暫く悩んだ末に答えを出した俺は窓から顔を逸らした。
そして手から銀糸を出して世界に穴を開ける。
SOSの送り主がいる世界の座標は既に特定している。
助けに行くのは簡単だ。
世界に穴が開いた影響で穴の周辺の空間が軋む。
余り時間を掛けるのは良くなさそうだ。
穴の向こう側へと足を踏み入れるとその先には手術室が広がっていた。
部屋の中央には手術台が置かれており、そこには一人の白髪の少女が寝かされていた。
そして手術台を囲むように白衣を着た人間が立っていた。
手にはメスなどの手術道具を持っており、それを使って少女を生きたまま解剖しているようだ。
少女はか細い声で何度も「助けて」と連呼している。
このままでは苦痛と恐怖で自我が崩壊してしまうだろう。
早く助けなければ。
研究員達はいきなり現れた俺に驚愕していて動きを止めている。
俺は呆気に取られる研究員達を銀糸で貫き水晶化させて捕食した。
得られた情報によると彼等は突如としてこの星に飛来した少女を宇宙人と認定して研究していたようだ。
酷いことをする。
本当に人間というのは業が深い生物である。
俺は天井を見上げてぶつぶつと助けを乞う少女に触れる。
そして反転術式で生み出した正の力を一気に流し込んだ。
傷付いた肉体が一瞬の内に治癒される。
そこで漸く少女は俺の存在に気付いたようだ。
「貴、方は…?」
「俺はオルト。君を助けに来た」
「助けに…?」
「あぁ。もう大丈夫だ。俺が君を護るよ」
少女は涙を滲ませて本当に助けが来たのか確認する。
俺は安心させるように彼女の背を摩りながら肯定した。
そうすれば彼女は大声を上げて泣き始めた。
俺は彼女が泣き止むまで寄り添い続けたのだった。
◇
「さて、落ち着いたかな?」
「ええ。見苦しい姿を見せてごめんなさい」
「あんな目に遭えば誰だってああなる。気にしないでくれ」
それでも彼女は恥ずかしいのか頰を染めていた。
そして姿勢を正して俺に向き直った。
「改めて、私はオルガマリー・アースミレイト・アニムスフィア。助けてくれてありがとう」
「じゃあ俺も改めて。オルト・シバルバーと名乗っている。好きに呼んでくれ」
俺は感謝を受け取って改めて自己紹介した。
そして何より重要なことを先に聞くことにした。
「君には行く宛はあるかい?」
「いえ……私の居場所なんてもう何処にも……」
「そうか。なら俺と来ると良い」
「え?……でも迷惑になるんじゃ?」
俺は首を振って否定した。
もし迷惑が掛かるとしても相手は五条だろうし気にしなくて良い。
「俺も居候だから気にする必要はないよ。君がどうしたいか次第だ」
「私は……許されるなら貴方と一緒にいたい」
オルガマリーは真っ直ぐと俺の目を見てそう口にした。
答えは出た。
俺は世界に開いた穴を指刺して口を開く。
「あの穴から別の世界へと移動するからついて来て」
そう言って穴の向こう側へと移動する。
オルガマリーは恐る恐ると言った様子でついて来た。
そしてガラリと変わった景色に驚愕する。
窓の外を見てここが先程までとは違う世界であることを確認している。
その間に俺は世界の穴を銀糸でせっせと塞いでいた。
裁縫とかしたことないので要領が分からずそこそこ手古摺る。
何とか穴を塞ぎ終わった頃に天内達が起きて来た。
「オルトさん…?その方は?」
「オルガマリーって言ってね。酷い目に遭ってたから助けて来たの」
「はぁ…?」
黒井は訳が分からないといった顔をする。
天内は俺に何も聞くことなく、オルガマリーと会話していた。
天内の適応力に驚きつつ、俺はオルガマリーの服を買いに行くことにした。
解剖されていたので全裸なのだ。
流石にこのまま五条達に合わせる訳にはいかないからな。
俺はオルガマリーの服のサイズを確認して黒井と買い物に出掛けた。
◇
「で、助けたのがこいつね」
五条は一通り説明を聞き終えた所でオルガマリーを見た。
六眼の舐めるような視線にオルガマリーが身を固くする。
