お話に行く前に少し
シャウラは『魔女教を完全に敵視していない』
という独自設定の下書いています
詳しい理由はあとがきで
魔女教と、矮躯の人はそう宣言した。
魔女教が何なのかは分からないが、宗教組織なのだろう。日本生まれとしては全肯定で受け入れるのは少々怖い。
そして何より、その指には一指ごとに鋭利なかぎづめ状の刃物がぎらぎらと輝いている。
「ひ!」
向けられるそれは明確な害意の表出。それを贖うのは自分の身に他ならない。
スバルはうろたえる。強盗も銃撃事件も起こり得る、そんな元の世界だが、そのどれもがスバルにとっては対岸の火事だ。身近に感じられない、ある種の異世界のもの。そんな世界でありふれた凶器がいま、自分に向けられている。
そのことが怖くて堪らない。
なのに『サテラ』は何の感情も表さない。これから死ぬかもしれないというのに表情一つ変えやしない。
「魔女教の人ッスか?こんな所まで何しに来たッスか?」
シャウラに至っては会話を試みようとすらしている。会話の可能性などあるはずがない。あの凶器が目に映っていないのか?だとすれば、その目は節穴もいいところだ。
「あれェ?ゴチソウに見えたのになァ。そっちの銀髪は兄さんが食べてるし、真ん中のお兄さんはルイに食べられてるじゃあないか。………だったら僕たちはそこの黒髪のお姉さんを頂くとさせてもらうよォ!」
「ダメッス!あーしを食べていいのはお師様だけッス!!」
「オイオイ、そんな連れないことを言わないでおくれよォ!僕たちは『悪食』だから、お姉さんがどんなのでも食べてあげるからさァ!『美食家』の兄さんが食べないものも僕たちは美味しく食べてあげるよォ!!!」
溢れ出る食欲という名の敵意。それを認識できないのか何なのか、シャウラは羽織ったマントでその露出まみれの体を隠す。
「じゃァ、イタダキマス!!」
△▼△▼△▼△▼
イタダキマス、と。そう宣言して、ロイ・アルファルドはその身を跳躍させる。理外の速度をもって戦闘態勢の整っていないシャウラへと迫る。激突の衝撃は周囲の緑を忘れさせるようなもの。穏やかを具現したようなこの空間には似つかわしくない衝撃だ。
破壊は一帯に吹き荒れ、混乱を否応なく引き起こす。
目の前の戦いに巻き込まれて無事な訳がない。危険とは縁遠いスバルでもそのことはすぐに直感できた。このままここにいたならば、自分は考える間もなく死ぬ。
死にたくない。
嫌だ。死にたくない。
誰しもが抱えるその感情が爆発する。スバルは『サテラ』の手を引き、『緑部屋』の外へと足を踏み出した。
『図書館に行け』という天の声を無視し、スバルは下を目指す。そこにはメィリィがいるはずだ。
誰にどんな力があるのかなんて分からない。
そんな中、スバルが知っているのはメィリィだけだ。記憶と感情が混ざり合う嘔吐感だけが余韻として残っていたあの本、否、記憶。
あれが本当に予知夢の都合のいいものでない限り、この少女には抗えるだけの力がある。
「メィリィ!」
「あらあ?どうしたのかしらあ?お兄さん」
「逃げるんだ!ここから!すぐに!早くしないと!!」
「逃げないでおくれよォ!たとえ誰かの食べ残しでも、僕たちは美味しく食べるからさァ!パンの一欠けらでも、スープやソースの一滴でも、僕たちは美味しく食べる。それが僕たちの『食事』だからさァ!」
△▼△▼△▼△▼
死んだ。
死んだ。
死んだ。
死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。
死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。
何度も、死んだ。何回も死んだ。
襲い来る『暴食』に抗えずに、死んだ。
何百、何千、何万。数えられぬほどに死んだ。
聞いた。
聞いた。
聞いた。
聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。
何度も、聞いた。何回も聞いた。
『暴食』から逃げようとして、聞いた。対処しようとして聞いた。
何百、何千、何万。数えられぬほどに聞いた。
そして、ようやく理解した。
天の声が、悪魔に思えた声が、どうして凝りもせず『図書館に行け』と言っていたのかを。
