ゼロカラミダレルイセカイセイカツ   作:らら、

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ららと申します




#15 プリステラの戦い

「あ〜あ〜、聞こえてやがりますかね?アタクシは魔女教大罪司教『色欲』担当、カペラ・エメラダ・ルグニカちゃん様で〜す!!這いつくばって、糞尿垂れ流してみっともなく泣きわめけ!!クズ肉ども!」

 

街に響く、下品な大音量。それが神器から放たれていることはここプリステラに住む人々なら容易にたどり着ける。そしてそれが如何に急を要する危険な状況なのかも。

 

「え〜アタクシ達の要求はこの都市にある『魔女の遺骨』で〜す!!どうやって献上するのか、その足りねえゴミみたいな頭使って!よ〜く考えて下さ〜い!!!」

 

「なんや!この放送は!」

 

「アナ、これまずいんとちゃうか?神器までたどり着いてるいうことは……」

 

「内部に侵入してるし、アタクシ達って言ってたな?」

 

「他の大罪司教もおるいうことか?!!」

 

「そう見た方が良いだろうね」

 

「ハリベル、五つの門がどうなってるんか見てきてくれへん?水門開かれたらこの都市は終わりや!」

 

「うん、ええよ。終わり次第、都市庁舎行けばええかな?」

 

「お願いするわ。ほんで、ユリウスとリカードには都市庁舎行って欲しい」

 

「おう!任せとき!!」「はっ!必ずや」

 

「ミミとヘータローは街中見てきて貰える?多分、かなり不安が広がってる思う」

 

「分かった!」

 

「ティビーはここの守りお願いするわ」

 

「了解です!」

 

「すまねぇ、姫様しらねぇか?」

 

纏まりかけた場に部外者が一人。プリシラの騎士、アルデバランである。いつもプリシラに振り回されているような印象だが、普段の飄々とした声色は消え失せ、芯の入った声を発している。

 

「ごめんけど、なんも知らんわ。プリシラさんのこと頼んでもええ?」

 

「いいぜ、姫様はオレが見つけ出す」

 

「遅れてしまいました。何かすることはありますか?」

 

「パーンさんかいな。どれくらい戦えるんか知らんからなぁ。とりあえず、ここにいて貰っていい?」

 

「ええ、構いません。微力ですがお力添えさせて頂きますね」

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「……で、なんで僕達について来てるの?」

 

「なんでもねぇよ。なんとなくお前らについて行けば姫様と合流できる気がするってだけだ。気にすんな」

 

アルデバランの口調は先程のように鬼気迫ったものではなくなっていた。いつものように飄々とした声色である。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

都市庁舎の屋根にいる巨大な黒龍。その威厳ある姿から発されているとはとても思えない軽薄な声がリカードとユリウスの鼓膜をうった。

 

「あれ?はえーじゃねーですか?もしかして即決で降伏ですか?」

 

「んなわけあるかい!アンタを倒すために来たんや!!ユリウス、頼むで!!!」

 

 

「あぁ!!!『アル・クラウゼリア』!!!」

 

虹色の極光が禍々しい黒い鱗へと突き刺さった。

 

「ぎゃあああ!」

 

光に押され、都市庁舎の屋根を突き破り、落下していく黒い龍。撃破の一抹の期待をする暇もなく、軽薄な声がリカードとユリウスの耳を打つ。

 

「いてーじゃねーですか!関係無いんですけどね!!」

 

「分かっていたが、やはり一撃とはいかないか」

 

飛び立つ黒竜と相対する二人。

 

「『鉄の牙』団長、リカード・ウェルキン」

「『最優の騎士』、ユリウス・ユークリウス。油断はしない!」

「魔女教大罪司教『色欲』担当、カペラ・エメラダ・ルグニカ」

 

龍姿の狂人と獣人と騎士。一vs二の戦いが幕を開けた。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

壁を駆ける黒い狼人。さも当然のように常識を逸脱するのは『礼賛者』ハリベル。カララギ最強を謳われるハリベルは占拠された水門都市・プリステラの現在状況の把握のため、駆けていた。

 

「手際良くやっとるねえ。敵ながら天晴やわ」

 