「養う奴が増えたなぁ。別に良いけどさ」
「ここ最近、悟は苦労人枠になりつつあるね」
「おかしい。俺はもっと自由人ポジだった筈……」
五条は夏油の指摘に頭を抱えてしまった。
俺と出会ってからの苦労を思い起こしているのだろう。
残念なお知らせだがまだまだ苦難は増えると思う。
俺という存在を世界が放っておかないのだ。
存在規模が大きくなると必然的に世界の運命が干渉してくる。
それは生命全てに言えることである。
例えば六眼と星槳体と天元が因果で繋がっているのもそうだ。
メタ的に言えば物語的に重要なポジションということだ。
なのでこれからも五条には様々な苦労が降り掛かる。
しかしそれを言えば五条を絶望させることになるのでお口チャックしておく。
「まあ兎に角、新しいメンバーが増えたってことで」
「俺にはオルトがどんどん新しい奴を連れて来る未来が見える」
「いやぁ五条家が裕福で助かるわぁ」
俺の発言に五条は完全に諦めて現実を受け入れることにしたようだ。
そんなこんなでオルガマリーの紹介を終えた俺達は再びビーチに来ていた。
「昨日も来てたじゃん…」
「海は飽きないでしょ!」
俺はそう言って夏油にナマコを投げる。
ナマコが顔に直撃した夏油は悶えている。
それを他所に俺はオルガマリーの水着姿を拝む。
黒いビキニに身を包んだオルガマリーは若干恥ずかしそうにしている。
それを見た天内が余りの可愛さにオルガマリーに突撃している。
抱き合ってイチャイチャする二人を眺めて俺は静かに頷いた。
百合は良いものである。
見ていて飽きないし、目の保養になる。
そうこうしていると五条がスイカと棒を持って現れる。
姿を見せないと思ったらスイカ割りの準備をしていたようだ。
「天内!オルガマリー!スイカ割りしようぜ!」
「おお!やるやる!」
天内が目をキラキラさせて此方に駆け寄って来る。
オルガマリーは未だ戸惑っている様子だ。
地獄のような環境から一転してほのぼのとした日常に放り込まれれば戸惑いもするだろう。
俺はオルガマリーの手を取って皆の輪の中に加えた。
それからはスイカ割りをしたり、砂の城対決をしたりとのんびりと過ごした。
いつまでも続いて欲しいと思う反面、そうはならないのだろうという確信もある。
俺は文字通りの最強生物だ。
恐れることなど何もなかった。
しかし最近になって失いたくない者も沢山できた。
それが俺にとって致命的な弱点になることを理解している。
それでも尚、弱点を作り続けることを止められない。
この矛盾こそが生きるということなのだろう。
俺はスイカを頬張りながら結論付けた。
◇
オルト達が遊ぶビーチを遠目から眺める集団がいた。
その内の一人、額に縫い目のある黒髪の女が口を開く。
「どうかな?勝てそう?」
「アレは強い弱いの次元にいない。敗北は目に見えている」
縫い目のある女の問いに黒髪の和装の男が答えた。
その顔には恐怖が滲んでいる。
「君でも勝てないかぁ。本格的に計画が崩壊しそうだ」
「アレがこの星にいる限り貴様の目的は達成できんだろうな」
火山頭の一つ目の呪霊がそう口にする。
縫い目のある女は暫く悩んだ末に大きく息を吐き出した。
「どうにか面白いことに巻き込めないかなぁ……死滅回遊に混ぜたら楽しそうなんだが」
「この星が滅んでも良いならそうしろ。少なくとも儂は賛成できんがな」
「まあ色々試してみるか。楽しくなりそうだ」
縫い目のある女はゲラゲラと悪辣に笑った。
他の呪霊達は呆れたように肩を竦めた。
純粋なる悪意がオルト達に差し迫っていた。
・オルガマリー
オリ主に助けられて心の底から恩を感じている。
・羂索
オリ主をどうにかして面白いことに巻き込みたいと考えている。
夏油傑の結末
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死ぬ?
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死ぬ