作者自身による他サイト(pixiv)からの再編集転載となります。
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「ほぉ~~……これが『資格』ってやつじゃねーですか」
カペラ・エメラダ・ルグニカは指先で摘まんだ徽章をしげしげと見つめながらつぶやいた。部下の吸血鬼に持ってくるように言っていた物である。龍の徽章くらいしか情報が無かったのだが、この国で下手に龍の紋様など使えはしない。ここ親竜王国では。
『王選』などというものに興味なんてものはひとかけらもないのだが、『福音書』がそう言うなら仕方がない。
そして興味はないが滅茶苦茶にしてやりたいと思った。
「アタクシは金髪に赤眼で?紛れもない王族の姿で、『徽章』もある。準備は整ったってやつじゃねーですか。まぁ、容姿なんてどうとでもなるんですけど」
そう言ってカペラは自身の『権能』を発動し、徽章を摘まむ手を熊のような手に変化させる。
「『徽章』が手に入ったんですから次は名前じゃねーですか。……そうですねー……」
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「……エミリア様、『徽章』を何者かに奪われたとはどういうことです?」
奇抜な服装に色の異なる双眸を持つ男、ロズワール・L・メイザースは目の前で謝罪する銀髪の少女に恰好からは想像も付かないような暗い声を落としている。
「本当にごめんなさい。一生懸命追いかけたんだけど、あの子ほんっとにすばしっこくって……」
「それに関しちゃ俺にも責任があるからな。この子を罰するなら俺も一緒に頼む」
「どうして?スバルは関係ないじゃない。私が取られたのが悪いんだから。スバルは一緒に探してくれてたのに」
「いや、その時に何もしてないってのが……」
「とはいぃーえ、過ぎたことを言っても仕方がないですのぉーで。そうなるとエミリア様はこれからどうするのかぁーな?」
「できるなら『徽章』を取り戻したいの!それで、スバルが言うにはね?『フェルト』っていう子が『エルザ』っていう人のお願いで取ったらしいんだけど……」
「その情報は正しいのかぁーーな?スバルくん?」
「あ、あぁ正しいぜ。どこで知ったのかはちょっと言えねぇけど……」
不審極まりないスバルをロズワールがねめつける。
「事実不明の情報を正しいと信じれるほど私はお人よしじゃないんだけどぉーも?今回はそれしか判断材料が無いからねぇーえ」
「じゃ、じゃあ、『徽章』を取り戻すのに協力してくれるってこと!?」
「もちろんですとぉーも。私はエミリア様の為になんでもしますぅーよ。二人もそれでいいね?」
ロズワールは両隣に控える薄紅色の髪の少女と薄青色の髪の少女に尋ねる。
「はい。ロズワール様に従います」
「レムも姉様と同じ意見です」
「とってもうれしいわ!!ありがとう!!ラム!レム!あ!それと、スバルのことなんだけど……」
「エミリア様がお望みなら我が屋敷で匿いますとぉーも。一応、彼には情報の恩があるわけだぁーからね」
「だって!良かったじゃない!スバル!!」
「え、ほんとならすっげぇありがたいんだが……」
「このロズワール辺境伯その程度の余裕はあるのだぁーよ」
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紅が夜天を焦がし、黒煙が瞬く星を覆い隠す。辺りは悲鳴で包まれている。
「『王選』が始まる前に命を狙ってくるとは!!アナスタシアめ!!!」
『王選』の候補者であるクルシュ・カルステンが無意味とわかりつつも憎み口をまき散らす。
合理的な判断ではある。王戦が始まれば嫌でもそれぞれの陣営に緊張感が生まれる。なら、始まる前ならどうだろうか?警戒や緊張感が無いというのはありえないだろうが、始まってからよりはその意識は確実に薄いだろう。
「民を守れ!!一人でも多く救出せよ!!」
