ゼロカラミダレルイセカイセイカツ   作:らら、

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らら、と申します。

この話からは、アニメ4期以降のネタバレがあります

履修済みの方、ネタバレされてもいいよという方はどうぞ

未履修だけどすぐに読みたい方で、お金をかけてもいい方は単行本を、かけたくない方は原作様のなろうの方へとLet's go
まだいいかと思う方は4期放送をお楽しみに


#9 プレアデス監視塔

スバルはプレアデス監視塔を目指し、進んでゆく。

まずはラインハルトの言っていたアウグリア砂丘の最寄り町『ミルーラ』で情報を掻き集めるのだ。

 

砂が風に乗って吹きつける中、建物の扉が開かれる。

 

「………砂風の中、いらっしゃい。注文は?」

 

「ミルク、冷たいのとあったかいのを一つづつ」

 

旅装のスバルと認識阻害の機能のある外套を羽織ったエミリアである。常人よりは多少筋肉のついたスバルの腕に全幅の信頼を寄せているようだ。

 

注文の品を受け取り、短く感謝を伝える。

 

「なぁ店主さん、ちょっと聞きたいことがあるんだが………」

 

「………なんだ?」

 

「アウグリア砂丘について知っていることを聞きたい」

 

「何の冗談か知らんが、行楽気分でいくならやめとけ。死ぬだけだ」

 

「俺達はあそこに行かなきゃいけない。退くなんて選択肢は無い。」

 

「覚悟は立派だが、あの砂丘はどうしようもないんだ。魔獣の巣窟で、魔女の瘴気が漂ってて、遠目に見える塔には近付けない。毎年、お前たちのような無謀な連中が砂丘目当てにやってくる。目的は砂海の中にある賢者の塔。だが、誰も辿り着けやしない。生きて戻ってこれれば御の字、大抵の奴は砂海で干乾びるか、魔獣の餌になって終わりだ」

 

「どんな魔獣がいるんだ?」

 

「斑王犬やら黒翼鼠。固有種の一角獣と砂蚯蚓はここでしか見られない。あとは砂地に花畑があったら花魁熊の狩場だ。悪夢だと思え」

 

「花魁熊……」

 

「本当はカララギの方にしかいないらしいんだがな。体中に花が咲いた魔獣だ。見た目に騙されて近付くと、腸を啜られるぞ」

 

花畑というからには数が多いのだろうか。そんなことを考えながらスバルは店主の話に耳を傾ける。

 

「だが、砂丘で一番警戒しなきゃならんのは魔獣よりも瘴気の方だ。砂風やら環境の変化も危険ではあるが、瘴気の方が優先度は上だな」

 

「瘴気………ってなんだ?」

 

「お前、ここまで来ておいてそれすら知らないのか?瘴気ってのは汚染されたマナのことだ。とはいえアウグリア砂丘の瘴気はそんなもんじゃない。あれは生き物はもちろん、食い物や飲み物までダメにしてくる」

 

「食べ物とかが汚染されるとどうなる?」

 

「汚染された物を食うと一気に胃袋から汚染される。しまいには発狂して死ぬ………ってのが通説だな」

 

店主は顔色悪くスバルに言った。

 

「………店主さんの右足はそういうことか?」

 

入ってくるときにわずかに見えた店主の右足。それは人間のそれでは無く、造られたそれだった。言うなれば海賊などがつけていそうなありきたりな義足。店主の右足はそれだった。

 

「………」

 

店主は沈黙を破らない。それが肯定故の沈黙であるとスバルはそう判断する。店主が語った様々な情報。それらが全て実体験であるなら、引き留めることにも納得がいく。それと同時にたどり着けないことだけを問題にしたラインハルトの化け物具合も助長されていくのだが。

 

「情報ありがとよ」

 

スバルは多めのお金を机に置き、店を出る。

 

「スバル、戻ってきたのか。何かいい情報はあったかな?」

 

「魔獣の名前はわかった。そいつらを操れればいいんだが………」

 

スバルはカペラ姿のメィリィを見る。

 