五つの門には占拠者の姿こそ見えないものの、魔女教が蔓延っていることから元いた人々が残っていないことは優に想像できる。

 

中心が低くなっているこの都市で水門を握られていることは致命的である。ハリベルと数人程度なら脱出することも訳ないが、プリステラの住人始め余りに人が多すぎる。下手に手を出して都市が水没は笑えない。

 

「誰が何処に居るんかくらいは知りたいねえ」

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

「酷い状況ですね………」

 

避難民のいる地下施設。密閉感のせいか血飛沫の跡がある場所もあった。ただ、何故か今は暴力沙汰も落ち着き不安を感じているような様子は見受けられない。

 

「こっちだ。こっちに姫さんが…」

 

そう言って突き進むアル。そしてそれについて行くミミとヘータロー。

根拠を語らないアルに二人は大人しくついて行く。

 

 

微かに何者かの歌声の漏れ出す地下施設。アルは真っ直ぐに入ってゆく。

 

「姫さん!」

 

「おぉ、アルではないか」

 

「おぉ!あの方たちはプリシラ様のお仲間ですか?!」

 

「そんなものではないわ。ただの凡愚と道化よ。そなたは歌を止めるな。歌い続けよ。…アル、そなたは好きに動け。大方アナスタシアに街を回るよう言われたのだろう?見てきたものを伝えるがいい」

 

「プリシラ様は何をしているのですか?」

 

「見て分からぬか?歌を嗜んでおるのだ」

 

桃色の髪の少年と褐色肌の金髪の少女を連れ、プリシラは立っている。

 

「こんな時に何をしているでありますか!!今は街が!」

 

「妾の時を奪うのも大概にせよ。貴様らと妾では時の価値が異なる。疾く、失せよ。そして知らせよ。それが貴様らの任であろうが」

 

扇を目先に突きつけ、プリシラは一方的に告げる。盛る真紅が小さい猫耳の二人を見すくめる。

 

威圧感なのかなんなのか反抗の気は起きない。心にあった闇が払われるような感覚がする。

 

「了解であります!アナスタシア様に伝えるであります!」

 

猫耳の小人は駆けていく。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

崩れた顔面をそのままに黒龍のカペラは息吹を放つ。破壊の奔流を横に躱し、剣刃は虹の煌めきを抱く。

 

「『アル・クラリスタ』!」

 

下から斬り上げられた剣が龍の胴を裂き、龍翼を切り落とした。

 

「うっしゃぁ!トドメは貰うでえ!」

 

空いた龍の半身にリカードが一撃。残った翼と腕を切り落とし、龍をダルマにする。

 

何かある訳でもなく、龍は血溜まりを作り絶命した。

 

「これで終わりなのか?」

 

「えらい呆気ないもんやなぁ。もうちょっと手強い思ててんけど」

 

「いずれにせよ警戒はすべきだろう。リカードはアナスタシア様に報告を。私は内部を見よう」

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「ほんま?!ようやってくれたわ!そっちに移るで!街の人らを落ち着けるにはあの神器は使えるはずや!ミミ、ヘータロー?言ってたんはプリシラやんな?」

 

「はい!プリシラ様が通ったであろう所は落ち着いておりました!」

 

「妾を呼んだか?」

 

「ちょうどよお来るなぁ」

 

「当然じゃ。世界は妾に都合の良いようにできておるのじゃからな」

 

相も変わらず良く分からない理論を振りかざし、プリシラは言う。だが今はそんなことを気にしている場合ではない。

 

「それで説明して欲しいんやけど、どういうことなん?」

 

「この都市の全域に馬鹿馬鹿しい力を被せている輩があろう。その結果、民が殺し合いをしておるのじゃ」

 

平然と告げられた内容はとても凄惨で血腥い。悲惨の言葉の似合うものであった。

 

「娘、一曲歌うがよい」

 

「はい!任されました!聞いてください。-------水面に揺れる、水門都市!」

 

褐色肌の少女は慣れた手つきでリュリーレの絃に指を滑らし、弾かれた音に合わせて歌を乗せる。

 

緊急時とは思えぬゆったりとした時が奏でられ、ゆっくりと満ちた闇が祓われる。

 

聴衆皆が奏でられる音と紡がれる言葉に魅入り、口を噤む。

 