クルシュは混乱の中自身の兵に命令を下す。
「クルシュ様!」
「フェリスか!無事でよかった。ヴィルヘルムはどうした?」
「ヴィル爺は他の人を助けています!」
「分かった!フェリスは下がって運ばれてくる負傷者の手当だ。頼むぞ!」
「はい!クルシュ様!!」
クルシュは手短に指示を出し、前線に合流する。
「ヴィルヘルム!状況は!?」
「クルシュ様!ここは私めにお任せを。」
「北の方に行っていただけますでしょうか」
「分かった。死ぬなよ、生きて戻ってこい!」
「こんな所では死ねませぬ」
「そうやってあちこちに行かれるとめんどくさいんよ」
黒煙のふもとから声がした。白い帽子に白いマントを羽織った小柄の人物。他ならぬアナスタシアに見える。
「貴様、何者だ。」
「同じ『王選』候補のことも認識してないって『傲慢』と違う?でも、一応名乗っとこか。カララギ都市国家のアナスタシア・ホーシン言います。次会う時があるかわからんけど冥途の土産にでも覚えといてな?」
「私が『風見の加護』を持っていると知らないのか?情報が重要な商人としては致命的だな。もう一度問おう。貴様は何者だ。」
「チッ!ならこんなの無用の長物だったってことじゃねーですか。」
童顔のアナスタシア”だった”顔が、姿が醜く歪んでゆく。
「アタクシは魔女教大罪司教『色欲』担当カペラ・エメラダ・ルグニカちゃん様でーーーす!どうぞ、敬って、崇め倒して、跪いて懇願して醜く糞尿垂れ流せ、クズ肉共!!!」
「魔女教……!!」
クルシュは憎々しげに口を開き、腰に携えている剣を抜き放つ。煌めく銀色がクルシュの赫怒を映し出し、ほの赤く揺らめく。
「おおお?このアタクシとやろうってんですか?勝ち目があるとおもってるとか、バカみたいにおめでたい頭してんじゃねーですか!キャハハ!!!」
「ふっ。誰が一人で戦うと言った?」
「はぁ???」
カペラの背後で一陣の風が流れる。
「この私を忘れないでいただきたいですな」
瞬間、『剣鬼』ヴィルヘルムの剣が閃きカペラの首から上を斬り飛ばす。
ごとッと音を立て、カペラの首が地面に落ちる。
「怖ろしいものだな、油断というのは」
抜き放った剣を下したクルシュがそう呟く。
「ほんっと!怖ろしいものじゃねーですか!!」
転がる首から声がし、立ち尽くすカペラの体が変異を起こす。
カペラの背面に翼と尾が生え、茫然としていたヴィルヘルムをたたき飛ばし、燃え盛る炎の中に墜落させる。
「ヴィルヘルム!!」
「人の心配してる場合じゃねーでしょう?!!」
首の無いカペラの体の腕が熊のように変異し、猛然と襲い掛かる。
「はぁ!!」
クルシュは襲い掛かる攻撃を風の刃で切り伏せる。
ドスッ
鈍い音がクルシュの背中から響く。
「こ、れは……」
見れば硬い甲殻をまとった細長い尻尾が突き刺さっている。クルシュの口から血が吹き出し、尻尾が抜け、ぽっかりと空いた風穴が晒される。クルシュの手から剣が零れ、前のめりに倒れ伏す
「あ~~あ、背中の傷は何とやらって言うらしいじゃねーですか!きゃはは!!!ほんっと!醜い姿じゃねーですか!でも?この慈悲深ーーいワタクシはそんなクズ肉の貴女も愛してあげます。そこで這いつくばって、無様に!滑稽に!みじめったらしく希うなら!あなたを助けてあげようじゃねーですか!」
カペラはクルシュの背中を踏みつけ嘲りを全面に押し出した顔でそう告げた。
「だ、誰が……そんなこと……!!」
「あ~そうですか。博愛主義のアタクシには、絶対にアタクシの愛を拒みやがるクズ肉に使う時間なんてねーわけです。だから死ね!!!」
「『シーハ』!!」
カペラの背後から声と共に研ぎ澄まされた水魔法が心臓部に突き刺さる。
「へぇ、的確に心臓を狙ってくるじゃねーですか。でも、ぜーんぜん効かないんですけどね!!アタクシはその程度じゃ死なないんですよ!!」
甲殻の尻尾が竜のものとなり、フェリスに襲い掛かる。
「そんな攻撃!」
横薙ぎの一撃を跳躍することで回避し、上空から水魔法をお見舞いする。
