ゼロカラミダレルイセカイセイカツ   作:らら、

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らら、と申します。



#12 一層の『試験』

バルガ・クロムウェルが『死者の書』から解放されて少し、フェルトが『眠り姫』となった。

 

それを聞いたスバルは似て非なるものを抱いた。他ならぬ同じように眠りこけるレムのことである。

 

同じように眠り、目を覚ましてくれない。けれど、フェルトのこれは明確に違っている。『フェルト』という名が存在し、誰からも抜け落ちていない。そこが両者で決定的に異なっている部分である。

 

「どうしてそうなった?!原因は?!」

 

「さっぱり分からぬ。そもそも『眠り姫』は原因も対処法も不明の病だ。唯一の方法は『龍の血』だけじゃろう」

 

『龍の血』

スバルがエキドナに『暴食』への解答を求めた時にも提示された神薬である。

 

「アストレアの姓が真実ならば、そなたはこの病に心当たりがあるじゃろう、ラインハルト」

 

「えぇ。僕の母も『眠り姫』ですから」

 

ラインハルトは俯き、そう答えた。

 

「『剣聖』ハインケル・ヴァン・アストレアは妻のルアンナ・アストレアの『眠り姫』の病を癒すために駆け回っている。アストレアの姓が真実なら知っているとそう思うた」

 

「フェルトはどうなるんだ?」

 

「餓死などの心配はせずともよい。『眠り姫』の病は命を奪うようなものではない。ただし、目を覚まさないことを死んだと表現するかもしれぬがな」

 

クロムウェルはラインハルトを横目で観察する。

何かにとり憑かれたかのようにラインハルトは小さく俯き、クロムウェルに抱かれるフェルトを見ている。罪悪のようなものを体中に巡らせながら。

 

「フェルトのことは分かった。本の方はどうだ?」

 

「あったぞ」

 

そう言ってクロムウェルは『エメラダ・ルグニカ』と書かれた本をスバルに渡した。

 

「本当か?!」

 

急くようにスバルが本を受け取り、開く。が、

 

「………読めないってのは本当らしいな」

 

そこにはきれいな白紙がたたまれているだけだった。

 

「スバル、それはどういうことだい?」

 

「『死者の書』は条件を満たした奴じゃないと読めない。んで、その条件が『死者の書』の人物と知識ではなく経験として知っていること。だから、オレとかラインハルトは多分この本を読めない」

 

「そこでクロムウェルなんだが………読めたか?」

 

「隠す意味も無い。………読めたぞ」

 

「どんな感じだ?」

 

「記憶じゃ。その人物が辿ったものを本人の視点から体験することができる代物じゃった」

 

「人生の追体験ってことか?」

 

「うむ」

 

読まなければならない。人から伝わるものだけでは足りない。目の端に映り込むような僅かなものさえもスバルは逃してはならない。『色欲』がエメラダの名を騙っている以上、『エメラダ・ルグニカ』と切り離すことは有り得ない。鍵は必ずこの本の中に眠っている。

そう再確認し、スバルは『エメラダ・ルグニカ』の書を畳む。

 

「そっちはどうじゃ」

 

「こちらは二層『エレクトラ』の試験まで突破しました。残るは一層『マイア』のみです」

 

「ただ今日はもう終わりだ。明日に持ち越す。大事な奴、今これだし」

 

スバルがラインハルトに背負われたシャウラを見る。変わらずのグロッキー状態である。

 

スバル達はシャウラをスバルが目覚めた部屋に寝かせ、適当に食事をし、眠った。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「あーし、完全復活ッス!!!」

 

どこぞの赤と銀色の巨人のように腕を上に突き上げ、シャウラは飛び起きる。

 

「気が付いたようでよかったよ。お前に死なれると困るし」

 

「なんスか?お師様、あーしのこと心配してくれたんスか?!!嬉しいッス!超嬉しいッス!!!」

 

「やめろ、バカ!くっついてくるんじゃねぇ!」

 

「お師様ったらいけずッス~~!」

 

ねじ切れる程の様子の転換に混乱を覚えつつ、スバルはシャウラに質問する。

 

「もう一度確認するが、試験は全部で3つ。三層、二層、一層にそれぞれ一つずつで良いんだよな?」

 

「その通りッス!」

 

「試験を突破すればここの出入りは自由だな?」

 

「そうッスけど、もっと一緒にいたいッス!!」

 