「ご清聴ありがとうございました…ぁッ!」

 

「これがこの娘の力よ。妾は娘を連れて都市庁舎へと向かう」

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「アナスタシア様、こちらを………」

 

都市庁舎の中の一室。ユリウスは閉ざされた扉の前に立ち、ゆっくりと開く。

 

「え………なんなん、これ…………」

 

蠢く黒い巨体。やかましい羽音。不気味に目立つ赤い複眼。

醜悪という言葉がこれほどに適当な存在があるだろうか。

 

「彼らは皆人間です。一年前の『色欲』による王都襲撃と同様のものです」

 

静まりきった場をパーンが破る。

 

「つまりこれも色欲がっていうこと?」

 

「えぇ、その通りです」

 

アナスタシアは強く手を握りしめる。冒涜極まりない。命をなんだと思っているのか。魔女教という狂人集団に言っても仕方がないとは思いつつも湧き上がる怒りは、『憤怒』は収まらない。

 

「アル、考えを述べるがいい」

 

「せっかく隠れてたのにバラすのはやめてくれよ姫様」

 

「妾の顔に泥を塗るか?道化。さしもの妾とて許さぬぞ」

 

「分かったから落ち着いてくれ、姫様。………じゃ、言っていくぜ?」

 

「まず『憤怒』は姫様が当たって欲しい。てか、姫様じゃないとダメだ」

 

「なんでそんなこと分かるん?」

 

「オレの勘だ」

 

「アル殿。もう少しまともな理由を述べて頂きたい。私では力不足ということか?」

 

「下がっておれ、凡愚ども。妾は道化の策に乗ろうぞ」

 

「すごい信頼やね。すごい思うよ?ぼくは」

 

「信頼などと嘯くな。世界は妾に都合の良いようにできておる。それは妾に起こること全てである。疑う余地が何処にあろう?」

 

不満の気を感じつつ、アルは続ける。

 

「次に第二の制御塔にいる『暴食』だが……ハリベルさん、頼めるか?」

 

「ぼく?うん、ええよ」

 

「第三の制御塔は『鉄の牙』にやって欲しいんだが……」

 

「気には食わんけど任されたわ」

 

「第四の制御塔はユリウスに任せる。二人目の『暴食』がいるから気を付けてくれ」

 

「待って?二人目の『暴食』ってどういうこと?」

 

「んなもん知るかよ。本人に聞いてくれ。聞けるとは思わねぇけどな」

 

「了解した。…アル殿、あなたは?」

 

「…オレなら出涸らしでもここを襲う。だからオレはここにいる」

 

「私でもそうするわ。頭潰すんが一番楽やもん」

 

「つまりアナスタシア様とパーン様の守りということかい?」

 

「………まぁそんな感じだ」

 

「アル殿、信じていますよ」

 

「あんまり期待はしないでくれ。オレぁ、そんなに強かねぇからな」

 

「で、文句ある奴はいるか?」

 

全て言い終えたアルはグルっと見渡す。が、反対はでないはずだ。

そもそも反対できる程の情報が無いのだから。この情報もここでは知りようのないものばかり。アルしか、アルだからこそ知り得たような情報ばかりである。

心の端にもう一つの可能性の存在が浮かぶが、奴は此処にはいない。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

紅の衣装を身にまとい、華美な装飾を全身にちりばめる。赤の中に青い宝石が輝いている。

真横に従う褐色の小娘は豊かな胸に釘付けになっていたが。今は戦地の最前線に連れてこられ、心臓がバクバクと鳴っている。

 

「まぁ、初めまして、ですね?私は魔女教大罪司教、『憤怒』担当。シリウス・ロマネコンティ……と申します」

 

「痴れ者の名など留める価値もない。疾くその首を差し出すがよい」

 

相も変らぬ高飛車でプリシラはシリウスを轢く。

 

「そんなに怒らないでください。私、悲しんでしまいますよ?あなたの時間を頂いて申し訳ないと思っています。だから、ありがと、ごめんね」

 

「わかっていたが、話す価値などありはせぬな。貴様ほどの自己陶酔に耽る輩も見ぬ。生かしておく価値を見出せぬな」

 