「『ウル・シーハ』!!!」
「おっと!!そんなことしていいと思ってんじゃねーです?こっちにはそっちが心底大事にしてるクズ肉が……」
余裕を崩さないカペラがしげしげと足元を見ると、
「あなたの足元にその様な人はいない!」
炎に巻かれたはずのヴィルヘルムがあちこちに火傷の傷をつけながらクルシュを回収していた。
カペラが顔を正面に向け、フェリスが放った水魔法をまともに喰らう。
強烈な水圧でカペラの体がズタズタに引き裂かれていく。腕を失い、腰回りの肉が抉られ、目の周りが骨もろともに吹き飛び断面に脳の一部と頭蓋骨が露出する。
ぼたぼたとカペラの体の一部が音を立てて落下する。
その時、カペラと異なる方向から同じ音が聞こえた。
「え?」
フェリスが切り詰めた息を吐き、カペラから目を逸らす。
細身の長剣を持った魔女教徒がフェリスを抱きかかえるヴィルヘルムの心臓を背後から突き刺していた。
「ヴィル……爺?」
「いい、いいじゃねーですか!!格好良く愛するものを助け出したと思ったらその先で串刺し!無様で!醜くて!惨め!愛すべき最期じゃねーですか!!!」
けらけらと笑い、ズタズタにしたはずのカペラが何事もなかったかのように立っている。
「アンタ、どうして!」
怒りに満ちて震える声でフェリスがカペラを問い質す。
「どうしてって、ワタクシが世界の全てに愛されるカペラ・エメラダ・ルグニカちゃん様だからじゃねーですかね?その程度のこともクズ肉に相応しいそのちっぽけなおつむじゃわからねーんですかね」
カペラが耳に指を入れながら答える。
「ほらほらぁ~~、そんなことをしてる間にあの二人は死んじまうんじゃねーですかね?」
「クッ!」
クルシュの方向に走り出したフェリスの腕が背後に現れた巨大な魔女教徒に掴まれる。
「離して!!!」
「おやおや、これじゃこっちに来れないじゃねーですか。ならさっさと始末しますかね?その剣抜いていいじゃねーです」
カペラに従い細身の魔女教徒が心臓に刺さっていた剣を引き抜く。口から大量の血が吹き出し、ぐったりとクルシュに被さった。
クルシュとヴィルヘルムの脇に立つ魔女教徒がフェリスには死神に見えた。
死んでなお主を守ろうとしたのだろうか?被さったヴィルヘルムを足で除け、浅い呼吸を繰り返すクルシュを足蹴にし、踏みにじる。
「エッロいカラダしてますねぇ………あ、そうだ」
「てめーはこの人がどんな姿になっても愛せますか??」
気が変わったようにフェリスへと質問するカペラ。
「と、当然よ!」
「きゃはは!!!なら!!試してみようじゃねーですか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
カペラはクルシュの素肌に手を触れ、自身の『権能』を発動させる。
黒い靄のようなものにクルシュが包まれていく。
閉じられていたクルシュの目が突然の劇薬に驚いたのか異常なほど見開かれる。
「あ……!が……!!」
無い空気を絞り出して咳き込み、喉が傷つき血が沸き出でる。声にならない悲鳴を上げ、クルシュが未知の苦しみに侵される。
「クルシュ様!!」
フェリスが常人なら聞いていられない程に悲痛な声を上げる。
だが、皮肉なことにここに生きている常人なんて存在しない。
文字通り細胞が構成され、焼けるような感覚がクルシュを襲う。
甲高いカペラの高笑いが耳を刺す。
靄が晴れた時クルシュのいた場所には赤い目を爛爛と輝かせた漆黒の体躯の蠅が存在していた。
「クルシュ様は?クルシュ様はどこ!!!」
「???何言ってんです???ここにいるじゃねーですか????」
「は?」
言っていることをフェリスは理解できない。否、したくもないし、できるはずもない。
「てめー、言ったじゃねーですか。どんな姿になっても愛せるって。ほら、さっさと交尾でも何でもしたらいいじゃねーですか」
平然と言ってのけるカペラを開ききったフェリスの瞳が捉えて離さない。
