ゼロカラミダレルイセカイセイカツ   作:らら、

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らら、と申します


#4 最後の賭け

「……つまり、エミリアを攫ったのは『強欲』の大罪司教ってことだな?」

 

「あぁそうだ。騎士として不甲斐ないばかりだ」

 

今までどこかさっぱりした受け答えをしていたラインハルトの声が露骨に沈む。 

他人から忘れられたにも拘らず気持ち悪いくらいにあっさりとしていたのでこのくらいの声色がまともだと思う。

 

「決めた。『エミリア』を取り戻す。どんな手段を使ってでも」

 

目つきの悪いスバルの眼に邪悪な炎が宿る。

 

「それには僕も賛成するよ。大罪司教の元に置いておいたらどうなるか分からないしね」

 

「ラインハルト、どうなるか分からないって言うのは………」

 

「君の言う『エミリア』という女性は銀髪に紫紺の瞳で耳の長いハーフエルフだった。放って置けない。」

 

『一の騎士』の眼ではない。『剣聖』の眼でスバルに同意する。

 

 

「そうか………そうだよな。」

 

 

今更ながら最初に『エミリア』いや、『サテラ』と名乗った彼女と出会った時のことを思い出す。

 

 

自分の容姿を理由にわざと避けられようとしていた自虐的な彼女を思い出す。これまでにどれだけこんな思いをしたのだろうか。偏見がどれだけ彼女を『エミリア』を傷つけたのだろうか。

 

 

数日後、スバルは屋敷を出た。

 

「今のラインハルトとエミリアを会わせちゃいけねぇ……!オレが『強欲』を殺す……!」

 

旅費はロズワールに貰った。エミリアに王戦に出る資格があると言ったら快く出してくれた。

 

 

 

啖呵を切って出てきたはいいものの、スバルは『強欲』の居場所すら分からない。取り敢えず情報を集めるためスバルは王都に出向いた。ここ数日での王都にいる頻度が高いが、碌な思い出が無い。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

王都に来てから三日が経った。何の進展もない。当たり前だが、ただの一般人が大罪司教の居場所など知るはずもない。そのうえ、スバルに貴族への伝手なんてものは無い。

 

ここ数日、スバルは酒場と王都の商会の辺りに入り浸っている。ゲームの知識が当てはまるならば情報が回りそうな場所である。

今日も何の収穫もなく日が暮れる。

 

 

次の日、商会の金髪の男が消えた。ようやくの変化だ。スバルは懐に潜ませていた短剣を取り出した。自衛用、否、自決用兼自衛用である。少しの覚悟と共にスバルは自身の喉に短剣の切っ先をあてがった。

 

 

△▼△▼△▼△

 

喉を貫いた感触を伴ってスバルは王都に来た初日に『死に戻る』。

 

夜を明かし、スバルは酒場に目もくれず商会に赴き、『金髪の男』を監視する。『金髪の男』の後を追う。完全にストーカーである。

 

気付けばスバルは細い路地裏にいた。

 

僅かに差し込む光が黒色の『アレ』を照らす。

 

「ゾッダムシ………」

 

黒光りする甲殻が一つ、また一つ、否、十、二十、三十と増えていく。

 

 

 

「いやぁ、まんまと引っかかってくれましたね。ここまで綺麗だとこちらも怖かったのですが」

 

スバルの背後で声がする。全身を黒のスーツでまとめた男がいた。

 

「てめぇ、誰だ?」

 

「名乗るほどの者ではありませ………おっと、名乗る名前もありませんでしたね。僕はただのラッセル・フェロー様の奴隷ですよ」

 

「そんな奴がオレになんの用だ」

 

「聞きたいのはこちらなのですが?朝から付け回して。何の用ですか?」

 

「………」

 

「無言と………埒があきませんね。大人しく付いてきてくれますか?こちらも手荒な真似はしたくないんですよ。」

 

ザッ

 

スバルが短剣を手に右足を踏み出す。

 

「おっと、やる気ですね?でも、おすすめはしませんよ。だって………」

 

コンッ

 

黒スーツが右足のかかとを鳴らす。蠢いていただけのゾッダムシが規律よく動き出しスバルの足に群がり、圧倒的物量で押し倒す。短剣を振り回すも小さいゾッダムシに剣を当てられる技量はスバルには無い。