「あら、あらあら、あらあらあら、そうですか? わざわざご丁寧にありがと、ごめんね? 感謝して、謝ります。あなたたちにはどうやら、私の言葉がなかなか届かないみたいで……でも、そういうこともありますよね」

 

「物分かがよいな。妾の望むまま、飾ってやろう」

 

「はい、もちろんです。分かり合うために言葉を尽くす、それもまた人間関係を結ぶ上での大切な儀式ですから。通じ合い、やがて心は解け合い、一つになる。愛は一つになること、同じになること、同じになるために努力すること。愛は尊いと、私はそう教えられ、そう生きてきたのですから!ですから私もその教えの素晴らしさを皆さんに理解していただけるよう、今日ここにいるのです!」

 

どこからともなく紅の剣を引き抜き、プリシラは舞う。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

シリウスの鉤鎖がプリシラを貫き、首飾りが破砕する。

白炎と紅炎に囲まれた劇場でプリシラは華麗に俊敏に空を舞う。

 

「自身の傷を価値あるものに移し替えるのですか。それはとても『傲慢』な……『アイリスと茨の王』も真っ青ですねえ!」

 

プリシラの顔に陰りが見える。

 

「人の過去を漁る浅ましき輩よ、万死であっても贖えぬ」

 

戦いの最中、白く燃える監視塔にリリアナが登り、リリューレを奏でる。

 

「女、リリアナ・マスカレード!歌って奏でて踊ります!!聴きさらせ!!『朝焼けを追い越す空』!!」

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

響く歌が沁み渡っていく。敷かれた『権能』に歌を重ね、歌を、心を、『伝えて』いく。

 

「――やはり、アレを見込んだ妾の目は確かであったな」

 

原初の炎の剣を握るプリシラは笑う。

 

「お前もあの娘もいちいち煩わしい! 私とあの娘で何が違う! 手段は違えどもその本質は同じ! 一つのもので通じ合う、その証明でしかないだろうが!」

 

「歌一つとっても、その感じ方は千差万別。同じ一言ですら有する意味が異なる。やかましく騒ぐ割に、肝心が疎かで浅はか。それを愚かと呼ぶのじゃ」

 

「うぅぅるっさいんだよぉ!!」

 

『憤怒』に身を任せ、シリウスは両腕を振るう。

 

「感情の震え……激しい心の情動、すなわち激情、すなわち『憤怒』!」

 

放たれた轟炎がプリシラへと襲い掛かる。炎に向かって陽剣を振り、プリシラを起点に炎が分かつ。

塔が崩壊しようとリリアナの歌は止まらない。

 

「その意、大儀である!」

 

踏み込んだプリシラが陽剣を一閃。シリウスが呼び出した少女に構うことなく振り抜く。

 

「妾の陽剣は焼きたいモノを焼き、斬りたいモノを斬る」

 

少女を縛った金の鎖を断ち切り、シリウスの肩口を切り裂く。

 

「この痛み、あなたは?」

 

「貴様の痛みを妾が感じる理由があるか?妄言を抱えたまま死ぬがよい」

 

横殴りの陽剣がシリウスの首にたたきつけられた。

 

「陽剣が翳ったか。悪運の強い輩よ」

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「さすが兄様ァ!いい、いいね、いいよ、いいとも、いいだろうさ、いいだろうからこそ!暴飲!暴食ッ!!」

 

「貴様に、兄と呼ばれる覚えは無い!」

 

繰り出す虹の剣閃がことごとく空を穿ち、マナの奔流は憐れ散っていく。

 

「でもダメだなァ。兄様、ずっと同じ動きしかしないじゃァないか!!」

 

剣戟は紙一重に躱され、返しの蹴りを背中に受ける。

 

「『ウル・ゴーラ』!」

 

火と風が合わさり、高温の烈風をロイへと放つ。

 

「へぇ!さっすが兄様ァ!!でも、ソレも知ってるんだよね!!『拳王の掌』!」

 

迫る熱波を白刃取りの要領で漆黒の手が押し潰す。

戦いが始まってから、ユリウスは有効打を与えていない。それは何故か、どうしてなのか。

 