「お前、砂蚯蚓って知ってるか?」

 

「………知らねーですよお、そんな子」

 

『魔操の加護』を持っているからといって魔獣に詳しいとは限らない。当たり前の話だが、少しばかりの期待は無に帰した。

 

「兎に角、ちゃんと働いてくれたら屋敷に戻った後解放してやるから」

 

現状メィリィらしいカペラはラインハルトの監視のもと自由はほとんどない。

 

ペトラの言葉を信じていない訳ではない。が、スバルはメィリィを信じきれない。

 

「………今、授かった」

 

「は?何を?」

 

「『風見の加護』だよ。相手の発言の嘘を見抜くことができるんだ」

 

「オレはお前が本当に人間なのかを疑い始めているからな」

 

『……ボクも疑い始めているよ』

 

無茶苦茶なことを言い出すラインハルトにスバルとエキドナは隠す事なくドン引きする。

 

「キミは『メィリィ・ポートルート』かい?」

 

「………もう無理だわあ。そうよお、私はメィリィ・ポートルートよお」

 

諦めたようにメィリィは開き直る。

 

「なら、どうして『色欲』の姿になっている?」

 

「元に戻れたら戻っているわあ」

 

「『権能』か……」

 

「先に言っておくけど、私は『色欲』のことはほとんど知らないわあ。だから拷問しても無駄よお」

 

されたことがあるかのような口ぶりでメィリィはそう言う。スバルはラインハルトを見る。

 

「………嘘はついていないようだよ。」

 

「そうか……。」

 

スバルは首から下げた緑色の結晶に触れる。刹那、砂の舞う荒原が緑豊かな原っぱへと移り変わる。

 

「今回はどういったご要件かな?ナツキ・スバル」

 

穏やかな偽の太陽の光が降り注ぐ中、『強欲の魔女』エキドナは優雅にスバルを出迎える。

 

「あの子、メィリィを問い詰めるべきなのか?」

 

「………問い詰めた先に新しい情報がある可能性は否定できない」

 

スバルは脈打つ両手を凝視する。

 

今からこの手が血に染まるかもしれない。

今からこの手が幼気な少女を痛めつけるかもしれない。今からこの手に涙が零れようとこの腕は止まらないかもしれない。

 

情景を思い描き、スバルは思わず口に手を当てる。腸がぐちゃぐちゃにされるような感覚がスバルを襲う。

 

スバルの心が拷問を否定し、スバルの腕が拷問を急かす。そんな言葉通りの自己矛盾を抱え、スバルは蹲る。

 

 

「一人で背負い込もうとしなくていい。キミにはいつもボクがいるんだ。ボクはどんなキミでも受け入れよう。キミの選んだ選択。それがどんなものであれ、それこそがボクの最大の報酬なのだから」

 

切り刻まれた心を縫い、繋ぎ止めるようにエキドナの言葉が沁みてゆく。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

響く悲鳴と噴出する真紅、こぼれ落ちる臓物を見て、数回。一人の『スバル』が発狂し、また一人の『スバル』が吐き、また一人の『スバル』が結果を求め、また一人の『スバル』が悦に浸る。

 

メィリィと共に屋敷を襲撃したエルザ・グランヒルテ。その二人を殺し屋として育てた『ママ』と呼ばれる存在。恐らくそれが『色欲』である。

 

得られたのはそれだけである。居場所も『権能』の仕組みも何も分からない。

 

結局、スバルはプレアデス監視塔へと行かねばならない。そのことを再確認できたということを成果としてスバル自身を無理やりに納得させる。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

ラインハルトとスバルが御者となり、砂丘を越えるための地竜であるガイラス種の引く竜車に乗り込む。

ラインハルトの竜車にメィリィとクロムウェル。

スバルの竜車にエミリアとフェルトを乗せ、一行は満を持して砂丘への第一歩を踏み出した。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

スバルとラインハルトは変わらない景色を延々と眺めている。

 

