ゲの字、人の世に生を受ける   作:ばぐひら/Baguhira

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描写が難しいのぅ…


10話 奇怪千万

 

「蘆屋道満…だと?あの?」

「エンデヴァー殿の指す蘆屋道満が何かは分かりませぬが…そうですなぁ、恐らく当たっているかと?拙僧は平安の怪人、蘆屋道満に他ならず…!」

 

 

蘆屋道満、聞いたことはある。確か平安時代にいた人だったっけ。すると道満の名前を聞いた轟くんが呟く

 

 

「あぁ…ドーマンセーマンのドーマンか?」

「そういうの知ってるのかい轟くん?あぁいやなんだか、意外だ。でもそうだな、蘆屋道満というのは平安時代に安倍朝臣晴明の対を成した陰陽師の名前だよ」

「流石委員長」

 

 

安倍晴明は僕でさえ知ってる陰陽師だから、蘆屋道満という名前はどうやら結構なビックネームらしい。ならこの男はそんな過去の偉人の名前を名乗ったことになる。単なる同姓同名――とは少し違う気がした。目の前の道満と名乗る男はケタケタと笑う

 

 

「どうやら既知なご様子。まぁ拙僧の事はどうでも良いのです。目的も果たしましたし?ですがぁ……ステイン(ヒーロー殺し)、エンデヴァー(No.2ヒーロー)にグラントリノ(象徴の師)、雄英生徒(金の卵)に他のヒーロー達(有象無象)が揃いも揃って――ええ、ええ!命(めい)さえなければと惜しむ気持ちが溢れんばかり…!」

 

 

瞬間、息が詰まる。己の心臓の鼓動が、動悸が、異常なまで加速する。熱く燃える幻視をしながらも、肉体からは熱が引いていく。道満から放たれる圧。太く、大きく、長く、濃密な悪意。微塵も隠されていない人間の不の感情。USJに襲撃してきたあのヴィランの殺意など優に越える煮詰められた純真な悪意そのもの

 

 

「………っ!おい緑谷!緑谷!!」

「大丈夫かい緑谷くん!?気をしっかり持つんだ!」

 

 

隣でそう言って支えてくれる轟くんと飯田くん。その時になって気がつく。この悪意は、目の前の男から放たれる悪意は。全て自分に向いていると

 

 

「赫灼熱拳ジェットバーン!!!」

「俺の教え子に何向けてんだ!」

 

 

エンデヴァーが、グラントリノが。エンデヴァーは拳に炎を纏い、グラントリノは個性を使って路地の壁を足場にして背後に移動してから回し蹴りを。それぞれ道満へと攻撃を繰り出す

 

だが、道満はそれに対し避ける素振りは見せず、目が中央に画かれた人型の紙のようなものを取り出す。そうしてそれを自身の上空へと放り投げ、2人の攻撃が直撃しかけたその瞬間、ニチャァと微笑む

 

直感から来るものか、長年の戦闘経験から来るものか。エンデヴァーとグラントリノは直前で攻撃を辞め回避に移る。その時、突如として道満を中心とし円形状に炎の渦が生み出される

 

 

「ッチ!」

「っ!やってくれるぜ全く。お前、俺達を誘ったな?」

「ンンン、流石と言うところでしょうか?」

 

 

誘い受けというやつだ。わざと無防備に晒され続け、攻撃の瞬間にカウンターを当てる。それを察知した2人は流石プロヒーローだ

 

 

「おい!お前達は手を出すんじゃねぇぞ!」

「で、でも!」

「くどい!端的に言おう、足手まといだと…!……俺とグラントリノで相手をする、お前たちでは相手にならん」

 

 

グラントリノとエンデヴァーの言っている事は理解できる。その言葉は僕達雄英生徒だけではなく、他のヒーロー達にも言っているのだろう。それ程の強敵!