 

「ダメですよ?商人相手に無計画で事を構えたら。絶対に秘策を持っているのが商人らしいですから」

 

黒スーツはスバルの手から短剣を奪い取り再び質問する。

 

「どうです?話す気になりました?ここまでしておいてなんですが手荒なことは苦手なんですよ。もうあなたには武器もないですし、素直に話すことをお勧めしますよ?」

 

「………話したらどうするんだ」

 

「さぁ?僕はそこまでは知りません。ラッセル様がどうするか次第です」

 

「そうか………商人さんよぉ………」

「?」

「お前らに秘策があるようにオレにも秘策があるんだぜ?」

 

スバルは群がるゾッダムシを吹き飛ばし、黒スーツに向かって、否、手に持った短剣に向かって猛進する。

 

「なにを?!」

 

拙く短剣を構える黒スーツの手を鷲掴み、自分の喉を貫かせた。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

スバルは再び『死に戻る』。

自身の理想とする未来を『強欲』に、そして『傲慢』に追い求める。

 

宿に荷物を置き、スバルは前回を整理する。

 

翌日からラッセル・フェローとかいう『金髪の男』をストーキングした結果、黒スーツの謎の男の策に嵌った。今思い返せば、日本で言うゴキブリに塗れて死んだみたいなものなので今更ながら全身の毛がよだつ。

沸き立つ別種の嫌悪感をなんとか押さえつけ、スバルは思考を加速させる。

 

明らかな変化が起きるのは今日を除いて3日後。スバルはラッセル達がいなくなる理由を知るために立ち回る。

 

ストーキングは失敗したので商会に潜り込んだり、懇意にすることにする。

幸いにも今のスバルには取っておきの取引道具がある。

 

 

対象の時間を切り取ってその装置に保管する神器、否、現代日本の文明の利器・携帯電話である。

 

 

この世界の文明では冗談抜きにオーパーツなんて物では収まらない逸品だ。………どのくらい動くかは分からないが。

 

スバルは携帯電話片手にラッセル・フェローに商談を始める。

 

「これと取引してもらいたい」

 

「これは………」

 

ラッセルの顔が怪訝を示す。よくわからない謎の銀色の何かがぽっと出されたのだから当たり前だ。

 

「対象の時間を切り取って保存する魔法器だ。悪くない代物だと思うんだが………」

 

そういってスバルはなけなしの充電を使ってラッセル・フェローを撮影した。光る画面に写真を写しラッセル・フェローに見せる。

 

「私も商人の端くれです。現実を精巧な絵のようにする魔法器は何度か見ましたが………これほどに小型のものは見たことがない。喜んで取引に応じましょう。何をお望みでしょうか?」

 

「しばらくの間、オレをここに置いてくれないか?」

 

「………それだけですか?」

 

「そうだ」

 

スバルは冗談など言っていない。3日後に何が知らされるのかスバルの求める答えはそこにある。

 

「その程度でこの魔法器が買えるなら安すぎる程です。身の回りの世話程度はさせて頂きたい。取引成立です。」

 

第一関門は突破した。スバルには一室が与えられ、食客のような立ち位置に収まった。

 

「スバル様、お食事をお持ちしました」

 

ほどほどの顔立ちに波打つ灰色の髪を持った黒スーツ。正真正銘、前回スバルを追い詰めたやつである。

 

「お前、名前はあるのか?」

 

「奴隷の身になった僕に名前なんてないですよ」

 

黒スーツはすべてをあきらめたように言い放つ。後悔や心残りではない。只々純粋な諦めを含んだ言葉だった。

 

3日が経った。待ちに待った日がやってきた。手の上の鏡をじっと見つめながら手のひらは僅かに震えているように見える。

 

「ラッセルさん、大丈夫ですか?」

 

「………えぇ、大丈夫です。」

 

「何があったんですか?」

 

「あなた様には関係ありませんよ。どうぞ、好きなように過ごしてくださいませ。」

 

ラッセルはそう言い残して立ち去って行った。

 

 

 

△▼△▼△▼

 

 

「『強欲』『強欲』『強欲』『強欲』『強欲』『強欲』」

 

