オラ!ご注文のキツネうどんだ!!! 作:コントラポストは全てを解決する
総勢7名の女の子達が食卓を囲む。
まるで大家族で、光良はビッグダディになった気分だった。
「お上がりよ ! 」
「コウさんも座ってください。皆待ってるんですから」
「ちょっと先食べてて。油汚れと手洗い行ったら混ざらせてもらうからさ。というわけで、ここあに乾杯の音頭を取ってもろて」
「私 ! ? じゃ、じゃあ、皆さん手を合わせて──」
慌てながらも光良の任を全うする心愛。
油のこびり付いたフライパンを洗いながら、光良は和気あいあいとした雰囲気に和む。
「よし、洗い物はこれで良いか。お手洗いお手洗い〜っと」
盛り上がってる皆の気を引かない内に、光良はリビングを後にした。
◇
手洗いついでに二階へと赴き、智乃の部屋に皆の布団をセッティングした。
シゴデキ過ぎて自画自賛が止まらない。脳内の智乃が、尊敬の眼差しで光良を見つめてくる。
「やっぱり、ここにいましたか」
ここでモノホンの智乃が登場。
「1、2、3、4……」
「ち、ちーちゃん ? それ、なんのカウント…… ? 」
「布団のカウントです」
「足りなかった ? 」
「コウさんの分がないですね」
「いやいやいやいやいや。俺、男。あなたたち、女。OK ? 」
唐突なハーレム同衾のお誘いに、光良は顔の前で手をブンブン振った。
驚きすぎて変な汗が出てきてしまう。
「冗談ですよ」
「だ、だよねー。よかった……いや、ほんとに……」
胸を撫で下ろす。
撫で下ろす勢いが強すぎて、心臓がケツの穴あたりまで落ちて来そうだ。
「あとの準備は皆でしますから、コウさんも早く食べましょう ? 冷めちゃいますよ ? 」
「ちょっと、シーツのシワだけ伸ばさせて……。これがすごい気になってご飯に集中が──」
「なら、私も手伝います」
「大丈夫だよ。ちーちゃんは皆のところに戻ってて」
シーツに伸びた手をそっと掴み、あやすように光良は告げる。
瞬間、智乃は呆れたように深いため息を吐いた。
「この部屋の寝支度が済んだら、こっそり帰るつもりだったんですよね ? 」
「へっ ? い、いや、そんな事するわけないじゃん ? 空気冷めちゃうしさ」
「なら、コウさんは何を食べるんですか ? 」
「マヤっちと同じハンバーグ ! 」
「ハンバーグの残り、なかったですよ。炊飯器の中も空ですし」
「冷蔵庫の中に」
「冷蔵庫も確認しました」
怒っているような、寂しがっているような、そんな目で智乃は光良を見つめる。
これは逃げられない。そう悟った光良は、渋々打ち明ける事にした。
「ちーちゃんの考える通りだよ」
「なんでそんな事をするんですか……」
「何か深い考えがあったとかじゃないよ ? 女の子がいっぱい過ぎて気まずいからと、流石に乙女の園に交じるのはマズイって思っただけで」
「コウさんにも気まずいとかあるんですね……」
「そりゃあ、ね。これでも男だし」
事情が分かって一安心と言うように、智乃は強張った表情を緩ませる。
「ごめんね、不安にさせるような事しちゃって」
「大丈夫です。私も早とちりをしてしまったので」
「早とちり ? 」
「コウさんって、人が多い時は皆の中に入ろうとしないじゃないですか。皆が楽しめるように縁の下に潜って。ずっと、動き回ってて」
「なんかその言い方だと、俺が這いずってる怪異みたいに聞こえない…… ? 」
「狐の妖怪なんですよね ? 」
「う゛っ……」
アイデンティティが光良に牙を向く。
目指した理想に胸を刺され、心臓が痛かった。
「だから……また、自分で自分を仲間外れにしてるのかと思って」
「あはは、大げさだな〜。俺は別に、自分を蔑ろにしてるわけじゃないよ」
「なら、良いのですが……」
「ありがとさん。ご飯はちゃんと食べて行く事にするよ」
納得いった顔を智乃は見せてくれる。
ただ、満足しているわけではなさそうだった。妥協してくれるとありがたい。
◇
お風呂上がりの湯気が7人分立ち込める。
夏の湿気も相まってか、智乃の部屋は熱帯雨林のようだった。
「えっ、コンたろー帰っちゃったのか ? 」
