ベルリク戦記 ー 戦争の生涯 ー   作:さっと/sat_Buttoimars

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30話「楽しく死ね」・ベルリク

 軍務省庁舎長官執務室でナシュカが作ったカカオ菓子を食べる。カカオだけだと苦いが、牛乳や砂糖を混ぜて溶かして固めているので口当たりが良く、甘さと苦さが丁度良くてついでに目が覚める薬効がある。コーヒーや茶と似た薬効だろう。

 古参の給仕にも分けてやった。少しずつ、すぐに無くならないように角からちょっとずつ齧っている。齧る度に「むひゅひゅー!」と奇声を上げて体を震わせて喜んでいる。確かに美味いがここまで美味いとは思わない。

 何かこう、甘い物は意志の弱い妖精の神経を刺激する何かがあるのかもしれない。蟻と蜂って蜜を集めるんだよな。

 さてラシージの口にカカオ菓子を入れて食べさせるが声一つ上げない。ラシージが奇声を上げるというのは想像不可能。

 先の総動員演習の結果だが、予測されていたとはいえ事前通告した国も含めて周辺諸国が軍を国境付近に集める準備行動を取った。わざわざ武官を呼んで見学しないかって誘った後だというのに薄情な連中である。

 そんな事は関係ないイラングリ方面では龍朝天政の斥候が頻繁にやって来て、ムンガル自治管区では斥候同士の小競り合いがあったらしい。

 これは由々しき事態である。遠征軍が西に行っている間は民兵の非正規部隊を多めに東へ振り分け、教導団も一緒にして演習を行って練度を上げるのが効率的だろう。今度東を攻撃する時に役に立つ。

「次の遠征では、イラングリ方面への非正規部隊の重点配置、そして教導団も同行させて練度の向上だな」

「そのように手配します」

 ラシージがそのための命令文書の作成に掛かる。

 民兵の演習中における小銃訓練中の暴発や殺人事件は思ったより少なかったと報告書からの統計で判明している。

「喧嘩程度の争いからの銃による殺人が目立ちます。武器の管理が甘いようです」

「武器の管理? 自分で持ってる武器もあるから規制しても意味が無いぞ」

「武器狩り計画、内務省と検討しましょうか?」

「市民の非武装化は時期尚早だ。狼が羊になったら困る」

「はい」

「まだまだお高い文明人のフリをする必要は無いぞ。領土が領土だ」

「失礼しました」

 人間も意志の弱い妖精のように統制したいとラシージが考えるのも分かるが、それは争いの少ない地域、都市国家みたいな管理統制が隈なく行き届く国になってからだ。未来永劫無理そうだな。

 総動員演習の後、今度は次の遠征へ直ぐ旅立てるようにと各軍には準備をさせている。正直、結構辛いだろう。

「各軍の疲労は? 最終日を思い出すと召集したら嫌な顔の一つくらいはしてきそうだな」

「中隊単位での聴取を行ってまとめてあります。疲労は目立ってありませんが、時間を置かないと再召集した後の戦争が空振りになった場合はベルリク=カラバザル総統としての威信に傷がつきます」

「そりゃあそうだな。傷つくことに耐えられなさそうな硝子の魂を持つ俺が頑張るところだな」

 もしそんなことになったらロシエの共和革命派を支援して聖王領を荒らし回って新しい同盟を組もう。複案も練らないと。

「ロシエと同盟を組んだ場合の聖王領攻撃作戦計画も作っておいてくれ。聖女様はそんなタマじゃないが、聖皇とか暗殺されて交代になったりした場合に引っ繰り返ることもある」