「あ、掴まれてたら無理な話でしたね?そりゃあできねーですよね!!離して差し上げようじゃねーですか」
掴まれていた腕が離されフェリスの体が開放される。握られ続けた腕の骨は粉々になってもう使い物にならない。
トボトボとクルシュだったものに近づくフェリスに『蠅』が飛びかかる。
フェリスを抱きしめる、否、フェリスの四肢を六本に増えた足で押さえつけ、口吻をフェリスの喉元に突き刺した。
「うっ……」
一瞬の悲鳴を上げたフェリスの血液を食んでいく。体躯の差も手伝いフェリスが失血死するまでに時間はかからなかった。
△▼△▼△▼△▼
ルグニカ王国での”アナスタシア”の蛮行をカララギにいるアナスタシアは意味が分からずに混乱していた。
同じ候補者を『王選』開始前に不意打ちし候補から物理的に暴力でもって排除する。一見合理的に見えるが候補者以前に一介の”商人”であるアナスタシアが実行するはずがない。
「こんなことしたら信用なんか地に落ちてまうわ!」
アナスタシアは静かな怒りを含んだ声でそう言った。
当然である。民衆を巻き込み、火を放ち、破壊の限りを尽くす。これだけでも十分だが、おまけの奇襲かつ夜襲。信用なんてものは地の果てに行ってしまった。
「アナスタシア様、これは……」
そういうのは『最優の騎士』ユリウス・ユークリウスである。ここ数日主のアナスタシアと行動を共にしていた彼もこの”アナスタシア”がアナスタシアでないことを知っている。
「大方、ウチが当選するのがとんでもなく嫌な人らの仕業やと思ったんやけど……」
「そうではないと?」
「だっておかしない?ウチの当選を防ぎたいだけならクルシュさんのところは潰したらアカンやろ」
クルシュの陣営は『王選』の中でも有力な陣営である。当選を防ぐだけなら有力な陣営は生かした方が防げる可能性が高まる。しかし、”アナスタシア”はそれをしなかった。
「つまりクルシュ陣営に恨みとかがあってかつウチがとんでもなく嫌いな人の犯行やね。しかもプリシラはこういうことせんやろうし、もう一つのところはよう知らんけど、ちょっと調べた感じ候補の人はしなそうなんよね」
「『王戦』候補者ではない誰かの独断、ということですか?」
「そういうこと。その人のことは知らんけど、誰も幸せになってへん!醜い行為やわ!」
いつも冷静なアナスタシアが声を荒げる。
しかし、アナスタシアに”アナスタシア”が偽物である証明はできない。
”アナスタシア”がアナスタシアでないことを知っているのはアナスタシアの周りだけ。
単純にアリバイがないのだ。
行けば大量虐殺現場にのこのこと現れた犯人、とどまっても大量虐殺の疑惑は拭えない。
だとしても、ここでアナスタシアがする行動は一択である。
「急いで支度整え!!一秒でも早くルグニカに行くで!!!!」
行けば疑惑が晴れる可能性がある。しかし、とどまっていればその可能性はゼロだ。ならアナスタシアは可能性のある方に全力でベットする。
アナスタシアという一人の”候補者”が、アナスタシアという一人の”商人”がアナスタシアという一人の”人間”が一切の迷いなくこの選択をした。
「アナ!?アナいる!?」
普段とは少し違う声を出し、巨躯の狼人が扉を開ける。カララギ最強と呼ばれる『礼賛者』ハリベルである。
「どないしたん、ハリベル。今急いでるから要件は早めに言ってな!」
「いや、もう要件は終わったんよ。アナがここにいるのを確認しに来たんや。で、新しい要件が増えた。僕を連れていってくれんかな?」
「いつもはお金を気にするんやけど、今回はそんなこと言ってられへん。こっちからもお願いするわ」
こうしてカララギ最強の存在がアナスタシアに同行することになった。
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「ねぇ、ロズワール。王都のほうですっごい大変なことが起きてるらしいんだけど、何かできない?」