自らの鍛錬がまだまだ足りていない。自己研鑽しか知らぬ最優の騎士は当然ながらその結論へと行き着く。相手が何故自身の絶技をことごとく躱し、相殺することができるのか、その理由を深く考えることも無い。

考えたところで辿り着けるわけではないのだが。

 

相殺の衝撃は白煙と突風としてこの戦いに僅かばかりのモラトリアムをもたらす。

 

白煙を突き破り、ロイが疾走。五指に嵌めた鋭利な爪でユリウスを切り裂かんと迫りくる。

 

「兄様、昔のことを覚えている?覚えてないかなァ?!体が弱かった僕たちが庭の木に生っていたリンガをねだったときのことをさァ!」

 

「そのような話、私は知らない…知らない……!」

 

「そっかァ、悲しいよ、悲しいさ、悲しいとも、悲しいだろうね、悲しいだろうからこそ!!最ッ高のスパイスなんだよォ!!!」

 

長い舌を垂らし、その顔には不気味にも恍惚の笑みが浮かんでいる。

繰り出される剣技を、体術を、魔法をユリウスはその騎士剣一本で受ける。

合間に攻撃を受けながらも、ユリウスは膝を折ることを知らない。

 

「『アル・クランヴェル』!!」

 

ロイの攻撃に合わせユリウスが虹となり、剣を振るう。

 

「なっ?!」

 

「その反応はもう飽きて来ちゃったなァ!」

 

至近距離からの光に迫らんとする剣技をロイは空を跳ぶようにして回避。

そして、その掌がユリウスに触れる。

 

「『ユリウス・ユークリウス』」

 

静かに名を読み上げる。

触れた掌に息がかかる。

 

「イタダキマス」

 

騎士剣が地に落ち、その摩耗した剣身が折れた。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「いいね、いいよ、いいとも、いいかも、いいだろう、いいだろうから!!こんなご馳走今まで出会ったことも無いよォ!!!!!」

 

「そぉ?褒めてくれるんは嬉しいねぇ」

 

穏やかな口調から繰り出される剣技は速いという次元ではない。人の身、正確には獣人だが、の身体から放たれているとは到底思えない程の速度でライの手を、足を切り落とそうと振るわれる。

 

『跳躍者』がいなければライは既にダルマにされていると確信できる。

 

「お兄さん、もっともっと僕たちと遊んでおくれよォ!!!」

 

「う〜ん、特に用事無いんやったらそれでええんやけどね?ちょっと立て込んどるから、そろそろ終わらせて貰うわ」

 

「そんっ………」

 

発されようとした言葉を体、口諸共に切り裂き、ライは絶句する。

 

「ほな、お命いただくで」

 

「さっさと私たちを呼ばないからこういうことになる」

 

剣が、到達するよりも速く、ライの体が変化し、跳んだ。

 

「今までと動きが違うね。キミさっきの子や無いやろ?」

 

「その通り。いい、いいわね、いいとも、いいじゃない、いいからこそ、貴方と『食卓を囲む価値』を私たちは見る。私は魔女教大罪司教、『暴食』担当『ルイ・アルネブ』」

 

「キミら三人兄妹なん?血縁が多いのはええことやねぇ」 

 

「そうかしら?寧ろうんざりしているの。『美食家』のライも『悪食』のロイもなんにもわかっちゃいない。食事は何を食べるかじゃない。誰と食べるかなのに」

 

程高い建物の屋上。ルイはハリベルを見下ろしている。出てきたはいいもののマトモに戦って奴に勝てるのか、と問われれば答えはNOである。『跳躍者』に『絶掌』その他数え切れぬ程の記憶を貪ったからこそ力量差がはっきりと分かる。

 

今までに見たことが無いほどに卓越で、別次元で、格が違う。見たことがあるのはただ一人、王国が誇る今は無き『剣聖』である。だからこそ、目の前の敵は『絶品』なのだ。

 

「話は聞いていたわ。ここで貴方が倒れるか、私たちが倒れるか」

 

「話が早くて助かるわぁ。一個だけ聞いてええ?それ誰なん?」

 

ハリベルの前に立つのは『暴食』ルイ・アルネブ、改め燃えるような赤い頭髪を持った優しい顔付きの騎士服姿の青年。

 