呪詛のように黒スーツの男がつぶやいている。

 

「!!!お前!『強欲』ってどういうことだ!!」

 

黒スーツの肩に手を置き、激しく揺さぶった。

 

 

「あなたには………あなたには関係ないでしょう!!!」

 

「っ!!」

 

黒スーツの怒号がスバルの耳を貫く。

 

「これは私達の問題です。よそ者のあなたは出てこないでください………!」

 

「……っ!!よそ者には関わる権利もないってことかよ!!ふざけんな、ふざけんな!!オレは『強欲』を討伐するためにここまで来たんだ!なのに………ここであきらめれるかよ!!」

 

「ふざけているのはあなたでしょう!?『強欲』が今までにどれほどの被害を出したのか知った上で言ってるんですか!?勝てるわけが無いでしょう!?」

 

「知らねぇよ!!どれだけ無謀でもオレはやり遂げるんだ。絶対に………」

 

「バカじゃないんですか?!!死ににいくようなものですよ!!!」

 

 

スバルの脳裏に誰からも忘れられた『エミリア』が描かれる。

スバルの脳裏に眠りから覚めず、忘れられた『レム』が描かれる。

 

 

「オレはお前と『強欲』に何があったのかなんて知らねぇ。『強欲』が今までに何をしたのかも知らねぇ。でもな、オレは『強欲』が『今』何かをやったことを知ってる。」

 

「っ」

 

「オレは絶対に諦めねぇ。絶対だ。」

 

「スバル様………」

 

義憤なんて褒められたものではない。スバルが『強欲』に抱くのは憎悪だけである。スバルは『今』を諦め、エミリアとレムを失った。だからこそスバルは諦めを許さない。

 

「あなたは『強欲』に勝てるんですか?」

 

「知らねぇ。でもオレは絶対に負けねぇ。星がついてるからな」

 

人差し指を上に向け、スバルがつぶやく。

 

 

「………わかりました。僕の一度終わらせた商人人生。正真正銘最後の賭けです。僕は今だけは『オットー・スーウェン』です。いい取引にしましょう、ナツキさん」

 

黒スーツの顔に生気が戻る。

 

 

 

商業都市ピックタット襲撃。

それが『この日』にラッセルに知らされる出来事だった。

襲撃の理由は分からない。魔女教だからという理不尽な理由に納得するしかない。しかし、そんなことはどうだっていい。ようやく掴んだ『強欲』討伐への足掛かりをスバルは懸命に踏みしめる。

 

オットーによれば王都からピックタットまでは二日程度かかるらしい。検証は次の『スバル』に任せるとして『今』のスバルはオットーから情報を絞りつくすことに全力を挙げる。

 

△▼△▼△▼

 

 

「……意味わかんねぇ……」

 

スバルは取れるだけの情報を搾り取って自殺した。あの世界が続くならオットーは完全に人間不信に陥ってしまうだろう。目の前で全ベットした人が自殺したのだ。「諦めねぇ」とか言った奴が目の前で死んだのだ。発狂ものである。

 

オットーによれば『強欲』は大量の女性を連れてピックタットに侵入したらしい。………スバルの思考回路がショートした。『強欲』の目的が全く分からない。しかし、女性を多く連れているならその中にエミリアがいても何の不思議もない。

 

スバルは王都に来てすぐにピックタットに向かった。無論、竜車の操縦などできるはずもないので乗り継ぎを繰り返して最速でピックタットに入る。

 

 

△▼△▼△▼

 

 

約束の日はやってきた。西の方角から破壊の轟音が響き、空気が張り詰める。

スバルは事件現場に急行し、立ち竦む。

 

 

風に吹かれ、美しく舞う銀色の髪。見るものを魅了する紫紺の瞳。白を基調とした見慣れない服装。

そんな『エミリア』がそこにいた。

 

 

「エミリア!!」

 

 

スバルはまっすぐに『エミリア』を見つめる。

 

 

 

「ごめんなさい。『エミリア』って、誰のこと?私は『79番』。ただの『79番』です」

 

 

一秒でも長く嚙みしめたかった美しい銀鈴の声が今だけは耳が、脳が、全身がその声を、その声で発された言葉を理解するのを拒んだ。

 




次回 #5 私はただの『79番』です
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