もしもパルスィが地霊殿の主だったら、というお話。

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個人的には久しぶりの東方です。
しかもこれまでは仮面ライダーとかとのクロスものだったので、これが初の東方ソロ作品かもしれません。でも発想の大本はジークアクスだったり…

とにかく楽しんで読んでいただければ光栄です。


地霊殿の主(代理)

 博麗の巫女が、地底の奥地へと突入していく。

 

 地上に噴き出た間欠泉と共に怨霊が溢れ返った異変。その調査のため、地底に向かった彼女はやがてそこにある元地獄の都・旧都の中心である灼熱地獄跡に建てられた『地霊殿』と呼ばれる屋敷に辿り着いた。

 

「鬼の言うことを真に受けてこんな大きな屋敷まで来ちゃったけど、肝心なこの屋敷の住人っぽい人がまったく見えない……猫はいたけど」

『ふむ。さっきの猫に主人を連れてきてもらえば良かったわね』

 

 巫女が独り言のように呟けば、地上から彼女をサポートしている幻想郷の管理者たる妖怪の声が通信機能のある陰陽玉を通じて聞こえてくる。

 道中で戦った鬼曰く、ここには『偉そうな奴らがいる』らしいのだが……騒ぎを聞きつけて退避したのか、あるいは元々こうなのか。広大そうな屋敷内には住人の気配がまるでなかった。

 

 わざわざ赴いて来たのに情報を聞き出せる相手がいない。

 鬼の後に出くわした猫がこの屋敷のペットかどうか分からないが。あの猫に止めを刺せば、死体の臭いでつられて出てきたかも知れない、と巫女が物騒なことを零した時だった。

 

「――誰?」

 

 不意の声が立ち塞がるように投げ掛けられた。

 

「来客なんて珍しい。……って、もしかして人間? 人間が地霊殿に何の用?」

 

 姿を現した少女が巫女へと訝し気な眼を向ける。

 

 ゆったりとした着物を纏う、金色髪の少女。

 これまでに遭遇してきた通りすがりの妖怪らとはまた異なる、屋敷の住人と思しき恰好をした妖怪の少女を前にして、巫女はひと安心するかのような態度で返す。

 

「やっと妖怪らしい妖怪に出会えたわ。さあ、色々訊きたいことがあるの」

「どういうことかしら。まさか、私たちの呪われた力を目当てに?」

 

 早合点気味に聞き返してくる妖怪少女に、今度は巫女が怪訝な表情を浮かべる。

 話が読めない。彼女としてはただ、温泉が楽しめればいいというスタンスでこの異変を見ている。そこを地上の妖怪らにせっつかれて渋々地下調査に来ただけで、面倒な問題は御免だった。

 

 陰陽玉から『地底の妖怪たちは忌み嫌われた能力を持つ者ばかり』『出会いがしらに倒しなさい』などという声が届く。……どうも騙されている気がしてならないのだが。

 

「ま、いいわ。やることが変わらないなら」

 

 持ち前のお気楽思考で受け流すことに。

 一方、それに対する少女も好戦的に構える気配。

 

「平和的に解決するという心を持ってないのなら仕方ない――

 

 地上の光が妬ましい。巡る風が妬ましい。

 貴方には恨みはないけど、私が貴女を討つ理由など幾らでも作れるわ」

 

 その宣言を合図として。

 地霊殿の主、水橋パルスィは弾幕勝負を開始させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさまでした、パルスィ様」

 

 巫女によって異変が解決となった後の地底。

 その中心部にある地霊殿で、燐は屋敷の主に労をねぎらう言葉を掛ける。

 

「それと――今回の件では勝手なことをしてすみませんでした」

 

 加えて、謝罪の言葉も。

 申し訳なさそうに頭の耳を下げる燐に対して、パルスィは平素のまま答える。

 

「別にいいわ。元々の発端は()()が地上の山の神に唆されたからだったし。貴女はそれを止めるために怨霊を地上に送り込んで何とかしてもらおうとした。お空の持たされたとんでもない力を考えれば、正しい行動だったと私は思うわ」

「ほ、本当ですか? 良かったぁ……」

 

 燐はほっと息を吐く。

 結果として博麗の巫女が此度の異変の中心にあった霊烏路空を降したので、自分の仕組んだことが間違っていないとは思っていたが、やはり主に許可なく動いたのは後ろめたさが拭えなかったのだ。お咎めなくて胸を撫で下ろす。

 

 パルスィがふと執務席を立って窓際に足を運ぶ。

 異変解決を為されてまだ日が浅い頃。それに伴ってやることは多かった。

 地上にあるもう一つの神社からの要請で、空が働くことになった間欠泉地下センターの提携に関する契約云々を始めとし、本来ある地獄跡や怨霊の管理についてのあれこれなど、地霊殿の主人としての仕事は依然少なくない。割と悠々自適にしていられないほどには多忙だった。

 

 何気もなく、パルスィは窓の向こうを見やる。

 そこからは位置的に、旧都からの明かりが窺い知れた。閉鎖された地底内で照らされる光は、ここまで賑わいを伝えてくるよう。少し前までは地上から闖入者――博麗の巫女と魔法使いらしき人間――がやって来たことはあったものの、異変そのものは地底での影響はなかったので、空気感は変わらない様子だ。

 

 今もそこでは地上を追われたものたちが好き勝手に、自由気ままに過ごしているのだろう。

 きっと今頃、誰ともなく酒を飲み交わして騒いでいるに違いない。

 こちらはそこそこ忙しいのに。

 

 それを思うと、ああまったく――

 