 

 

「あァ、だからこそ口惜しい……王も人が悪い、拙僧がこうして悶え苦しむのを識った上での“あの”御命令…!」

「……おいヴィラン、さっきから王だの命令だの、お前は誰かの部下って事か?お前の言う幻影魔神同盟とかいう組織の下っ端だと?」

 

 

グラントリノがそう問いかける

 

 

「否、否、否!幻影魔神同盟は皆が平等、立場の上下なく、差別なく、我らに格差はありはしないので」

「なに?」

「まぁ、わざわざこれを教える理由もありますまい」

「言わないのなら、無理矢理口を割らせるだけだ!」

「ンンンンンン、随分と熱い御誘いで!」

 

 

再度エンデヴァーが個性を使用して走り出す。道満はまた目の画かれた人型符を投げて応戦する。その人型符は炎を身に纏い、エンデヴァーに襲いかかる。そしてそれがエンデヴァーに当たる直前、横からグラントリノが蹴り飛ばす。衝撃で逸れた人型符は、横から見てエンデヴァーと重なった瞬間、水滴を弾けさせた

 

 

「貴様、我がドーマンを!見抜いたな!」

「助かったグラントリノ!」

「やっぱな、轟相手に炎なんて怪しいと思ったが、ありゃ見かけ倒しか!実際には水の爆破!それに着弾式と思わせておいての時限式!」

「だがこれしきのこと、如何様にもなりましょうぞ!」

「ほざけ!」

 

 

エンデヴァーと道満の腕が交差する。人型符――ドーマンは無い、シンプルな殴り合い(ステゴロ)

 

 

「ハッ!」

 

 

エンデヴァーは鳩尾へと拳を叩き込む。しかし道満はエンデヴァーの拳と鳩尾の間に強引に左手を入れ込むことで攻撃を阻止、右脚で蹴りを行う。エンデヴァーは頭を傾ける事で対応し、道満もまた次の一手を繰り出す

 

 

「ッチ」

「儂が近接戦闘が苦手等という幻想を御考えで?ンンン残念!拙僧多才なれば!」

 

 

エンデヴァーと道満、互角とも取れる近接戦を繰り広げる。エンデヴァーはNo.2ヒーローであるがそれに個性を使う様子もなく素の格闘術で拮抗している道満は、伊達に2mの巨漢ではないと言うことだ

 

道満はその長く生え揃った爪を刃のようにエンデヴァーの首へと振るう。肉薄、薄皮が裂かれ肉に差し掛かる手前でエンデヴァーの個性による烈火が道満の腕を襲う。既のところで腕を引っ込めるがその隙を逃すエンデヴァーではない。腕を引っ込めるという動作をしているということは、その瞬間だけ片腕は使えないことを意味する。もう片方の腕を蹴りで弾き飛ばし、ガラ空きとなった胴に両の手を叩き込む

 

 

「ガラ空きだぞヴィラン!」

「しまっ――

「バニシングフィスト!!!」

 

 

人ひとり程度、優に飲み込んでしまう程の熱量の嵐が吹き荒れる。余波、それだけの代物でここまで…!

 

 

「はぁ…はぁ……これで…!」

 

 

バニシングフィスト。イレイザーヘッドの個性で再生はしなかったとはいえ、覚醒後の死柄木が地に膝を付く程の火力を誇る必殺技

 

そのあまりの威力に、並みのヴィランであれば全身大火傷の重傷を負い、最悪死に至るだろう。普段であったならばエンデヴァーが絶対に使うことのない高火力。エンデヴァーにとっては、目の前のヴィランはそれに足り得る難敵だと言うことだ

 

だが――

 

 

「――ンンン、これは凄まじい…苛烈!強烈!大凡(おおよそ)人に向ける代物では無い!断じて!」

「――なぜだ」

「ですがぁ…?まぁ拙僧ですので?」

「なぜ傷一つすら負っていない!?」

「この様に……ンフフ♪なってしまうんですねぇ!ええ、ええ!こればかりは相手が悪かった…拙僧ではなく他の柱であったならば、モノによっては半身が消し飛ぶ威力でした…流石はヒーローのNo.2、少々侮りが過ぎましたかな?」

