ドシュトフロムンド戦記~少年と精霊と大地の果て 作:nocomimi
「信じられ...ねえな、さすがに」
やっとフロウに追いついたリゴールが呟いた。
ギルモとアルギレウスも後を追って走ってきた。神殿前の坂を駆け下ると、同じように振り返って眼前の光景を見渡した。
「君の村はここにあったんだな?」
剣士が確認する。フロウは我に返って何度も頷いた。少年は切り取られたような鋭い崖の縁まで進むと、指さした。
「ここから先は仲見世通りになってて....叔父の店もそこにあったんです。それがずっと先まで続いて、その向こうに僕の住んでいた家も........」
ギルモが少年の横に立って言った。
「たまげたべ。救い出すって...精霊さまはこのことを言ったんだべか」
だがフロウは首を振ると少し微笑んだ。
「おじさん、僕はやっぱり残って良かったと思うよ」
「なしてだに?」
「だって、叔父さんのところにいたらコキ使われたままだもの。ギルモおじさんや、アルギレウスさんのそばにいたほうがよっぽどいいよ」
フロウはギルモを見ると言葉を継いだ。
「リゴールさんだって、僕の叔父さんに比べたら百倍良い人だし」
「ん?『リゴールさんだって』ってなんだよ、『だって』ってよ」
狩人が噴き出したあと、やや真顔になった。
「よく知らねえが相当酷でぇ家だったんだな。さすがの俺もちょっと同情するぜ」
リゴールはそう言うとアルギレウスを顧みた。
「で...もひとつのダンジョンも探索するのか?」
「ああ」
アルギレウスは言葉少なに答える。剣士は切り出されたような形状の渓谷をしばらく眺めていたが、やがて踵を返して天望の神殿に向かった。
「一日二つもダンジョン探索とはご精勤だな。俺は平気だが木こりとこのガキがへばるんじゃねえのか」
後に続きながらリゴールが言う。だがフロウは声を上げた。
「僕大丈夫です。一緒に行きます」
「ワシも」
一行は神殿前の階段を登ると庇の下に入り、扉の前に立った。アルギレウスが巨大な扉に手を掛けると、それは軋んだ音を立てながらゆっくりと開いた。
扉が開くにつれ、神殿の内部から冷たい空気が流れ出した。外の陽光とはまるで別世界の温度だ。
戸口をくぐると、フロウは思わず身震いした。その前を進むリゴールは鼻を鳴らして肩をすくめた。
「なんだよこの空気。昼間だってのに、まるで夜みてぇだな」
戸口のすぐ先が下りの階段だ。照明がなく、数メートルで真っ暗になる。
アルギレウスが蝋燭を取り出して火を点け、左手に掲げた。一行は慎重に階段を下っていった。
* * * * * * * * * * * * * *
階段の終端につくと、そこから通路が右回りの下り螺旋の形状で続いている。通路のそこここには茸が生えていて、それが仄かに発光し壁を照らしていた。
「発光植物か」
アルギレウスは蝋燭を吹き消してポーチに仕舞うと呟いた。
「ついこないだまで営業してたわりにずいぶんボロいじゃねえか」
リゴールが周囲を見回して言う。アルギレウスは通路にかかった蜘蛛の巣を手ではねのけて進みながら答えた。
「大石窟の廃止後フィローネの神官たちは徴税権を剥奪されたんだ。建立はできたが手入れに資金が回らなかったんだろうな」
「どうりで貧乏なわけだ。神殿じゃなくてドキドキ廃墟ツアーにでもしたほうが実入りが良かったんじゃねえか?」
「罰当たりなことを。神殿は商売の道具じゃねえっぺよ」
ギルモが口を挟んだ。
「神殿が商売の道具でなければ何なんだ?てめえもめぐり巡って神殿のおこぼれで食ってるようなもんだろ」
リゴールが言い返すとギルモは黙り込んだ。狩人はアルギレウスに言った。
「だがここには比較的問題は少ないって言ってたよな?」
アルギレウスは頷く。
「ああ。建立されてからそもそも年数が経っていない。発生源になるほどの魔瘴気が溜まっているとは考えにくい。調べるのはあくまで念のためだ」