「妬ましい」

「えッ?」

 

 執務の補佐をしていた燐が、パルスィの呟きについ驚きを表す。

 

「失礼。ちょっと本音が出たわ」

「あはは……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 言葉並の謝意なく平然と言うパルスィ。

 それに、燐は意識的に敬語を外して同感を返した。

 

 と、そんなところに――

 

「進捗はどうですか、二人とも」

 

 勝手知ったる風に一人の少女が執務室へと入ってくる。

 カツン、と手にある杖を突き立てて。

 

「あ、さとり様っ!」

「さとり」

 

 入室してきた少女、さとりの姿を認めてそれぞれ名を呼び掛ける燐とパルスィ。

 それらの声にさとりは親し気に微笑む。

 

「ふふ、二人が仲良いようで喜ばしいですね」

「はいはいありがと……それで、貴女の方も調子はどうなの?」

「今日はとても良いですね。なので今回の一件の話を聞かせてもらおうかと。()()()()()()と人からの面白い話を聞いて想像するのが何よりもの娯楽なんですよね」

「人が巫女からボコボコにされた話を面白そうに聞きに来ないでくれる?」

 

 微笑んで言うさとりに、パルスィは半目を向ける。

 その視線がさとりのものと合うことはない。さとりの顔にある両目はいま固く閉じられている。もし瞼を開けていたとしても、その光を喪った瞳ではパルスィたちの姿を見ることもできないだろう。

 

 心を見る第三の目を除いて。さとりの目は何も映さなかった。

 

「だいたい、私なんかじゃ博麗の巫女に敵う訳ないじゃない。勇儀は言うまでもなく、お燐ですら私より強いんだから。せいぜい私は、キスメやヤマメの後に待ち構えてるくらいがちょうどよかったわ」

「ああ、それは魔法使いのお姉さんも言ってたねえ……」

 

 巫女のすぐ後くらいに来た白黒の魔法使いを指して言及する燐。実質二連敗して通り過ぎられた形のパルスィはその指摘に苦い顔をする。どんなこと言ってたのか。自覚はあるが好き放題言ってくれたなら妬ましい。

 さとりが雰囲気を察してくすくす笑い、

 

「ですが私は、パルスィさんに巫女と戦えるだけの力を求めてはいないので。必要なのは、私に代わって地霊殿の主をできる人格と能力。その点でいえばパルスィさんにしかここの主人を継がせられません」

「継いでないわ。あくまで『代理』よ」

「頑なですねえ」

 

 自称・地霊殿の主人代理のパルスィはそう断じる。

 目が見えないさとりから請われ、旧地獄の管理を代行しているパルスィは、自分が正式な地霊殿の主だとは決して認めない姿勢だ。

 あくまでも()()()()()()()()()()の代理でしかない。

 

「私の目がいつ治るかも、そもそも治るかすら分からないのに」

「それは貴女の心持ち次第でしょう。妹が心を閉ざしたのを気に病んで、結果それが精神主体の妖怪の体に影響して本当の目が見えなくなったんだから、そこを克服すれば元通りになるわよ」

「簡単に言いますね。その通りですが」

 

 さとりは苦笑いにシフトする。パルスィの言動でというより、自分の心の弱さに苦く笑う。

 管理職の歴ではパルスィの方が長くなるくらい、視力を手放して久しい。心を閉じた妹が第三の目をも閉ざしたのに対し、物を見る目が閉じたのはどういう因果か。少なくとも、そうしなければ耐えられなかったのだろうと自己分析していた。

 今さら戻るかどうかも不明なほどに、起因となる出来事はさとりの心を圧し潰している。

 

 

 一方で、パルスィも無理を強いるまでではなかった。

 目が見えないことで日常生活に不便のあるさとりを見て『迷惑だからさっさと治せ』とは言えまい。

 本人は心しか読めなくなったので、読まれた相手の表情や態度を直視しなくてよくなったと利点を述べてはいるものの、自分の手許すら見えない生活は負担なようで、必要時以外は床に臥せりがちだ。彼女を慕うペットたちが甲斐甲斐しく補助してくれようとするが、それも自ら最低限に留めている。

 

 言って治ればそんな苦労はしない。

 口にしながら分かっているパルスィは、それ以上は言葉にして掛けられず、さとりから預かっている認識の席で居心地悪くする。

 日頃あれが妬ましいこれが妬ましいと吐く彼女だが、人の感情由来の妖怪であるが故に他者の気持ちを慮れないほど人でなしではなかった。

 

 ――だが。

 もはやその話題で暗くなることはないほど長く、光のない生活に慣れていたさとり。

 パルスィの不器用な物言いにある心優しさを理解しつつ、

 

「やるだけはやってみますよ。パルスィさんにばかり押し付けるのは気が引けるので」

 

 杖の柄を両の手で握り、見えない眼でまっすぐに伝えてみせる。

 それに、パルスィは斜に構える風に受け取り、

 

「そうしてちょうだい。橋守に不相応な立場すぎるのよ」

 

 やはりそっけなく皮肉で返した。

 さとりは自分の代わりを託す少女の心の内をちゃんと把握しながらはにかみ、

 

「ええ。いつか必ず立ち直ってみせます――

 

 そして貴女を婿に迎えて、夫婦の共同作業とさせていただきましょう」

 

「あんたほんとにイイ趣味してるわね!?」

 

 いっそ妬ましくないくらいにぶっ飛んだ発言に全力でツッコむパルスィであった。




ちなみに冒頭の巫女の言動はほぼトレスなので原作通りです。

反響によっては続くかも。

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