ザワザワ
『次、何処に行くんだっけ』
『これおいしーい!』
『ちょっと待って〜』
『あー晴れて良かった』
『渋滞?』
『疲れたー』
『それでさ…』
かつて賑わいを見せていた箱根、先ほどまで自分は装甲車に追われていたのになんでここにいるのだろう…そんなことを思っていたヨーコだったが、ふと自分の名前を呼ばれたためそちらに視線を向けていく。
『……』
『ヨーコ、写真撮ろうよ』
黒髪ロングが特徴的な女性、彼女の名前を呼んでいるため顔見知り(ヨーコはお姉ちゃんと呼んでいる)なのは間違いないが…はっきりとは分からない。
その後富士山を背にセローをツーショットを撮ることになったヨーコの記憶は、写真のシャッターが切られると共に遠のいていくのであった。
『はい、チーズ』パシャ
『お姉ちゃんも一緒に――』
―――
――
―
ゴゴゴ
ピューヒョロロー
箱根ターンパイクの頂上から少し下った先、あちこちから煙が上がる中、バイクから投げ出され仰向けで倒れていたヨーコはハッとした表情を見せながら意識を取り戻す。
どうやら一瞬意識が飛んでいたようで、その際に不思議な夢を見ていたようだ。
「…あれ?今、一瞬 意識トんでたかな…」
がすぐに一緒に乗っていたアイリのことを思い出すと慌てて顔を上げながら起き上がると彼女の名前を呼びながら周囲を見渡していく。
「…!アイリ、アイリっ!」バッ
アイリ自体はすぐに見つかったようで煙が立ちこめる中へたり込んでおり、慌てて彼女の元へと駆け寄る。
そんな彼女もヨーコの呼びかけに反応するように視線をこちらに向け、ジョーク混じりの言葉を投げかけた。
大丈夫そう…相棒の状態を見て安堵したヨーコだったが、クラッシュして大破した装甲車の砲塔が音を立てて動いていることに気づきハッとなる。
「…ヨーコ、お腹空いて 動けない」
「……♪まだレーション残ってるからそれでm」
ガガガ
「……まだ動いてる」
つまり中にいる人は生きている…そう踏んだヨーコは待っててと独り言を口にしながら砲塔が揺れ動く16式機動戦闘車へと歩み寄っていく。
「待ってて……」
その後車内にいる人たちを驚かせないように開けるよーと合図を送りながらヨーコは乗り降り用の砲塔ハッチをオープン、顔を覗かせるように車内を伺ったのだが……
「開けますよー、(ギィィ)……っ…」
あれだけ動いていた戦闘車、その車内に残されていたのは白骨化した搭乗員であろう自衛隊隊員。
つまり元からこの車両には生きていた人間はいないということを意味しており、車内にお邪魔するように入ると機械音声が侵入者の警告を発していく。
「よっと……図体の割に狭いなぁ…」
『警告 警告 ID不明の 侵入を 確認』
もちろんヨーコもそれに気づいており、機械音声が発する音源元へ歩みを進めると赤いランプが灯され、戦闘プログラム(AKI 3000)と書かれたボックスを見つける。
どうやら先ほどの暴走はこの自立型AIが原因のようで、アイリはそれに気づいてたんだ…と、思いながら誰もいない車内に相変わらず警告を発するAIを見つめていく。
「戦闘プログラム…アイリはこれに気づいてたんだ」
『警告 直ちに 侵…入者を 排除』
恐らく搭乗員が息絶えてからずっと…壊れながらも一人で闘っていたのだろう…そう思いながらも、お疲れ様という意味も兼ねたごめんを口にすると、腰につけていた短刀を取り出して配線を切断。
役目を終えたAIは灯していた光をまるで命の灯火が消えるようにゆっくりと消灯しながら、深い眠りへとついていくのであった。
『侵…入者ヲ排…除せ…ヨ』
「ごめんね…」
ビッ
ガッ…!