その時、空中から動物が鳴く声が聞こえた。フロウが目を凝らすと、天井近くを大きな蝙蝠が二・三羽飛び回っている。
蝙蝠のうちの一羽が近づいてきた。
「おい、気を付けろ」
リゴールがフロウの腕を掴んで言う。その瞬間、蝙蝠が鋭い鳴き声を立てながら急降下してきた。狩人が腕を引っ張る。少年の首筋のすぐ横を蝙蝠がかすめながら飛び去っていった。
フロウは驚いて叫びそうになってしまった。リゴールは笑いながら言った。
「だから気を付けろと言ったろ。吸血種だぜ、あいつら」
それを聞いたフロウは恐ろしくなって自分の首筋を触った。嚙まれずに済んで心から安堵した。
「最初から知ってて言わないのは人が悪いっぺ」
ギルモが呟く。だが狩人は心外な顔をして言い返した。
「なんだと?助けてやったのに何が悪いんだ?」
「行こう」
アルギレウスは短く指示した。二人は黙ると剣士に従って進んだ。フロウも周囲を警戒しながら後に続く。
蜘蛛の巣だらけの廊下を進むと、やがて閉ざされた扉が左手にある行き止まりに行きついた。アルギレウスが扉に手を掛けたが動かない。だがリゴールが右手を上げて剣士に声をかけた。
「あれかもな」
狩人の指す方向を見ると、行き止まりの上の壁の高さ二メートルほどの場所に小さな足場が設えられている。草が生い茂っているが、その中に赤い石でできた正八面体のような物体が据え付けてあった。
「ちょっとどいてろ」
狩人は言うと、床を探って手ごろな石を拾い上げ、その赤い物体に投げつけた。衝突音がすると、その正八面体が開いて変形した。
「見てろ」
驚いた顔のフロウに狩人が得意げに言う。数秒すると、扉からカチっと音がした。剣士がもう一度扉に手を掛けるとそれは難なく上がった。
扉の先の部屋に進むと、再びすぐ扉があった。やはり施錠されている。扉の前にはやや高い舞台が設えられ、数段の階段で登るようになっていた。
扉の上に目玉のような不気味な意匠が彫り込まれているのを見たギルモが言った。
「目玉だけの番人だべか?」
「監視装置か...あるいはあれが鍵だ」
アルギレウスは剣を抜くと、小高い舞台の上に立った。そして気合いを発して跳躍するとその目玉の意匠に斬りつけた。衝突音がする。剣士が着地して立ち上がったが、何も起こらない。
「おいおい王子様。見込みが外れたみてえだぜ」
リゴールがからかう。アルギレウスは苦笑いして剣を納めようとしたが、ふと何かを思いついた表情で顔を上げるともう一度舞台の上に立った。
「今度は何だ?」
リゴールが言う。だが剣士は精神を集中した顔をすると、剣先を宙に掲げ、円形を描き始めた。
三度ほど描くと、目玉の意匠が回転し、扉から解錠音がした。
「これでどうだ?」
アルギレウスは得意げな顔で剣を納めた。リゴールが感心した様子で言う。
「すげえな。どこで知ったんだ?」
「昔読んだことがある。剣先で特定の軌道を描くと反応する解錠装置があるってな」
「王子様の教養もバカにならねえってことか」
二人は扉に手を掛け引き上げた。一行が先に進むと、そこは長方形の広い部屋だった。十字形に廊下が走り、それ以外の場所は水を湛えた堀になっている。
四人は慎重に先に進むと、前方の突き当りにあった扉を開けた。こちらは鍵がかかっていない。
戸口をくぐって進む。再び大きな部屋だ。今度は円形だった。中央に高さ十メートルほどの丸みのある円錐形の構造物が据えられている。その向こう側の、部屋の突き当りには横長に広い戸口が開いていた。
「ここも異常なし、か」
リゴールが構えかけた弓を背中に戻しながら言う。アルギレウスは剣を抜いたまま円錐形の構造物を調べていたが、やがて言った。
「このまま至聖所まで進もう。問題があるとしたらそこだ。無ければそれに越したことはない」
剣士が部屋の奥に進んだ。リゴールとギルモは従い、フロウも後に続いた。
だが、少年は違和感を感じた。誰かに見られてる。言葉にできない感覚だ。
左右を見回したが、誰もいない。