「現状とは多少想定している状況が異なりますが、軍令局の方でその方針で作戦計画を立てております。修正させましょう。比較的短時間で済みます」

「その方向で」

 カカオ菓子に合う濃い目のお茶を飲む。古参の給仕が無くなったカカオ菓子を諦めきれずに指を舐め、絨毯に欠片が落ちていないか探している。

 古参の給仕の首根っこを掴んで膝に乗せ、余っているカカオ菓子をあげたら喜んで食べ始めた。

「そんなにこれ好きか?」

 と聞けば、腕を大きく開いて半円を描き、もう二回描きつつ言葉を見つけてから、

「いっぱい好き!」

 

■■■

 

 ナシュカの淹れるお茶も温度管理から濃さから状況に応じて調整されてとても品格というか、技のあるものだ。

 しかしナレザギーの奥さん、ガユニ夫人が作る混合茶は別格に美味いし、香りでもう半ば窒息というか溺れる。煙草不要。茶葉と香草と香辛料をお家に伝わる比率で、しかも年毎の出来栄えに合わせて微調整される。

 ザラも飲んでお気に入り。砂糖と牛乳を混ぜて子供用に香りを抑えた物だ。

 まだ子供がいないからか、元の性格からか、ガユニ夫人はかなり優しい感じでザラの遊び相手になってくれている。遊び道具は兵棋盤だが、駒とサイコロを使ってどっちが先に盤を一周回る、とかやっている。

「おい、遠征してるわけでもないのにまだかよ。座り仕事ばかりで足腰衰えてんじゃないだろうな」

「うーん、そう言われても困るんだけど」

「まさか、ヤリ方分からんとか言わないだろうな。嘘かホントか、知らなくて仲良いのに何十年も子供いない家とか、聞いたことあるぞ」

「それは大丈夫」

「奥さん上?」

「上? あー、楽でいいね」

「王子様よ、それでも一応胸甲つけて前線に立ってた将軍かよ」

 内装もすっかりメルカプール風になった財務長官官邸に遊びに来ている。彩色豊かで意匠も細やかで目が疲れる。それとジャーヴァルの神々の像が置いてあって、少し呪われそう。ザガンラジャード像は無いのか? と聞いたら「あるけど隠してる」と言った。置いてはいない。

「総動員演習に続いて遠征準備で流石に金欠気味じゃないか?」

「ウチの会社は超好況。大国相手に一手に引き受けているからね、業績を見せれば投資がガッポガッポで正直笑える。金と銀の準備量はランマルカからの供給で余裕があるし、為替手形刷って取引やってるから貨幣量で困ってない。まあ、総統閣下が無様にも戦争で負け出したり、帝国連邦が内戦で崩壊とかそういうことになると信頼が落ちて……うーん、海洋貿易の組織が残ってるからそこまでじゃないかなぁ」

「随分余裕だな」

「ある意味余裕じゃないのは、何で会長は帝国連邦なんて野蛮な連中にそこまで肩入れしてるんだ? って傘下の連中に聞かれることだね。ベルリクが言った金を鉛に変える錬金術師? だったっけ、そう言ったらこいつ頭おかしいって目で見られたよ」

「金で買えない物があるって教えてやれよ」

「金が武器だからね。自分の得物に自信があるのは仕方がないよ。それに君を見たことが無いし、一緒に肩を並べて敵を粉砕したことがあるわけでもない。そんなもんさ」

「まあなぁ」

 ザラとガユニ夫人が絵札を使ったものと、宝石を転がして石の向きとか倒れ方で見る占い遊びを始めた。札の絵柄、宝石が持つ呪力についての説明をしている。占いは教養だが、神秘主義臭さが少々、肌に合わないな。蒼天の神の声が聞こえる、などと勘が告げたことがある自分が文句をつける話でなさそうだが。

「麦の値段が上がってる」

「そう仕向けたろ?」

「全世界的に。春に収穫している麦はどこも低調だ。実りが悪い」

「麦が無いなら米を食えばいい」

「米は順調に育っている。麦の補填に買われる米が上がる。トウモロコシは新大陸でのロシエ撤退で不安定で、とりあえず値上がりは確定。芋も米と似た値上がり。穀物価格が右肩上がり」