俺を救おうとその声を発していると、ようやく理解した。
それが救いの声であるとようやく。
「『ナツキ・スバル』………俺の、本」
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「………全部お前の企みか」
スバルは目の前でティーカップを片手に優雅に佇む白と黒の少女に『いつも通り』話しかける。
「そうだよ。『契約者』ナツキ・スバル」
「エキドナ」
記憶を無くしたスバルに話しかけていたのはエキドナだった。
今思えば、天の声はこの世界のことを『異世界』とは呼ばなかった。同じように『日本』のことを『場所』と表現した。当然だろう。エキドナは『日本』がこことは異なる世界だと知らないのだから。
「ボクは記憶を失ったキミを導いて助けてあげた。さぁ、ボクに何か言うことがあるんじゃないかな?」
エキドナはそう耳をこちらに向けて、スバルの言葉を待っている。
最初から道は繋がっていた。図書館にはオレの『死者の書』があった。それが記憶喪失の現状を打ち破るために有用だというのも理解できる。だからこそ、天の声は、いやエキドナはオレをプレアデス大図書館へと誘導していたのだ。そしてそれを蹴っていたのは他の誰でもないスバルである。
エキドナはスバルが『ナツキ・スバル』を取り戻すために尽力した。恐らくはできる限りを全力でやったことだろう。
ただ。
ただ、一つだけ聞きたいことがある。
「………どうしてメィリィを犠牲にした?」
「ボクはあの子を犠牲になんてしていないよ?あの子を殺したのはキミと同体になった『暴食』だからね」
「噓だな」
「お前は予想していたはずだ。オレとメィリィが会えば、『暴食』がメィリィを殺そうとすると」
スバルの指摘にエキドナはただ沈黙する。
「答えろ!エキドナ!!」
「そうだね。予想できていたよ。しかし、だよ?キミと契約する時、言ったじゃないか。過程で発生する犠牲は許容する、と。そして、最後にはキミの望む未来にたどり着く、とね」
エキドナは黒い笑みをたたえる。真っ黒で、どす黒く、邪悪極まりない。そんな笑みをその端正な顔に隠しもせずに浮かび上がらせる。
「実際、ここまではキミも望んだ通りだろう?ナツキ・スバル」
今の現実はスバルが記憶を失い、そこから目覚めてすぐ。エミリアやシャウラ、メィリィは変わらぬ時間を過ごしている。二人目の『暴食』の大罪司教であるロイ・アルファルドが襲い来る前。不気味なほどに仕立て上げられた完璧と言っても差支えの無い土壌だ。
だからこそ、スバルは腹立たしい。
何もかもがこの『魔女』の手のひらの上であるこの現状が腹立たしい。
だから、スバルは憎々しげに吐き捨てるように言った。
「ありがとよ、エキドナ」
「フフッ、ボクもキミの口からその言葉を聞けてうれしいよ。共犯者冥利に尽きるといったところかな?」
邪悪な笑みを浮かべ、エキドナは去りゆくスバルを見送った。
「たとえキミがこの世界から忘れられたとしても、ボクだけは絶対にキミを忘れないよ。ナツキ・スバル」
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『暴食』の被害にあった人物の『死者の書』がどうなっているのか。
食われたもの、奪われたものは当たり前の話、そこから消え失せる。ならその消えた場所には何が残るのか。
そこは記憶の回廊、『オド・ラグナ』と呼ばれる空間に繋がっていた。
常人が立ち入れない。否、決して立ち入ってはいけないと、そう直感できる空間。スタッフのいないスタッフオンリーな、そんな空間。
そこに彼女、少女は一人でいた。
『暴食』の大罪司教、『ルイ・アルネブ』
あの日、スバルはユリウス・ユークリウスの『死者の書』を読んだ。
存在を、『名前』を食われたユリウスに成り代わる形でルイはユリウスの記憶の中に存在していた。
同じ体を奇妙に共有したスバルはそこでルイによって『記憶』を喰われた。
「よぉ、『暴食』。ご執心だった『死に戻り』は堪能できたか?」
わなわなと全身を震えさせ、ルイはスバルを見上げている。
「ば、化け物………」
人という生き物がしてはいけない心の形をしている。人はあんなに簡単に自分の『死』を受け入れてはいけない。それをこいつは何度受け入れた?