首を傾げながらもフロウは三人の後を追った。その瞬間だった。
何者かに背中を掴まれて、フロウは一気に数メートル引き上げられた。
思わず叫び声が漏れる。剣士、狩人、木こりが一斉に振り向いた。
背中側からカチカチという音が聞こえた。首だけ回して振り向くと、蜘蛛のような眼が並んでいるのが見えた。だが大きさが異様だ。一つの眼が十センチほどの直径がある。
フロウは再び叫んだ。恐怖が喉から迸り出てくる。
「クソッ」
リゴールが弓に矢をつがえて放った。それが巨大蜘蛛の頭部と胸の間に刺さった。化け物はギシギシと音を立てたがフロウを離さない。
「腹側に回れ!」
アルギレウスが叫ぶ。リゴールはダッシュすると蜘蛛の反対側に回ってもう一本矢をつがえた。
「小僧!ちゃんと着地しろよ!」
狩人は叫ぶと矢を放った。矢が突き刺さる音がし、巨大蜘蛛がギエーと声にならない悲鳴を上げる。
途端にフロウは自分の身体が宙に浮いたように感じた。
このままでは床に叩きつけられる。そう予感が告げた。少年は地面に落下した瞬間に前に転がった。足首に痺れと痛みが走った。だが軽い。
ギルモが駆け寄り、フロウを助け起こす。だがアルギレウスが叫んだ。
「下がれ!下がれ!」
頭上を見ると、巨大蜘蛛は顎をカチカチと打ち鳴らしながら床に降りてきていた。ギルモは斧を持ち上げながら片手でフロウの襟首を掴んで下がらせた。
蜘蛛の大きさは胴体だけでも手押し車ほどもある。前足を高々と掲げて威嚇のポーズを取ると、蜘蛛はギルモに向かって突進した。斧を吹き飛ばされた木こりは後ろに倒れた。
「おじさん!」
フロウは叫んだ。アルギレウスは横から割って入るように立ちはだかると剣を振り上げて化け物の頭部に一撃を加えた。だが、頭部の皮膚は固く、刃が通らない。
「ガキはどいてろ!」
弓を構えたリゴールが叫ぶ。フロウは慌てて転がるようにその場を離れた。狩人が放った矢が、巨大蜘蛛の眼の一つに刺さった。だが怒り狂った蜘蛛は弱るどころかますます猛って前足を振り回した。一撃を受けたアルギレウスがよろめいた。
その時だった。
ギルモが立ち上がると、素手のまま化け物に突進した。そして相撲を取るように相手を掴むと、うめき声を上げながらも持ち上げたのだ。
木こりは叫びながら力を入れ、巨大蜘蛛を投げるようにひっくり返した。八本の脚をばたつかせる蜘蛛に、アルギレウスが躍りかかる。剣を逆手に持つと、腹部を裏から刺し貫いた。
化け物蜘蛛が断末魔の叫び声を上げ、脚を痙攣させた。蜘蛛はしばらく足先を震わせていたが、やがて動かなくなった。
リゴールが弓につがえていた矢をしまうと、笑いながらギルモに言った。
「おい、お前なんで素手で突っ込むんだよ。死ぬ気か?」
「いや、助かったぞ、ギルモ」
アルギレウスが剣を引き抜き、黒い体液を振り払いながら言った。
「おじさん、ありがとう」
フロウが言うと木こりは我に返ったように少年を見た。荒い息をようやく整えると彼は言った。
「おめが無事で良かったっぺな。ああいう連中はな、まず最初に子供を狙うんだっぺ。ワシらも次からはよくよく気を付けるっぺよ」
「やれやれ、ガキのお守りはゴメンだってだから言ったのによ」
リゴールが弓を背負いながら言った。だがアルギレウスは剣を納めながら言った。
「そう言うなリゴール。この組み合わせも何かの縁かも知れん」
「縁?女神さまの思し召しってやつかぁ?あんたまでそんな世迷い言を言うとは思わなかったぜ」
呆れて狩人が言った。だが剣士は先に進むと、正面の広い戸口を抜けた。
三人が追い付くと、剣士は腕組みをして部屋を眺めまわしていた。
自然岩をそのまま残した意匠の広い空間だ。天井に穴が開いているのか、自然光が降り注いでいる。目の前の床には深い奈落が空いていて、そこに渡された細い橋を通って先に進めるようになっている。渡った先のフロアの突き当りには豪奢な造りの扉があった。
「選別の奈落だ」
アルギレウスが言った。その顔には怒りと失望が滲み出ていた。