「つまり?」

「ロシエ事情の厳しさが煽られるのは勿論、タルメシャを巡る争いの中身が変わる。あそこは政情が安定してしまえば結構生産するから違う魅力が出てくる」

「ほお。そうだハゲ兄さんに米作っとけって言ったほうが良いか?」

「ファイード殿は先見の明がある方だ。まあ、一応島の外がそうなってるとは一言添えておくけど」

 ザラが腹に飛び込んできた。

「おう、どうした?」

「とーさま、あのね……」

 早速ガユニ夫人に教えて貰った絵札と宝石の講釈をしてくれた。何でこんなに天才なのだろうか。

 

■■■

 

 内務長官執務室に遊びに行ってどのくらい数えたらジルマリアに出て行けと怒られるかを試した。

 居る時に正面から入ると二、三と数える間も無く怒られる。諦めるとか妥協するとかそういうことはなく、十一回の試行を経ても同じ。

 一回目、普通に「顔を見に来たぞ」と言ったら怒られた。

 猫を抱っこしながら「にゃーにゃー」と言っても声を被せて「出て行きなさい」と反論を許さない。

 抱っこするのはダフィドにしたり、その辺を歩いていた妖精にしたり、たまたま来ていたカイウルクにしても同じ。

 全裸になったり、熊の毛皮だけ着たり、ロバに乗っても同じ反応。

 ちょっとくらい激しく嫌がるかと思って、ジルマリアが死刑執行の署名をした罪人、妖精達に人懐っこい野良犬みたいに扱われているバシィールに住み着いた乞食、酔っ払った親戚のおっさんを連れて来ても声の調子は毎度同じで目も合わせない。

 十二回目からは趣向を変え、窓を事前に開けておき、屋上から縄を下ろして窓から入ること五回の試行。最初の四度は侵入こそ成功するも察知されて怒られる。最後は窓を開ける前に鍵を掛けられた。

 十八回目にザラを先行させて気を紛らわせてやってやろうと思ったら、自分が入る前に怒られて泣いてしまった。ザラごめんね。

 古参とは別の給仕の妖精と一緒にお茶菓子を運ぶ名目で入っても、給仕の格好をしても「馬鹿な真似は止めなさい」と言われた。

 二十一回目からはジルマリアが入室する前に潜んでみたが、入室するなり居場所を察知される。流石に暗殺術を習っていたせいか気配に敏感なようだ。本棚の裏、女偵察隊の外套の中、窓の外にぶら下がり、執務机の下、全てダメだった。

 二十六回目は女装して「お姉さま」と呼んでみたが特別な反応もしないで通常通りに怒られた。

 二十七回目はアクファルを盾に入ってみたがアクファルなどいないように怒られた。

 そして試行錯誤すること二十八回目に、ジルマリアを怒らせる前にあからさまに嫌がる顔をさせることに成功した。眉間をゆがめて、頬杖突いて舌打ちを露骨に六回。この可愛い子ちゃんは感情を押し殺すとかしないよな。

 最後に盾としたのは政治亡命者、ロシエの共和革命派の連中だ。ロセアが追放し、首が切られそうになって遠路遥々やって来たのだ。

 とりあえず何かに使えるかもしれないから様子見にと内務省情報局の方でタダ飯を食わせていたが、どうやら燻っているのが嫌なようで、いつも劇団が演劇している舞台で演説だの講習会だのと開き始め、警察に警告を受けて中止。それでも我慢ならぬと暇潰しに劇を見ていた自分に相談をしてきたのだ。

 学校を開きたいと言う。文化的な方面で活躍したいという意気に燃えていた。王都シトレ流の人間的共和革命などと言っていた。ついでにザラのロシエ語や神聖教会圏の歴史から数学、哲学など色々な学問を教える家庭教師にどうでしょうとかほざいてやがったか。

