。
あまりの辱めに、智乃は懐からノートを取り出す。
「くっ……殺してください ! ! ! 」
「切腹なら任せて ! 」
「紙でどうやって切腹するのよ……」
「ほら、指を切るみたいに」
「紙に全幅の信頼を置きすぎじゃない…… ? 」
念のため絆創膏を準備するシャロの横で、千夜は智乃のお腹に破いたノートの1ページを当てる。当然紙が折れて無傷。
一連の流れがクールタイムになったのか、智乃はぽそりと呟いた。
「だいたい……どうして皆さんは私がコウさんを好きだなんて勘違いを……」
「いや、だって……あかさまだし。コンたろーの周りに女が増えれば増えるほど、チノって荒ぶるじゃん」
「あ、荒ぶるとは ? 」
「お昼のグチの時間がすごい増える。コンたろーがずっとシャロの話ばっかしてるとか」
「えっ、わたしってライバル枠なの…… ? 」
「シャロちゃんはね〜。同棲カップルみたいな事してるし〜 」
「してないわよ ! 」
シャロの諸々が無自覚だった事に一同は内心驚きつつも、そっと微笑んで誤魔化した。
そんなシャロを反面教師にし、智乃は自分の手を見つめながら頭を整理する。
「私が……コウさんを──」
ぽそっと呟くと同時、店のドアからガチャリと音がした。
「ただいまー ! ねぇ、聞いて聞いて ! スーパーがタイムセールの時間なのにありえないほど空いてた ! ! ! 」
晴れ晴れした顔で光良が家に帰ると、智乃が床でノートを広げている光景が目に映る。
書道部の書き初めのような、重苦しい雰囲気だった。
「なんか、ノートとちーちゃんの距離感……どっかで見たことあるな…… ? 」
「時代劇じゃないかしら ? 」
「あー ! それだ ! 前に千夜と見た時代劇の切腹シーン ! ……いや、紙に全幅の信頼を置きすぎじゃないか…… ? 」
「おー……ハモった。コンたろーとシャロって以心伝心なんだな」
「あたぼうよ。初対面でジャンケン200あいこした仲だぞ」
「やめてください ! 黒歴史なんですから ! 」
カップの譲り合いで決着が付かなかった時をしみじみ思い出す。
シャロからすると、記憶から消したいほどの恥ずかしい思い出らしい。
「そうだ。はい、シャロちゃん。卵が特売入ってたから買っといたよ」
「えっ、あ、ありがとうございます。良いんですか……1人1個なのに……」
「なんか、前に露店で仲良くなったお姉さんがスーパーのベテランさんらしくて。いつも見てるからって事で特別にくれた。俺の分もあるから気にしなくて良いよ」
「そ、そうでしたか。よかった……」
ひとまず翌朝のために冷蔵庫に入れたところで、二人を眺めていたリゼが不意に呟く。
「シャロは節約家だったのか。初めて知ったな」
「へっ…… ? あっ。こ、これはその、あれでして ! ──」
「俺が勧めたんだよ。前に新しい趣味が欲しいって相談されてさ」
「それで節約を勧めたのか……。なんというか、光良って感じだな……」
「結構頭使うから趣味にはぴったりだぞ。なにより、ゲームと違って終わりがないし」
「へぇ……アタシもやってみようかな」
「おいでよ。老後のナンプレみたいで楽しいよ」
「その誘い文句はどうなんだ…… ? 」
ケラケラ笑いながら、夕飯支度を始める光良にリゼは呆れの視線を送った。
光良らしくて安心できるはずなのだが、なぜか騙されている気分になり、念のためとシャロにこっそり耳打ちをする。
「ごめんな、光良が変な事を教えちゃって」
「い、いえ…… ! ぜんぜん ! むしろ、助かってると言いますか──け、結構たのしめているので…… ! 」
「まぁ……光良が悪事を働くわけなかったか」
「は、はい ! あっ、そうだ ! コーラ先輩にちゃんとお礼しなきゃなので、夕飯のお手伝いして来ます ! 」
そうして、シャロは逃げるように光良のいる台所まで走っていった。
少しぎこちなかったが、騙されているようではなかったので一安心である。
「シャロちゃん、光良さんにお似合いでしょ ? 」
「かもな。アタシはチノと付き合って欲しいところだが」
「推しカプが分かれちゃったわね。負けないわよ」
「お、おし……なんて言ったんだ…… ? 」
うふふと笑う千夜を前に、リゼはジェネレーションギャップを感じてしまう。一つしか違わないのに。
◇
コンロ3つを占領したフライパンを見つめながら、光良は熱の汗と一緒に冷や汗を拭く。
「いや〜、危ねぇ……。ごめん、シャロちゃん。いつもの癖で渡しちゃって」
「いえ、お気になさらず……。それにしても、流れるように嘘をつきましたね。プロの手際でしたよ ? 」
「伊達に10年も狐をやってないんでね」
「なんでそんな技能を身につけようと思ったんですか……」
「好感度不足なのでこの先はまた今度」
「押すな押すな的なやつですか ? 」
「こんこーん」
「野生化して逃げないでください」
ジトーっと、視線を送りながら近づいたシャロだが、間に何かが入って来て距離が離れてしまう。
「人の家でイチャつかないでください……」
「ち、チノちゃん…… ! ? い、いや、これは別にそういうのじゃ……」
「シャロちゃんは何を焦ってるん ? 」
「うわっ……本気で言ってます…… ? 」
「ゴミを見る目だ……」
冷たい視線に射抜かれて、光良の冷や汗は凍った。
温めてくれるかもしれなかった智乃は、帰って来てから様子がおかしい。
「もうすぐ出来るから、もうちょっと待っててね」
「べつに……空腹で急かしに来たわけじゃ……」
「別用じゃったか。とりま、つまみ食いでもする ? ほら、あーん」
「……あーん」
智乃が手からご飯を食べた。
どうやら、光良が買い物に行っている間に一悶着あったらしい。
悩みがあるなら打ち明けて欲しいと智乃を見るが、とうの智乃は頭を撫でさせてくれるだけでなにも言ってくれない。
「私はなにを見せられてるんですか ? 」
「調理風景 ? 」
「乙女心の ? 」
「夕飯の」
気遣い上手のシャロが智乃を見ても何も言わないため、悩みハ大きなものではないと、光良は片付けた。
今は光良自身の名誉回復に悩んだ方が良いかもしれない。