「選別?」
フロウが尋ねた。
「見ろ」
アルギレウスが眼下を指さす。岩壁から突き出た根の一つに、服を着たままの骸骨がぶら下がっているのを見て、フロウは思わず息を呑んだ。
「奈落を渡る橋は、狭い道を通って救われるという教えを象徴する古代の儀式に使われた。勿論それは儀式に過ぎない。本来ならな。下に水を張り、落ちた参拝者は助け出される。それが習慣だったはずだ....だが.....」
「ひでえな。ここの神官たちは『本物』をやりたかったってことか?」
「象徴を現実に変え、儀式を形式化された試練ではなく処刑にした。やはり王家に寄せられた内部調査報告は本物だったんだ」
リゴールに答えるとアルギレウスは口を閉ざした。
「で、行くんだな?」
狩人が問う。剣士は頷くと、先頭に立って進み始めた。だが、気づいたように振り向くと三人に指示を与えた。
「一人づつだ。万が一の損失を減らしたい」
アルギレウスは最初に渡った。橋は幅数十センチしかない細いものだったが成人男性の体重は支えられるようだ。剣士は問題なく渡り切ると、振り返って仲間を見た。
ギルモが橋を見て青ざめた。
「ワ、ワシ、高いとこ苦手なんだべが..」
リゴールが橋の上に進みながら笑った。
「安心しろ木こり。落ちたら一瞬で終わる。苦しむ暇もねえよ」
「う...うるさい。安心なんかできるか」
ギルモが怒鳴る。その声は震えていた。
フロウは橋の前に立ち、深く息を吸った。
「おじさん、僕先に行くよ」
少年が言うと、木こりは驚いたように顔を上げた。
「へえ、ガキのほうが木こりより勇気があるたぁなぁ」
早くも渡り切った狩人は振り返って面白そうに言った。
フロウは一歩を踏み出した。息が乱れないようにゆっくりと吸い、吐きながら、一歩、また一歩を踏み出す。
ふと眼下を意識すると、脚が止まりそうになる。だが必死で集中した。
僕は、こんなことで怖気づいているわけにはいかないんだ。
右足を出し、左足を出す。顔を上げてリゴールのほうを見た。狩人は木こりをからかうのをやめ真顔でこちらを見ている。
進むんだ。止まらない。それだけを念じながら進む。
フロウはとうとう対岸にたどり着いた。汗がどっと出てくる。狩人はやや驚きを顔に浮かべていたが、木こりに向き直った。
「早く来いよ。俺たちは先に行くぜ」
アルギレウスは扉を調べていたが、その中央に椅子を模したような金の部品が嵌っているのを見つけると、それを押し込んだ。すると金属音がして、重々しい扉が数センチ横に開いた。かと思うと今度はそれらが奥に向かってゆっくりとスイングし始めた。
「よく出来た仕組みだな。こういうところに使う金だけはあったってわけか」
リゴールが軽口を叩いたがアルギレウスは答えない。ギルモがやっとのことで橋を渡り追い付いてきた。
開いた戸口を潜って四人は先に進んだ。中は薄暗かった。アルギレウスは再び蝋燭を取り出すと火を点けた。
蝋燭のぼんやりとした灯りが内部を照らす。直径二十メートルほどの円形の部屋だ。豪奢な装飾が壁一面に施されていた。精巧なドーム状の天井も同様に飾られている。
「至聖所...か........」
アルギレウスは言った。だが剣士は思い直したように言葉を継いだ。
「いや、この先だ。ここは託宣を伝える部屋だ」
「橋を無事に渡った連中だけがありがたぁいお言葉を聞けるってか」
リゴールが油断なく身構えながら言う。
「行こう」
アルギレウスは剣を抜くと、入り口の向かい側の壁にあった戸口に歩み寄った。施錠はされていなかった。戸を引き上げると一行は向こう側に抜けた。
そこは野外だった。岩壁に囲まれた清浄な泉だ。湧き水で床一面が浸され、水面の上に大きなタイルでできた通路が設えられている。美しい円柱が各所に立てられ、その頂上に小鳥が飛んできては止まっていた。
それまでに見た陰惨な光景とは打って変わった風景だ。フロウは久しぶりの思いで息を思い切り吸った。