「現在カルステン領ではアナスタシア陣営がクルシュ陣営に攻撃をして都市が壊滅状態だぁーね」
「大変じゃない!!すぐ助けに行かないと!!!」
「そうだぁーね。今行けば民衆からの絶大な信頼を得られるからねぇーえ」
「もう!そんなんじゃないわ。誰かが困っていたら助ける!当然のことよ!!」
「エミリア様がそう言うならそれでいいとぉーも。君が行くと言えばスバルくんも行くだろぉーうね。後はレムと『剣聖』殿も一緒に行ってもらおうかぁーな」
「?ロズワールとラムは来ないの?」
「私達は留守番だぁーよ。帰る場所はまもらないとぉーね。ラムも、それでいいかい?」
「バルスとレムを一緒にするのは不安で仕方ありませんが、ロズワール様がそう言うならラムは反対しません」
「そういうこぉーとでぇーえ、十分気を付けていってらっしゃいませ、エミリア様。王都の連中には絶対に『徽章』を失くしたことを気づかれませぬよう……『王選』が始まるのは4日後。それまでに『徽章』をお取り戻しください」
「ええ。分かってる。でも、まずは王都の人たちをたすけなくっちゃ!!」
そう息巻いてエミリアは王都に向かう準備を始めた。
「分かっていたけれぇーど、少しくらいはこういう視点も持っていて欲しいものだぁーね」
ロズワールは閉じられた部屋の扉をじっと見ながら呟いた。
一夜が開け、食料などを積み込んだ竜車と共にエミリア、スバル、レム、そしてラインハルトが王都に向かう。
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エミリアの一行は”アナスタシア”が襲撃した地域に到着した。当日の夜と合わせて三夜程が経った。黒い煤がそこらじゅうの建物に張り付いており、壮観とは決して言えない光景だった。
「あれ?他にも誰かいるみたいだわ!」
エミリアの目に入ったのは自分たちと同じような装備の竜車であった。赤と金を基調とした装飾が施され、所有している陣営を表している。
「赤ということはプリシラ様の物だろう。エミリア様、現在の被害状況を聞きに行かれてはいかがでしょうか。」
「そうね。私はプリシラとお話しに行って、ラインハルトは困ってる人がいたら助けてあげて?レムは治癒魔法でみんなを助けてあげて」
「承知しました、エミリア様」
「承りました」
「スバルは……レムと一緒にいてくれる?」
「俺はもっと色々言って欲しいんだよ。エミリアたん」
「だって、スバルはすぐに無茶するんだから。それにきっとたくさんの人がレムのところに来ると思うの。だからそれを助けてあげて?」
「で、でも……」
「スバル、私はね?スバルに危ないことをしてほしくないの。だから……」
エミリアの言葉にスバルは不満を否、不安を隠すことができない。
何かあったときに文字通りなかったことにできるのはスバルだけなのだ。この数日散々ラインハルトの怪物ぶりを目にしてきた。しかし、ラインハルトには絶対にできないことがスバルにはできる。
「まぁまぁスバル。エミリア様がこう言ってるんだ。あんまり困らせるといけないよ?」
「あ、あぁ。そうだなラインハルト。すまねぇ、エミリアたん」
「じゃあ、危ないことをしない!約束できる?」
銀鈴の声と共に満面の笑みで首がカクっと横に倒れる。その仕草全てが愛おしく感じてしまう。
「分かった!約束するよエミリアたん!」
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「あ!いたいた!」
焼けた景色と反するような無邪気な声が飛び込んでくる。
「えぇっと、あなたがプリシラさん、で良いのよね?」
「まずはそなたから名乗るのが礼儀というものであろう?半魔」
この世界では忌み嫌われる銀髪に紫紺の瞳更には耳長の半魔がそこにいる。
『半魔』と呼ばれたことに驚いたのか銀髪の娘は一瞬ビクッと体を震わせ、一呼吸置いてから口を開く。
「私はエミリア。ただのエミリアよ。」
次回 #2 最悪の善意