「はい。流石に男一人でここに混ざるのはマズイと思ったそうで」
「律儀ね〜。一人くらい襲っても良いと思うのに。光良さんに襲われたい人〜 ! 」
「なんですかその犯罪臭溢れるアンケートは……」
「犯罪臭っていうか、犯罪そのものじゃない……」
智乃とシャロがドン引きの目で千夜を見つめる。
「うふふ、冗談よ〜。それにしても、どうして光良さんは帰っちゃったのかしらねぇ。前はここに住んでたのに」
「えっ、こーくんが ? 」
「そういえば、心愛ちゃんが来た辺りかしら ? 光良さんが自分の家に帰るようになったの」
「言われてみれば……あの頃は毎日のようにここに泊まってたっけ」
「手狭になると思ったんじゃないか ? 光良ってそういうのよく見てるし」
光良が香風家に泊まるのをやめた理由を見つけるため、リゼ達は頭を捻った。
そんな様子を眺めながら、智乃は自分のベッドのシーツを伸ばす。
「チノちゃん、大丈夫〜 ? 元気ないよ〜 ? 」
「大丈夫です。コウさんも泊まると思っていて、拍子抜けしただけですから」
「寂しくなっちゃったんだね〜」
「なっ……。べ、別に、寂しいわけじゃ……まぁ、ちょっと物足りない感じはしますけど……」
千夜のようなニコニコ笑顔を向けてくるメグ。
智乃は顔を赤くしながら目をそらした。
目をそらした先に千夜がいた。
「面白そうな話をしてるわね。チノちゃんの恋バナ、私も聞きたいわ〜」
「こ、恋バナなんてしてません ! 」
「でも、最近のチノちゃんって、光良さんに女が近づくとすごい荒ぶるじゃない ? 」
「ま、またその話をするんですか…… ? 」
「ほら、この前だって嫉妬で思いっきり抱きついちゃって、なんであんな事をしたのかーとかで悩んでたじゃない」
「あ、あれは、嫉妬とかでは……ない、はず……です……。おそらく……」
「甘酸っぱいわね〜」
ヤンヤンと両頬に手を当てて、左右に揺れる千夜。
心当たりはないのに、智乃の心臓は図星を突かれたように荒ぶっていた。
「……ち、千夜さんには分かるんですか ? わたしがなんで、あんな事をしたのか」
「それはもう、ね。『隣にいて当たり前だし、自分以外に相手がいないって油断してたら、あっという間にヒロインが増えてかっ攫われそう』のシチュエーションよ。萌えね」
「わ、私は ! コウさんがずっと一緒にいてくれるなんて、そんなこと…… ! コウさんにだって将来があって、その内……私の側を離れる時が来て、だから──」
「受け入れられないって顔に書いてあるわよ」
ついさっきまでイタズラ笑顔でからかって来た千夜は、優しい顔で智乃の頭を撫でていた。
「べつに、コウさんがいなくても……私は平気なんです……」
「うんうん。チノちゃんは優しいから、光良さんを引き止められないのよね。人の将来を邪魔しちゃダメって」
「な、なんでそうなるんですか……」
「恋バナだから、かしら」
「勝手に人の気持ちを改造しないでください……。恋バナのネタなんて、私には……」
「でも〜、皆は楽しめてるみたいよ ? 」
頭の中が光良で一杯だったため、一度頭の中を振り払い周りを見てみる。
皆、紙芝居を聞く子どものような真剣な顔で智乃を見ていた。
「これが本物の恋か……。私、コンたろーの将来とか考えた事なかったや……」
「愛だね〜」
「やっぱりチノと光良は幼馴染なんだな……」
「うぅ……切ない……」
ほのりと涙を流したり、智乃こそ本物と讃えたり。
そんな、むず痒くなる反応のオンパレード。
「ココアさん……それ、どういう感情なんですか ? 」
「わ゛か゛ん゛な゛い゛…… ! 」
涙と鼻水で顔を濡らし、表情は泣いているのか笑っているのかよく分からない顔をしていた。
これ以上恋バナを続けたら、感情のバグったココアが爆発する。
この状況から逃げる意味も込めて、智乃は部屋の電気を豆電灯にした。
「寝ますよ。これ以上は私の心臓が持たないので」
強制的に就寝モードに入り、恋バナを終了させた。
これ以上恥ずかしい話をするくらいなら、寝るか怪談を聞いていた方がマシである。