ゼロカラミダレルイセカイセイカツ   作:らら、

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らら、と申します


#6 ずっとそこにいたんですね

「う………ここは……」

 

扉を突き抜け壁すらも壊れ、足元には血が固まっている。

スバルはエミリアのいた方向を見る。

 

「ひ!」

 

首には横一文字に赤い線が走り、その体は一ミリも動いていない。無表情のままに全体の色素が薄くなっている。

 

スバルの右手がエミリアに触れる。

 

触れた指先が凍りつき、たちまちに崩壊する。

 

「っ!!!うわぁぁ!!!!」

 

情けない声が部屋に響く。

氷像となったエミリアをスバルは何もできずにただ目を見開いて呆然としている。

 

「目が覚めたようだね。スバル。」

 

芝生の広がっていた中庭、そこに可愛らしい猫、否巨大な獣が鋭利な牙を剥き出しに鎮座している。

 

「『エミリア』のいない世界に価値なんて無い。なぜだかそう思うんだ。僕は今からこの世界を滅ぼす。」

 

「レグルスは?」

 

「さぁ?そんな些細な奴どうでもいいよ。」

 

パックの語気が強まると共に吹きつける吹雪が激しくなる。

 

「もう君に成す術は無い。大人しく『エミリア』と一緒に死んでくれ。」

 

「あぁ…分かった」

 

スバルは凍りついた下半身を崩壊させながらエミリアに近付く。

 

ふと思い出す。屋敷にいた時にエミリアが話してくれたエリオール大森林。そこにいるというエミリアの大切な人達。その人もこのようになっているのだろうか。

 

 

 

「スバル。最後に一つだけ。………『彼女』に『エミリア』に名前をつけてくれてありがとう」

 

 

 

スバルの全身が凍てつき命が散った。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

見慣れた宿が目に入る。『強欲』討伐までの糸口は見えた。スバルは行動を開始する。

 

まず、ラッセルに会いに行き、携帯電話と『強欲』の情報を取引材料に竜車とオットーを買い取った。

そしてピックタットに先入りし、『強欲』を待ち伏せる…訳ではなく、『強欲』が来るタイミングを把握したいのだ。

 

轟音と共に城壁が破壊され、『強欲』の到来を知らせてくれる。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

「184番、『79番』に衣装合わせを」

 

「承知しました、旦那様」

 

扉の向こうで声がする。スバルは今、エミリアの部屋に先入りし入室を見届けた後である。忙しなく結婚式の準備を進めるレグルスにいつもながら腹が立つ。

が、今はやることがある。

 

扉の先の足音が遠くなるのを確認し、スバルは緑の魔晶石に話しかける。

 

「パック!起きろ!!」

 

「スバル?!どうしてここに?」

 

「話は後だ!オレは『銀髪の子』を助けたい!力を貸せ!」

 

「分かった。あの子のためならなんだってする。約束しよう。」

 

「よし、なら………」

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

朝日が昇り、式が挙げられる。

麗しい『エミリア』と醜い『強欲』の結婚式である。

 

だが、そんな結婚式なんてぶち壊せばいい。

 

「うん、キミはやっぱり白がよく似合うね。ボクの読み通りだ!」

 

「褒めて下さりありがとうございます、旦那様」

 

「うん。笑っていないね。キミは今までで一番よくボクの言いつけを守るようになったね。かわいい顔だ。妻なんて顔が全てなんだから、表情を変えちゃ駄目なんだ!」

 

レグルスの卑しい手がエミリアの頬に伸ばされる。

 

 

「パック!!!」

 

魔晶石から飛び出した小さな灰色の猫がみるみるうちに式場を睥睨する大きさとなる。

 

「一体なんなんだよぉ!」

 

情けない声を上げるレグルスを尻目にスバルの『権能』がエミリアに伸びる。

 

「見えざる手!!!」

 

持ち上げられたエミリアがレグルスの手の内から退けられた。

 

パックが咆哮し、式場が極低温に包まれる。席に着いていたレグルスの妻達が見事な氷像となっていく。

パックの放つ弱い冷気がスバルとエミリアの足を封じる。

 

『見えざる手』がエミリアに、否、エミリアの心臓に近づく。今も拍動するエミリアの心臓に小縁つくような拍動、レグルスの心臓を引き剥がし、握り潰す。

 

「パック!!やれ!!!」

 