「一応聞くが……お前は一層の試験の内容なんて知らないよな?」

 

シャウラのデレを一瞥することもなくスルーし、スバルは質問を続ける。

 

「勿の論ッス!!!」

 

「お前のお師様かなりオッサンだな………聞かねぇぞきょうび…。とりあえず聞きたかったことはこんくらいか」

 

「え〜〜、もっと色々聞いてくれてもいいんスよ?あーしのスリーサイズとかお師様には特別に教えてもいいッス!」

 

「興味ない」

 

「む〜〜!やっぱりいけずッス!」

 

「………お前は…」

 

途端、縋るような声でスバルはシャウラへと問う。

 

「なんスか?お師様」

 

「…お前はオレがどんなことをしようと……オレの隣にいるのか?」

 

「勿論ッス!!ようやく一緒になれたんスから、何処までも一緒ッス!!!」

 

「そうか………」

 

 

シャウラの返答はすぐだった。考える間など一切無い。スバルがやる、たったそれだけでシャウラはスバルの隣に居続けると宣言した。

 

スバルは決意する。

これからスバルが行う血に塗れる惨劇を。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「ここが一層への階段だな。二層の階段は性格終わってたけど、これは素直だな………」

 

「階段とは本来こういうものだけれどね」

 

スバルとラインハルトは一層『マイア』への階段を前に言葉を交わす。

 

足掻いたところで改善の余地の無いフェルトのことを一旦脇に置き、とりあえず塔から出れるようにしておきたい。

 

「行くか」

 

スバルとラインハルトは第一歩を踏み出した。

長い長い、気の遠くなるような階段の終わり。三度目となる白い光を二人の目が捉える。

 

光を突き破るように二人は一層へと到達する。

 

「は?」

 

スバルの漏らした声が宙に消えてゆく。長らく視界に映っていた石造りは何処へやら。スバルとラインハルトは凄まじい青い空の下にいた。

 

「ここって外ってことで良いんだよな?」

 

スバルの視界の下。そこに白い雲が見える。高所恐怖症でなくて良かったと人生で一番安堵する瞬間であると確信し、一歩を踏み出す。

 

 

「スバル」

 

「何だよ」

 

ラインハルトの手がスバルの肩に置かれ、反対の手が上空に向かって指を指す。

何事かと指された方向を見て、絶句する。

 

「ーーーぁ」

 

『ーー汝、塔の頂へ至りし者。一層を踏む、全能の請願者』

 

重々しい声が直に魂へと響く。レイドに抱いたものとはまた別の恐怖でもない畏れの感情がスバルを支配する。

 

 

『ーー我、ボルカニカ。古の盟約により、頂へ至る者の志を問わん』

 

 

青く輝く鱗でその巨躯を覆った『神龍』ボルカニカがスバルとラインハルトを見下ろし、何もかもを消し飛ばす存在感を放ってそこに顕現していた。

 

ゴゴゴ……

 

剣から放たれているとは思えない程の威圧感を放ちながら、龍剣『レイド』の剣身が光に照らされる。

 

「スバル、僕は何をすればいい?」

 

「分かんねぇ、そもそも問題が分かってない。志ってなんだよ。なんか喋ればいいのか?」

 

一層らしい空間には真ん中に巨大な柱が一本。その周りに六本の柱が存在している。ボルカニカは真ん中の柱にもたれるように蹲っている。

 

「柱を調べるしかなさそうか」

 

スバルはそう方針を固める。とはいえただで調べられるとは思っていない。それがスバルがこの塔で感じた作問者の邪悪性である。

 

何故にこの一層にボルカニカが配置されているのか。その答えは簡単である。

柱に触れようと踏み出したスバルは風の切れる音を聞く。

 

血を噴き上げる自分の体を遥か彼方から見下ろし、スバルはその命を散らした。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「階段とは本来こういうものだけれどね」

 

懐かしさすら覚える感覚にスバルは痺れる。

 

「ーーぁ」

 

「どうしたんだい?スバル」

 

口をあんぐりと開け、スバルは立ち尽くす。死んだことへの恐怖ではない。圧倒的な存在を前にしていたことへの畏敬。スバルを支配しているものの正体はそれである。

 

だが、やらねばならない。ここで終活など断固としてお断りである。スバルにはまだやらなければいけないことが沢山ある。ここで朽ちる訳にはいかない。

 

ただし………

(どうしろってんだよアレ………)

 

質問の意地が底抜けに悪すぎる三層。

初代『剣聖』を相手にさせられる二層。

そしてボルカニカを相手にどうすればいいかすら分からない一層。

 

(殺していいのか?)