「これ?今は亡きこの国の『剣聖』よ」

 

「過去の『剣聖』にこんな子おったかなぁ?覚えてへんわ」

 

ハリベルが刀を、ルイが鞘付きの剣を握り激突する。

余波が旋風を起こし、一帯の物を吹き飛ばす。

 

「すごいええ体やね。是非本物と手合わせしてみたいわ」

 

「ここにいるじゃない」

 

「『礼賛者』言われる僕やけどね、それは褒められへんわ」

 

地を蹴り、ハリベルが後方へと跳ぶ。ルイの足下には爆薬。

爆煙がルイを覆い、視界が塞がれる。一時的に『拳王』となり、立ち込める煙を吹き飛ばす。飛び去った所にハリベルはいない。

 

ルイの背後、音も立てずソレは忍び寄り、首に一閃。

 

「だって」

 

視界が逆転する中、『礼賛者』は言う。

 

「『本物』がこんな弱いはずないもん」

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「領域展開。マトリクス再定義」

 

アルの指揮のもと行われた各方面への同時襲撃作戦。死を繰り返した身として言わせて貰うならば圧倒的な戦力不足である。大した戦闘力も無いのに一丁前に都市庁舎に残るアナスタシアとパーンの守りを買って出たのは簡単なお話である。

 

ここしか無い。『暴食』なんて敵うはずもないし、純粋に強い『闘神』クルガンにも勝てやしない。『憤怒』の巻き添えでポックラなんてのも御免である。

 

負けない戦いは『死』を繰り返すインチキの力でどうにかなるが、勝たないといけない戦いとなればアルは極力お断りしたいのだ。

そんな理由でアルは『色欲』カペラ・エメラダ・ルグニカとの戦いをセットアップ。

 

これでようやっとアル的な勝ちを拾う準備が整った。

 

人間の顔に熊の手、猛禽の足に、腰に生えた翼、プラスで竜の尻尾まで生えている。

随分とご丁寧な人型キメラである。

 

予想と予定通り襲ってきた『色欲』を叩き落とし、決戦の舞台は地下空洞に移行する。

 

「オレぁ、戦いが得意じゃねぇからよ。できればお帰り願いたいんだが………」

 

「なんでアタクシがてめーの言うこと聞かなきゃならねーんですか?クズ肉のみみっちい頭じゃそんなことも分からねーんです?」

 

「そうだな。期待したオレが間違ってたよ」

 

「アタクシに期待してくれたんですか?いいじゃねーです。アタクシは愛されるための努力は惜しまねーんです?」

 

「そうかい。だけどすまねぇな、オレは姫さんにゾッコンだ」

 

これをもって交渉決裂。時間稼ぎという一面だけなら喋るが、喋れば喋るだけ嫌悪感が募るのだから仕方ない。

 

手に押し潰されてワントライ。尻尾に叩かれてワントライ。喉を食い千切られてワントライ。

 

順調な死の連鎖に連れ、アルの動きには無駄が少なくなっていく。僅か数センチで、迫りくる鉤爪も、牙も尻尾による薙ぎ払いも躱していく。お返しに振るう刀の試行も欠かさない。

 

肩を、腕を、足を、切り落とす。

肩から腕が、腕から手が生えるがその体には確実に傷が刻まれている。

 

「なんかお前弱くねぇか?オレでも勝てそうなんだが」

 

アルが『色欲』との戦いをセットアップしたのは負けないからだ。勝てるのは嬉しい誤算と言えようか。

 

傷だらけのカペラは明らかに動きが緩慢になっている。それこそ試行せずに攻撃を躱し、剣戟を叩き込めるほどに。

 

切り込んでいくアル。襲い来る鉤爪の腕を偃月刀で切り落とし、生やした土の腕をカペラへと向ける。慎重に慎重を重ねるのだ。

 

「『ドーナ』!」

 

カペラの体が膨張。内側から体が爆発し、辺りに肉が飛散する。

 

「終わったか?」

 

耳を引き裂くように不快なカペラの声は聞こえない。

 

「予想外だが、まぁ儲けものか?」

何やら嫌な予感がしないでも無いが、アルにとって大事なのはプリシラのみ。そしてそのプリシラの勝利は確定的なもの。

偃月刀を鞘に納め、式句を唱え現実を確定する。

 