「壊れて1人残されても戦ってたんだね」
その後戦闘車に供養も兼ね花を添えたヨーコは、外で待っていたアイリと合流、バイクを起こしてからガードレールに腰掛けるように一息ついていた。
まあ主砲を撃ちまくる戦闘車と鬼ごっこなんてすりゃ、アドレナリンドバドバどころか疲労も溜まるというもの。
ちなみにアイリはお腹が空いたということで、戦闘車に追われる前に見つけた輸送トラックから手に入れたレーションを頬張っていく。
「フー…なんか疲れちゃったね」
ちなみにこれもその影響か、2人とも一度バイクから放り出された関係か泥だらけになっており、ヨーコに関しては汗臭いらしい(ちょっと匂いs)。
当然アイリはサイボーグ?人造人間?かは分からないが普通の人間ではないので、泥だらけになっても汗はかいていないようだ。
「うわ〜、よく見たら2人とも泥だらけだ!(クンクン)ひゃーっ!しかも汗臭い…!!」
「アイリは匂いしない…」
とまあそんなやり取りをしていたわけだが、アイリが何かを感じ取ったのかハッとした表情を見せたと思ったら、ガードレールから道端に飛び降りる。
しかしヨーコは何が何だか…という顔でどうしたのかと尋ねるのだが、彼女は無言のまま真っ直ぐ見つめるように…機動戦闘車を見つめていく。
ブロロロ
「…!」ダッ!
「あっアイリ!?急にどうして…」
「……」
だが機動戦闘車は彼女が動かないようにAIのシステムを物理的に停止させており、搭乗員にも生き残りがいないためまず動くことはあり得ない。
もしかしてまだあの戦闘車に何かあるのかとヨーコが歩み寄ろうとしたが、アイリがそれは違うと口にした。
「…もっもしかしてアレ…まだ何かある感じ?でもシステムはボクが…」
「…アイツじゃない」
じゃあ何なのか…と疑問に思っていたヨーコだったが、どうやらアイリは機動戦闘車の奥側から何かが近づくロードノイズとエンジンサウンドを微かながら聴き取ったらしい。
まさか新手か…そう驚いて慌ててバイクで退避しようとしたヨーコだったが、アイリがそれは違うと否定。
「倒れてる戦闘車の奥から、こっちに来るロードノイズとエンジンサウンドが聞こえる…」
「…こっちに来る…、まっまさかさっきのがまだいるの!?なっなら早く退避しないt…」
「いや、さっきのとは音が全然違う」
彼女曰く音的に3.5L V型6気筒ツインターボガソリンエンジンを搭載した車らしいが、それ以上は直接見てみないと流石のアイリでも分からないそうだ。
恐らく先ほどの音を聞きつけて寄ってきたのだろう、音でわかるほどかなりスピードを出しているらしい。
するとそれを聞いたヨーコが、ならこっちに来てる主は大破してクラッシュしている戦闘車の存在に気づいてないんじゃ…と声を上げる。
「音的に3.5L V型6気筒ツインターボのガソリンエンジンを載せた車だと思う…多分、それ以上は直接見ないと分からない。けど結構な速度で来てる」
「ガソリン…V型6気筒?…何そr…、って結構な速度できてるならこの惨状知らないんじゃないの!?」
「どうだろう、さっきの砲撃音聞きつけてるのは間違いないけど…」
もし気づいてない状態で速度が乗ったまま横倒しで塞ぐように停車している戦闘車に正面衝突すれば、車どころか乗っているであろう人が危険に晒されるのは間違いない。
そう咄嗟に判断したヨーコは、近くに転がっていた止まれの標識を手に取りながら急いで戦闘車の奥の方へと走っていく。
「もしそうなら不味いよ…!このままじゃあの装甲車に正面から衝突しちゃう…!っと!」ダッ
当然アイリもそれに気づき慌てて止めようとしたが、その時には時すでに遅しというもので、ため息を零しながらもその後を追うように駆け出すのであった。
「あっヨーコ…!……行っちゃった、はぁ…ヨーコ待って…!」
アイリが接近してくる車の存在に気付く少し前、先ほどまで彼女達が休憩していた旧アネスト岩田スカイラウンジ(今は砲撃で吹き飛ばされ跡形もないが)沿いを爆走するようにGTRが…。
そのステアリングを握る椎名はスマートウォッチにデータを移植したお世話ロボットからの情報を元に、砲撃をした主の後を辿っていた。
「うわー…ここにあったアネスト岩田のスカイラウンジが跡形もなく…、ってかこの道でいいんだよね!?」
『はい 砲撃音やタイヤ痕から推測するに 105ミリ砲を搭載した装甲車。この道を下ったようです』
「オッケー…!ありがとう…!」
本当お世話ロボットの何処から得たのかという膨大な知識量にはシェルターにいた頃から彼女の助けになっており、もしこの子が居なかったらこんな終末世界生き抜けないな…と内心そんなことを思う。
ー本当、この何処から得たのかってレベルの知識量にはシェルターにいた頃から助けられっぱなし…!この子が居なかったら生き残れてないかも…!
