ゼロカラミダレルイセカイセイカツ   作:らら、

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らら、と申します。

独自設定を含みます。
ご注意とこの二次創作内だけだというご留意をお願いします


#13 亜人

服や腕に付いた土埃を手で払い、バルガ・クロムウェルは冷たい視線を浴びながらおんぼろな小さい家へと戻る。入り口の前に溜まった石を横へと蹴り、家に入る。

 

『亜人差別』の激しいこの時代に人間と同じ土地で暮らしてこの程度で済んでいるのだ。ここを支配している『エメラダ・ルグニカ』という王族には感謝してもしきれない。他所なら傷跡が消えないくらいにはなっているだろう。

 

バルガは家の奥へと進み、床を外す。少々狭い階段を降り、土と石に囲まれた空間にようやく腰を下ろす。

ここがバルガの本当の家である。木製の平屋など恐ろしくてとても住めない。いつ家に不審火がくべられるともしれない世の中なのだから。

 

「巨人族とは、珍しいじゃないですか。ようこそ、バルガ・クロムウェル」

 

可憐で美しいエメラダはバルガを優しく迎え入れてくれた。悍ましい人間なんて生き物は大嫌いだが、彼女だけは好意的に見ることができた。種族内のいざこざで親も何もかもを失い天涯孤独となったバルガに『エメラダ・ルグニカ』が沁みていく。氷結した心を溶かしてゆく。

 

「バルガ、あなたはどんなアタクシが好き?」

 

数年でバルガはその頭脳を見出され、何かと敵の多いエメラダの腹心となった。エメラダを智をもって支えるバルガ、武をもって支える『毒蛇』リブレ・フエルミと『竜人』クァドラン・ゼクンドゥス。愚かで醜い人間どもには彼らを突破する手段など無い。

 

△▼△▼△▼△▼

 

バルガ達亜人は罵声を背に受けながら、長らく住んだ土地から追放された。原因はエメラダ・ルグニカの急死である。

エメラダの死に少しばかり気持ちを落ち着ける間もなかった。新しい領主は時代を映したかのような男で、見せしめとばかりに追放し、去らずに抵抗したものは容赦なく手打ちにされた。

 

憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い

 

心の底から憎悪が溢れ出す。とどまる堰は人間どもが切って落とした。全ては人間が生み出した業である。

 

自分達が何をした?

遥か四百年も前に思いを馳せ、勝手にこちらを忌み嫌う。迷惑などという言葉は生温い。害悪である。

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「助けてくれ!!!」

 

それは突然の出来事だった。バルガとリブレが組織した商会の商人団がルグニカ王国の国境警備隊と衝突し、壊滅したという。その少ない生き残りからの報告でバルガは立ち上がる。

 

積み重なった恨みを晴らすにはうってつけの出来事が起きた。彼らの死を無駄にはできない。今こそ虐げられてきた亜人が立ち上がる秋である。

 

亜人たちの怒声が轟き、咆哮が響き渡る。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「この戦い私にも参戦させていただけないでしょうか。要・検討です」

 

口元までを黒い衣装で覆い、桃色の長髪が流れている。そして最も注目すべきはその長い耳である。それすなわち、亜人の中でも最も疎まれている種族、『ハーフエルフ』である。

 

「おぬしは誰じゃ」

 

「これは、失礼しました。要・反省です。私の名は『スピンクス』。あなた方を好ましく思い、人間を疎む者。」

 

スピンクスは古の魔法を提供してくれた。それらは有用で各地で亜人側に勝利を呼び込んだ。中でも『不死王の秘蹟』と呼ばれる禁術は未完成ながらも大変に強力なものであった。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「何故儂を助けた?ジオニス」

 

人っ子一人いない暗い地下。目の前の貴人、現ルグニカ王に憎々しげに尋ねる。

バルガらはルグニカ王城での戦いに破れた。

秘策を使って尚、『剣の鬼』に敗れてしまった。

 

「この戦争を引き起こしてしまった責は私達王族にある。まずはそのことを詫びたい」

 

ジオニスはそう言ってバルガに頭を下げる。

 

「今更なことを」

 

「そうだ。今更だ。そなた達のことを見ずに政を執り、このような戦争を引き起こしてしまった。この戦いで散った命に貴賤はなく、全て私が奪ったものだ」

 

ジオニスの赤い瞳が真っ直ぐにバルガを見つめる。

 

「これから私は人間と亜人が共に生きていける世の中にしたいのだ。無理は言わない。私の作る世を見てはくれないだろうか」

 

月の光も無い暗闇の中、ジオニスは灯りを灯した。

 

 

△▼△▼△▼△▼△

 

 

「バルガ……この子を、私の娘を頼む………」

 

病に侵された体をハインケル・アストレアに支えられながらフォルド・ルグニカが嘆願する。

 

毛布に包まれ、幼子らしく声をあげて泣いている。時折見せる瞳は紅蓮を思わせるような緋色である。

 

「巨人族に育てられた王族の娘。この子こそが、人間と亜人の共生の証となれる」

 

肩で息をしながらフォルドはバルガに強く語りかける。

 

「承知…した」

 

「そうか、感謝するよ、バルガ。ここは危険だ。すぐに離れた方がいい。誰もその子を知らないような場所で育てて欲しい」

 

フォルドは弱々しい声で来た道に戻る。

 

「フォルド様!」

 

駆け寄るハインケルを振り払い、フォルドは歩む。

 

「ハインケルはバルガと私の娘、『メルク』の護衛だ。これが私が出す最後の命令だ」

 

「フォルド……」

 

「バルガ…最後に一つだけ、聞いても良いだろうか?」

 

「なんじゃ」

 

「父上、故ジオニス陛下の作った世はどうだ?」

 

「………マシな世の中じゃな」

 

「そうか……父上も喜んでおられるよ」

 

フォルドはそう言い残し、扉を閉めた。

 

「逃げるって、何処に……」

 

「こっちじゃ」

 

バルガは慣れた様子で屋敷を後にする。

 

「ハインケル殿」

 

「ど、どうした?」

 

「落ち着きなされ。先程から手が震えておる。やかましいわ」

 

震える手で剣を抜こうとするのだからガチャガチャとうるさくって仕方ない。

 

道を進んでいくと今度は後ろから荒い息を吐く音が聞こえてくる。

 

「ここで良い。戻りなされ」

 

「ま、まだ命令は……」

 

「戻りなされ」

 

「わ、分かった」

 

ハインケルはすごすごと聞き入れ、事件の鎮圧に向かった。

 

「肝が足りておらぬ」

 

ハインケルが見えなくなった時、バルガはそう呟いた。

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

太陽が沈んでゆく。背に負った愛娘『フェルト』は目を輝かせて夕暮れの景色に魅入っている。

育児だけ押し付けてろくに金もくれやしなかったせいで子育てに適した環境とは決して言えない土地でバルガは今日も日銭を稼ぐ。

 

孤独も、飢えも、フェルトに味あわせるわけにはいかない。それが託された者の決意だった。




次回 #14 ツナゲル


原作様の方でも既にフェルトの名前が明かされておりますが、元の文はその話が公開される以前に書いたものです。

再編集を機に原作様に合わせようなかなとも思いましたが、変えずに行こうと思います。


『この作品の中では』

さらわれた王女=フェルト=メルク・ルグニカ

です。

原作様におけるフェルトの真名は是非ご自身でお確かめください
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