「領域展開。マトリクス再定義」

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

リカード、ヘータロー、ティビー、三人の連鎖攻撃をご自慢だろう八本の腕でいなしていく。

 

『闘神』八つ腕のクルガン

かつて南方ヴォラキア帝国にいた多腕族の英雄である。魔法に長ける種族が多い亜人にも関わらず、魔法が不得手な多腕族は力こそ全てと言って良いヴォラキアでは肩身の狭い思いをしていたらしい。

そこに現れたクルガンである。四本腕が大多数の多腕族の中でも飛び抜けて多い八本腕。同族が彼に多大な期待を、向けたのは想像に難くない。

 

無念にも『強欲』の大罪司教、レグルス・コルニアスによって城塞都市『ガークラ』共々戦死したとのことだが、どういう理由か、かつての英雄は今ここでその剛剣を振るっている。

 

「クッソォ…八本腕あるんやから絡まってくれたりせんかな」

 

「絶対無いであります!」

 

呟いた夢物語をヘータローが容易く粉砕する。

 

「おっしゃあ!もう一回やるでぇ!!」

 

「うん!!」「はいであります!!」

 

跳躍したリカードに合わせ、二人が声を上げる。リカードの技を真似たものであるが、その威力は申し分ない。二人の攻撃に対処する腕が四本、リカードを迎え撃てる腕が四本。だが、肝心要の攻撃を見る目は二つでその目のある頭は一つ。

 

いかに『闘神』と言えど見もせずに攻撃を受け切ることは出来ないだろう。目を離せばティビーとヘータローも攻撃に加わることは火を見るより明らかなのだ。

 

上空から迫るリカード。その剣が確かにクルガンを捉えた。が、振り抜けない。腕を断つ剣戟はその目で剣戟を捉えたクルガンによって阻まれた。

 

ならば二人がと思うが、二人が攻撃する様子も感じられない。

クルガンと距離を取り二人の元へと駆け寄るリカード。

 

「!?どういうことや?!!」

 

元いた場所で腹部から血を流して蹲る二人。無事でないのは明らかである。クルガンが攻撃していないのはこの目が確かに捉えている。

 

「お姉ちゃん……が……」

 

「ミミか?!……いうことはアナ坊も!!」

 

護衛が危急で主が無事なわけが無い。

 

だが、戦闘の最中、それも『闘神』を相手取っている時にそんな余裕があるわけが無いのだ。

 

リカードが地に伏せった。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

アルが提言した魔女教徒による都市庁舎襲撃。その狙いが正しいとアナスタシアは思う。

頭を潰された組織は弱い。それはこの親竜王国とて同じである。ご丁寧に王選の期間に設けられた南のヴォラキア帝国との休戦協定。それが自国を整え、外敵による混乱を避けるためのものであるのは自明の理というものであろう。

 

だからアナスタシアは自分を優先する。四人で始まるはずだった王選は開始を目前にクルシュが『アナスタシア』を名乗る何者かによって殺された。落ちた名声と信頼を取り戻すためにアナスタシアがどれだけの骨を折ったことか。

 

そして今王選候補は自分と目の前にいるパーンとプリシラ。ゼロから信頼を築くというストーリーを構築させられたアナスタシアと特段話が上がっていないパーン。自領を中心に支持を広げているらしいプリシラ。

 

最有力は自分かプリシラであるという自覚がアナスタシアにはある。だからこそ、ここで死ぬわけにはいかない。護衛としてミミを置き、予想通り襲撃してきた『色欲』を隠れていたアルが叩き落とす。計画は順調に進んでいる。後は水門の奪還に向かったユリウスたちの戦勝を祈るだけである。

 

「アナスタシア様!!!」

 

叫ぶミミ。迫る蛇頭を押さえつけ、ゆっくりと視線を上げる。

 

「おぉ〜〜!よく懐いたいい子猫ちゃんじゃねーですか!アタクシのこと警戒してました?」

 

「油断してたつもりはないよ?でも、正直予想以上いうんが本音やね。『パーン』はずっとアンタやったっていうことでええ?」

 