風に乗って砂が舞い、その遥か奥の方にそびえ立つ塔が変わらぬ大きさで見えている。

1日に3回起きる『砂時間』と呼ばれる苛烈な砂嵐。その間に限り、塔の周りの空間の歪みに穴が生じる。

 

確証が無いが故に行った気の遠くなる試行の結果である。

 

どの時間でやろうと立ちはだかる魔獣共はラインハルトの敵ではない。鞘付きの剣が生み出す衝撃波が魔獣を蹴散らし、塞がっていた道を開拓していく。

さながら旧約聖書のモーセである。 理解したくない。

 

メィリィが後ろからの魔獣を抑えてくれているお陰でスバルの思考は前方に全集中できる。

悪夢と言われた花畑を砂場へと変え、スバルとラインハルトは進む。

 

 

そしてもうすぐで一番の問題がスバルを襲う。

 

 

ヒュン

 

 

僅かな音と共に白銀の閃光が的確にスバルに降り注ぐ。

ラインハルトを間に挟み、スバルとラインハルトは塔へと全速力で地竜を走らせる。ラインハルトは迫りくる光速の射撃を次から次へと斬っていく。

 

本当に理解できない。

 

焼きごてを押し付けられるような感覚を何十、何百、何千、何万と味わい、踏破ルートを模索する。

どれだけ『権能』の力で反射神経が上がろうと光速で迫りくる閃光には反応できない。

 

「おおおぉぉぉぉぉ!!!!」

監視塔の門を目の前にスバルが叫ぶ。門をラインハルトが文字通り斬り開き、一行は中へと突入する。

 

円形で石造りの広い空間に2つの竜車が到達した。こここそが未踏であった監視塔である。

到達の安堵感に襲われながらスバルは壁に沿って作られた階段を注視する。あの閃光を放っていた張本人が来るはずだ。

 

 

コツ、コツ

 

 

上の方から音がする。黒っぽい人影がスバル達を見下ろし、その身を投げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お師様ーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

内側がオレンジ色のマントをはためかせながら茶髪に下着と変わらないような黒の服を身に着けた女がスバル目掛けて落ちてきた。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

「お!起きたッスか?!!」「大丈夫ですか?」

 

しばらく見ていない気のする緑と見慣れた銀髪がスバルの目に飛び込んできた。

 

頭の下はひんやりと冷たく柔らかい。エミリアが膝枕をしてくれているようだ。

黒に染まりそうな紫紺の瞳と光の宿った黒い瞳がスバルの視界を半分ずつ覆う。

 

「お師様!お師様!もうもうもう!!心配したッス!!!」

 

「えっと…………どちら様?」

 

下着同然の衣装に内側がオレンジ、外側が黒のマントに身を包み、髪を黒のリボンでポニーテールにまとめている女にスバルは聞いた。

 

「え〜〜〜!??覚えてないッスか??あーしッス!!お師様の、『フリューゲル』様の弟子の『シャウラ』ッス!!!」

 

世間一般で『賢者』と呼ばれていることからは想像できないような口調で『賢者』シャウラがそこにいた。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「とりあえずお前がシャウラってことはわかった。で、お師様ってのは誰のことだ?」

 

「?なに言ってるッスか?あなたがあーしのお師様ッス!!!」

 

ビシッとスバルの方に指を差しシャウラはそう言い放つ。

 

「オレ?」「そうッス!!」

 

「何のことかサッパリ分かんねぇ………」

 

困惑するスバルを置いてけぼりにしてシャウラのテンションは青天井に昂ってゆく。

 

「ようやく帰ってきてくれたッスね!!ホントにうれしいッス!!!お師様!!!」

 

「そのお師様ってやつはどのくらいお前を待たせてたんだ?」

 

 

「ザっと400年ってとこッスね!」

「400年っ………」

 

つまりシャウラは『嫉妬の魔女』が暴走し、『三英傑』がそれを封印したその日から今の今まで『お師様』と慕う存在を待っていたということである。それはある意味で無限の時を過ごせるスバルから見ても未知の次元であり、とても及ばない領域であった。

 