 

ボルカニカを殺すことができれば、当然『龍の血』が手に入る。そしてそれがあればエミリアもレムも前のように、元通りになるはずである。

 

今、ルグニカ王国では王戦が行なわれている。それは『神龍』ボルカニカとの盟約の更新であり、当のボルカニカがいなくなってしまった場合はどうなるのだろう。

王戦は目的を失い、何処へ向かうのだろう。

 

 

候補者だったエミリアとその一の騎士のラインハルトは白鯨と『暴食』によって世界から存在が消されてしまった。

その結果、現在の候補者はアナスタシア・ホーシン、プリシラ・バーリエル、そしてパーン・サタナキアの三名。

 

しかしここで『龍の血』を手に入れ、エミリアに使えば、元の四人での王戦となる。

 

 

が、ここで『龍の血』が手に入るのならば、王戦を無理にする必要も無い。エミリアが王戦に参加した理由も『龍の血』であるとラインハルトは言っていた。

 

 

ならばここで『龍の血』を手に入れればいい。

 

 

スバル発案による『龍殺し』が始まった。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

一層で待ち受ける『神龍』ボルカニカ。

その脅威の物理的な排除をスバルは画策した。全ては『龍の血』を手に入れるためである。

 

「断る。」

 

計画を打ち明けた時、ラインハルトは一切考えることなくそう言い切った。エミリアの王戦の果ての目的のこと、目を覚まさないレムやフェルトのこと、最後にラインハルト自身のこと。

どれを材料に説得を心みようとラインハルトの意思は揺らがない。近衛騎士団としてのラインハルトが『神龍』討伐を絶対に許さない。

 

かと言ってスバルが単独でボルカニカに勝てる可能性などあるはずがない。更にはラインハルトが敵になる可能性すらある。難易度は絶望を遥かに通り越している。

 

今回は強力な味方としてシャウラとエミリアがいるが、ボルカニカとラインハルトの二人に勝てる未来は欠片も想像できない。そもそもシャウラは試験官という立場上、参加できない。

 

今のスバルの戦力のNo.1、2が『神龍』討伐からフェードアウトし、No.3では勝てない以上、ボルカニカを殺す手段はスバルにはない。

『神龍』討伐はすでに頓挫してしまった。

 

そうなると大人しく試験を突破するしかない。

使える手札はラインハルトとエミリア、そして『大参謀』バルガ・クロムウェルだけである。 

 

挑んでは死に、また挑んでは死ぬ。 

ラインハルトに同じ指示を出し、規格外の同じ攻防が繰り広げられる。

エミリアに同じ指示を出し、儚く命が散ってゆく。

クロムウェルを引き摺り出しても大した役には立たなかった。

 

穿たれた岩をさらに砕くように死という雨垂れがスバルを少しずつ侵食してゆく。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「弱点か………そうだな………王族の血があればボルカニカを抑えることができるかもしれない」

 

「王族?」

 

「そう。王族さ。」

 

最終手段のエキドナがスバルに与えた情報だった。

 

「っても、オレ達はここから出れねぇんだろ?そもそも王族っているのか?いないから王選なんてことやってるんじゃ………」

 

「そうだね。キミの言う通りだ。今のこの世界に王族はいない」

 

「じゃあ無理じゃねぇか!!!………ちなみに、王族の特徴って……」

 

「金の髪に赤い瞳だね」

 

「試してやる。それしかオレにはできねぇし」

 

何かを得心したようにしてスバルの意識は現実へと帰ってきた。

 

 

「シャウラ………頼む」

 

「オーケーッス、お師様。要望通りすぐに逝かせてあげるッス」

 

ひそひそと話す二人の前には眠っているフェルトとクロムウェルがいる。シャウラの指先に光が灯り、その2人に目掛けて伸びてゆく。

 

閃光が二人の頭を消し飛ばし、部屋に血だまりを作り出す。

 

「おえっ………」

 

スバルの手に吐しゃ物がへばりつく。

 

「はぁ………はぁ、はぁ」

 

息を切らしながらスバルは二つの死体を凝視する。それがせめてもの償いであるかのようにスバルの目を捉えて離さない。

 

