ぼくのかんがえたさいきょうのあいどる 作:モモジャン箱推し
紡くんが怪我をしてないのでセカイとかも全く出てきません。
if ぼくのかんがえたさいきょうのほっとらいん
芝生の上を一人の少年がボールを蹴りながら駆け抜ける。
「これ以上やらせるか…!」
落ち着いた表情のままドリブルをしていた少年と焦りを滲ませた敵チームのMFがコートの中央で相対する。
アディショナルタイム残り30秒にして、4-3の一点差。
少年と向かい合う相手からすれば絶望的状況ではあるが、まだ勝ちの目は潰えていない。しかし、ここでゴールを決められてしまえば、電撃カウンターからのPK狙いという僅かに残った勝機すらも完全に消えてしまうことを意味する。
この状況に加えて、ここまでの4失点のうち半分以上を少年を起点とした連携に決められたとあれば相手も焦るのは仕方ないであろう。
「邪魔」
だが、少年はそんなの知ったことではないと言わんばかりにボールを足で巧みに操る。右か左か……この状況下での重圧によって一瞬の悩んでしまった相手に対して少年が選択したのは虚を衝く形での股抜きだった。
まるで予知でもしたかのような正確無比な読みを通し、足をほとんど止めることなくマッチアップを制した少年───椎名紡は、先程のMFの応援に来ようとこちらへ向かっていたもう一人を抜く…と見せかけて、足を思いっきり振り抜いた。
(
「まずい!9番のブロック固めろ!絶対に動かせるな!!」
「遅えよ」
利き足でないことを感じさせない程に正確なタッチにより放たれた低軌道のパスは、何人たりとも追い付くことを許さない。
「行け────」
…ただし、トップスピードに乗っている紡の相棒を除いてである。
「─────
紡がパスを出した場所は、紡自身のプレイによって意図的に作り出された極小の空白地帯。椎名紡と
「……!!」
観客もプレイヤーも、その場にいる誰もが彰人とボールに視線が釘付けになる一方で、彰人自身はボールを見もしない。その視線の先にあるのはただゴールのみ。何も知らなければ無謀にも思える動きだが、それも全て相棒である紡への信頼から来る行動である。
そして、彰人からの信頼に応えるように、紡の放ったボールは彰人が空白地点に差し掛かり完全にフリーになったタイミングで足元に供給された。
完璧なタイミング、完璧な位置、完璧な回転…当然である。パスを出した張本人である紡が、全て噛み合うように計算してミリ単位で調整したのだから。
「……っあああ!」
声にならない咆哮と共に加速を乗せて放たれた彰人のダイレクトボレーは、相手のキーパーすらも置き去りにしてゴールネットへと突き刺さった。
電光掲示板に示された4という数字が切り替わる。
スコア5-3。紡と彰人の勝ちを揺るぎないものとする一点が決まった次の瞬間、試合終了を告げる甲高いホイッスルが鳴り響いた。
「「しゃああああああっっっ!!!!」」
ピッチの上で雄叫びを上げながら腕を突き合わせる二人を囲むように、同じように勝利の熱狂を携えたチームメイトが集まってくる。
U20W杯日本代表、背番号9番、
同じく背番号10番、
両名とも、弱冠16歳にして日本をU20W杯優勝へと導いた紛うことなき才能の塊である。
▲▼
『先週末のU20W杯決勝で
普段はバーチャルシンガーの広告が表示されているシブヤの壁面モニターは、数日前の興奮を残したまま彰人のヒーローインタビューを流している。
「……学校行きたくねぇ」
「分かる。まだ疲れ抜けきってないっつーの」
「それもだけど…あっちの方がきついわ」
そう言いながら、紡が指で示した先は今も彰人のヒーローインタビューを流している壁面モニターの一角であった。
そこには、大きな文字で『”韋駄天”東雲彰人、”魔術師”椎名紡』と表示されていた。
注目を浴びるのは悪い気分はしないが、大会が始まった頃は一部の人間しか使っていなかったはずの…呼ばれる本人たちの方が恥ずかしくなるような二つ名が世間一般に定着し始めるとは思わなかった。
「それにしても…ここまで大々的に取り上げられるなんてな」
「……まあ、俺が言うのもなんだけど、俺たちって元からそれなりに有名だったし」
椎名紡。
視野の広さからありとあらゆるシチュエーションを想定し、針の穴を通すような繊細なコントロールと技術の高さでそのプレイを実現させるだけの実力を持ったチームの心臓に当たる選手。彼が一度ボールを触るだけで試合の流れを支配してしまうことから付けられたあだ名が”魔術師”。
一方の”韋駄天”東雲彰人は、まだ幼かった頃に椎名紡が見出した才能の原石である。
彼らの出会いは、紡も彰人も小学校高学年の頃。いつものように紡が
『ん〜……違うなあ…』
『紡くん、どうかした?』
『………なんでもない。それよりもみのりはもう練習しなくていいの?』
『うん!新曲の振りコピもバッチリ!いつも付き合ってくれてありがとう』