 さてそんな連中を下手に地方へ追いやって変な派閥を作られても困る。弾圧虐殺に躊躇はしないが、わざわざ巻き添えに洗脳された市民を処刑場に誘ってやる必要も無い。

 拷問したり処刑したりするにしては悪意が無いし、まだ悪事は――警察からの警告には従ったので――働いていない。

 そんな政治亡命者達が熱心にジルマリアに対して学校や家庭教師など、教育分野に対する熱意を訴えた。

 初めの内は露骨に舌打ちをしていたような面だったが、途中から機嫌を直して話を聞きつつ、思いついて納得したように書類を書き始め、遂には愛想笑い程度の顔を作って「追って何か、適切な職務が見つかったらご案内しましょう。ではご機嫌良う」と流暢なロシエ語で喋っていた。

 さて、今回で二十九回目となる。

 正面から内務長官執務室に入って「散歩に付き合え」と言ったら何とすんなりと、いつもは机に齧り付いているはずのジルマリアが立ち上がった。そして自然に、どこかの貴婦人のように腕を出したので組んだ。

 散歩はバシィール市内の建設現場を見て回るように。

 首都は相応の威容を保てるよう大きくて力強い外観であり、チェシュヴァン族が得意とする暑くても寒くても快適に暮らせるように工夫された設計になる。市長にして建築家のハシン・ラッザーが今回のために考案した――ラッザー様式と呼ばれるか?――建築様式を用いるので中々、手探りなところもあるせいか建設は順調に進んではいるもののまだまだ工事中の区画ばかりだ。道路も基礎工事の時に出る泥で綺麗なものではない。

 さて何故このジルマリアがこんな素直な感じなのか? きっと良いことがあったに決まっている。望んだ問いを捻り出そう。

「奴等どうした?」

「数学が得意らしいから石を数えに行っています。フフフ、ククク、ヒヒヒッ」

 

■■■

 

 ロシエ情勢の変化なんて最近では朝に作った飯が夕方には乾いて冷めてたくらいに当たり前のことになったが、決定的な変化が訪れた。

 諸侯の支持を厚く受けた前王セレルの王政復古派、新大陸から帰還したロセア元帥の穏健共和派にロシエが二分された。これで凡そ全ての派閥をまとめる大派閥が出来上がった。大小無数の頭がうねっていた時に意志統一をするなど有り得ない話だが、二大巨頭となれば話は別だ。

 スカップくんからの面白おかしく煩雑な戦略計画によればこの二大巨頭の誕生は計画完遂の地均しであるという。島国というだけで、海軍重視というだけで選択肢の幅が多いと教えてくれた。

 旧軍閥派のロシエ主力軍と新大陸軍が――足並みがどの程度揃っているかは怪しい――ユバールの逆侵攻軍、横槍を入れる聖戦軍を相手に共同戦線を築いている。本来の形に戻っただけではある。

 北のスカップくんがいれば、南のルサンシェルくんがいる。

 神聖教会としては共和革命派の誕生は絶対に阻止したいところ。共和革命派よりは穏健共和派であるロセアの一派は神聖教会の権威は蔑ろにしつつも、否定も虐殺もしていないという。妥協はできるが敵だ。

 それにロセアは穏健の皮は被っているがランマルカから強力に支援されているのは明白。こう考えると妥協できない敵だ。

 旧軍閥派が倒れてもユバール侵略による財政再建計画はまだ魅力的に存在しているし、大事な時期に裏切ったアラックへの恨みはどれほどか? 予測される侵略を防ぐためにも予防戦争は必須。

 その上で聖皇が祝福して授けたユバールとアラックの王冠が転げ落ちることを認める程に神聖教会は甘くない。特に主流派で厳格な保守勢力であるアタナクト聖法教会は祈る手がもげても認めない。