「でも、心配はしないでほしいッス。400年なんて明日の明日みたいなモンだったッスから!」

 

何の心配もいらないような底抜けに明るい顔でシャウラはスバルに微笑む。

 

「またこうしてお師様といられるのがとっても嬉しいッス!!」

 

頬を僅かばかりに赤く染め、シャウラはスバルに告白する。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

「では!このプレアデス監視塔をあーしが案内するッス!!!」

 

シャウラが上機嫌に説明を始める。

スバルがここのことをまるっきり忘れたとシャウラに伝えたところ、案内が始まった。クロムウェルとフェルトも同席している。ここに至れば逃げることはかなわない。そう判断しての処置である。

 

「まずお師様達が入ってきたのが五階層の『ケラエノ』ッス。そして、その下に六階層『アステローべ』があるッス。お師様達の竜車はここに置いてるッス。で、お師様が目を覚ました『緑部屋』があるのが四階層の『アルキオネ』ッス。その上の三階層『タイゲタ』からは試験会場ッス。書庫に入る権利を試すッスよ。その上の二階層『エレクトラ』、一階層『マイア』も同様ッス」

 

「取り敢えずわかった。その上でいくつか質問がある。まず、塔から俺を狙撃してきたのはお前か?」

 

「そうッス。けど、あーしはお師様からの命令に従っていただけッス。だから悪く思わないでほしいッス」

 

シャウラの顔には悪びれなどの感情は映らない。罪などというものではない。ただの仕事。

そこに罪悪感なんてものが挟まれる余地はない。

 

「二つ目に、書庫の本には何が書いている?」

 

「さぁ?」

 

「は?」

 

「だって、あーしは本とか読めないッス。それに塔を守る以上のことは言われてないッスもん」

 

「そういう命令を出したのも………」

 

「もちろんお師様ッス!!!」

 

妙に誇らしげな口調でシャウラはスバルが予想した答えを口にする。

 

「………エキドナ」

 

少し俯き、スバルは緑の魔晶石を手に取る。

 

「書庫にあるのは『死者の書』か?」

 

『そのはずだよ』

 

エキドナからの言もあり、スバルは目当ての存在を確信する。

 

「最後に………『メローペ』はどこにある?」

 

「ーーーーーーーー」

 

スバルからの問いにシャウラは答えない。思考に耽るそれとは違う。そのことをシャウラの見開かれた目が証明してくれている。

 

「スバル、メローペとはなんのことだい?」

 

「とある七人姉妹の一人だ。ここは『プレアデス』監視塔。もう一つあるはずだ。7層か………ゼロ層か、そのどちらかが」

 

「ダメッス。そこにはまだッス。」

 

「まだって………」

 

「まだッス。まだダメッス。」

 

言葉を繋げようとするスバルを遮り、ほとんど変わらぬ口調に少しだけ寂しさの混ざったような声色でシャウラはスバルに語りかける。

 

「シャウラ………?」

 

「あーしはお師様が会いに来てくれただけで十分ッス。だから、そこはまだッス。」

 

「わかった。それと一つお願いがあるんだが………」

 

「なんスか?エッチぃことじゃなければドンとこいっす!」

 

「お前の格好でそんなこと言っても説得力は一欠片も無いからな。そんなこと頼まねぇけど。………今、ここに来た奴らに手を出さないでほしい」

 

「了解ッス。守るッスよ~!」

 

「あぁ、頼む。で、だシャウラ。オレはその書庫とやらに行ってみたい。その試練に挑むにはどうすればいい?」

 

「じゃあ早速『タイゲタ』に上るッス。試験はすぐの部屋が会場ッス!」

 

シャウラの案内に従い、スバルとラインハルトは階段を上ってゆく。

 

「ここが………」

 

一点の曇りも無い白い空間。

違和感が募って仕方のない空間をシャウラは試験会場として案内した。どこを見ても、どこまでいっても白、白、白。気の狂いそうな空間だった。壁も、床も、天井も登ってきた階段を除き、全てが白く、スバルの感覚を狂わせる。