「そうですよ?優しいメス肉を演じるのは癪だったんです?降りかかる視線の悍ましいこと!結局見た目じゃねーですか!!ただの欲情をォ!『愛』だなんて言葉で取り繕うのは虫酸が走るってなもんじゃねーですか!!!」

 

言葉の合間、パーン改めカペラ・エメラダ・ルグニカが歪む。金色のウェーブのかかった髪はもみあげの長い金の髪に成り代わり、露出の少なかった衣服は下着同然の肌面積を誇っている。

 

「それでも?アタクシは慈悲深く、恋多き乙女ですから、そんなクズ肉どもでも愛してあげます?」

 

「私、女やさかい、遠慮するわ」

 

「遠慮なんて要らねーですよ?アタクシは性別なんて気にしねーですから。『愛』に性別は関係ねーですから。まぁ、お望みなら?男にだってなれますけど」

 

再び姿が歪み現れるのはユリウス、リカード、ハリベル等々。グニョグニョと気持ちの悪い動きを繰り返しながら、カペラは姿を変化させる。

 

「ミミ、ええ?私らは生き残ることが第一や。だから戦わんでいい。逃げるで」

 

アナスタシアの言葉にミミが背中で了解を伝える。

 

「連れねーじゃねーですか!いっぱいかわいがってあげますよぉ?」 

 

「二人で勝てる思う程思い上がってないよ?」

 

「へぇ?」

 

空いた穴から飛び降りるアナスタシアとミミ。迫るカペラに向かって一言。

 

「『ジワルド』!」

 

指先から放たれた白い熱線がカペラを焼く。湧き上がる白煙。突き破るようにアナスタシアとミミは飛び降り、走る。目的地はハリベルである。

 

「目眩ましくらいにはなってよ?」

 

「残念でしたぁ〜!!べろべろばぁ〜〜!!!」

 

翼をもって飛翔するカペラ。速度で敵うはずもない。

 

「勝てねーことは理解できるのに、逃げれねーとは理解できないものなんですかね?その矮小な脳みそだったら仕方ねーってやつなんですかね?」

 

立ち塞がるようにアナスタシアとミミを睥睨するカペラ。

 

一つ戦力が足りないこと。

二つ想定より敵が強いこと。

アナスタシアもミミも決して自惚れてなどいない。ただ、致命的に相手が悪い。

 

「ゆっくり遊んであげてーんですが、よちよちできそうにもねーですね。じゃあ……さっさと死ねぇ!!クズ肉!!!」

 

(負担をかけるよ、アナ)

「好きにし!死んだらおしまいや!!」

 

「『エル・ジワルド』!!」

 

陽属性の熱線が指先から放たれるが、カペラは怯むことなく間を縫って足を振るう。

 

異様に伸びる足が獅子の頭となり、アナスタシアを噛み砕かんと迫りくる。ミミが割って入り蹴撃を抑える。

 

「足で悩殺!キラッ!!!」

 

足が巻き付き、ミミを蛇のように締め上げる。

 

「ミミ!」

 

「させるわけねーじゃねーですか!!!!!」

 

アナスタシアが放とうとした魔法を腕ごと獅子が喰らう。

腕から走る激烈な痛みがアナスタシアを襲う。

 

「ではここで?愛くるしい子猫ちゃんの解体ショー!!キャハハ!!」

 

こじ開けられた口にカペラの腕が入り込む。腕が内臓を陵辱する。人の体が悲鳴を上げ、決壊する。

 

「ありゃ、破裂しちまいましたか。子猫ちゃんにはキツすぎましたかね?」

 

惨殺を意に介さないカペラ。

 

「愛した子猫ちゃんが死んじまいましたよ?なんにもできずに!憐れで!滑稽で!無様!!かわいいくらい無能!!!でも、そんな貴方を、アタクシは愛してあげます」

 

彼女なりの愛の囁きをし、そっと手をかざす。

 

蠢きと共にアナスタシアが再構築。

前足のないハエが散らばった内臓に向かった




次回 #16 戦いの生き残り


プリシラの戦いを滅茶苦茶に省略していますが、理由は単純
原作様と流れが変わんないからです。
そりゃ対面も手の内も変わんないんだから変える部分無いよね、と。何なら変わったらおかしいよね、と。
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