タイヤ痕や砲撃跡を辿りながら、600馬力もの誇る心臓部を唸らせるように車を走らせていた椎名だったが直後何かに気づいたのかフルブレーキングで車を停車させる。
「うおっ!?」キキッ
いきなり前のめりになる勢いで止まったためお世話ロボットはどうしたのかと尋ねると、椎名が少ししてこの跡も砲撃したものなのか…と車外に広がる光景を目の当たりにしながら質問していく。
そこには今まで見つけた砲撃跡と違い、まるでレーザービームのようなものが直撃したみたいな焼け跡が広がっている。
『どうしましたか? 急に車を止めて』
「…ねぇ、これも砲撃跡…なのかな?焼け跡みたいな感じだけど…」
だがお世話ロボットの分析は椎名の予想通り戦車砲によって出来た砲撃跡ではなく、レーザービームのような何かで出来た跡らしい。
とはいえ大きさはそこまで大きくないらしく、小型の発射装置?から射出されたそうだ。
『いえ これは砲撃跡ではなくレーザービームのようなものが直撃した跡です ですが比較的小型の発射装置から射出されたものかと』
「……」
しばらくレーザービームが直撃していた跡を見つめていた椎名だったが、今は砲撃をしまくっていた戦闘車を追いかけている道中なので再び発進しようと視線を前に戻す。
…がその主は案外にも近くにいたようで、視線を向けた先には道路を一部塞ぐよう横転して大破している自衛隊の16式機動戦闘車の姿が…
ーこれも気になるけど…今は砲撃をしまくってた装甲車を追ってる最中…、とりあえず引き続き後を…っ!?ー
「……まさか、こんな近くに居るとは……」
念の為お世話ロボットに解析してもらったものの、やはりこの大破して横転した機動戦闘車が先ほどから見かけた砲撃跡の主のようだ。
右タイヤが装甲ごとえぐられるように破壊されているところから、さっき見かけたレーザービームの着弾痕はどうやらこの装甲車を攻撃、その貫通した勢いで出来たものらしい。
『解析の結果 この装甲車が砲撃跡 タイヤ痕の主で間違いありません 直近動いた痕跡があります』
「やっぱり…」
『それと先ほどのレーザービームは この装甲車を攻撃した際 貫通した勢いで出来たもののようです 車体右側にその痕跡が』
つまりこの装甲車を大破、横転させた主がこの近くにまだいるということを意味しており、未知の生物だったらどうしよう…とここまで来ておいて不安な表情を椎名浮かべていく。
しかし相棒の分析曰く地球外生命体等といった部類の存在は確認できないようで、それを聞いた彼女は安堵の顔を見せていた。
「…じゃあもしかして、それを撃った主が近くにいるってこと…!?どうしようヤバい奴だったら…」
『いえ スキャン可能な周辺に地球外生命体の存在 又それらしい動きも確認出来ません』
「…なら、とりあえずは大丈夫ってことか…」
だがそうなると何故この機動戦闘車は砲撃をしながら箱根を爆走していたのか…という疑問が浮かび上がり、何故かと相棒に質問していく。
流石に彼女でもそれは車内を直接見てみないと正確に判別は出来ないらしいが、どうやら人為的ではないのは間違いないらしい。
「…えっでもならなんでこの戦闘車は砲撃なんかしながら走行して…」
『正確には 車内を確認しないと判別出来ませんが 恐らく 人為的でないのは間違いないかと』
というのも外部のセンサー類に自立型AIを搭載する際に必要なものがついており、長年メンテナンスされた形跡もないことから、故障して停止していたシステムが何らかの形で再起動。しかしその際にエラーを発し、制御不能の状態で暴走していた可能性があるらしい。
『それに 外部センサー類に自立型AIを搭載するために必要な装備があります これから言えることは 年数がたって故障していたシステムが 何らかの形で再起動 エラーによって制御不能状態になり 結果暴走した可能性が』