 

 

煙が晴れる。そこに現れたのは傷一つも見当たらない道満の姿。そう、傷一つ…毛先や衣服に至るまで新品同然の道満がそこには立っていたのだ、あの高火力の炎の中、ノーガードで胴に受けた筈なのに

 

これにはグラントリノや僕、轟くん、飯田くん…他のヒーロー達やエンデヴァー本人さえ動揺を隠せない

 

 

「さて…随分な歓迎をされましたな!こうまでされれば儂も高ぶりが収まらぬというもの!拙僧、美しき肉食獣なれば!極上の獲物が目の前にいるこの状況に、お利口に待て(ステイ)が出来よう筈も御座いません!!少し計画とは異なるが…………………エンデヴァー…フフフ、食ろうて仕舞おうか…?」

「ッ!!!」

 

 

濃密な死の気配。己の四肢がもぎ取られ、首を両断される夢を見る。長い間プロヒーローとしてヴィランと戦ってきたエンデヴァーだが、そんなエンデヴァーでさえ初めて味わった怪物。あのステイン(ヒーロー殺し)を出し抜き、エンデヴァーとグラントリノの猛攻をあしらい、エンデヴァーの必殺技を食らい無傷

 

道満は口角を上げ、口が引き裂けんばかりの笑顔を見せる。一歩、二歩と進むにつれ、圧により大気が軋む

 

そして、腕を大きく振り上げ――

 

 

「なんて、嘘です♡」

 

 

――その腕を下ろす

 

 

「は?」

「ンンン、拙僧、言いませぬでしたかな?“目的は果たした”と。そして在る方より“命を受けた”と」

 

 

道満は心底からつまらなさそうな表情を浮かべてくるりと背を向ける。踵を返す、つまりは、帰る。と言うことである

 

 

「拙僧と致しましてもこのまま殺り合うのは本望なのですが!…如何せん“人を傷つける事”を禁じられておりまして…これより先は正当防衛では誤魔化せぬ範疇…ですので、はい、帰ります」

 

 

そう言い放つと、黒い焔が道満の足元に現れる。それはやがて道満へと収束していき、足に食らいつく。徐々に黒い焔に侵食され、足が燃えくちてゆく道満。しかし不自然、両の足は焼け焦げ炭となりチリチリと風に舞うが、当の本人はまるで足が未だあるかのように肉体が上空で固定されている。足という体を支えるものが無くなったのにも関わらず、物理法則に反して浮いている

 

いや、これは違うような。蘆屋道満という2次元の膜が、少しずつこの空間から消えているような。言語化するのも難しい違和感

 

 

「逃がすかよ若造!」

 

 

堪らずグラントリノが拳を振るう。個性ジェットで加速した肉体から放たれる殴りは、避けることは困難。だが

 

 

「急如律令」

「なに!?」

 

 

何処からか現れたドーマンに防がれる。グラントリノ。その速度は確かなものだが、殴るという行為自体は個性関係ない。高々加速した老体の拳程度。そこには個性と呼ばれる超常は宿っていない、純粋な肉体。その程度の攻撃にドーマンでの防壁が破られる謂れは無い

 

 

「ンンンンこれは残念!また会いましょうぞ皆様…その時は………この拙僧、容赦いたしませぬぞ………?」

 

 

そう言い終わるが否や、あっという間に道満の全身に回っていた黒炎は頭部を包み、そして綺麗さっぱり消え去ってしまう

 

 

「…逃げられた、のか?」

 

 

残されたのは漠然と迫りくる虚無。場には意識を失い倒れるステイン、そして冷や汗を流すエンデヴァーとグラントリノ、唖然と固まる他のヒーロー達に僕、轟くん、飯田くん。

 

先程まで戦闘が行われていたこの場所は、空虚な静寂が辺りを制した

 

 

■

 