『いや、こっちこそ。みのりにはいつも助けられてるから』
付き合うとは言っても、紡がみのりの練習を見るわけではなく、お互いに邪魔にならないスペースでそれぞれやりたいことをやっているだけ。稀に互いにアドバイスや感想を求めることはあれど、それぞれ専門外のことであるので過干渉はしない。故に、『練習に付き合っている』という表現は紡からしたら少しだけ違う気もするのだが……それを口に出すのは野暮というものであるだろう。
既に『天才少年』としてメディアに出る機会があり大人の人付き合いのなんたるかを学び始めていた紡は、みのりからの礼を受け取りつつ当たり障りのない言葉を返す。
世間では『天才』と言われていた紡だが、紡本人からしてみれば、そのラベルは自分には相応しくないものであった。当時は幼かったものの、既に紡は自分が特筆する武器を持たないことに気付いていた。
自分に才能そのものがないかと問われれば、それは違う。その上で、『自分は天才ではない』と断言できる。
(……本当にどうすればいいのかな)
同年代や上の世代を相手にした時に、彼らの見せたスーパープレイを再現したり、技術や理論…先読みの精度によって1on1や試合自体で勝つことはできる。しかし、天性のドリブルセンスや規格外の身体能力等のスーパープレイを創るための資質そのものを真似することはできない。
つまるところ、椎名紡というプレイヤーは1を見て自分なりに分析して10にすることはできても、0から1を生み出すことはできないのだ。
それでも、なまじ他の才能はあってしまうために、適性が一致していないと分かっていてもストライカーとして動かなければならない機会が多かった。
故に、みのりと並んで帰る途中で
誰もいなくなったピッチの上で、一人残ってシュート練習を続ける少年。それだけならそこまで目を惹かれることはなかった。だが、それでも紡の目がそちらに惹き付けられた理由は、少年の速度にあった。
ノーモーションから圧倒的な初速を生み出す加速力。
その初速を活かしたままトップスピードに乗るまでの驚異的な加速力。
つい先程までハーフラインにいたはずの少年は、いつの間にかゴール前十数mの位置に立ち、足を振りぬいていた。
『ッ!…ダメだ。もっと速く』
紡とて、全国レベルのエースを張っている都合上、同年代の一般的な子供たちと比べたら足はかなり速い方であると自負している。
紡の知り合いにも合宿や練習試合などで知り合った足が速い同年代のプレイヤーはいるが、そのどれもが紡に勝てた試しはない。だが………目の前の少年────彰人は、初速は同年代のトッププレイヤー達と同程度、加速力と最高速度に関しては間違いなく上。
ボールのコントロールは未熟だし、走るフォーム自体も紡からすれば拙い。その上、全身に力を入れすぎているようにも見える。
まだ速くなる余地を残した状態でこれだというのか。
ならば、彼を理想の状態に仕上げることができれば、それは、圧倒的な身体能力に物を言わせて0から1を生み出すことのできる、自分とは対極に位置する選手になるのではないか。
なぜ彼のような選手をこれまで見ることがなかったのか。個人技が秀でていてもチームの総合力不足で勝ち上がれなかったのか。あるいは、自分が気付けない程に埋もれていた才能の原石を自力でここまで磨き上げたのだろうか。
異常なまでの執着と熱量、間違いなく輝ける才能の塊……紡が惹かれてしまう条件は揃ってしまっていた。
(…あいつを…プロデュースしたい)
気付けば、そんなことを考えていた。
彼と共に走ることができれば、世界一だって夢ではない。
彼と進めば、一人では到達することのできない場所の景色を見ることができる。
彼のことをまだ知らない世界に、彼という存在を『自分が』知らしめてやりたい。
(シュートの技術もまだまだだけど…そっちは俺がこれから仕込んでいけばいい)
『紡くん………?』
突然立ち止まった紡を不思議に思うようにみのりが声をかけるも反応はない。
(俺は……俺が出した世界一のパスで世界一になるゴールを決めさせたい)
消えかけていた炎が、再び熱を取り戻していく。
溢れ出した欲は留まるところを知らずに、紡の心の内を満たし始める。
次の瞬間、紡は走り出していた。
ピッチの上で一人ボールを蹴り続ける少年の元へ、狂喜とも取れる表情を浮かべながら駆け寄り───
『君、名前は?俺もサッカーやっててさ…もし良かったら1on1してみない?』
見極めなければ。
彼が、自分の隣で走るに足る車輪であるのかを。
自分が、彼の隣で走るに足る車輪であるのかを。
互いが互いに進化を促すことのできる存在であるのかを。
……否、そんな御託はどうでもいい。
1on1の結果がどう転んだとしても、彰人がどんな人間であるかは先程の1プレーを見ただけで分かりきっている。今の紡を突き動かすのは、ただ目の前の少年とサッカーをしたいという純粋な好奇心だった。