声を受けたパックの息吹がレグルスを吹きつける。吹雪にも思える冷気が何も受け付けなかったレグルスの体を氷像へと変えてゆく。

 

 

僅か数分、悲願としていた『強欲』は討伐された。式場は天災にあったように氷で覆われ、そこに生者は生き得ない。

 

 

数十人の微笑む視線が式の中心の滑稽なひとりぼっちの氷像へと注がれていた。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

エミリアを攫った憎むべき『強欲』・レグルスは何とも呆気なく滅んだ。大罪司教の討伐という誇れる功績を挙げたスバルだが、晴れやかな気分にはとてもなれなかった。

 

「旦那様………」

 

この声が錆びた鐘のような声ならどれほど良かっただろうか。銀鈴の声の主が本心からあの『強欲』の存在を欲している。

 

記憶を喰われたエミリアと最も長く接したのは腹立たしいが恐らく『強欲』だろう。曲がりなりにも『79番』という気持ちの悪い名前まで与え、エミリアと接した。

 

ひよこが最初に見た動物を親と認識するように今のエミリアはある種の刷り込みが完了してしまっている。

 

その結果、スバルとパックはエミリアにとって身内殺しの仇敵として見える。さらに、不安で満たされた心のレグルスという支柱が折れたのでその精神は酷く不安定となっていた。

 

自ら極寒に立ち入り、自殺を図ったこと数回。いずれも立ち入る前にわなわなと崩れ落ち、その場で泣き腫らす。紫紺の上に雫が溢れ、一つまた一つと静かにこぼれ落ちる。

 

大罪司教は危険であるということはこの世界での常識である。疑うべくもなくスバルの行動と功績は世界に称賛されるものである。だが、スバルが最も大切としている肝心のエミリアだけがスバルの行動に怒り、憎しみを感じている。

 

スバルが最も褒めて欲しいエミリアだけがスバルを称賛しない。その事実がスバルの精神を酷く摩耗させる。

 

スバルはエミリアに『サテラ』と呼びかけた時のことを思い出す。

この世界に来たばかりでこの世界の常識を知らなかったスバルは『嫉妬の魔女』の名前で人を呼ぶという絶交でも生温いことをやらかした。

 

今の状況と似ている。要は知識、認識の問題なのだ。

レグルスを大罪司教と、危険だと知っているスバルとパック。

レグルスを大罪司教と、危険だと知らないエミリア。

このことが今の関係を招いている。

 

 

近づこうとすればエミリアから氷の柱が飛来する。以前は微精霊と契約することで間接的に魔法を使用していたエミリアだが今は何の影響か自身で魔法を行使している。その結果、エミリアに何度も殺された。

 

 

△▼△▼△▼

 

 

それは偶然の出来事の重なりだった。

 

エミリアに凍らされた右手が凍りつき激痛が走る。氷柱が心臓に突き刺さるも以前のような脱力が襲ってこない。自身から『死』という概念が遠ざかっていくような感覚があった。

 

そしてもう一つ。自分、スバルの中に『何か』がいる。以前、スバルが『見えざる手』の権能を獲得した時のような感覚だった。

 

スバルに宿ったもう一つの『権能』。忌まわしい『強欲』の権能である。

 

 

△▼△▼△▼

 

 

「『79番』、いるかい?」

 

「旦那様?」

 

精一杯声を真似てスバルが『79番』に話しかける。

 

「どうして旦那様がここに?」

 

「このボクが何処かに行くと思っていたってことかい?」

 

スバルの差し出す手のひらに『79番』の手のひらが重なる。

 

「あぁ………ずっとそこにいたんですね、レグルス様」

(やっぱり、私はただの『79番』です)

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

苦汁を飲み下してエミリアを懐柔したスバルはエミリアとパックを連れ、ピックタットを後にした。

揺られる竜車の中、スバルの肩に安心しきったようにエミリアが頭をのせてくる。これが『79番』でなければどれほど良かっただろうか。

 

一行の目的地は王都のロズワールの屋敷である。一先ずそこに戻り、今後を考える。

 

スバルの仇敵はまずエミリアを攫った『強欲』。次にエミリアとレムの記憶を食らった『暴食』。最後にレムを魔獣にした『色欲』である。大前提、魔女教なんてもの滅べばいいと思っているが。

 

そのうち残っているのは『暴食』のみである。

 

(情報がいる)

 

現状スバルは『暴食』について何も知らない。

 