 

「これまた随分と無茶をしたな、ベリト」

「…ンンン?……なんのことやら」

「だが命は果たした、それは私も見届けたよ。それは素直に称賛せねばなるまい。見事な振る舞いだった。もう下がっていい、御体を休めていけ」

 

 

時間神殿の玉座、帰還したベリトが片膝を付いている。私は一言労いの言葉を告げた後にベリトを下がらせる

 

ベリトは強がっていたようだが、肉体損傷率が30%程のダメージは受けていた。最後のエンデヴァーの技、アレを防げなかったら70%は超えていただろう。まぁ防いだと言っても完全に防げてはいなかったのだが

 

 

「それもこれもアイツの油断だろうが」

「そう言ってやるなフラウロス、なにせエンデヴァーとグラントリノだぞ。短期間、そして攻撃を縛っていたのだ、道満(ベリト)とは言え多少の損害を被るだろうさ」

 

 

我ら魔神の、皆が持つ機能。変容。その機能により外面だけは無傷を装い退場したが…その実「実は結構ダメージが多かったです」とかいう結末だったのだ。らしさは出たので私としては良いことなのだが

 

 

「だが…そうか、エンデヴァー(No.2)の火力は我らの御体に傷をつけるだけでなく、その命にまで届きうるか」

 

 

流石の火力と言える。そして、今のオールマイトは弱体化しているがそれと近しい火力は出せるだろう。人に成ったとは言え魔神、それを人間に収まりながら討ち取れるその力。個性等という括りを超えている

 

思わず笑みが溢れる

 

人が怪物を殺すのはどの神話でも共通した偉業だ。人に害をなす怪物を討ちたもう人は只人に非ず、世間でそれは英雄と呼ばれるのが世の常だ

 

そう。さしずめ人が怪物を殺す物語(ヒーローが魔神を殺し真の英雄となる話)と言うわけか

 

オールマイトに、エンデヴァーに行える偉業なら、緑谷出久(主人公)にも成しうるだろう

 

……いい、良い!いずれ英雄となるヒーローの卵の一人がヴィランとの闘争に身を置き、そこに突如として現れた第三勢力として立ちはだかる我ら魔神!素晴らしい場面だ、素晴らしい状況だ

 

 

「フ、フフ、フフハハハ!ハハハハハハハハ!」

「統括局…何を考えているのかはだいたい分かるが、だが………いや、敢えて何も言うまい」

 

 

私の甲高い笑い声が、神殿内部に響いた

 




◆蘆屋道満(ベリト)
今回焦点が当たった人、此方側サイドで初めて明確に登場をした。強い、けど攻撃を禁じられていたのでしっかりとそれをまもって自己防衛の範疇で抵抗していたが、エンデヴァーの一撃で3割の損傷を貰って帰ってきた。読者視点では敵サイドがヴィラン連合かと思ってたらそれを超えるヤバい組織があることが分かって「もうなんなのコイツ強すぎだよ」という感想をもらう

◆エンデヴァー&グラントリノ
化物と戦った。此方が不利なのは分かっていたが何故か向こうが退散して内心ホッとしている。道満が周囲の被害を気にせず戦えば被害が絶対に出るし、普通に勝てないのが分かっていたからこそ2人だけで戦った。エンデヴァーは道満を3割削る偉業を成し遂げた

◆緑谷出久&轟焦凍&飯田天哉
活躍なし。割って入っても肉壁にしかならないので参戦しなくて正解。この度世界の残酷さと自分の実力不足を実感した

◆他のヒーロー達(有象無象)
活躍なし。割って入っても肉壁にもならないので参戦しなくて正解。この度自分たちの弱さを痛感した

◆ゲーティア(ゲの字)
謎の第三勢力の初登場シーンに終始はしゃいでいた人。テンションが高く、妄想で更にテンションが上がった

◆レフ・ライノール(フラウロス)
今回ゲの字の隣で全部見てた人。特に言う事なし
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