 さてそんな覚悟を持った神聖教会には憂い事がある。意地を突き通す程の戦力だ。

 正直、寄せ集め諸侯の聖戦軍など、旧中央同盟勢力も合わせて水でも垂れ流すように兵力を排出する基盤があるものの、それを適切に管理して統率して国境外に送り出す能力は未知数。悪い意味で未知数。こちらのように総動員演習などという実験もできていないのだから未知数なのだ。

 聖戦軍指揮官という役職を持つものの、個別の軍隊の指導もできず、それらを統一して指揮する組織を作ったとしても試験運用もできない聖女ヴァルキリカが不憫に思えてきた。実戦とあらば指揮する権限があっても、実戦に備えて演習する権限が無いのだ。

 有象無象だが無傷で無数の聖戦軍。

 防衛作戦では勇敢だったが攻撃作戦にまでその精神を持ち込めるか怪しいユバール軍。

 そして損耗は酷いものの相次ぐ戦いで歴戦の将兵を多数抱え、愛国募兵法で血の雑巾が乾くまで絞れるようになったロシエ軍。加えて内戦には参加しなかった各諸侯は訓練十分な私兵部隊を繰り出して祖国存亡の危機に立ち上がる見込み。

 総統執務室にルサンシェル枢機卿が訪れている。分けて貰ったガユニ夫人の混合茶を出したら香りが強過ぎて咽ていた。

「どうでした?」

「ユバール軍はロシエ軍が侵略時に行った苛烈な略奪の影響を受けて南下は遅いようです。また置き土産のような疫病のせいで攻撃するどころではないようです。更に海上ではランマルカ海軍から攻撃を受けており、人員物資共に現状維持以上の行動は困難と見られます」

「なるほど」

「ハイベルト・ホルストベック元帥率いる聖戦軍中部方面軍は、ガンドラコ元帥率いるバルマン諸侯連合軍に対して敗走。オーボル川を渡河中に襲撃され、元帥は川に沈んで行方不明、実質戦死です。後続の軍が渡河を恐れて立ち止まり、先行して渡河をした軍の半分は各個撃破され、残り半分は降伏しました。バルマン諸侯とは戦闘が回避できる流れだったのですが、畑を荒らす聖戦軍の立ち入りは認めていないと、のことで」

「攻撃って難しいなぁ。どうやったらいいんだろうな……」

 部屋に飾ってあるバルリー大公の剥製を眺める。うーん、川沿いに防衛部隊が張り付いているのならばともかく、渡ってから飛び掛ってくるような部隊を相手にか。

「南部はどうでした?」

「拮抗、だそうで」

 モンメルラン枢機卿が王冠だの何だのを持って聖都に入ったと聞いた。

「長引きそうですね。山が険しいですしね」

「なるほど。さてルサンシェル枢機卿、捧げますか? いえ失礼間違いました。既に今回の分は頂きましたね。以前と規模が違いますが、お支払いの方はどうなさります? 財務省は無料で結構とのことでしたが」

 悪魔召喚儀式の生贄は貰った。あとは必要経費。

「傭兵として雇わせて頂きます。義勇軍でも同盟軍でもなく、聖戦軍としてです」

「アクファル、見積書を」

「はい」

 見積書を受け取ったルサンシェルは短く唸った。四十万軍の人馬に飯を食わせるだけでも中々の額である。穀物価格が上がっている現状だと尚更。

「これはこの前の総動員演習の内、遠征軍を動かした際の金額を参考にして計算したものですので、これの近似値とお考え下さってよろしいかと。お支払い可能で?」

「これだけならば」

「さてこれに弾薬代がつくとどうでしょう。戦乱が長引いているせいで硝石も値上がり続きです」

「現地調達をしなければ戦いは大変でしょうね」

 聖戦軍の名の下に略奪が許可された。されなくてもするが、してもいいよと言われてするのとは違う。

「無料でも結構ですよ」

「お支払いします」

 戦いが長引くと聖都すら売りに出さなければならなくなるぞ。いいのかな?