ルイにはあんなのは耐えられない。耐えられる訳がない。
苦しすぎる。痛すぎる。辛すぎる。空しすぎる。
『死』の感触は人が耐えていいものではないのだ。
「い、嫌、嫌!死にたくない!!死にたくない!!!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!もう………許して、ください」
反芻するのは桁のおかしい死の記憶。人が決して得られない、否、得てはいけない『死』の記憶。
「そうか、なら………『エミリア』と『レム』を返せ。その後、兄様諸共死ね」
△▼△▼△▼△▼
スバルは単身、『暴食』を待ち受ける。
やがて、記憶で見た矮躯の人、ロイ・アルファルド、ではなく純白のワンピースに身を包んだ金髪の少女、ルイ・アルネブが現れる。
とぼとぼとその絶望感を隠すこともせず歩き、近くに来た途端、土下座した。
「もう、許して………ください」
瞠目し、声を震わせ、『暴食』は請願する。
「なら、約束通り『エミリア』と『レム』を返せ」
「すぐ!すぐに『吐き出し』ます。………『吐き出し』ました」
「本当だな?噓だったらオレはまた死ぬ。オレは最後にはあそこにたどり着くって分かったからな。なら、何回死のうがその結果は変わらないはずだ。次に味わう『死』の回数は桁が変わってるかもな」
「狂ってる、狂っているわ、狂っているでしょう、狂っているだろうサ」
「あぁ、そうだ。オレは狂ってる。狂わないとやってられないからな」
スバルはルイを突き落とす。
小さく華奢な体が宙を舞う。宙を蹴ることもできる。ここから助かることもできる。それでもルイは『日食』も『月食』も使わない。抗う意思など遠くに砕かれた。ここで生きても待っているのは地獄だけだ。
私たちが死んでいないと分かったあの狂人は何をするだろう。
きっと嬉々として、鬱々としながら、作業のように『死に戻る』。そして、私たちがここで確実に死を選ぶまで、それを繰り返す。
「化け物」
そう誰にも聞かれることなく呟いた。
致命が体を貫いた。
△▼△▼△▼△▼
ルイ、『暴食』の死を見届けたスバルは急いで『緑部屋』へと向かった。
「エミリア!」
「スバル!」
扉を開けたスバルをエミリアがギュッと抱きしめる。
優しい銀鈴の音だ。冷たいあの声ではない。『エミリア』がそこにいる。
「エミリア」
嚙み締めるようにその名を呼ぶ。
「えぇ。そうよ、スバル。私は『エミリア』。ただの、『エミリア』よ」
「エミリア」
今まで呼べなかった分だけ、何度も何度もその名前を口にする。
「私のためにと~っても頑張ってくれたのね。ありがと、スバル」
エミリアの胸に涙が落ちる。濡れるのも構わずに、エミリアはスバルの頭をギュッと抱きしめる。
△▼△▼△▼△▼
ガタン!と何かが崩れる音が耳と脳を打つ。
ラムは屋敷の仕事を半端に音のした部屋へと急行する。
忘れていたのが信じられないほどにぴったりと、無いはずの心の、『記憶』の空間にそれがピタリとはまり込む。
「『レム』!」
「はい。『レム』です。姉様の妹の『レム』です」
鬼の姉妹はじっとお互いを抱きしめる。
なんかハッピーエンドっぽくなっちゃった………
スバル君には曇ってほしいなぁ………やったこと的にも
前書きで書いたシャウラが『魔女教を敵視していない』に関してそういう設定にした理由を書いていきます
①原作様にシャウラと魔女教(ライ、ロイ、ルイ)との会話が無く、どういった態度かが分からない(あったらごめんなさい)
②個人的な考察混じりになってしまいますが、魔女教勢力が『完全な敵対組織』だと考えにくい
からです
スバル臭のするフリューゲルとシャウラに繋がりがあったり、プレアデスになにやら怪しげな扉があったりとフリューゲルと魔女教に何かの繋がりがあってもおかしくないという考察の元の描写です
と色々と書きましたが、大局で見れば些細なことなのであんまり気にしないでください
ラムとレムの百合っていいよね。本家様読んだ時にも発狂するかと思いました