アルギレウスは剣を納めて先に進んだ。石畳の終端、岩壁の手前に祭壇がある。剣士はその前まで進むと祈るように頭を垂れた。
三人は剣士に追いついた。だがそれでもアルギレウスは動かなかった。
「おい、どうし.........」
リゴールが声を掛けようとして固まった。
フロウも剣士の横に立って驚いた。
アルギレウスの眼からは一筋の涙が流れていたからだ。
しばらくの沈黙の後、剣士は涙を拭いて言った。
「済まない、みんな」
だが誰も口を開かなかった。リゴールは水筒の水を飲み干すと、泉に足を踏み入れ、奥の岩壁から流れ出る水を水筒に補給した。
ギルモも静かに頭を垂れてしばらく祭壇の前にいた。フロウもそれに倣った。なぜだかわからなかったがそうするべきだと思ったからだ。
* * * * * * * * * * * * * *
一行はきた経路を戻ると、神殿のほかの場所を捜索した。鎖を見つけ出すと、二か所の扉にそれをかけて封鎖し、アルギレウスがそれぞれに錠前をかけた。
「魔瘴気はたいして出ていないにしても、冒険しに来るバカがいないとも限らねえからな」
リゴールが誰にともなく呟く。フロウが見ているのに気づくと、狩人は言葉を継いだ。
「世の中にはな、『危ないから入るな』って書いてあると逆に入りたくなるバカが一定数いるんだよ。俺も昔はそうだったしな」
「今もだべ」
ギルモがぼそっと言うと、リゴールは振り返って睨んだ。
「おい木こり、聞こえてんぞ」
「聞こえるように言ったんだべ」
それを聞いたフロウは思わず笑いそうになったが堪えた。
四人は階段を登ると、神殿の外に出た。日没が近づいている。一行は神殿の前に野宿することに決め、薪を集めて焚火を焚いた。
「次はオルディンか。火を噴く荒ぶる大地ってな。楽しみだぜ」
食事を終えたリゴールが自分の腕を枕にしながら言った。
「火を噴く?土が火を噴くんだべか?」
「田舎もンが。なんにも知らねえんだな」
ギルモが真顔になって聞くのを、狩人は切り捨てた。
「火山地帯だ。多数の活火山とマグマ泉を有し、多くの財宝が発掘されたことでも有名だ」
アルギレウスが代わりに答えた。
「財宝……?」
フロウが思わず聞き返すと、リゴールがニヤリと笑った。
「おうよ。危険な洞窟に眠る宝石、埋蔵金、魔物の巣に隠された秘宝。せいぜい気合入れてけよ。いくら子供と言ったってお前にも少しは役に立ってもらわねえと困るからな」
ギルモは焚火に薪をくべながら言った。
「ワシらが行くのはその財宝探しってやつだっぺか?」
「違う」
アルギレウスが即座に否定した。
「我々の目的は調査だ。オルディンの火山帯で地殻の異常が報告されている。崩落や地割れが頻発していると」
リゴールが腕を枕にしたまま、片目だけ開けて言った。
「世界のほころび...ってやつか」
「明日は早く出る。オルディンへ向かう道は険しい。よく休んでおけ」
アルギレウスは言った。だがリゴールが片手を上げた。
「おい、見張り番。忘れんなよ。特にガキ、お前だ」
「あ......はい」
フロウは答えた。だが、もはや意外の念は無かった。危険が常に身近にある状況に慣れてきたのだろうか。
「アルギレウスの旦那、狩人、ワシ、坊やの順番でいいだっぺか?」
ギルモが言う。リゴールは頷くと、数秒のうちに寝息を立て始めた。
フロウは焚火を見つめた。今日は何度も酷く危険な目に遭った。だが、思い返してみると今はそれほど恐ろしくは感じない。
----うちを守ろうとしてくれる人がいるもの----
リナハの言葉が脳裏に浮かんだ。それと同時に、胸が締め付けられるように痛んだ。
守ろうとしてくれる誰か。
それがこれほど大事だったんだ。フロウは悟ったような気がして、仲間たちの顔を見回した。だがアルギレウスはフロウの肩を叩くと言った。
「もう寝るんだ。君の番は早朝だからな」
フロウは頷くと横になった。疲労が溜まっていたのか、彼はあっという間に眠りに落ちていった。