「なるほど。そこで私を呼び出したということだぁ~ね」

 

王都のロズワールの屋敷。スバルはそこでロズワールと会っている。下手に本領まで帰ればどうなるのか分かったものではない。

 

「残念だが、私ではスバルくんの希望には答えられないだろう。」

 

面妖な面に似合わぬ真剣な表情でロズワールはそう告げる。

 

「だが………道標くらいなら示せるかもしれない。私たちが『聖域』と呼ぶ隠れ里。そこになら希望があるかもしれない。」

 

「『聖域』………」

 

「詳しい話はフレデリカが知っているよ。私の命だと言えば手を借りれるだろう。」

 

「………協力的だな。」

 

「なぁに、君にできる限りの協力をする価値があると感じただけだぁ~よ」

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「旦那様の命でしたら」

 

そう言って出迎えてくれたフレデリカは何かを取りに屋敷に入っていった。

 

 

「『聖域』へ行くのね、バルス」

 

「ラムか……」

 

常に自信で満ち溢れる彼女だが、『レム』を引き合わせた時は勘付かれない程度に動転していたように見えた。 

自分と瓜二つの妹と紹介された存在が突然やってきたのだから当然なのだが。

 

「何をしに行くのかは知らないけれど、ガーフィールには気を付けることね」

 

桃色の髪を揺らし、ラムはそう告げる。

 

「ガーフィール……」

 

重要なのはその『ガーフィール』が自分の敵となり、牙を剥くかどうかである。可能ならば懐柔したい。無限の試行を試せるスバルにとって危険と安全は表裏一体。危険度が高いほど、引き込んだ時の『駒』としての価値も相応に高くなる。

 

「お待たせ致しました」

 

彼女は首から青色の結晶をぶら下げ、荷物を持って出てきた。

 

「その荷物は?」

 

「私の荷物です。同行しますので」

 

「え?」

 

「『聖域』の場所は誰彼となくお教えできないのです。幸い今は屋敷にはラムがおりますし、屋敷の維持は可能です」

 

「そうか、分かった」

 

というより分かるしかない。現状スバルにフレデリカの同行を否定できる材料がないのだ。

 

「すぐに出発してもいいですけれど、その前にそこの方にお顔を見せられては?」

 

そう言うフレデリカの目線はスバルを外れ、その奥を見ている。

 

隠れているつもりなのだろう。塀の端から赤いリボンがチラッと見えてしまっている。

スバルは塀の方に歩いて行き、声を掛ける。

 

「ペトラ」

 

「スバル、おかえりなさい!」

 

「ただいま…だけどまた行ってくるよ」

 

「うん……あ!これ!!」

 

ペトラは白いハンカチを取り出し、スバルに差し出した。

 

「出ていく時に渡して、帰ってきたら汚れたハンカチを返して貰うの!それで無事とか活躍を知らせるんだって!」

 

スバルの右手首に結ばれた白いそれが土に塗れるのか血に塗れるのか、それは分からない。

 

「あぁ、ありがとう」

 

今のスバルにアーラム村で見せていたような立ち振る舞いはできそうにない。スバルの在り方が変わった。賢いペトラは恐らくそれに気付いているだろう。それでいい。スバルにあるのは燃え滾るようなものでは無い。

 

スバルにあるのは酷く冷たい氷の復讐心。それもこの世界ではない世界で培われたものである。向ける先が魔女教だからという理由のみで許されている理不尽極まった復讐心。

 

ペトラとの再会を終え、スバルはフレデリカの待つ竜車に急ぐ。

 

「よろしいのですか?」

 

「あぁ、頼む」

 

短く言葉を交わし、フレデリカの操縦の元、竜車は『聖域』へと駆けていった。

 

 

 

 

 

(髪、白かったな……)

後を見送るペトラはそんなことを思い出していた。

 

 




次回 #7『聖域』


前話でエミリアの服が変わっていたのは戦いの中で汚れてしまっていたからです。流石、紳士なレグルスさんですね。
あとこれは想像ですが、レグルスさんが一夜明かしたら女性側が股を起点に衝撃で断裂してそう。


またしてもレグルスさんはスバルを殺せないのでした
死んだと思ったら放置するから決めきれないんだよレグルスさん
あとレグルスさんは殺そうとして殺すことをしない。無駄に権能がアホ性能なせいで気付いたら相手が死んでいるみたいなイメージですね
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