 

そんな違和感の空間の中に更に違和感を生み出させる物が浮かんでいる。

 

「石版……?」

 

四角く滑らかな黒い板。そんな存在が白一色の中で浮かんでいる。

 

「それが三階層『タイゲタ』の試験ッス。触れると試験スタートッス!」

 

色々と思うところはあるが、考えても仕方ない。スバルは脈打つ右腕で浮かぶ黒い板に触れる。

 

途端、黒い板は増殖を始め、不規則にそれが屹立していく。

 

『――シャウラに滅ぼされし英雄、彼の者の最も輝かしきに触れよ』

 

耳に否、脳に何者かの声が響く。

 

ここに三階層『タイゲタ』の試験が始まった。

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

「シャウラに滅ぼされし英雄、彼の者の最も輝かしきに触れよ」

 

脳に響いた声は試験を受ける者にそう指令を下した。

 

「シャウラに滅ぼされた英雄ねぇ………お前、心当たりとかある?」

 

「任せてほしいッス!あーしみたいな一流の仕事人は一々殺したやつの名前なんて覚えてねーッス!」

 

「400年ここにいるんだろ?ちょっと名前を聞いたなぁなんて奴は………」

 

「あーしはずっと『ヘルズ・スナイプ』で殺してきたッスから、名前なんて知りようもないッス!!!」

 

力強い声で頼りが崩壊した瞬間である。

 

「……というか、『ヘルズ・スナイプ』って何?」

 

「あーしが四層のベランダから撃ってたやつッス!相手のマナと繋げることで追尾させることができるッス!!でも、これを伝授してくれたのはお師様ッスよ?」

 

「ほんと、お前のお師様ってやつ嫌い」

 

死亡ログの半分以上を冗談抜きに占有したのだから、仕方ない。

 

「お前の言い振りだと塔が立つ前なら名前を知ってる可能性があるんだよな?」

 

「ん〜まぁそうッスね」

 

「となると400年前の人物ってことか………初代『剣聖』のレイドとか?」

 

「ひぃぃぃぃ!!」

 

突然シャウラが甲高い悲鳴を上げて後ずさる。見れば、部屋の隅まで下がってネズミのように縮こまっていた。

 

「ど、どうした?」

 

「人が悪いッスよ、お師様!そんなおっかないこと言わないで欲しいッス!!乙女のピンチッス!責任問題ッスよ!!!」

 

「え、何?お前の先祖そんなにヤバい奴なの?いや剣聖だから強いのは前提なんだけどさ」

 

「どうだろうね、豪放磊落で気が強いという伝承はあるけど、ここまで怯えさせるような人かは………」

 

分からない。というのが直々の子孫で今世の剣聖・ラインハルトの見識である。 

確かにラインハルトは恐ろしい程に強い。それはこれまで近くでラインハルトを見てきて十分過ぎる程に理解した。しかし、少なくともラインハルトの性格からは怯えるほどの恐怖は感じ得ない。それに対して………

 

「クズッス、人間のクズだったッス」

 

なんとも正反対の実体験がシャウラの口から語られた。

 

「自分の祖先をクズと呼ばれて良い気はしないけれど、あなたにもそれを言うだけのことがあったんだろうね」

 

この聖人ぶりからはシャウラの言う祖先のクズさは欠片も感じ取れない。濾過し尽くした清流のように清らかである。

 

 

「ホント、嫌な奴だったッス。悪ガキがそのまま大きくなったみたいな奴だったッス。弱い者イジメとか大好きで、あーしもよくやられたッス。まぁ、あのクズより強い奴なんてほとんどいないんで大半の勝負は一方的に嬲って終わりだったッス」

 

剣聖の無敵ぶりはずっとそうなんだと思い、その点については納得してしまうスバルであった。

 

「ま、まぁとりあえず、その言いぶりでシャウラがレイドを殺したってのは考えにくい。つまり、他の奴なんだろ」

 

「他の心当たりは…………期待しない方が良いよな」

 

「何にも心当たりはないッス!!!」

 