「お師様?大丈夫ッスか?」

 

「あ、あ………。だ、大丈夫………」

 

「辛かったらいつでも抱きついてくれていいッス!!!」

 

この凄惨を目の前にシャウラの調子は狂わない。

いつものように返す気力もなくスバルは三層『タイゲタ』へと向かう。

 

「どこ………何処に………」

 

亡者のように書庫を漁り、目当ての本を探す。

 

「『フェルト』………『バルガ・クロムウェル』………」

 

どこかにあるであろう『名前』を求めて。

 

 

 

「何をしている、スバル」

 

「!!」

 

盲目に二人の『死者の書』を探していたスバルに声がかかる。

振り返るとラインハルト。その手には赤いマフラー。

 

「これは、どういうことかな?」

 

繰り出される言葉に反し、ラインハルトの口調は重い。

 

「ラインハルトォォォ!!!!!!!!!」

 

血を吐き出すように叫び、スバルは自分の舌を嚙み切った。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

重い瞼を開けると、見慣れた景色が飛び込んでくる。

それはボロボロの家屋の遥か向こうに沈む夕暮れ時の太陽の景色。

大きすぎるくらいの背に背負われ、フェルトは景色に魅入っている。が、次第に魅入る景色はボロボロの家屋が大きくなり、引き込まれるような気持ちが鬱屈とした現実に引き戻される。

 

そこかしこに物が捨てられ、一足路地の裏へと入り込めば暴漢が彷徨いている。そんな最悪の環境から見える夕暮れがフェルトは好きだった。愛着などでは決してない。それは未知の世界への憧れである。

 

ゴミ溜めのような今でさえ美しいこの景色をもっといい場所で見てみたい。濁った空気感から抜け出し、澄んだところで暮らしたい。

 

いつの日にか、ロム爺と一緒にここを抜け出し、新しい場所で生活したい。夢物語にも思えるそんな希望を抱いてフェルトはありきたりな1日に幕を下ろす。

 

〜〜〜〜〜〜

 

苦しい日々がフェルトを泥臭くも強かな少女へと育てた。決して褒められたものではないものを職として、フェルトは今日も日銭を稼ぐ。

 

最低限の生活を繰り返し、地道に一歩ずつ夢に向かって進む。そんな生活に一筋の光が差し込んだ。

 

「『徽章』……か………」

とある依頼の手紙とそこに同梱された1枚の似顔絵。それは絶世を謳える程に美しい少女のものであった。

 

 

~~~~~~

 

「きゃっ!」

風に吹かれ長い銀髪が舞い上がる。

短い声を後に、フェルトは颯爽と駆け抜けてゆく。立ち並ぶ店を、雑多な人混みを通り抜け、フェルトは夢の実現という希望を抱いて風に乗る。

 

いつも通りのボロ屋敷の前で暗号を伝えると、軋む扉が開き禿頭の巨人・ロム爺が顔を見せる。

 

「今回は依頼の品だ。頼むよ、ロム爺」

 

「うむ、確かに預かったぞ」

 

しっかりと握りしめた『徽章』を渡し、足のつかぬように遁走する。取引の時間はもう少し先のことである。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

「えぇ、確かに受け取ったわ。それじゃあ、これが報酬ね」

 

そう言って黒髪の取引相手は袋に包まれた金を置き、『徽章』を持って何処かに行ってしまった。

 

「なぁ、ロム爺………この金でどっか違うところに行かねーか?」

 

「ここは決していい環境とは言えん。これだけあれば並程度の暮らしはできるじゃろう。いいきっかけかもしれんな」

 

「なら!」

 

フェルトは希望に目を輝かせ、ロム爺と共にひっそりと王都の貧民街から姿を消した。

 

〜〜〜〜〜

 

地竜の都『フランダース』

ロム爺の旧友がいると引っ越した場所である。あいもかわらず生活は黒いが、暮らしとしては貧民街の頃よりも遥かに良い。

 

そんなようやく掴んだ生活すらも長くは続かない。

季節外れの冷たさがフェルトの肌を刺した瞬間、氷が押し寄せ、フェルトの身動きを封じた。

 

「これでチェックメイトだ。ようやく、ようやく次に進める………」

 

意味の分からないことを呟きながら、目付きの悪い白髪交じりの男がフェルトの生活を容赦なくぶち壊した。

 




次回 #13 亜人
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