困惑の表情を浮かべて紡の方を見る彰人と、急に走り出した紡を慌てて追いかけてきたみのりのことを他所に、紡は自身の中に新しく芽生えた自己を再確認する。
(……俺は、世界一のパサーになる)
きっと、自分はその為に生まれてきたのだと。
▲▼
「サモちゃん、久しぶりだなー!」
「ワンッ!」
「サモちゃん、楽しそう……そっか、久しぶりに紡くんと会ったんだもんね。……よーし!たくさん遊んでもらっちゃおう!」
いつものお散歩コースの途中の公園の広場で、サモちゃんと遊び始めた紡くんを眺めていると、否応なしに昔のことを思い出す。昔は、こうしてよく二人でサモちゃんのお散歩にも出かけていた。でも、あの日…紡けんと彰人くんが出会った日を境に、こういう機会も減っていった。
紡くんは、わたしと一緒にいる時間は減る代わりに彰人くんとサッカーをする時間が増えた。
二人が所属しているチームは違っても、シブヤの近くに住んでいるという一点だけで頻繁に会うことへの障壁はほとんどないようなものだった。
中学生になる頃には、二人はクラブをやめて同じ中学校に通い始めた。紡くんが言うには、クラブもいいけど自分たちには合わないとのことだった。
見る見るうちに活躍して知名度を上げていく二人…特に元から有名だった紡くんは、それまでに比べてメディアに取り上げられる機会も増えた。
スポーツ番組にゲスト出演した愛莉ちゃんの助っ人という形で呼ばれて一度だけ顔を合わせていたり、同年代の各ジャンルのスターを集めるという番組で遥ちゃんと話したりしているのを画面越しに羨んだこともあった。………ちょっとずるい気はするけど、その時に紡くんを伝って貰ったサインは今でも大切に飾ってある。
彰人くんは、サモちゃんのことが苦手なのは初めて会った時から変わらなかったけど、道路に飛び出しそうになった子猫を、足の速さを活かして道路に飛び出す前に捕まえて母猫の元に返す…なんて一幕もあったらしい。
高校生になってからは、わたしが『MORE MORE JUMP!』として活動しているうちに、二人は世界にまで行ってしまった。
『俺が楽しいから一緒にいるんだよ』
小学生の頃に自分の運の悪さを嘆いていたわたしを慰めてくれたときみたいな優しい顔を向けてくることは今でもたまにある。だけど、昔はよく見せてくれていた全幅の信頼を置いたときの笑顔を浮かべることはなくなった。……正確に言えば、なくなったのではなくわたしに向けてくれることはなくなっただけだけど………。
ただ一緒に過ごすだけだった十年間よりも、人生を懸けて何度も繰り返す90分間の方が密度は濃いことなんて分かってる。彰人くんが、今の紡くんに並び立つことのできる唯一無二の人だということも分かってる。
………それはそれ。これはこれ。自分が立っていた場所に別の人が立っていることが羨ましくあり、同時に悔しくもある。
…でも、どれだけ場所が変わってもピッチの上に立つ紡くんは輝いていた。
必死で…それでいて誰よりも楽しそうにボールを追いかける姿は、いつだって変わらない。
そうだ。だから…わたしも、もっともっと頑張らなくちゃ。
いつの日か、大好きな皆と紡くんの横で…胸を張って並び立てるわたしになれるように。また、あの笑顔をわたしに向けてくれる日が来るまで。
彰人の足の速さがもう少し盛られてればこうなってたという話です。VBSはできないけど、Vividsは結成してる。
東雲彰人
原作よりもちょっとだけサッカーの才能に恵まれた人。原作時点で司を背負ったまま走って瑞希に追い付いたりするとんでもスペックだったのできっかけさえあればこのくらいできそうな男。きっかけは言わずもがな紡。
この世界線だと冬弥とは学校で仲良くなった普通の友人という関係になってる。えななんとはたぶん原作よりも複雑な関係になってる。
描写の問題とアスリートという都合が重なった結果ギャグ補正抜きでえむにも運動能力で勝てるようになってしまった男。
椎名紡
世界一のNo.2。元々の適性はこっち。
みのりに対して幼馴染として気にかけるところはあっても依存とかがまるまるサッカーへの執念に置き換わってる。むしろサッカーへの執着が増す代わりにみのりに対しての意識はちょっと薄くなってる。
本編だと相棒が見つからないので、怪我で引退するまでは頑張って天才ストライカーを演じてたので近いうちに成長が打ち止めになるはずだった。
花里みのり
WSS。本編みたいに依存じゃなくて恋心をちょっと拗らせた程度。
彰人とは、幼馴染と幼馴染の相棒という関係上交流はあるものの、それだけなので本人たちの仲はそこまで深くはない。かといって紡に依存しているわけではないので険悪にもならない。
彰人を下の名前で呼んでるのは小学生の頃からの知り合いだから。