「お金に魂の肩代わりをさせるんですね。よろしいですか? 財政難はロシエも割りましたよ」

「聖女猊下がいらっしゃいます。錬金術は既に始まっております」

「錬金術」

 錬金術。旧中央同盟軍の敗北と聖戦軍の義務を反応させると資金と物資が練成されるわけだが、副産物が気になる。

「神聖公安軍は聖務に励んでおられますか?」

「勿論。訓練も十分です」

「聖女猊下はお元気ですか」

「勿論ですよ。オルメンに出張されているはずです」

 随分と都合良く回る。

 

■■■

 

 国内通信速度を考慮し、スラーギィ中洲要塞に増設された軍務省の第二総司令部を見学した。飾り気一切無しで、妖精様式の柱はあるが間仕切りは一階につき一部屋までの形ではあるが、文書棚が壁になって迷路のようになっていた。

 バシィール市からだと各地と距離があって通信に時間が掛かる。鉄道を各地に延伸予定のここが有事の情報収集の拠点となる。いずれは軍務省のための都市になる。行政機能は分散予定。

「ラシージ、お腹痛いとか都合悪いとか言ってる奴はいないか」

「おりません」

 第二総司令部の作戦司令室には各所に所属する連絡将校が集まっている。

 準備を行う時期で出だしの早さが違う。

 全国民がつい最近経験した行為を繰り返す。

「総統閣下」

 ロシエに対する遠征作戦とその為の総動員令を発する命令書が目前にある。無くても良いんだが、あった方が良い。魔法長官としてのルサレヤ先生からも魔なる法に則って問題無いとお墨付きを得るのに現物があった方が良いからだ。

 花押を書いて承認。これをラシージ軍務長官が受け取り、それに基づく命令文書を発行して各部連絡将校に渡す。そして彼等は敬礼をして一斉に立ち去る。

 これで民兵の内、予備役対象者と徴兵対象者は非正規部隊を編制して国境警備に当たる。教導団はノルガ=オアシスに駐留し、東部国境に重点配置される非正規部隊を改めて教育し、龍朝天政の先制攻撃に備える。

 そうではない民兵は少し前に習った通り、全人民防衛思想に基づいて臨戦態勢を取りつつ日常生活を営む。

 内務省軍は敵や反乱分子が行う破壊工作に備えて警備を強化。

 七個方面軍で編制された遠征軍は段階的に西進を開始する。

 第一陣。モルル川北沿経路でワゾレ方面軍、ガートルゲン地方北部へ。

 第二陣。モルル川南沿経路でマトラ方面軍、ガートルゲン地方南部へ。

 第三陣。モルル川北沿経路で中央軍、途中でマウズ川沿いに進んでナスランデン地方南部へ。

 第四陣。オルフ、セレード、モルル川北沿経路でヤゴール方面軍、ナスランデン地方北部へ。

 第五陣。モルル川南沿経路でシャルキク方面軍、ガートルゲン地方中部へ。

 第六陣。モルル川北沿経路でユドルム方面軍、ナスランデン地方中部へ。

 第七陣。ヒルヴァフカ、イスタメル、ウステアイデン、モルル川南沿経路でイラングリ方面軍、ガートルゲン地方北部へ。

 列車を使うのでマンギリク、スラーギィ中洲要塞間の移動は素早い。またマンギリクからカランサヤク間は全開通していないが、中継駅があるので貢献はしている。

 モルル川を筆頭とする各河川通行権は、勿論作戦期間中は我々に、聖戦軍指揮官ヴァルキリカの責任によって存在する。

 以前のようにまたオーボル川東岸まで行って南北に軍を連ねる。数は以前より八倍近く増え、行動目的は防衛ではなく攻撃。

「広報課より、この遠征に対して総統のお言葉を頂きたいとのことです。各軍への激励にと」

 ラシージが言う。アクファルが筆記の準備を整えた。

「楽しく死ね」

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