想定通りの最悪の答えにスバルは頭を抱える。そもそも400年前の英雄なんぞ知るわけもない。なにせこの世界にやって来て実時間だと1年も経っていないのだ。

 

エキドナもいるが、エキドナの場合400年前は本領を発揮できる時代だろう。無限にも思える知識の権化の本領発揮。何万回試行することになるのだろうか。

 

考えるだけで嫌になる。それは本当に最後の手段にしなければならない。

 

「そういえば、これ触れたらどうなるんだ?」

 

「この試験が行われるのは初めてのことッス。だからあーしにも分かんないッス!!!」

 

こんな適当な奴を試験監督にしたお師様をぶん殴ってやりたい。そんな気持ちを奥底に押し留め、スバルは目の前の適当な黒い板に触れる。

 

すると、黒い板が最初の1枚を除いて全て消え去った。スバルはもう一度最初の板に手を触れる。 

 

『ーーシャウラに滅ぼされし英雄、彼の者の最も輝かしきに触れよーー』

 

もう一度試験内容が脳に響き、先程と同じ様相を成した。

 

「何回でもできるってことか………闇雲は…多分無理だな」

 

ざっと黒い板は8枚程度。とりあえずで全部触ったり、勘でも正解を引ける枚数である。それで突破できるほど試験は温くない……と思う。

 

「シャウラに滅ぼされし英雄ねぇ………」

 

スバルは横目で当のシャウラを見て呟く。本人すら忘れているような情報を試験の答えにしているとすれば、そのお師様は人が悪いなんてものではない腹黒である。

 

 

 

スバルはふとモノリスを見る。一見不規則に浮かぶモノリスだが、区分けしようと思えばできる程度の空間がある。最右に1枚、右に2枚、真ん中に3枚、左に2枚。その概形は砂時計を象ることができる。

 

 

「砂時計……オリオン……シャウラ…『針』」

 

うわ言を呟くスバルをその場の全員が見つめている。

 

「……多分、分かった」

 

「ホントッスか?!お師様、カッコいいッス!さすがッス!!」

 

熱烈なファンガールの声援を受け、スバルは左の奥の黒い板へと足を運ぶ。

 

「真ん中の真ん中がアルニラムとすれば、ここがリゲルのはずだ」

スバルの手が目標のモノリスに触れる。

 

眩い光が部屋を満たす。光が全てを包み込み、あらゆるものを置き去りにする。

 

やがて、光が晴れ、スバル達は塔らしい石造りの空間で書架の立ち並ぶ空間に立ち尽くしていた。

 

スバルの推理は正解していた。それと同時に強く思う。

 

 

「オレ、お前のお師様嫌いだ。大っ嫌いだ」

 

 

スバルの想定していた腹黒とは訳が違う。そもそも正解しようがないような問題を試験とするフリューゲルの性格は破綻している。

 

「スバル、あれはどういうことだい?僕達はさっぱり分からなかったのだが………」

 

訝しげにラインハルトが聞いてくる。

 

「あれはお前らには無理だ。何百年、何千年掛かっても解けない。オレの地元の星の知識が無いと解けない」

 

 

オリオン座。日本の冬の夜空に浮かぶ星座である。

元となった英雄オリオンは自身に自惚れたところを遣わされたサソリによって殺された。そして、シャウラという名前の星がある。意味は『針』であり、夏の夜空に浮かぶサソリ座の星である。

 

全てがスバルの元いた世界の知識であり、こちらの世界で知りようもない知識である。そんな知識を要求するフリューゲルを性格が悪いと言わずなんと言おうか。

 

「これで試験は終わりってことで良いんだよな?」

 

「そうッス!!三層『タイゲタ』の試験合格ッス!!」

 

「てことは、目の前のやつが………」

 

圧迫感すら感じる程の本の数である。

 

『ここがキミの求める〘死者の書〙が所蔵されている大図書館プレアデスだよ』

 

緑の魔晶石から脳に声が伝わった。




次回 #10 『剣聖』vs『剣聖』
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