修行時代の獪岳が愈史郎に出会い説教された結果、ほんの少し変わることができた話

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獪岳って善意を素直に受け取れないのが一番の問題だと思う、映画観てそんなことを思った。


善意は素直に受け取って

「クソッ…なんで俺だけじゃないんだよ…」

 獪岳は屋敷の裏でぼやいていた。

 手には立派な羽織が握られている、つい先ほど屋敷の主にして自身の師である桑島慈悟郎からもらったものだ。

 受け取った瞬間は心の底から嬉しくてつい笑みを浮かべたし、自分の中にある何かに空いた穴が塞がりかける気がしたのだが…。

「どうして他の奴にもあげるんだよ…よりによって善逸なんかに!」

 桑島はもう一人の弟子、我妻善逸にも同じ柄の羽織を渡したのだ。

 彼は努力家である反面、自信過剰になりやすい人間だった。

 自分は特別なのに何故他の奴も分け隔てなく大切にされれるのか、それもいつも泣きべそをかき何の矜持も根性も無いカスが。

「あんなカスとお揃いなんて着てられるか!隙を見て売っぱらっちまうか捨てて…」

「人に与えない者はいずれ人から何も貰えなくなる。欲しがるばかりの奴は結局何も持ってないのと同じ、自分では何も生み出せないから」

「ッ!?」

 突然、背後から投げつけられた冷ややかな言葉に振り向くと一人の若い男が…いや鬼がいた。

(元柱の屋敷に鬼だと!?今まで全く気配に気づかなかった!)

 予想外の遭遇に混乱する獪岳に、その鬼の青年は更に怒りと呆れと哀れみの混じった視線と言葉を投げつけてきた。

「そのくせいざ与えられた善意すら素直に受け取れないのか」

「なっ…なんだと!?」

 今までぶつけられたことのないような侮蔑に思わず気色ばみ、自分が必死に努力して習得した技を使おうとしたが…。

「雷の呼吸…消えた!?」

 鬼の青年の姿はその場から瞬く間に消えてしまった。

「血鬼術か!クソッどこに行きやがった!?攻撃される…!?」

「無事か獪岳!?善逸が鬼の音がすると言い出したんじゃ!」

 異変を察した桑島がやってきた。

 その後、善逸を含めた三人で辺りを調べたが鬼はこの場を去ったようだった。

 

「近辺で人が消えたり、死体が見つかった連絡は無しか…どこに行きやがった。しかしあの鬼…」

 獪岳の頭からは青年の目と言葉がどうしても離れなかった。

「何が欲しがってばかりで与えない奴だ!?ふざけんな!俺はいずれ鬼殺隊士として鬼を殺し人命救助するんだぞ!?誰よりも世のため人のために尽くし与えることになるだろうが!」

 奴は鬼だ、あんな奴の戯言なんか気にしたって仕方がない、そう思い込もうとしても自分の本質を捉えたかのような辛辣な言葉は心にどこまでも深く突き刺さっていた。

(与えられた善意すら素直に受け取れないのか)

「…」

 

「先生、今までご指導ありがとうございました」

「獪岳、お前こそ今までよく頑張った。お前と善逸は儂の誇りじゃ」

「じゃあな、獪岳。…その羽織着たんだな、よく似合ってるよ」

 結局、桑島から貰った羽織はしまったり捨てたりすることなく着ることにした。

 善逸と同じ柄は癪だったが、それを理由に粗末に扱うのはあの鬼に負けた気がしてならなかったのだ。

 

「あのカス、どういうつもりだよ…これで何通目だ?」

 獪岳の元には定期的に善逸からの手紙が届けられていた、自身の近況や獪岳の身を案じる文章が綴られている。

 善逸なんかに返事をする必要はないといつものように無視しようとした、しかし…

(与えられた善意すら素直に受け取れないのか)

「ああクソ!返事を書きゃいいんだろ!」

 初めて手紙を受け取って以来、頭の中に響いていた言葉がいよいよ無視できないほどに大きくなっていた。

 

「相変わらず酷いこと言うなあ…」

「善逸、その手紙誰からのだ?」

「俺の兄弟子からだよ、とにかく俺への当たりが酷くてさ…」

(その割には嬉しそうな匂いがするな…)

 

 獪岳は一人の鬼を前にして無様にも土下座をしていた。    

 鬼の目には上弦の壱の文字が刻まれており、周囲には切り刻まれ完全に息絶えた隊士達が倒れている。

 誰の目にも獪岳の命が風前の灯火であることは確かだった。

 そんな彼の掌に上弦の壱は自身の血を注いだ。

(…わざわざ血を与えてくれるってことは俺を高く評価してくれてるってことか、なら鬼になるのも悪くねえな。少なくとも泣き虫カスの善逸なんかと共同で柱になれなんて抜かした耄碌ジジイなんかよりはよっぽど見る目があるぜ…)

(人に与えない者はいずれ人から何も貰えなくなる。欲しがるばかりの奴は結局何も持ってないのと同じ、自分では何も生み出せないから)

(黙れ…お前の言うことは全部戯言だ…生き残ってこそ意味があるんだ、綺麗事並べ立てたって死んじまったら無意味だ…)

 そう自分に言い聞かせながら掌に注がれた血を飲み干そうとした瞬間、血は地面にぶちまけられた。

「…え?」

「…何?」

 その行為に鬼は驚きを隠せないようだったが、一番愕然としていたのは獪岳自身だった。

(何やってんだ俺!?せっかく生き残る機会が与えられたのに!?)

 混乱する脳内をよそに体は技を繰り出そうとしていた。

「雷の呼吸陸ノ型電轟雷轟」

(や…やめろ俺の体!今からでももう一回鬼になりますと言うんだ!死にに行く必要なんてない!)

 何とか生き残ろうと思考する獪岳の目の前には無数の刃が迫っていた。

(ああ…こんなところで俺は死ぬのか、死んじまったらもう何もかもおしまいなのに、生きてさえいればいつか勝つ機会は来たのに…)

 絶望する獪岳の脳裏にはかつて自分が生き残るために売った寺の子供達や悲鳴嶼、自身の師と弟弟子、そして冷ややかな眼差しと言葉を投げつけてきた名も知らぬ鬼の顔が浮かんだ。

(ああクソ…あいつのせいだ、あの時の鬼!あいつが変なこと嘯くから判断力が鈍ったんだ!許さねえ!あいつがいなければ独りで惨めに死ぬことも)

 次の瞬間、上弦の壱の警告したとおり獪岳の首は胴体から泣き別れ宙を舞った。

 

「善逸、何かあったのか?俺にできることがあれば何でも…」

「炭治郎、お前は本当にいい奴だよな、ありがとう、だけど…これは絶対に俺がやらなきゃ駄目なんだ」

 いつになく険しい顔をした善逸の手には一通の手紙が握り占められていた。

 手紙に書かれた彼の師の文字は涙で滲んでいた。

 

 その後、我妻善逸は無限城にて上弦の壱との戦いに参加、特訓の末に編み出した自身の技「雷の呼吸漆ノ型火雷神」をもって兄弟子の仇を取り、不死川玄弥と時透無一郎の命を救うことになる。

 本人は知るよしも無く、もし仮に知ったとして喜びはしないだろうが、獪岳が命を掛けて闘った成果は確かにあった。


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