「システムエラーでの暴走…か…、まあ機械は壊れても本体が生きていれば動き続ける…もんね」
1人取り残され壊れても尚、与えられた任務を全うするために闘っていた…その現実を直視した椎名は何とも言えない表情になる。
もし自分が居なくなったら…こうして共にしている相棒はそれでも自分と共にいるよだろうか…、ふとそんなことを考えていた直後、何かを見つけたのかハッと顔を上げていく。
ー1人取り残されて…壊れてもずっと与えられた役目を守ろうとしてたんだ…、…もし…もし私がいなくなったら…この子は…それでも私と共に過ごすんだろうk…ー
「…!?あっあれって……」
そんな彼女が向けた視線の先、未だ立ちこめる土煙の合間から見えたのは、恐らく倒れた一時停止の標識を両手に機動戦闘車の前に立ち塞がる制服姿の少女。
更にその後ろには彼女より歳下だろうか?少し幼さの残る少女がドタバタとしながら駆け寄っている姿が…。
ーあっあれって…人!?しかも1人は制服姿…もう1人は幼めの女の子…みたいだけど…ー
何かある…と思ってきたのはいいものの、まさかここで生存者と出会うことになるとは…そう夢にも思ってなかった椎名は驚きのあまりか、V型6気筒ガソリンエンジンの振動が微かに伝わる車内で唖然としながらステアリングを握る。
ーまさか…こんな形で出会うことになるとは…ー
するとお世話ロボットが車のセンサーやカメラからその様子を確認すると、制服姿の少女はオリジナル人間としつつも、片方の幼女はAIロボットだと分析していく。
『分析の結果、制服姿の彼女はオリジナル人間。もう一人はAIロボットと思われます』
しかしどうみても人間らしい見た目なので、もう一人も普通の人なのでは…と椎名は疑いの目でツッコミを入れる。
が相棒曰くれっきとしたAIロボットなのは間違いないようで、その中でもより精密に造られたAI-Re06型というタイプのようだ。
「えっうそ…!?もう一人も人間なんじゃ…だってほら…」
『いえ 間違いありません AIロボットの中でもより精密に造られたAI-Re06型というモデルです』
そんなロボットがいるんだ…そう思いながら再び視線を向けた椎名だったが、そう言えば先ほどスキャンした際には反応はなかったのかと確認。
…がどうやらスキャン出来る範囲、つまり機動戦闘車の奥側に丁度いたため上手く反応が出なかったようだ。
そう言えばスマートウォッチにデータを移植した際、この車に増設した360度カメラと同期して周辺のスキャンや分析を出来るようにしたのはいいものの、多少性能が落ちてたんだ…と思い出したように頭を抱える。
「へー…そんなロボットが…ってそう言えばさっきスキャンしたとき反応とか無かったの?」
『恐らくカメラやレーダーの死角に居たものと思われます 本来の私なら出来たとは思いますが…』
ーあーそうだ…確かスマートウォッチに移植したとき、この子のシステムと同期してスキャンと分析出来るようにしてたんだった…。そりゃ元の性能よりは落ちるか…ー
とはいえ気にしていても仕方ないので、今再度センサーなどで判別してみて敵意とかないか判別出来る?と依頼。
流石に少し先にいるということもあってすぐに判別出来たようで、現状一時停止の標識を持っている以外は危険は確認出来ないという回答が返ってきた。
「…じゃあ今なら正確にスキャン出来るだろうから、ちょっと敵意とかないか判別出来る?」
『お任せください (検出中) 問題ありません 一時停止の標識を持っている以外に こちらに対する敵意などは確認出来ず』
「オッケー…」
もちろんそうと決まれば後は直接話す以外の選択肢はなく、同じ人間(一人違うが)なら顔を合わせれば会話などはしやすいはず…そう思いながらパーキングにギアを入れ、サイドブレーキで車体を固定。
その後ドアの施錠を解除すると、ゆっくりと車から降りていくのであった。